シャルロット(崩落)
祭祀場に入ってきた階段付近で、ルビアと合流を果たしたシャルロットは、泉で見てきた光景を彼女と共有した。
「凍った精霊ですか……視る力を持たない私たちにも視えるということは、その精霊は儀礼剣に宿って、現世に留まられているお方、という事なのでしょう」
精霊学と照らし合わせると、ルビアの仮説が正しいということになる。精霊は、この世界と重なるように存在する別の世界の生物で、視る力を持つ精霊術師にしかその姿を確認することはできない、神秘的な存在なのだ。ただし、現世の物に宿っている精霊はその限りではなく、誰にでもその姿を視認できる存在となる。
でも、精霊が宿っている物は、国宝級に珍しい物だと学んだのに。……珍しい物だからこそ、精霊神教の神物として祀られていた……のね。本来なら儀礼剣は鞘に納められて、祭壇に祀られていた物のはずだわ。それか、雨乞いの儀式を執り行うときに、神子が手にして舞うことで、精霊術が完成していたのよ……。やっぱり、今の状態は精霊の本意ではないのでは……。
「ロッティ様の直感は、往々にして当たりますので、あの儀礼剣には精霊が宿っているのだと考えていいと思います。ところで、私も儀式で使われていたのだろう祭具を見つけました。儀式の手順が描かれた壁画もそこにあったので、ロッティ様にも確認していただきたいのですが、よろしいでしょうか」
私の直感が当たる……? 廃墟の転移門を見つけたときは、その直感……全く働かなかったわよ? ルビアは私のことを高く評価してくれているのね……。
シャルロットは苦笑してから、ルビアに対して頷いた。
◆◆◆
階段と泉から離れた左側の岩壁に、ルビアが見つけた壁画と祭具の棚が置かれていた。
シャルロットは壁画に描かれた雨乞いの舞の動きを見て、少し渋い表情になってしまう。
今まで習ってきた舞踏会のダンスとは根本的に動きが異なるのね……。セル・ヒュドルでは舞踏会がそもそも無いと学んだから、盲点だったわ。雨乞いの舞、私に踊れるかしら……。それ以前に、精霊術師でもない私が舞を踊ったとして、現状が解決するものなの? いえ、やれることをやってみるべきだわ。
「ロッティ様、ひとまずこちらの神子服にお召し換えなさいませんか? ドレス姿ですと、あの動きは難しいと思いますので」
壁画からルビアに視線を向けたシャルロットは、その衣装を見て少し赤面してしまう。
最高級の絹で作られている服だというのは分かるのだけれど、手首や足首、腰まで……!? 幾らなんでも露出が激し過ぎよ……。下品さを感じないのが不思議なくらいだわ。
「ねえルビア……本当に私がこの衣装を?」
「そうです。大丈夫ですよ。見ているのは凍った精霊だけですから」
「……なんだか、楽しそうね……? 誤魔化しても騙されないわよ。貴女が見ているじゃない!」
「私はいつもロッティ様のお召し換えを見ているではありませんか。今更ですよ」
それはそうなのだけれど! それとこれとは違うでしょう!?
潤んだ目でルビアを軽く睨みつけて、羞恥心を抑えながら神子服に着替える。
「とてもお似合いです! 薄青の衣が白い肌を覆って、神秘的な舞姫に見えますよ」
元着ていたドレスを収納魔法で仕舞い、露出した腰周りを手で隠す。全く隠れてはくれないが、そうでもしないとこの服装に耐えられなかった。
「……ありがとう。一応お礼を言っておくわ……今思ったのだけれど、ルビアがこの衣装を着ても良かったのよ……? 後で着てみてくれないかしら?」
油断していると痛い目に遭うのよ?
ほくほく顔だったルビアの表情が、みるみる内に凍っていくのを確認して、シャルロットは溜飲を下げた。
他の祭具を確認しようと棚に視線を向けた瞬間。
洞窟の天井が激しい音を立てて崩れ落ちてくる!
シャルロットは咄嗟にルビアを引き寄せて、結界魔法を発動させた。
土煙が視界を覆い、激しい剣撃の音が辺りを満たす。
い、一体何が起こって……。誰か……それとも何かが戦っているのかしら?
結界に鋭い衝撃。何かが飛んできたらしい。
目を凝らして確認すると、それは大きな氷片だった。
ルビアが青褪めながらも、シャルロットを守るように抱き締めてくる。だが、彼女の肩は小刻みに震えていた。
ルビアを怯えさせるだなんて、許せないわね……。正体が分かったら覚悟していなさい!




