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お前を勇者にしてみせる!  作者: 糸冬すいか
1章:スタート&エンカウント
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05:ギルドと嘘つき

 ズボンにシャツにベルト、硬い革のベストに、フードつきのマント。下着とか細々したものも一気に買って、しめて12ラグマ70ルグス。古着でもこれだけ買うと結構するな。状態の良いやつ選んだし。

「えーと、じゃあ……25ラグマ貨で払うんで、おつりお願いします」

「あら、やっぱり良い恰好してる人は違うわねぇ。ちょっと待ってね、今用意するから」

 おばさんが驚いた顔でカウンター裏の箱を探り始めた。

 この世界では一般に流通してる貨幣はルグス貨とラグマ貨の2種類。アメリカのセントとドルみたいな関係だな。

 おばさんが驚いたのは、ラグマ貨の中で一番単価が高いのが25ラグマ貨だからだ。うーん、ちょっとした買い物で5000円札を出した感じ、っていえば伝わるかな。

 ちなみに100ルグス=1ラグマ。物価がかなり違うから、日本円でいくらーっていうのはちょっと分からん。

 それ以上の価値の貨幣っていうのもあるらしいけど、俺は見たことない。最少単価が家買える価値の貨幣とか、一体何に使うんだろうか。

 と、おばさんが戻ってきた。あれ、思ったより貨幣が多い?

「はい、おつりの12ラグマと30ルグス。1ラグマ貨多めの方が良いわよね?」

「あ、ありがとうございます」

 気を利かせて両替してくれたのか。ま、店の人からすれば一気に買い込んでくれた金づるだしな。今後もごひいきにってことか。

「服の繕いとかもやってるから、修繕はウチに来てね。おまけするから」

「わかりました、覚えておきます」

 機会があれば、だけど。

 雰囲気は良い感じだし、あんまり人目につかない感じが気に入った。

 ついでに、おばさんに頼んで店で着替えさせてもらった。護衛の人から借りた服と、替えの服を入れる荷物入れも買って。おばさんは超いい笑顔で店を送り出してくれた。まぁ、結構なお金落としていったからな……。

「さて、と……ここだな」

 人の出入り激しい、大きな建物。年月を感じさせる少し古ぼけた様子の建物だが、むしろ味がある。そして看板にはブーツの絵と「ギルド」の文字。

 そう、ついにファンタジーの定番であるギルドにたどり着いたのだ!

 長かった……。ギルドが存在することを知ってからずっと夢見てきたんだ。散々現実が裏切ってくれちゃってたけど、ついにファンタジーのターンがやってきた。

 つばを飲み込み、そっとドアに手をかける。中から聞こえてきた喧騒に、胸の鼓動が激しくなった。男なら、誰だって憧れるよ、ファンタジー!(字余り)

 そっと中に入ると、思ったより静かだ。入ってきた俺にちらりと視線をよこす人も要るけど、すぐ興味を失ったらしく注目はない。この街は移民も珍しくないから、俺の外見もそんなには目立たないんだよな。

 ただ、立ち振る舞いだけはどうにもならない。先生にちょっと鍛えてもらってるとはいえ素人。周りの視線が、馬鹿にしているような感じがする。いやいや被害妄想だ、がんばれ俺。

 いくつかある受付をざっと眺めて、そそっと隅っこの方に行く。なるべくなら目立ちたくないし、これからやることを思えば当然だ。

「……ギルドに登録したいんだけど、受付ってここで良いんだよな?」

「はい。ではいくつかの質問に答えていただきます。その際、嘘偽りがあった場合は加入を断る場合もありますのでご注意ください。また魔道具の発動のため、なるべく明瞭にお答えください」

「ああ」

 受付の男性がカウンターの水晶玉に手を置いて言う。

 嘘発見器。ギルドが発足したときからある、魔道具の一種だ。口頭での応答に限る、という制約はあるものの、嘘を見破ることができる。

 このときに声が魔道具でデータ化されて、きちんと保存される。マンガや小説だと血で個人識別、なんてよくある設定だけど、ここでは声――つまり、声紋で識別している。変声機とか使っても声紋は変わらないって言うしな。ハイテクすげえ。

 受付の男は用紙とペンを用意して、では、と口を開いた。さあ、ここからだ。

「まず、あなたのお名前を教えてください」

「キドです」

 セーフ。この姿の名前は木戸光輝だから、嘘は言ってない。

「あなたの年齢は?」

「17歳」

 セーフ。この身体は17歳だからな。嘘は言ってない。

「あなたの主要戦闘手段を教えてください」

「魔法です」

 セーフ。呪術は一応、魔法の一種だからな。嘘は言ってない!

