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帝国の第二皇女シャルロットと獣人国の王太子アーキルの結婚~「英雄とドラゴン」外伝~  作者: ヒトミ


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8/10

シャルロット(待ち受けていたのは)

真ん中の道は、光源魔法を使わなくても水魔石(みずませき)の輝きで道が照らされていて、奥に向かうシャルロットたちを歓迎してくれているように感じた。


道の最後で浮遊花(フロートブルーメ)の壁画が無くなり、下に向かう緩やかな階段に行き当たる。


壁画の代わりに浮遊花の彫刻と、巨大な水蛇(すいじゃ)の彫刻が頭上までもを覆って()られていた。


(わたくし)には精霊を()る力がないけれど、精霊術師には水の精霊が、こんなに雄大な姿に視えているのね……とても大きな姿なのに、威圧感がないだなんて不思議だわ」


ルビアと共に階段を降りながら、壁の彫刻に触れてみる。


石造りの()んやりとした感覚が指を伝う。それなのに、水蛇が浮遊花と(たわむ)れているようにみえるせいか、なぜだか温かみがある気がした。


「水の精霊を敬愛している方が、丹精を込めて彫られたからなのかもしれません。精霊を正しく理解できる者には、等しく精霊の加護が与えられるという意図があれば、奥神殿として相応しい装飾に思えます」


ルビアは彫刻に(さわ)らなかったが、ときどき立ち止まっては、彫刻の美しさに感嘆しているようだった。


◆◆◆


時間をかけて階段を降りた二人を待ち受けていたのは、開けた空間と冷たい空気、そして広間の中央にある凍った泉と、そこに突き刺さった儀礼剣だった。


さっきまでの温かさが嘘みたいだわ……。地下深くだと水は凍るものなの……? いえ、それはおかしいことだわ。だって、少し上で流れていた水は凍っていなかったもの。なぜ凍っているのかしら?


「ロッティ様。気になっても泉に近寄らないで下さい。私が確認して参ります」


「駄目よ。貴女を危険に晒すくらいなら、私が確認した方がいいに決まっているわ」


泉に近付こうとするルビアを引き留めて、シャルロットは少し語気を強めながら説得する。


ルビアは普人族なのよ!? 防御魔法をかけているとは言っても、魔人族より儚い存在なのは事実なのだから!


「私が泉を確認している間、ルビアには周囲に何があるのか調べて貰いたいのよ。だから、私に行かせて頂戴。お願いよ」


ルビアの顔を見つめて言い募る。シャルロットの切実な声が響いたのか、彼女は一度目を閉じて深い息を零した後、目を開けてゆっくりと頷いた。


「ロッティ様には逆らえませんね……そんな泣きそうな顔をなさらないで下さい。大人しく周囲を調べて待っておりますので。ロッティ様も身の危険を感じられたら、すぐにお逃げ下さい」


「ええ。そうするわ」


シャルロットは安堵のため息をつき、凍った泉へと視線を向けた。


◆◆◆


泉の縁まで歩いてきたシャルロットは、恐る恐る氷面を覗き込む。


透き通った氷面のおかげで、易々と水底まで見通すことができた。


あ、あれは、浮遊花の蕾だわ。凍ったまま時がとまってしまっているみたい……。本来ならこの泉で咲き誇っているはずだったのではないかしら?


シャルロットは氷面から目線を外して背筋を伸ばした。顎に指を添えて考え込む。


凍った状態なのは、異常ということよね? 溶かしてみようかしら……? いえ、何が起こるか分からないのだから、安易に泉の状態を変えるのは得策ではないわ。あの剣を調べてみるのが良さそうね。


泉の中央に突き刺さった儀礼剣。祭祀場の風景にしては、殺伐とし過ぎていた。それこそ、精霊に悪意ある何者かが、この聖域を(けが)したかのように。


シャルロットは浮遊魔法を使って、氷上を滑るかのように儀礼剣の場所まで移動した。


抜き身の剣は水魔石で造られているのか、蒼白い剣身が氷面に反射して神聖な輝きを保っている。


剣の持ち手には浮遊花の彫刻と、壁画に描かれていたのと同じように、けれど水魔石ではない、透明な氷細工のような石が花の中央に装飾されていた。


……あら? この石、装飾ではなさそうね……? 水魚を(かたど)っている石なのかと思ったのだけれど……もしかして。水の精霊なの……では?! 私にも視えるということは、儀礼剣に宿っているのかもしれないわ!


壁画に埋まっていた水魔石は水魚の形をしていなかった。対してこの剣の装飾は水魚の形をしている。極めつけに、この装飾には無機物には(かも)し出せない、確かな生命の息吹を感じたのだ。


氷面と同じように凍っているのよ! だから、透明な魔石に見えてしまったのだわ。(みずか)ら凍っているのかしら……それとも、誰かに凍らされたの……? 溶解魔法を使えば、氷は溶けそうだけれど……精霊の意志で凍っているのなら、やっぱり魔法は使えないわ。そもそも、剣の鞘はどこにあるのかしら……。


儀礼剣から離れ、泉の上を浮遊して奥の方まで移動する。


泉の中央、奥端に祭壇とそこに(まつ)られた剣の鞘があった。


そのもっと奥には、廃墟の神殿にあった転移門と同じような石柱が、(おごそ)かに(たたず)んでいた。


……もしかして、転移門が一方通行だったのは、あの転移門から外に出られるから、なのかしら……。一度ルビアの元に戻って相談してみなくては。


シャルロットはルビアと合流するために後方へ向きを変えた。

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