ケモ耳彼を推しています
初短編です
コンコンコン―――いつも通りの時間にいつも通りのノック音が聞こえてくる。
ノックの音が聞こえてきた方――私の部屋のベランダにはいつも通り堂々と1人の男が立っていた。
「スミレー入れてー、疲れたぁ~」
当たり前のように私の部屋のベランダにいるこの男は私の幼馴染のアイビー・ソルネだ。
「もー!見られたらどうするのよ」
そう言いながらも私はベランダの扉を開けて彼を部屋に入れてしまう。
そして、部屋のソファーに腰掛けるように言い、私はお茶を準備する。
そんなとき、
「ねぇ、スーちゃん今度、俺と王都に遊び行こうよ」
「……いいよ」
私と彼は何度か2人で王都に遊びに行ったことがある。いつも、子供のようにはしゃぐ姿が良いんだよなぁ~~。私は少しその時の彼を思い出していたが、私は気になっていたことに彼はそう言えば……と聞いてみる。
「今日は耳、出さないの?」
「ん~?なに?見たいの?」
「!……えーっと……」
私はなんだか恥ずかしくて口ごもってしまう。
そんな様子の私を見て
「ふふっ、いいよ出してあげるよ」
いたずらっぽく彼が笑い、自分の美しい白い髪を頭をくしゃくしゃとする。
すると、
ひょこっ!
犬のようなケモ耳が出てくる。
かっかっか……可愛すぎる――
何度見ても彼のケモ耳姿は可愛いしかっこいい。それはもう、とてもとても。
「どお?」
うぐう。ケモ耳+上目遣いは反則だろぅ~。
「……いいんじゃない」
心の中は大興奮だったが、口から出てくる言葉は可愛くない。
「ふーん。まあいいや。あっ!そうだ、今日予定があったんだ!じゃあまたね~」
そういって彼は髪をまたくしゃくしゃとしてケモ耳をしまい、来て早々ベランダに向かう。
「ばいばい」
少し遅れて私は言うが、もう彼はいなかった。
「ふわああ。カッコい~///」
私は彼が帰ったことを確認し、ベランダの扉とカーテンを閉めると、こう言い、へなへなと床に座り込み、幼いころのケモ耳騒動のことを思い出していた。
≪回想入るヨ!≫
アイビーの家――ソルネ公爵家領土は私の家――ミューレ公爵家領土の隣にあり、お互いの家は思い切り走って10分くらいの距離だった。
ソルネ家とミューレ家は仲が良く、両家の子息と令嬢であり、同い年のアイビーと私は物心ついた時にはもう仲が良く、週に2~3回はお互いの家で遊んでいた。
4歳になると、アイビーは1人で、ほぼ毎日走って私の家まで来て昼頃から夕暮れまで庭で遊んだ。(アイビーの行き来はソルネ家の護衛が陰から見守っていたらしい)
鬼ごっこにかくれんぼ、木登りや探索など毎日が楽しかった。
そして忘れはしないあの日唐突にやってきた。
あの日は冬の大寒の日近くで肌寒く、アイビーの5歳の誕生日の雪の日だった。
私は支度を整え、今日のノルマである勉強をし昼から存分に遊ぶため準備をしていた。
今日は何をするのかな~?と楽しく考えていたとき、私のベランダの窓が――コンコンコンとノックをされた。
私の部屋は2階で私の部屋のベランダに行くためには私の部屋からしか行き方がない。
なのにベランダの扉が外からノックされ、私は不気味に思いながらも好奇心が勝ってしまい、恐る恐る扉に近づき、扉を開ける。すると、目をうるうるさせ、頭を押えたアイビーがそこにいた。
「!?アイビー!?」
私は驚き、アイビーを部屋の中に入れ、ソファーに座らせ私もその隣に腰を下ろす。
そして、アイビーにどうしたのか聞くと、頭でなにかを押さえていた手をどけ、ぴょんと犬の耳のようなもの――ケモ耳があらわになる。アイビーは涙をたくさんためて私に話し出した。
「今日……朝起きたら、これが、出てきてて、なにか分かんなくて、怖くて、父さんや母さんに、なんにも言わないで出てきた……」
「ッ―――!?」
