第十話:軍師の兵法、新緑の牙
正式に家臣となった浪紫が最初に取り掛かったのは、既存の軍制の徹底的な破壊と再構築であった。
城下の練兵場には、菅谷勝貞を筆頭とする若手武将たちと、集められた足軽たちが困惑の面持ちで立っていた。
「……浪紫殿、これは一体何の真似だ?」
勝貞が指差したのは、浪紫が作らせた「奇妙な木札」と、色分けされた羽織であった。
「勝貞殿。これまでの小田軍は、個々の武勇に頼りすぎていました。それでは大軍の上杉や佐竹には勝てません。これからは、部隊を『機能別』に完全に分離し、私の合図一つで機械のように動いていただきます」
浪紫が導入したのは、現代の組織論に基づいた**「職能別組織」と、視認性を高めた独自の「軍標」**であった。
さらに、浪紫は源鉄斎から聞き出した領内の地形情報を元に、全兵員に対して「徹底した土木作業」を命じた。
「戦をせず、土を掘るのか」
不満を漏らす兵たちに、浪紫は冷徹に告げた。
「その土の一掘りが、敵の騎馬を止め、あなたの命を守る壁になります。……私の『縛りプレイ』に、脱落者は必要ありません」
その頃、城内では氏治が、浪紫が「特産品」として提案した、ある物の試作を眺めていた。
「浪紫殿、これは本当に売れるのか?」
「ええ。野老を精製した、保存の利く滋養強壮の粉末です。名付けて『小田の活力粉』。これを周辺の敵対しない国人衆に売り捌き、兵器調達の資金源とします」
浪紫は、単なる軍師に留まらず、最高経営責任者(CEO)として小田家のキャッシュフローを回し始めたのである。
しかし、急激な変化は軋轢を生む。
古参の重臣たちの中には、浪紫のやり方を「武士の道に悖る」と糾弾する者も現れ始めた。
「源鉄斎殿。あのような得体の知れぬ男に、小田の行く末を任せて良いのですか!」
重臣たちの突き上げに対し、源鉄斎は静かに目を閉じて答えた。
「……案ずるな。あの男の算盤が外れた時、この老骨が責任を持って始末する。だが……今は、あの男が見せる『見たこともない景色』を、殿に見せてやりたいのだ」
その言葉の通り、浪紫の改革は、確実に小田城を変貌させていった。
かつての弱小大名の居城は、今や迷路のような空堀と、合理的な物流網を備えた、異様な「要塞都市」へと進化を遂げつつあった。
だが、その完成を待たずして、北の空に暗雲が立ち込める。
浪紫の存在を危険視した佐竹義昭が、ついに重い腰を上げたのである。
「小田に化け物が棲みついたという噂、真か確かめてやろう」
佐竹の精鋭三千が、新生・小田城へと向け進軍を開始した。




