シャルロット(待ち受けていたのは)
真ん中の道は、光源魔法を使わなくても水魔石の輝きで道が照らされていて、奥に向かうシャルロットたちを歓迎してくれているように感じた。
道の最後で浮遊花の壁画が無くなり、下に向かう緩やかな階段に行き当たる。
壁画の代わりに浮遊花の彫刻と、巨大な水蛇の彫刻が頭上までもを覆って彫られていた。
「私には精霊を視る力がないけれど、精霊術師には水の精霊が、こんなに雄大な姿に視えているのね……とても大きな姿なのに、威圧感がないだなんて不思議だわ」
ルビアと共に階段を降りながら、壁の彫刻に触れてみる。
石造りの冷んやりとした感覚が指を伝う。それなのに、水蛇が浮遊花と戯れているようにみえるせいか、なぜだか温かみがある気がした。
「水の精霊を敬愛している方が、丹精を込めて彫られたからなのかもしれません。精霊を正しく理解できる者には、等しく精霊の加護が与えられるという意図があれば、奥神殿として相応しい装飾に思えます」
ルビアは彫刻に触らなかったが、ときどき立ち止まっては、彫刻の美しさに感嘆しているようだった。
◆◆◆
時間をかけて階段を降りた二人を待ち受けていたのは、開けた空間と冷たい空気、そして広間の中央にある凍った泉と、そこに突き刺さった儀礼剣だった。
さっきまでの温かさが嘘みたいだわ……。地下深くだと水は凍るものなの……? いえ、それはおかしいことだわ。だって、少し上で流れていた水は凍っていなかったもの。なぜ凍っているのかしら?
「ロッティ様。気になっても泉に近寄らないで下さい。私が確認して参ります」
「駄目よ。貴女を危険に晒すくらいなら、私が確認した方がいいに決まっているわ」
泉に近付こうとするルビアを引き留めて、シャルロットは少し語気を強めながら説得する。
ルビアは普人族なのよ!? 防御魔法をかけているとは言っても、魔人族より儚い存在なのは事実なのだから!
「私が泉を確認している間、ルビアには周囲に何があるのか調べて貰いたいのよ。だから、私に行かせて頂戴。お願いよ」
ルビアの顔を見つめて言い募る。シャルロットの切実な声が響いたのか、彼女は一度目を閉じて深い息を零した後、目を開けてゆっくりと頷いた。
「ロッティ様には逆らえませんね……そんな泣きそうな顔をなさらないで下さい。大人しく周囲を調べて待っておりますので。ロッティ様も身の危険を感じられたら、すぐにお逃げ下さい」
「ええ。そうするわ」
シャルロットは安堵のため息をつき、凍った泉へと視線を向けた。
◆◆◆
泉の縁まで歩いてきたシャルロットは、恐る恐る氷面を覗き込む。
透き通った氷面のおかげで、易々と水底まで見通すことができた。
あ、あれは、浮遊花の蕾だわ。凍ったまま時がとまってしまっているみたい……。本来ならこの泉で咲き誇っているはずだったのではないかしら?
シャルロットは氷面から目線を外して背筋を伸ばした。顎に指を添えて考え込む。
凍った状態なのは、異常ということよね? 溶かしてみようかしら……? いえ、何が起こるか分からないのだから、安易に泉の状態を変えるのは得策ではないわ。あの剣を調べてみるのが良さそうね。
泉の中央に突き刺さった儀礼剣。祭祀場の風景にしては、殺伐とし過ぎていた。それこそ、精霊に悪意ある何者かが、この聖域を汚したかのように。
シャルロットは浮遊魔法を使って、氷上を滑るかのように儀礼剣の場所まで移動した。
抜き身の剣は水魔石で造られているのか、蒼白い剣身が氷面に反射して神聖な輝きを保っている。
剣の持ち手には浮遊花の彫刻と、壁画に描かれていたのと同じように、けれど水魔石ではない、透明な氷細工のような石が花の中央に装飾されていた。
……あら? この石、装飾ではなさそうね……? 水魚を象っている石なのかと思ったのだけれど……もしかして。水の精霊なの……では?! 私にも視えるということは、儀礼剣に宿っているのかもしれないわ!
壁画に埋まっていた水魔石は水魚の形をしていなかった。対してこの剣の装飾は水魚の形をしている。極めつけに、この装飾には無機物には醸し出せない、確かな生命の息吹を感じたのだ。
氷面と同じように凍っているのよ! だから、透明な魔石に見えてしまったのだわ。自ら凍っているのかしら……それとも、誰かに凍らされたの……? 溶解魔法を使えば、氷は溶けそうだけれど……精霊の意志で凍っているのなら、やっぱり魔法は使えないわ。そもそも、剣の鞘はどこにあるのかしら……。
儀礼剣から離れ、泉の上を浮遊して奥の方まで移動する。
泉の中央、奥端に祭壇とそこに祀られた剣の鞘があった。
そのもっと奥には、廃墟の神殿にあった転移門と同じような石柱が、厳かに佇んでいた。
……もしかして、転移門が一方通行だったのは、あの転移門から外に出られるから、なのかしら……。一度ルビアの元に戻って相談してみなくては。
シャルロットはルビアと合流するために後方へ向きを変えた。