「討伐系と採取系、どちらを主に希望したいと考えていますか?」

「えっと……今のところは、採取系で」

 質問の感じが変わった。ここからは備考欄みたいな感じか。まずは一安心。

「では移動に関してですが……国内から移動する予定はありますか?」

 何でそんな事、と一瞬思うけど、個人指定の依頼を出すこともあるからか。あと、商隊の護衛依頼にも制限がかかるし。

「すぐには移動しませんが……えっと、もう数ヶ月したらオスタリア学園都市に移る予定です」

「その際、護衛依頼などは受けますか?」

「いえ、いいです」

 むしろ護衛を雇う側だなんて言えない。先生ついきてくれないかなー。引退したって言ってたからさすがに無理かな。

「では入会費として5ラグマ25ルグスをお願いします」

「はい」

 さっきの店で手に入れた5ラグマ貨を1枚、10ルグス貨を3枚。おつりは5ルグス。だいぶ計算にも慣れてきた。

 受付の男は記入が終わった紙を砂につけて乾かし、それを奥に置かれた魔道具に入れた。魔力が走り、ぽてっと小さな革の手帳が出てくる。ちょうど、生徒手帳くらいだ。

 関係ないけど、プリクラ機を思い出した。出てくるところがあんな感じ。

「これがギルドの身分証明手帳です。失くされた場合、再発行の義務があります。再発行には本人確認の手続きと10ラグマ必要ですのでご注意ください」

 10ラグマ……地味に厳しいな。だって大量に買い込んだ服がだいたい13ラグマだったんだぞ? こんな手帳一つに10ラグマとか厳しい。まあ、それだけ気をつけろってことだろうけど。

 中を見ると、さっきの応答の内容が書かれている。うん、ホントに生徒手帳みたいだな……。ギルドの制度についても書かれてるから余計に。

 お礼を言って受付を離れ、受付近くの無人のテーブルに着く。先生から軽く聞いてはいたけど、ギルドについて確認しておきたいし。

 ギルド、正確には冒険者ギルドだけど誰もそう呼ばない。他のギルド的な組織には、また別の呼び方があるらしい。

 ランクは上から順に1級から4級まで。4級は初心者、3級は一人前、2級は熟練者で1級は天才の領域、だそうだ。依頼を何十個も達成させてようやく3級とかだから、小説でよくある一気に一番上のランクに、とかは絶対無理。俺はずっと4級かも……。

 ちなみに、1級の上には特級っていうのがあるらしいけど、ギルドから送る名誉賞みたいなもので、1級と特別違うってわけじゃない。割引とか権利とか義務とかついてくるらしいけど、まあ、俺には関係のない話だな。

 依頼の内容は戦闘系と非戦闘系におおざっぱに分けられる。戦闘が前提にあるものと、そうじゃないものだな。まあ非戦闘系の薬草採取に行って魔物に襲われるってこともあるから、一概には言えないんだが。

 てっきりランク別に依頼が分けられてるのかと思ったけど、ごちゃまぜみたいだ。基本的に自己責任。ただし、暗黙の了解として、4・3級と1・2級は分けられている。先生に聞いた話だけど、下半分の人間が上の依頼を受けようとすると、無言で受付の人に遺書セットを差し出されるらしい。嫌な噂だ。

 ファンタジーでよくある感じだけど、なんか意外と内容は質素だ。荒くれ者の集まりとか勇者が仲間集めるとかそういう感じじゃないんだな。

 なんていうか……アグレッシブな派遣バイト、みたいな。何でも屋みたいな側面もあって、迷子の猫探しとかも依頼にあるし。

 俺がやるのはこういう感じのヤツだろうな。呪術は戦闘向きじゃないし、勇者に関わる場所以外で命かけたくないし。採取? 薬草とか見分けるのって地味に難しいんだぞ。

「んー、とりあえず、今日のところはこれでいいか。あんまり遅くなるとバレるかも、だ」

 服は買ったしギルドに登録もした。少し早い気もするが、さっさと帰ってしまおう。バレたらシャレにならん。

 手帳を懐に入れ、荷物をしっかり確認する。置き引きやスリが横行する世界だ、油断したほうが悪いっていう。ギルドには俺の想像もつかないような猛者も多いだろうし、気をつけるに越したことはない。

「あ、あの」

「ん?」

 荷物から顔を上げて、俺は――目が点になるって言うのを、しっかりと体験した。

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