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お前を勇者にしてみせる!  作者: 糸冬すいか
1章:スタート&エンカウント
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10:入学式と寮の部屋

 オスタリア学園。オスティーリア領にある国内最大規模の学校。近隣国まで含めても同規模の学校はなく、もしかしたら世界最大とも噂される巨大な学校だ。学園の敷地だけで「学園都市」というひとつの街になってるくらいだからな。

 原因は、その入学規定のゆるさ。国籍不問、戸籍不問、身分不問、年齢は13歳以上なら何歳でもOK。学費が高くて少し限られてはいるものの、人類の坩堝るつぼみたいな状態だ。

「……くぁ」

 初等2年、中等2年、高等2年の計6年間。飛び級と留年もあるので、最短3年で最長12年。もっともあんまり長くいると学費が凄いことになるから、大抵は6年でさっさと卒業する。よっぽど不真面目にやらない限りは留年も退学もしないからな。

 カリキュラムは教養的な分野が少々。そして残りがメインともいえる冒険的ファンタジーな分野だ。

 武器の選び方、手入れの仕方。魔法の詠唱、使う場面の選択。連携の取り方に野営の仕方。

 冒険者としてやっていくに必要なことを、基礎から実践、応用まで教えてくれる。オスタリア学園卒ってだけで、ギルドで即日ランク3級(一人前)が与えられるくらいに実用的だ。

「ふ、わ……」

 卒業後は冒険者になったり、その実力を国に売り込んだり。貴族が多い関係もあって、国に仕官しようって人が結構多い。冒険者、命がけだもんなぁ。

 でも純粋に実力を評価されるため、平民でも国に仕官できる大チャンスなんだ。普通は平民が城で働くなんて無理な話だ。戸籍ないやつなんてもってのほか。

 このオスタリア学園長は代々オスティーリア領の元領主なんだけど、彼らに認められると平民であっても貴族名セカンドネームを名乗ることが許される。確か名前の真ん中に「オスト」が入って、下位貴族並みの権力がもてるとか。

 当然、国に仕官したりできる。城の騎士になった人もいるって噂だ。まぁ「オスト」は一代限りで本人のみ適用だけど、それでも大出世だ。

 つまり、オスタリア学園は夢と希望と将来の出世がつまった冒険者育成学園、と――

「あふぁ」

 三度目のあくびをかみ殺しながら、俺は眠気に耐えた。

 なんでこう、入学式の話っていうのはつまらなくて長いのかな? 偉い人が長い話をしては、また別の偉い人が出てきて「新入生の諸君、」と始める。今しゃべってる人で5人目だ。確実に40ミヌスは経ってるぞ。

 俺は2人目辺りからボーっとし始め、4人目から眠気を耐えてる。一応、貴族だったら式の最中に寝ちゃいかんだろ。周りの13歳児たちはこっそり寝ているやついるけど。

 学園都市に入って数日、こっちでの生活にも慣れてきたけど。昨日の夜は楽しみでなかなか寝付かれなかったため、余計に眠い。が、この式が終わればようやく単独行動で動けるのだ。

 護衛やメイドさんたちは俺をこの入学式会場まで連れてきて、そこで別れて家に帰った。っていうか帰らされた。貴族の子息の護衛を全員会場に置いておいたら、ここがどんだけ広くても流石にパンクする。

 という訳で、念願の単独行動だ。

 まずは寮に行って部屋を確かめなければいけない。メイドさんたちが荷物を運んでおいてくれているはずだ。今日はそのくらいが限界か? 明日からクラスに分かれて授業も始まるし、今日はゆっくり休むか。

 ちなみに、キドの服や荷物はギルドに輸送を依頼して、学園都市のギルドに明日までに着くように指定している。見知らぬ荷物を割り込ませられるほど、メイドさんたちは甘くない。

