表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前を勇者にしてみせる!  作者: 糸冬すいか
1章:スタート&エンカウント
11/43

06:ぼろい少年と換金

 リュックサックに限界まで物を詰め込むと、布地が張って球状になるんだなぁ……。

 もっと他にも抱くべき感想がありそうだけど、正直ツッコミどころが多すぎて何も出てこない。

 ぱんぱんに張ったリュックを背負った人物は、その荷物に似合わずかなり小柄だった。ちょうど神様くらい、リドヴェルトと同じくらいの年かもしれない。

 裾が破れ脇腹に穴が開いたコートの下は、サイズのあっていないシャツとズボン。微妙に赤黒い染みがついている辺り、きな臭い。っていうか、犯罪臭がする。路地裏の浮浪者やブルーシートの住人たちでも、もうちょっと良い服着てるぞ。

 ぼさぼさの茶髪で目元が隠れ、顔もよく分からない。それで前が見えてるんだろうか。ぱっと見は孤児だけど、それにしちゃ荷物が多いし……犯罪者じゃないだろうな。

 受付の人が「うわ……」と嫌そうな声を上げた。気持ちは分かるが我慢しようぜ、接客業。まあ結構……控えめに言っても獣臭い、というか……風呂入ってないんだろうな。

「……あ、あの? 言葉、通じてる?」

「あ、わり。ちゃんと通じてるよ」

 少年の第一公用語は、どこか違和感を感じる。もしかして、移民か? ギルドに登録すれば最低限の身分保障はされるし、それ目当てかもな。

 にしても小さい。両親はついてないのか? ……まぁ、移民なんて何が起こってもおかしくない身の上だし。聞かないでおこう。うん、あんまりプライバシーに立ち入るのは良くない。俺がヘタレとかではなく。

「えっと、何の用だ?」

 少年はほっとしたように肩を下げ、首をかしげた。言葉をちょっとずつ選ぶように、ぽつぽつと話した。

「ギルド、入りたい。でも、お金分からない」

「あー、換金か? ……ええっと、どこの金なら持ってるんだ?」

 会話が難しい……。何に怯えてるんだか、やたら近づこうとしないし。そのくせぼそぼそ喋るし。まあ、壮絶な人生を歩んできたであろう少年だ、寛大な心で受けとめよう。

「……? お金、代わりじゃだめ?」

「代わり?」

「毛皮、薬草、他にも」

 そう言って、リュックを下ろして示す。なるほど、金はないけど買い取ってもらえそうな素材ならある、と。

「……お金、ちょうだい?」

「いや、俺に言われても……あぁ、知らないのか」

 ギルドではいろんな素材の買い取りもやってたはずだ。それを知らなくて、とにかく誰かに買い取ってもらおうとしたのか。登録しなきゃ買い取ってもらえないかと思ってるのかも。俺がそうでした。

「買取ならギルドでやってくれるよ。っていうか一般的にはそっちだな」

「そうなの?」

「個人でやり取りってのは、知り合いでもない限りなかなかないと思うぜ? 商店に売るのは名の売れた冒険者だけだし」

 冒険者ギルドが商店や薬屋なんかと提携を結んでるはずだ、ちゃんとした店には売り込めない。まぁ未認可でやってるようなとこは別だけど、こんな子供には関係ない話だ。

「買うの、どこ?」

「えーっと、どこの窓口でも良いんだよな、確か……」

 手帳を取り出して確認する。うん、ならすぐそこの受付で良いだろ。さっき嫌な顔していた罰だ。

 立ち上がり、少年に近づく。ビクッと肩が振るえ、大きなリュックを盾にするように隠れる。……ちょっとショックだ、俺子供に嫌われるような顔じゃないと思うんだけどなぁ。

「別にとって喰ったりしないぞ……。ほら、換金するんだろ。あっちの受付でやってるよ、ついてってやるから早くやろうぜ」

「え、え?」

「ギルドに加入済みのやつの紹介で、鑑定料に割引が利くらしい。ついさっきからとはいえ、俺は加入済みだからな」

 さっさとやって家に帰りたいんだから。無視するってのは寝覚め悪いし、なんか放っておけないんだよな。うーん、リドヴェルトと変わらないくらいだからか?

