05:キドと再会
皇国――シグルート神皇国。
国皇は神の子であり、神の教えに従って国は纏められている。いわば、思いっきり宗教国家。詳しくは知らないけど、法律よりも戒律の方が優先される国、らしい。
そして、初代国皇は神の名の下に竜を倒した、らしい。
だから皇国では竜は、元の世界で言う悪魔みたいに忌み嫌われている。
そんな所にティルを連れてかれたら、最悪前回とは別ルートで世界滅亡ってことになりかねない。つまり、人間じゃなくて竜が滅ぼされるってパターン。それは避けたい。
だからオリヴィエと組むと後々に悪影響が残りそう……なんだが、さて、なんて断れば良いか。
「正直に言うわけには行かないし、他にも誘ってくるやつはいるしなぁ……」
ちょっとため息だ。俺は普通の高校生であって、コンサルタントとかじゃねーっつうの。
あの後、「ジュスターとも相談して決めたいから」ということでその場は保留にさせてもらった。あくまで保留だ。オリヴィエは全く諦めていないし、誰よりも先に声をかけたことを忘れるなと釘を刺していった。やだもうあの女怖い。あれが肉食系女子ってヤツか。
ちなみに。あれ以来俺は呼び出しで忙しくなった。
オリヴィエの話を保留してから、「ティルを仲間に!」と声をかけてくるやつが後を断たないんだ。まぁ予想されていた事態ではあるんだけど……全員、俺に話しかけてくるのがムカつく……!
俺に用事でもないくせに話しかけてくるなよ。ちょっと活躍を期待しちゃうじゃないか! 可愛い女の子に話しかけられた俺のときめきを返せ! いつから俺はアイツのマネージャーになったんだ!
……いや、神様に依頼された時点で勇者のマネージャーみたいなものになっちゃってたかもしれないけど。くそ、微妙に間違ってないあたりが腹が立つ。ティルに直接言いに行っても、あいつ「リドと一緒が良いからリドに聞いて」だもんな。
ティルは放っておくと騙されて利用されてそうだし、俺が把握できるってのはありがたいんだが……。まぁ仲間にって誘われるくらいだし、少しは環境改善されてるって思って良いのかな? 俺とジュスター以外とも話す機会は増えたわけだし。
それでも俺のところに来る奴らは多いわけで。で、いちいち断るのもめんどくさいから、最近では一言で済ましている。ずばり、「気の合うヤツと組みたいから、まずはお友達から」、だ。これだったらティルに友達も出来そうだし、俺やジュスターを無視して組むってこともないだろう。
だから、クラスについてはそれで落ち着いてきた。リリーアンジェもそろそろクラスに戻ってくるけど、まぁ一度完膚なきまでに負けてるし、今までみたいにつっかかってはこないだろ。
「問題を先送りにして、とりあえず神様の連絡待ちかなー」
とりあえずは、俺個人のことをやろうじゃないか。
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風であおられた黒髪を手櫛で撫でつけ、首から提げたタグを見せて門を通る。リドヴェルトとして出入りするときは楽だけど、こっちだといちいち手続きしなきゃ行けないんだよなー。
俺は今、キドの姿でバイト中だ。バイトっつーかまあ、ギルドの仕事なんだけど。毎回、同じ仕事を継続的にやってるから少し顔も覚えられてきたし、アルバイトみたいな感覚だ。
そこらにある表示を見ながら、手元の紙と比べて確かめる。
「えっと、ウォーサマン寮だから……こっちか」
内容は、学園内の手紙配達。文字が読めて、更に広大な学園寮を把握しなきゃならないってことであんまり人気じゃない仕事らしい。
でも、俺はリドヴェルトとして動き回ってるうちに結構分かってきたし、文字は第一公用語なら完璧だ。特に問題行動も起こしてないし真面目な態度ってことで、最近ではギルド所属であることを表すタグもちょっとランクが高めになった。門でさっさと通れるようになったのが便利。
まぁ貴族の子息子女に会うと嫌な顔されるのがちょっと面倒だけどな。そりゃキドは平民だし、しかも見たこともないような異民族だから仕方ないだろうけど。こんなんだから不人気なんだろうな。
「201、203が2通、306、それに405、と。後は事務室に行って回収だな」
手紙の数字を確かめながら、部屋番号通りにポストに突っ込んでいく。帰りには送る方の手紙を受け取って、そうやって寮を一通り回って終了だ。
ぐるっと回る頃には昼時になっている。朝からやってんだけどな……無駄に広い、さすがはオスタリア学園だ。あと、遠くの寮棟まで行って手紙がなかったときのむなしさが辛い。
まあ、いい運動になるけどさぁ。鍛えたところでキドの姿じゃ意味がない。変身を一度解くと、次に変身したときにはリセットされてるからな。どうも、俺の中の「木戸光輝」の記憶を元にしてるみたいだからみたいだ。
「あー、でも疲れたし……昼飯ちょっと豪勢にいくかな。確か少し行ったところに、部外者でも利用できるカフェテラスがあったはず……」
「お兄さんかくまって!」
「は? ごふっ!!」
トラックではねられたかのような衝撃……ッ!? どうしようもう一回転生したら……今度は、もうちょっと活躍したいな…………はっ、現実逃避してる場合じゃねえ。俺は一体何に襲撃されたんだ!?