「こんな…変な耳が頭についた俺なんて……もうしn「あたしは!あたしはいいと思うよ」
私は少し大きな声を出してアイビーの言葉を途中で止める。
その後の言葉は言ってはいけない言葉だと思ったのか、なんでなのかは分からないが私は止めた。
「人はさ、皆違うでしょ?それがいい?とかなんかの本で読んだんだけど、ほんとにそうだよ!みんな
違うから楽しいし、面白いし、幸せなんだよ」
「でもっ、否定、されるかもしれないし……」
「みんなに否定されても、私はいいと思う。みんな考え方が違うんだからだ否定する人もいるかもしれない。だけど、あたしはいいと思う!あたしは絶対に否定しない!ずーっとアイビーの味方だよ」
私のその言葉を聞いたとき、アイビーがためていた涙が一気に溢れてきた。
ちょっとやそっとではアイビーの涙は止まりそうにもないため私は背中をトントンと叩き、止まるのを待っていた。
しばらくして、私の様子を見に来た私のお母様この状況を見て、急いでお父様を呼び、事情を軽く聞いたお父様はアイビーの両親を呼んだ。
それからすぐにアイビーの両親が来て、アイビーを連れて帰った。
アイビーはお医者さんの検査を受け、両親づてに体の変化を聞いた時、私は驚いた。
聴力、視力、嗅覚、身体能力が常人の数倍になっていたのだった。
また、ケモ耳じゃない方の耳は、なくなってはいないが、もう完全に聞こえないらしい。ケモ耳を寝かせて髪の中に隠していてもよく聞こえるため、生活に支障はまったく出ていないらしい。
あの時、私の部屋のベランダにいたのはジャンプをして来たのだと聞いた時はしばらく固まるほど驚いた。
え……10mくらいはあるよね?2階まで……
同時に引きもしたが。
≪回想終了!≫
今思えば、あの騒動のすぐ後からうすうす分かっていたのかもしれない。
だけど、ぴったりの言葉を知らなかったから、よく分かっていなかった。
しかし、私ははもう完全に理解している。
彼は……
彼は、私の〝推し〟だということに。
彼を部屋に入れてしまう理由は、彼は私の幼馴染であると同時に〝推し〟であるからだ。
私の部屋に入る時の推しの笑顔は最高だ。
彼を推している理由の1つ目は単純にビジュアルがいいことだ。パッチリとしたグリーンの瞳、くっきりとした鼻筋、透き通るような白い髪、綺麗な唇、スタイルも完璧でいつも清潔感がある文句のつけようのないくらいのイケメンだ。
2つ目は性格のよさ。普段はあまり喋らないが、周りのことをよく見ていて困っている人がいたらすぐに駆け寄り助けてくれるような人で、ちょっと口下手で優しい人、と学園の皆から好かれている存在だ。
3つ目、私と過ごすときのケモ耳の姿と普段のクールな姿のギャップ、そこも良い!
控えめに言って神だ。
彼のことは好きだが、恋愛的な意味ではない。
あくまでも推しということで好きだ。
ちなみにこの〝推し〟という言葉が流行したのはつい最近でこの言葉は誰が広めたのか分かっていない。しかし、皆の心を掴んだのかこの言葉は消えることなく使われるようになった。
その言葉とほぼ同時期に「同担加担拒否」や「オタク」、「フラグ」などの言葉も流行していたのは偶然なのか偶然でないのか……。真実は分からない。
「……そういえば、最近すぐかえっちゃうな」
課題を終わらせていないことを思い出し、勉強机に向かっていた私はそんなことを考えていた。
そう、最近アイビーが来てもすぐに帰ってしまうのだ。
私…何かした…?それとも……
ハッ!?
「女の子…彼女か!」
私は思わず立ち上がってしまう。
まあモテるもんね。
だが、ほぼ100%確定のことに絶望するとかではなく、ただ純粋に彼の幸せを願っているため、彼が幸せで、誰かを不幸にしなけば別に嬉しいのだ。
ふふふっ……あっ!
そこで私は重大な事実に気が付く。
私、今度王都に遊び行こうって誘われちゃったじゃん!
これって浮気……?