 少年はしばらく止まって――たぶん、困惑していたか迷っていたか、目元が見えないから分からない――ようやく、俺の後ろについて歩き始めた。巨大なリュックをひょいっと肩にかけて持ち上げ、ちょこちょことヒヨコのようについてくる。

 ……なんだろう、ほほえましい情景のはずなのに、血なまぐさい服装と巨大なリュックのせいでホラーだと錯覚しそうだ。

「えと……ありがとう」

 顔はよく分からない。が、口元は柔らかく笑みを浮かべていた。

 素直だ、ホラーとか考えてた自分が恥ずかしい。純粋な子供の笑顔って凄いな。

「……まあ、なんだ、袖すりあうも他生の縁だ」

「? 袖、そんなに長くない」

「言い回しってヤツだよ。気にすんな」

 まあ、こっちにそんなことわざがあるのかは知らないけど。一度も聞いたことないなぁ。

 首をかしげる少年を引き連れて受付に行くと、明らかに男は顔をしかめた。ちょっと浮浪者っぽいが、そこまでひかなくてもいいだろうに。

「えーっと、鑑定と買取を……あ、お前何持ってるんだ? ギルド登録料ってなるとそれなりにするぞ?」

 まだ子供だし、ウサギの皮とかか? でも洗ったりなめしたり、きちんと処理しとかないと買い叩かれるんだよな。登録料の5ラグマ25ルグス払うためには、ウサギだったら綺麗に処理しても4匹分はいるだろう。

「……それなり?」

「ちょっと高いってことだよ。5ラグマ25ルグス。わかるか?」

「ん……高い……」

 少年はよく分からないなりに、結構な値段だと言うのは分かったみたいだ。外国だと通貨もちょっと違うし、分かりづらかったか。どこから来たのかは分からないが、相当遠くから来たんだろう。

 リュックを下ろし、ふたを開けて中を探りはじめる。ちらちら見える範囲だと、ほとんどは旅の生活用品みたいだ。毛布や小さな鍋、コップにナイフ。

 こんな小さいのに、よくやるもんだなぁ。俺なんて貴族のぼんぼんだからな、一人旅の予定もないし出来ないだろう。ちょっと憧れはするけど……勇者に会ったらそれどころじゃなくなるだろうし。

 と、何か見つけたのか、薄い袋を取り出した。大きさは、手のひらを広げて二つ並べたくらいか? 小さな少年が持つと大きく見える。が、袋に膨らみはなく、板状のものだろう。

 ひょっとしたら鉱石とかか? 毛皮じゃ足りないと思って、もっと価値が高そうなものを出してきたのかも。

 でも鉱石なんて価値はピンキリだ。足りなかったらどうしよう……ちょっとくらいなら余裕あるし、貸すか? いやいや、ここで別れて終わりかもしれないんだぞ。面倒見切れないのに野良猫にえさを与えちゃダメだって言うし。

「よい、しょっと……」

 悩む俺をよそに、少年は袋の中身を取り出してカウンターに置いた。ごと、と重い音。

 ぱっと見は、葉っぱみたいな形。置かれたときの音や艶は金属っぽいが、白くくすんだ色は有機物っぽい。ちょっと黄ばんでて、なんていうか、爪の先みたいな。

 と、ガタンッと音を立てて受付の男が立ち上がった。身を乗り出し、謎の物体を食い入るように見ている。もしかして、珍しいものなのか? 俺にはさっぱり分からないが、鑑定できる本職の人が驚いているし凄いのかも。

「なあ、これ何なんだ?」

 俺の質問に、少年は首をかしげた。え、これ、知らない方がダメな感じ? 知ってて当然なのか!? 恥かいた!?

 おそるおそる、少年の答えを待つ。そして少年は言った。



「これ、竜の鱗」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