01:俺と僕
俺は不意に目を覚まし、首をかしげた。昨日は遅くまでゲームをやっていたから、こうもスッキリと起きれるわけがない。が、どこか懐かしい真っ白な広がりに気付いてぽかんと口を開けた。
「どういう、こと?」
口から第一公用語が流れ出る。僕は確かに、父様と母様に挨拶をしてベッドに入ったはずだ。なんでこんな真っ白な空間にいるんだ。身体を起こして見回すが、果てしない白に呆然とする。
「……って、いやいやいや、あれ?」
俺は思わず頭を抱えて日本語でわめいた。さっき、何を口走った? まるでフランス語か何かのような、くるくると舌を巻いた発音なんて、俺にできただろうか。英語ですらおぼつかないのに。
「何だってんだよ一体……!」
僕は確かに、両親に愛されて育てられた記憶があるのに。なんだこの記憶は? だって俺は、日本で生まれ育ったじゃないか。違う、僕は。俺は。
混乱、困惑。そして血の気が引いた。まるで全く違う二つの人生を生きてきたかのように、頭の中で俺と僕が主張する。自我が、混迷する。そして、
「やあ、久しぶり」
その声を聞いたとたん、ごちゃごちゃとしていた頭がすっと切り替わった。俺はスッキリとした頭で、自分の身体を見下ろした。見慣れた黄色人種ではない、白い肌。きらきらと輝くサラサラの金髪。それに、子供の身体だ。これは、僕の身体。
「まだ呆けているのかい?」
笑うような声が、再び耳に届く。そこで俺はようやく顔を上げることができた。懐かしい少女の姿に苦笑して、とりあえず、と口を開く。
「よう、神様、十年ぶり」
「うん。ようやくお目覚めだね、木戸光輝くん」
目の前の少女はにっこりと笑い、真珠色の目を細めた。七色に変化する目は巡るましく、たっぷりとした白い睫毛が縁取って真珠貝が口を開けたようだ。始めて会ったときも、彼女は楽しそうに目を輝かせていた。
そうして俺は思い出す。俺が俺として生きた人生を。この神様と出会うに至った、結末を。