②
小学生たちとヨウスケ
ヨウスケは小学生のコーラの奇妙な見張りを託された。当の本人たちはまだトイレから出てこない。携帯を開くと、サユリから『もう少しまってて。値引き交渉中』と言うメールが届いていた。
『まさか3Dテレビとか買うの?』
ヨウスケは返信する。返事はすぐに帰ってきた
『そんな感じ(笑)』
「そんな感じ」サユリのいつもの適当な相づちだ。いつもヨウスケはO型のサユリらしい相づちだと思っている。
そういえば、(笑)この言葉この何年間か自分からは遠いものだった。
ヨウスケは完治を宣告されるまで、再発を繰り返した。完治した、医師にそう言われ、また自分の心の中から溢れ出る気力、それに流され働いてみる。
しかし、再発…
一度、『うつ病』やココロの病を経験し、もとに戻ると本人の心の片隅にどこか再発に対する恐れが生まれる。また自分はあの状態に戻ってしまうのではないか?ヨウスケも頭では治ったと分かっていても、心中ではそれを恐れていた。どちらに傾いてもおかしくない。
あれこれ考えていると、小学生達がトイレから出てきたようだ。バタバタと落ち着かない足音がする。
「兄ちゃん、お待たせ」
さっき出会ったばかりのはずなのに、馴れ馴れしい。
「ありがとう」
でもヨウスケは嫌ではなかった
「ああ、どういたしまして」
缶を受け取ると、小学生達はコーラの回しのみを、3人で始めた。
「やっぱり美味しいな」
それぞれ感想を述べている。
「お兄ちゃん!」
ポッチャリ小学生が唐突にヨウスケに話しかけた。
「な、何?」
ヨウスケは彼の声の大きさに体が強ばる。
「さっきから、あのつくりかけのスカイツリー見てるみたいだけど?」
ポッチャリ小学生は、聞いてくる。
「ああ見てるよ~早くできないっかな~って」
ヨウスケは、できるだけ陽気な雰囲気で言葉を返した。
「お兄ちゃん知ってる?完成するとあの高さは634メートルになるんだよ~」
小柄な小学生の1人が自慢げに言った。コーラの缶を手に持っている。
「ふ~んそうなんだ高いよなぁ~」
ヨウスケはあえて知らないフリをする。
「でもさぁ…」
ポッチャリ小学生がなにか言いたげだ。
「な、なに?」
「あんなに高いのによく倒れたり、折れないよねえ~東京タワーもそうだけどさ、ツリーはこれからもっと高くなるんだよ」
そう言うと、小学生達はガラス窓の向こうにあるスカイツリーを指さした。
「はは、そうだね…」
そう言ってヨウスケは少し考える。確かによく倒れないなと思う。人間の心は簡単に倒れ、折れるのに…
それは地面にどっしりと立ち、自分の役割を果たしている。 しかし、その高さから見える景色は、役割を果たす本人しかわからない。タワーを近くでみれば巨大で強く強く地面に立っている。遠くからみれば、その高さはポツンと人頭出て孤独だ。
人間は、地面にどっしりと立つ、1人孤独に…
その人間を立ち直れないほど折ってしまうものはなんだろう?
暴力?孤独?憎悪?妬み?権力?嫌悪?
失恋?喪失?
悲しみ?哀しみ?
世間の目?思い通りにならない世の中に対する不安や不満?
無力感?
いやいや、自分に対する憤りや焦りか?
あれが人ならば、たぶんそんな言葉達が周囲を飛び交い、人を惑わし、立ってられないほどのダメージを与えようと、狙っているのだろう。
ヨウスケはタワーを見ながら考えた。
「………」
「………」しばらくすると、小学生達はまた視線を 送ってくる。今度はなんだ?
「………」
「………」
「あのさ…」
「う、うん?」
「お兄ちゃん暗いよ」
「暗ぁ~い~よ~」
「大きなお世話だ!」
ヨウスケは微笑んで言った。彼らはヨウスケのことをすべて見透かしているような気がした。気味が悪いわけではない。どこか清々しい。ヨウスケは思う。
「シュート!」
飲みきった空き缶を、ポッチャリとした小学生が遠く離れたゴミ箱に向け投げた。ゴミ箱には何も入ってないのか、ゴミ箱の一番底に、カンが落ちる軽い金属音が響いた。
それを見届けると、小学生達は足早に階段を降りていった。彼らはヨウスケの前に現れた時と同じように、慌ただしい足音を立たせて去って行った。
彼らの後ろ姿を見送り、ヨウスケは缶コーヒーを飲み干した。ゴミ箱を狙い空き缶を投げる。
ゆっくりと弧を描きながら、空き缶は……
カァン!
ゴミ箱の底にある小学生達の投げた空き缶に当たり、中に収まったようだ。
「よし!」
ヨウスケは小さく右手に拳をつくった。