「ッ――――!?」
わああああ。これってまずいよね?明日絶対断ろう。そう決意し、内心そのことがものすごく気が気でない私だった。
「ううう。まさか彼が浮気するような奴だったなんて……それも何も知らない幼馴染を……」
昨日は、全然眠れず――なんてことはなく、普通に爆睡し、すっきり目覚めた私は、そのことを思い出し、彼がそんなことを……と考えていた。
「よし!断る…断る!」
そんなことを呟きながら私は気難しい薄紫色の髪をくしで整える。
私の髪は鎖骨ほどしかないのだがかなりの癖ッ毛で毎日の朝ストレートにするのが大変だ。
小さい頃は真っ直ぐだったのだ、大きくなっていくにつれ、癖がついてしまったのだ
今日はいつにもましてクルンクルンしていて、ストレートにならない。
もう学園に行く時間が来てしまうため諦めようかと思っていると、
「スミたん~!おはよ~」
「もう学園に行く時間よスミたん」
すこし私大好きの両親――レナン父様とミラン母様が音もたてずに私の部屋の中に不法侵入してくる。
「!お父様!部屋には入らないでくださいっていつも言っていますよねっ!」
まずはレナン父様を部屋の外に追い出し、ミラン母様に助けを求める。
「お母様……実は髪が今日は上手くストレートにならなくて……」
「まかせて!このような日のために、隠れて練習していたのよ!」
そういうとミラン母様は私では太刀打ちできなかった癖ッ毛に挑み、勝利したのだった。
「わああ!すごいです!ありがとうございます!」
そう感謝するとミラン母様はとても嬉しそうに微笑み、こうお願いしてきた。
「あのスミレちゃん。今日は大事な話があるから、できるだけ早く帰ってきて、お父様の仕事部屋に来てほしいの」
「?分かりました」
私は少々不思議に思いながらも了承し、馬車に乗り学園へ向かった。
私が通う学園は国内随一の名門校で身分に関係なく優秀な人しか通うことが出来ない。
13歳~18歳までの学園で私は現在16歳のため、4年生だ。
この学園の出身者は歴史に名を連ねた者も多く、通っただけで立派な肩書になる。
役所などに就職するにしてもかなり有利になるため、毎年の受験倍率は恐ろしいほどに高い狭き門となっている。
そんな学園は、入った後は園外学習などで楽しんで学ぶことができるということも人気の理由の1つだろう。
「すぅちゃん!おはよ~」
学園に着き、心なしかそわそわしている教室に入ると侯爵令嬢で親友のネモフィラが話しかけてくる。
「わあルリちゃん!おはよう」
ネモフィラという花には別名で瑠璃唐草という名前もあるため、そこから〝ルリ〟と私は呼んでいる。
ネモフィラは薄い水色の髪に碧眼、身長も小さい方の私と同じくらいで、おろしていたら腰くらいまである髪の毛を高めの位置で2つに結んでいる。
そんな彼女は同性の私から見てもとても可愛い。態度を人によって変えるということもなく、皆に平等な性格もいい子だ。
「ねえねえ、そういえば知ってる?アイビー君、彼女が出来たって噂よ」
「えー!?そうなの!?」
よく聞くと最近緑色の髪の女の子と仲良く腕を組んで王都で遊んでいたらしい。
やっぱり……女の子が……。
「今、学園中で噂されてるよ、アイビー君のファンクラブ今大混乱中よ」
アイビーには本人は知らないが、ファンクラブなるものが存在する。
女子生徒の半分以上はファンクラブに加入しているとかないとか。
私はファンクラブに加入していない。もし、本人にバレたら何を言われるか分からないからだ。
私のように陰から推している人や同担加担拒否の人もいるだろうから、実際のファンは半分より多いだろう。
とまあ、それは置いておいてクラスメイト達がそわそわしていたのも納得だ。
……今日は学校の後家族と話があるから来ても部屋に入れないって伝えようとしたのだが、無理かもな……
今日来るとは限らないし、大丈夫か。
休み時間にアイビーの教室をちらりと覗いたが、案の定人で周りを完全包囲されていたため、諦めて家に帰った。
「お父様、失礼いたします」
学園から帰宅後、私はお父様の仕事部屋に向かった。
そこには父様だけでなく、母様までいて、2人とも真剣な顔をしていた。
「スミレ、ここに座りなさい」
「は…はい。失礼します」
私はあまり見ない両親の真剣な表情に少し驚いていた。
というのも、今までの両親でこのような真剣な表情は何か怒られるときのみだったため、内心ビクビクしていた。
そんな私に父様は、
「スミレに縁談の申し込みが来ている」
と単刀直入に伝えてきた。
………!?嘘っ!?
