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帝国の第二皇女シャルロットと獣人国の王太子アーキルの結婚~「英雄とドラゴン」外伝~  作者: ヒトミ


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シャルロット(三つの分かれ道)

転移門で飛ばされた場所なだけあって、洞窟には人の手で整備された道があった。


廃墟の神殿と同じ材質でできた石畳(いしだたみ)の橋を渡る。


ランドールお兄様がこの光景を見たら、この場所を調べ尽くすまで、洞窟で生活しそうね。


シャルロットにはこの橋がどうやって造られたのか、見当もつかなかった。


「大分下り坂の橋ですね……あ、向こう岸が見えてきましたよ」


シャルロットの前を歩くルビアが、心做(こころな)しか安堵したような声で前方の状況を伝えてくる。


ルビアの安堵は、(はる)下方(かほう)にあった水流が、橋を下ることで間近になったおかげかもしれない。


「ねえルビア。ここはあの神殿の地下だと思う?」


廃墟の神殿と同じ材質の石畳。転移門で飛ばされたのだから、全く別の場所という可能性もあるが、シャルロットはここの上にはあの神殿があるのではと考えた。


砂漠の地の地下洞窟に、こんなに沢山の水属性魔石があるだなんて知ったら、この地を手に入れるために多くの人々が争い合うのではないかしら。そんな危機を避けるために、賢明な古代のどなたかが地下水脈を隠すように、神殿を建てたのかもしれないわ。


「……そうですね、地下かどうかは分かりませんが、神殿と関係のある場所なのは確かだと思います。セル・ヒュドルではつい最近まで、精霊神教(せいれいしんきょう)が栄えていたと歴史書に記載されていたのは、覚えておられますか?」


精霊神教。その名の通り、精霊を信仰している人々の集まりだ。ロプトル帝国では精霊神教よりも天神教(てんじんきょう)竜神教(りゅうじんきょう)が目立っていたため、シャルロットはこの一年で一から精霊神教について学ばなければならなかった。


「ええ。確か、セル・ヒュドルでは、精霊術師が水の精霊を呼ぶために、雨乞(あまご)いの神子として砂漠を()り歩く儀式があると書かれていたわね」


今ではその儀式は(すた)れてしまっているらしいけれど、宮殿での雨乞いの儀式は、年に一度王族によって()り行われているのよね。


「そうです。なので、あの神殿は精霊神教徒の祈りの地で、ここは雨乞いの神子が盛大な儀式を催すための、奥神殿(おくしんでん)のような場所なのではないでしょうか」


ルビアが橋を渡り終えて、シャルロットの方に振り返る。


シャルロットも数歩遅れて渡り終え、視線を足下から正面に移動させた。


ルビアの推測が正しければ、あの道のどれかが祭祀場(さいしじょう)に繋がっていることになるはずよ。


シャルロットの視線の先には、三つの分かれ道が口を開けて待ち構えていた。


「ここが奥神殿なら、なぜ転移門を自動で起動するような仕組みにしたのかしら……」


あれでは、(わたくし)みたいに魔石に触れた人は、問答無用でこの地に飛ばされることになるのに。


「私の考えで恐縮なのですが、あそこは廃墟だったので転移門が()き出しになっていただけなのではと。元は精霊神教の高位神官、つまり天神教で言う司教の立場にある方や、雨乞いの神子の立場にあった精霊術師の方たちだけが入れる、一般信徒は立ち入り禁止の部屋に、転移門が作られていたのではないでしょうか」


ルビアが顎に指を当てて、考え込むように首を傾げながらシャルロットの疑問に答えてきた。


「ルビア、貴女の才智は本当に得難いものだわ!」


シャルロットはルビアを抱き締めて歓声をあげる。突然のことに驚いたのか、彼女は小さく悲鳴をあげた後、恥ずかしそうに俯いた。


いつもルビアの慧眼には驚かされるわね。その推測なら転移門が自動で起動する仕組みは合理的な作りと言えるわ。……でも、それならなぜ一方通行なの……? そもそも、座標を祭祀場にしておけば、橋を作る必要もなかったはずよ。なのになぜ、古代の精霊神教徒の方は橋を作ってまで、座標を崖の上にしたのかしら?


渡ってきた橋へと視線を向けて、そのまま崖を見上げる。歩いてきたときは意識していなかったが、落ち着いて見ると、洞窟の広さが良く分かった。


私のように魔石に目を奪われて足元を(おろそ)かにしてしまったら、水流の中に転落してしまう危険があるのよ? それなのにどうして……。


眉をひそめながら、崖から三つの分かれ道に視線を移す。


あの道が分かれているのも疑問だわ。わざわざ岩壁を三つの穴に掘り進めたのはなぜなの? まるで、試されている気分よ。淑女教育の試験みたいに! ……試験……なのかしら? 魔石に欲を出すか出さないか、祭祀場に辿り着く資格があるかないかの試験……。なんだかしっくりくるわね。少しすっきりしたわ。真相を確かめるためにも、先に進まないと!


◆◆◆


分かれ道の間近まで歩き、光源魔法の丸い発光体でそれぞれの道の奥を照らしてみた。


左端の道と右端の道には水流からの水が小川となって流れている。それに比べて真ん中の道には水の流れがない。


左の道の壁には雨乞いの神子と思われる人物が舞を踊り、砂漠に雨をもたらしている壁画が描かれている。神子の周りには祈りを捧げる人々の姿があるが、肝心の精霊がどこにも見当たらず、神子が権威に酔っているように見えてしまう。


右の道の壁には水魔石が埋まった周りで人々が祈りを捧げている壁画が描かれている。水の精霊が(この)みそうな捧げ物が多く描かれていたが、精霊はそこまで欲深い存在ではないのではと思ってしまった。


なんだか、悪意を感じてしまうわね。


真ん中の道の壁には浮遊花(フロートブルーメ)が水面で咲き誇っている壁画が描かれていた。花の部分に意図されたように水魔石が埋まっているのが、水の精霊を花で抱いているように見えて、美しさを感じる。


絶対に真ん中の道が正解よ! 直感でしかないけれど、この壁画を見れば誰もがこの道を選ぶと思うわ。


「ルビア、真ん中の道を選んでもいいかしら?」


横で一緒に壁画を観察していたルビアに視線を向けると、彼女は大きく頷いた。


「私も真ん中が正解だと思います。左の道は精霊への敬意を感じませんし、右の道は精霊を(けな)しているように見えます。精霊を信仰する人々なら、左右の道は選ばないでしょう」


そうよ。ルビアの言う通り、左右の壁画は精霊を神として信仰している人々の神殿に描かれているものとしては、あまりにも不釣り合いなのよね! やっぱりここは精霊神教の奥神殿で、祭祀場に向かう司教や精霊術師をふるいにかける、試験の場なのかもしれないわ。


「ルビアのお墨付きがあれば安心ね」


顔を見合せて微笑み合った後、二人は真ん中の道を進み始めた。

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