 そして楽しみにしていた一人暮らしだけど……だめでした。寮の部屋は初等のうちは2人部屋らしい。チクショウ。

 そして俺にはルームメイトが出来るわけだ。仲良くなれると良いんだけど、どこぞの貴族の坊ちゃんだろうしなぁ。割と友達を作るのは得意だが、13歳だしなぁ、話合うかな。

 まぁ、クラスでも寮でも適度に仲良くやっていくつもりはある。

 ただちょっと、もしかしたらという思いはあるけど。

 『出会いの幸運』で、ジュスターと同室になったらどうしよう。勇者かもしれないからありうるわけだけど、だってなぁ……あいつ、顔怖いんだもん。



     +++++



 ぐいっと腕を伸ばして背を逸らしたら、背中の骨がバキバキ鳴った。13歳の背中から出ていい音じゃないぞオイ……。話長すぎだっつうの。

 苦行のような入学式から解放され、俺は足取りも軽く寮に向かった。ま、不安はあるものの、四六時中敬語というむず痒さからは逃れられた。楽しみな面もあるんだ。

 っていうか疲れたから、早く部屋に言って休みたい。でも、今は昼過ぎだしな、少し遊んでも夕食まで時間あるよな。子供の体力舐めんなよ、寮の部屋確認したら遊びに行ってやる。貴族の子息子女が生活する学園都市なだけあって、治安はかなり良いんだ。

 ちなみに朝食と夕食は寮でとることができる。いらない場合はあらかじめ寮の管理人に言っておかなければならないようだ。最初のうちは外食とかもしないだろうし、まぁ関係のない話か。

「えっと、スティンボック寮、4階、405号室……405、405……」

 ぶつぶつと手元のメモを見ながら4階をうろつく。ちらっと吹き抜けから下を見下ろすと、俺のようにうろつく新入生たちがいっぱいいた。おお、人が大きめのゴミのようだ。

 ちなみに、同じ寮に住んでる人たちの半分が同じクラスになる。半分の20人くらいだけのクラス、ではなく、女子寮にもう半分のクラスメートがいる。この寮の残り半分は、まぁ隣のクラス的な。

 一階には共有して使う風呂や食堂があり、生徒が住むのは2階以上だ。俺の住む4階が一番上。うーん、景色は良いだろうけど上り下りが地味に辛い。エレベーターが恋しい。

「405……っと、ここか」

 通り過ぎそうになり慌てて立ち止まる。405。確かに部屋番号を確認し、おそるおそるドアノブを捻った。開いてない……ってことは、ルームメイトはまだなのか?

 鍵を開けて中に入ると、意外と広かった。まぁ貴族の子息が二人暮らしだもんな、あんまり狭い部屋だと苦情がありそうだし。俺の荷物は……お、ちゃんとある。机に教科書まで並べられてる、メイドさん流石だな。

「ん、あれ?」

 もう一つの机にも教科書が置いてあった。平積みでおかれているそれは、俺と同じものだ。見ると、ロフトの上には誰かの荷物が置かれていた。カバンや着替え、リュックサック。

「何だ、もう来てたのか。どっか遊びにでも行ったのか?」

 つーか勝手に住み分けが決定されてる……。ロフト取られたか……ちょっと憧れてたんだが、まぁ早い者勝ちだ。あ、天窓いいなー。アレ、屋根の上に出れるかな。たまに使わせてもらうか。

 ロフト下に荷物を置き、備え付けの棚に着替えをしまっていく。それが終わったら部屋の散策だ。っていってもそこまで広い部屋じゃない。ロフトの分天井は高いけど、それ以外は勉強机が置かれたリビング&ダイニングだけだ。食事は食堂があるし、トイレや風呂は共有だからか。あ、でも冷蔵庫はある。

 一通り見て回って時間を確認。まだ夕食までだいぶ時間があるな。

「……よし」

 それじゃ、記念すべき初めての街散策と行きますか! キドとして歩き回ったときよりもじゃんじゃんお金を使えるしな、めちゃくちゃ楽しみだ! お父様お母様お小遣いありがとう、この恩は出世払いで!

 俺は上機嫌でカバンを掴み、部屋を出た。もちろん、ちゃんと鍵は閉めて。

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