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リキの策  作者: 赤鷽
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第三十二話 王弟の親征

 

 入城して五日が経った頃 、リキの挙兵に呼応して起った幾人かの貴族が共闘を持ちかけてきた。その中には有力な貴族も含まれていたが、主に中小の貴族たちで、彼らは、これまでの軍功に対しての恩賞が少ない――と不満を募らせていた者たちであった。リキはこれを受け入れた。

 さらに、リキと親しい貴族の友人たちも起ち上がった。ボルゴ卿もその一人だった。


 各地で、国王の政事に不満を持つ者たちの蜂起が相次いだ。ここ数年で燻ぶっていた国王への不信・不満が、リキの挙兵を機に、一気に噴出したのだ。

 かつて、支持基盤の弱かった国王は即位直後、既存の大貴族たち――主に家格の高い国王に近い血縁の貴族に多くの恩賞を与え、優遇し、支持を取り付けた。しかし、そのために、初期から付き従ってくれた中小の貴族たちへの恩賞を後回しにしたのである。思っていたほどの知行を得られなかった者たちは当然、不満を持った。

 今回、兵を起こした者の多くは、こうした中小貴族たちであった。

 ここに国は、七年前にヴァーリ卿・ロランド連合軍が侵攻してきた時以上の内乱状態となったのである。


 リキは滞陣していたカザル城に合流してきた十人ほどの中小の貴族たちを加えて、三万五千余に膨れ上がった兵を北に進め、王都のおよそ南南西八十キロメートルに位置するポルデーノ城に迫った。ここは国王側近ユリウスの家系が代々拝領している地で、現当主グレゴリオ・ディ・コロナスはユリウスの父である。要衝の地にあり、堅固で鳴るこの城を、リキは三万五千余の兵で囲んだ。

 それと同時に、ユリウスが父グレゴリオを裏切り、リキと謀ってアンジェロ国王を追い落とし、その玉座を狙っている――との流言飛語を王都周辺に流した。ユリウスの排斥や失脚を狙った一手である。

 側近ユリウスは国王の寵臣だけに、これは徒労に終わるかも知れないが、打っておく策は多いに越したことはない。


 その間も、城を囲むリキの下へ中小の貴族が兵を率いて参集し、五千余の城兵が籠るボルデーノ城を包囲する兵は五万を超えた。

 父を助けたいユリウスの進言か、ボルデーノ城を救おうと王弟ジュリアーノを総大将とする国王軍が編成され、王弟殿下は二万余を率いて南下した。援軍が編成されたということは、リキが流した流言飛語は効果がなかったようだ。

 ただ、すでに城を囲むリキ軍が三万以上との報告がありながら、二万余の兵しか送り出せなかったのは、ウンベルト将軍に付けた一万余を失った直後であること、国王側を見限り離反する貴族が後を絶たなかったことが背景にあったようで、国王の求心力が落ちていることは確かであった。

 援軍派遣の情報を得たリキは、ボルゴ卿を呼んだ。


「君にここを任せる」

「ジュリアーノ殿下がこちらへ向かっているとのことだが」

「ああ。こちらから、先を制するために向かう」

「承知した。ここはお任せあれ」


 リキは城の包囲に三万の兵をボルゴ卿に託し、直属の八千騎を含む二万の兵を率いて王弟率いる援軍の迎撃に向かった。このまま城を包囲していれば、挟撃されることになる。その前に援軍を叩いておこうと、すぐさま北上を開始したのである。

 リキがまだボルデーノ城を囲んでいると思って南下していた王弟は、城までの行程あと一日という場所で夜を明かした。翌朝になって行軍を開始した王弟軍はすぐにリキ軍と遭遇した。リキ軍はすでに布陣を完了して待ち受けていた。


「掛かれっ!!」

「突撃!!」


 高く掲げた刀で、リキやクレアが攻撃を命じた。王弟軍が現れるや、正面に布陣したリキ率いる主力の軽騎兵三千と供奉(ぐぶ)した貴族たちの重騎兵一万二千余が一気呵成に攻撃を開始した。先陣の軽騎兵が王弟軍に突撃し、第二派として後曲の重騎兵が襲い掛かった。またしても後手に回った王弟ジュリアーノが、驚愕の声を上げた。


「何故だ!? 何故、リキがここにいる!?」

「殿下! こちらに!」


 城を囲むリキ軍を背後から襲う算段であった王弟軍は、逆に自分たちが不意を突かれる形となり混乱に陥った。動揺する王弟を、補佐として同行していたフリッチが後方へと退避させた。事実上の撤退である。

 大将の離脱で指揮系統が麻痺し右往左往しているところへ、臥せられていたガラムとグイドの別動隊、各二千五百騎が背後から包囲する形で王弟軍を攻め立てた。散々に討ち払われた王弟軍は散り散りになって敗走した。集めるのにも苦労した二万余の兵の大半を失い、王弟ジュリアーノは援軍として到着する前に、二度目の大敗を喫したのである。


『二度目はない』


 捕縛されかけた先の敗戦でのリキの言葉を思い出しながら、ジュリアーノは肝を冷やして王都に逃げ帰った。

 ニコロが傍にいれば、この敗戦はなかったかも知れぬ。そう思わずにはいられなかったが、そのニコロを遠ざけたのは、他ならぬ王弟自身であった。王弟は自身の行いを悔いながら、馬を疾らせた。


 大勝したリキ軍はボルデーノ城に引き返し、引き続き城を包囲。再び大軍に囲まれたうえ、援軍の大敗を知ったボルデーノ城の兵は急速に戦意を失った。さらにリキが力攻めを匂わせるに及び、怯えた重臣達は城主グレゴリオを謀って殺害。ボルデーノ城を開城させ、主君の首を手土産に降伏してきた。


「リキ殿の軍に入れて頂きたく、城主グレゴリオの首を進上いたしまする」

「どのようにして、主君を討ったのか?」

「寝込みを襲いました」


 入城したリキはこれを知るや激怒した。そして自らの保身を図った重臣たちの首を刎ねさせた。それから、無念にも信頼していた配下に殺された城主グレゴリオを丁重に葬るように指示した。


 リキもこんな戦乱の時代であるので、裏切りや離反もあるのは百も承知しているし、今となっては自身も主君に対して謀反を起こした身である。

 だが、敵だった者に阿るために、主君を騙し討ちや寝首を掻いて弑したともなると、話は変わってくる。良い領主との評判であった当主のグレゴリオ卿を弑したことに、黙ってはいられなかったのだろう。


「やっぱり、青臭いかね?」


 リキはクレアに問うた。クレアは優しく首を振り、


「いえ。いいと思います」


とだけ、言った。


「そうかい」


と頭を掻きながら、こちらも照れくさそうに笑った。リキにとっては、クレアの言葉が何よりの褒美であった。



 

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