いやマジで痛い。後で医務室行こうかな……リドヴェルトの姿に戻ったところで、怪我とかは持ち越されるからなぁ。くそ、ままならねぇ。
「何だよ一体……」
「いいからかくまって! 僕を助けて!」
「助けてって……あ」
ティル、と言いそうになるのを何とか堪える。今はキドだ、ギルドで一回あっただけの他人。んな親しく呼びかけたりしないし、そもそも覚えてるかどうか。ティルはそわそわしながらぎゅっと俺の外套を握り締めてくる。おぉ……久々に見下ろした。ちょっと優越感。
とりあえず外套をかぶせ、フードも下ろして俺の手荷物を持たせる。これで連れっぽく見えるだろ。と、ばたばたと足音が響いてきた。
「く、一体どこに……そこの方っ、こちらに逃げてきた少年を知りません?」
逃げてるってのが分かってるなら追いかけるなよ、オリヴィエ。っていうかまだ落とすの諦めてなかったのか。
こっぴどく、っていうのかな、誘いを断られて以来、オリヴィエは本気でティルを落とすことに取り組み始めたようだった。食事の誘いやらお茶しましょうだとか、ことあるごとに話しかけてはティルに嫌がられている。
まぁ自分の容姿に自信満々だったしなぁ、あんな風に断られるとは思ってなかったんだろう。自尊心を傷つけられたのかもしれない。
「あー、えっと、なんか向こうの方にものすごいスピードで走っていく人がいたような……」
「逃がしませんわよ、ティート様!」
ばっと素早い身のこなし。いやぁ速いなー、補助魔法か何か使ってるんだろうな。その実力をもっと別のところで発揮して欲しい。あんなんで追いかけられたら引くわ。
「……大丈夫か、少年」
「あ、ありがとう……」
泣きそうな顔でちょこっと頭を下げる。うーん、これでモテるんだからなぁ。日本では草食系なんて言ってもてはやされそうではあるか? いや、そもそも13歳に何やってんだよって話か。
と、ティルが目を丸くして俺を見上げた。少し首をかしげ、外套の匂いをすんすんと嗅ぎ……ってオイ何やってんだ、ティルまで変態になったのか!?
「……あ、ギルドでお世話になったお兄さんだ」
「今ので特定したのか!?」
犬かお前は!? 相変わらず人間離れしてやがるな!
「あのときはありがとう! キドお兄さんのおかげで学園にも入れたし、友達もいっぱい出来たんだ!」
「そ、そうか……」
友達って……たぶん、俺とジュスターのことだよなぁ。なんだろう、面と向かって言われると恥ずかしいなこれ。まぁティルは気付いてないけど……あ。
「なぁ少年、時間あるか? 一緒に食事でもどうだ」
「ご飯? えっと、うーん」
「奢ってやるぞ」
「いく!」
誘っておいて言うことじゃないが、それで大丈夫なのかティル……。
……今度、知らない人についていってはいけませんとか教えようかな。