驚きだった。学園で告白されたことなど1度もないし、私のことが好きな人がいる。といった話も聞いたことがなかったからだ。
「私に縁談をしてみろということですか?」
「うーん。私たちはあまり受けてほしくはないから破りすて……断っているのだけどね、相手の方からあわせろって催促が最近よく来るのよ……だから、スミレちゃんから断ってほしいの」
え……縁談……私とはしばらく無縁のものだと思っておりましたわ……
「あ!もし、スミレちゃんが気に入ったら、OKしてもいいのよ(私たちはすこーーし嫌だけど)……」
「……分かりました。いいですよ」
いい人がいたら婚約、いなかったら私から断る。
私ももう16、婚約者がいる同級生もかなり多い。
しかし、親が何かしていたのかはわからないが、私にはそのような話が今まで全くなかった。
「それっていつですか?」
「今週末だよ、大丈夫?」
「はい。予定をいれないようにしておきます」
これで話は終わりかと思い、「では」と自分の部屋に帰ろうとしたが父様が止め、
「ねえスミたん。今、欲しい物とか、ある?」
「欲しいものですか?うーん特にないですが、強いて言えば面白い本、ですかね」
「…本……よし。ありがとう」
?謎の質問をしてきた父様はそれだけを聞くと、私に部屋へ戻るよう言った。
「えっ!!すぅちゃん縁談するの!?」
「しー!ルリちゃん声が大きいよ」
翌日、ルリちゃんに話したら、周りに聞こえてしまうかもしれないくらいの声の大きさでいってきたので私が注意すると、ルリちゃんはハッと口を押えた。
「で……お相手は……?」
ルリちゃんはすごく真剣な表情で私を見つめる。
「えーと。ごにょごにょ……」
「えっ!あのイケメンと評判の3年生で公爵家次男、ザックリーム・アスター様!?えっなんⅾ(しぃぃー)」
さっきよりも少し大きな声で、ルリちゃんが声に出す。
私はルリちゃんの口を無理やり抑え、また大きい声を出さないよう注意する。
「ごめん!だってアスター様と言えばあの情熱的な赤い髪と瞳を持った……ゴホン。それで、なんで!?」
無言の圧をかけ、話を進めさせる。
「実は、学園内で私を見た時、一目ぼれしたって言ってたとお父様は言っていたのよ」
「……そんな小説の世界のようなことは本当にあるのね………」
ルリちゃんはしみじみとした様子で言う。
「いーなー!私なんて出会いゼロよ!う゛――……」
あはは……私は苦笑いをしてその話は終わった。
―――コンコンコン
「スーちゃん開けてー」
今日もこの時間がやってきた。
私は慣れた動作で彼を部屋に入れお茶をだす。
今日はその時にケモ耳を出していた。
何度見ても可愛いなぁ~……
そんなことを考えている私に彼が聞く。
「そういえばさ、昨日なんでいなかったの~?」
「昨日はちょっとお父様とお母様から話があって」
「ふーん」
彼は昨日も来ていたらしい。
私が来てって頼んでるわけじゃないし、しょうがないよねー。
「ねえスーちゃん」
「なに?」
「今週の土曜日さ、一緒に王都に遊び行かない?」
「土曜日か…あっごめん土曜日は予定があって……また違う日でもいい?」
土曜日は縁談の予定があるため、断る。
彼はそっか……とケモ耳をたれ、明らかに残念そうに
「そっか……」
とつぶやく。
そして、じゃあ、またねと今日も帰ってしまう。
「彼女の件もあるから、断れてよかったけど……」
悲しそうな彼の表情を思い出して私は心を痛めた。
土曜日
「スミレ様こんにちは。アスター・ザックリームでございます。本日は誠にありがとうございます」
「スミレ・ミューラでございます。ご足労頂きありがとうございます」
うちの応接室にアスター様とアスター様のご両親を呼び挨拶を交わし、アスターさんのご両親や私の両親も自己紹介をし、話を始める。
すると父様はアスターさんにこう聞く。
「君はスミレのどこを好きになったのかよく聞かせてくれないかね」
「はい。私がスミレ様と出会ったのは忘れもしないあの夏の日です―――」
この後は長かったため、省略するが、簡単に言えば私とぶつかり、物を落とした時優しく拾ってくれたことがきっかけらしい。
正直、全く覚えていなかったが、話を合わせて聞いていた。
その他にも父様からの問いにアスター様は100点と思われる答えを言っていく。
暫くすると父様に私たち2人で庭に話しにでも行ったらどうかと言われ、素直に向かうことにした。
「今日は本当にありがとう。嬉しいよ」
「はい」
それからアスターさんは私のことを褒めだした。
「君は本当に可憐で優しくて美人で気も利くし――――」
嬉しくないわけではないが、ずっと褒めまくっているため、アスターさんの話の方が聞きたかったかなー。
「あっそうだ。父さんの助言を忘れてたよ~えーっと?」
庭の奥の方まで来たとき、私のことを褒めるのを終えたと思ったら、奇妙なことを言い出した。
母さん、父さん?……助言……?
