⑤朝
土曜日。
枕元で、スマホが震えた。
「……ん……」
琥珀は布団に顔を埋めたまま、手探りでスマホを掴む。
画面が眩しい。
「……こんな朝からなんだよ……」
目を擦りながら、通知を見る。
『コサユ』
沙耶からメッセージが来ていた。
『沙耶:
今日ひま?』
その数秒後。
『沙耶:
うちで遊ぼー!』
「……急だな」
ぼんやりした頭で、トーク画面を眺める。
『結乃:
急』
『沙耶:
思いついたから!』
『結乃:
雑』
さらに通知が来る。
『沙耶:
一時くらい家に来れる???』
『結乃:
うん』
『沙耶:
琥珀ちゃんは?』
二度寝をしようとした瞬間、部屋のドアが開く。
璃子だった。
「……ノックしろって」
「したよ?」
「聞こえてねぇ……」
璃子は、少し面白そうにスマホを見る。
「遊びのお誘い?」
「……まあ」
「行くの?」
少しだけ考える。
女子の家。
休日。
友達。
数日前まで、絶対に縁がなかった言葉だった。
「……暇だし」
「青春してるねぇ」
「行くとわ言ってないし……」
璃子は琥珀のスマホで打つ。
『琥珀:
行くよー』
送信。
すぐに既読がつく。
『沙耶:
やったー!』
『結乃:
既読早』
『沙耶:
じゃあ一時ね!』
「決まるの早……」
「なに人のスマホで打ってるんだよ」
「お前部屋から出てけ」
「もう眠る」
琥珀は少し嬉しそうに
スマホを置いて、もう一度ベッドへ倒れ込む。
休日に友達と遊ぶ。
しかも女子同士。
(……ほんと意味分かんねぇ)
でも。
少しだけ、嫌じゃなかった。
一時間
琥珀は鏡の前で立ち止まっていた。
「……これでいいのか?」
ふんわりしたニットに揺れるスカート。
一昨日買った服。
私服姿の自分は、制服よりさらに見慣れない。
スカートを見る。
別に普通だった。
たぶん女子としては。
でも。
男だった感覚が、まだ全然抜けない。
裾が揺れるたび、足元に風が触れて妙に落ち着かなかった。
「琥珀ちゃーん」
「……なんだよ」
璃子が部屋を覗く。
数秒、じっと見る。
「かわいい」
「そういうのいいから……」
「なんで?」
「慣れてないんだって」
璃子は微笑む。
「はいはい」
そして琥珀の胸元をじっと見る。
「……琥珀ちゃん、もしかしてブラジャー付けてないとか無いよね?」
「付けてないけど」
一瞬、空気が止まった。
「……は?」
璃子の声が低くなる。
「付け方とかよく分かんないし……」
「分かんないじゃなくて、付けるものだから」
即答だった。
「ブラジャーって付けるのむずいじゃ〜ん」
「そういう問題じゃない」
璃子はため息をつき、クローゼットを開ける。
「……ここにあるでしょ」
「なんで分かんだよ」
「分かる」
淡々と取り出す。
「今から付けて」
「今!?」
「今」
有無を言わせない。
璃子は背を向ける。
「見ないから。早く」
「そういう問題じゃ……」
ぼそっと言いながらも、琥珀は観念する。
少しの沈黙。
「……できた」
「うん」
璃子は振り返らず頷いた。
それが当たり前のように。
「じゃあ髪整えて。もうすぐ時間」
「あーもう……朝から忙しすぎるだろ」
鏡の前に戻る琥珀。
(ほんと、なんなんだこれ……)
でも、不思議と拒否だけじゃなかった。
少しずつ、生活に馴染んでいく感覚があった。
「琥珀ちゃーん」
「……なんだよ」
璃子が玄関の方を指す。
「そろそろ行かないと遅れるよ」
「……ああ」
琥珀は軽く息を吐いて、靴を手に取った。
休日の約束。
女子の友達の家。
まだ慣れない世界のまま、外へ出る。