なぜか嫌な予感がし少し距離を取ろうと思ったら、私の両手首をガッと掴まれた。
私は怖くなり、離してと抵抗するがアスターの方が力は強く、逃げることができない。
「俺は次男だから家を継げないからさ、どうしよ~って父さんに相談したらさ、縁談を申し込めばいいんだ~って言われてさ、君は1人娘だから君がこの家を継ぐだろう?だから縁談を申し込んだらお見合いできて―――」
「やめっ」
私の必死の抵抗も虚しく全くお構いなしといった様子で奴は話を続ける。
「父さんにさ、こう助言をもらったんだ。婚約とかの前にこっちの関係になってしまえばこっちのもんだってね。父さんもこれで縁談が上手くいって母さんと結婚したんだって~」
彼の手は私の体の下の方へ伸びていく―――
「ヒッ―――」
私の手はネクタイで後ろに結ばれ、空いたもう片方の手で奴は私の口を押える。
助けも呼べず、抵抗も出来ない。
足はドレスのせいで自由が利かず、相手の急所を蹴ることができない。
もう積みかもしれない―――
そう諦めそうになり、目を閉じた時だった。
ゴッ―――
鈍い音に反応し目を開けると、ものすごく心配そうにこちらを見る〝彼〟がいた。
彼は「大丈夫かっ!?」と聞きながら、私の手首に結んであったネクタイを外してくれた。
私は緊張の糸が切れたのかへなへなと地面に座り込み、大きな声で泣いた。
アイビーは私の背中を優しく叩いて、落ち着くのを待ってくれた。
しばらく泣いていると、その声を聞きつけたのか私の両親と奴の両親がやってきて、この状況をなんとなく察したと思われる両親が私を支え、アイビーにも来てもらうように言い、気絶していた奴と奴の両親を鬼の形相で睨み、奴を運ぶように言った。
数日後
「すぅちゃん!学園中で噂になってるよ!大丈夫だった……?」
久しぶりに学園に登校すると、すぐにルリちゃんに声をかけられた。
ここ最近はあの事件の後始末で大変で学園に来れてなかった。
まず卒業まで残り1カ月ほどだった奴は学園を退学になった。あんなことを無理やりしようとしたのだから当たり前よね~
次に私に土下座+多額の賠償金の支払い。
そしてそして、あのことをそそのかしたとして奴の父と実行犯の奴を庶民におとしてもらった。
奴の母と奴の兄は無関係だったため、庶民におとすことはなかった。
奴の母――ローナ様と奴の兄――アラン様はこちらに謝罪し感謝した。
特にローナ様はあの手口で無理やり結婚させられたとのことで、ものすごく謝り、別れられたと感謝された。
ところで、あのときどうして彼が来てくれたのかというと、用事が気になり見に来たら、部屋に私がいなく、耳の力で私の居場所を突き止め、襲われそうになっていることに気づき、急いで助けに向かったのだとか。
あれから彼のガチオタになっちゃったよね。うん。
彼が助けたことも学園中に広まり、ファンが増えたとか……
そして彼からあれからしばらくたったころ、2人で出かけてくれと頼まれた。
そのとき、彼女のことは全く忘れていた。
そのため私は2つ返事でOKし、当日は彼のエスコートで王都ではなく私たちが小さい頃によく来ていた花畑に連れてこられた。
「ふふっ。久しぶりに来たな~ここ」
私は小さいころここが好きだと話したのを覚えてくれていたのかと暖かい気持ちになりそう呟く。
そして花を見ていると、
「ねえ、スミレ」
と声を掛けられ「なーにー?」と彼の方を向くと、ケモ耳状態となっていた彼は私にひざまずき花を差し出していた。
「俺と…俺と付き合ってください」
「!?」
私は突然のことに驚き、固まる。
「本当は君の誕生日の前日……あの土曜日に言おうとしたんだけど……ずっと好きでした」
!?――追い打ちの告白で私はさらに固くなる。
あの日はそう私の誕生日前日だった。あの次の日、私は家族に盛大に祝われ、山ほどの本をプレゼントされた。
そんなことを思い出している私からの返答を待つ彼に私は言う。
「アイビー……ごめんなさいっ!」
彼は私の方を向くと悲しそうな顔を見せる。
そんな彼に私は断った理由を言う。
「アイビーは私の〝推し〟だから、恋愛とは違う……かな」
アイビーはその理由に目を大きく見開くと、
「じゃあ、スミレを俺のガチ恋にする。絶対に」
花束に入っていたポピーの花を私の髪につけた彼からそう決意表明をされ、
「は……はい?」
と言い帰ってから彼女は!?と思い出した私に次の日から彼のもうアピールが始まったのはまた別のお話。
最後までよんで下さってありがとうございます!
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