第2部 27話 ルルティーナの嫌悪と断罪
鉄扇で令息の手を打つ。そう私が覚悟した瞬間。
「ぎゃっ!?」
第三者の手が、令息の手首を掴む。汚い悲鳴が上がった。
「汚い手でルティに触るな!外道!」
手首を掴み、捻り上げながら怒鳴ったのは……。
「ドリィ!来てくれたのね!」
私の婚約者!アドリアン・ベルダール!
ドリィが来てくれた!私を助けに来てくれた!
安心してふらつく身体を、誰かが支えてくれました。
「ルルティーナ様、遅くなって申し訳ございません」
「シアン、ありがとう。貴女が来てくれるとわかっていたけど、怖かったわ……」
「ルルティーナ様。もう大丈夫です」
シアンに寄りそわれ、今さら震えてきました。覚悟していたのに情け無い。
これは自分で考えて、シアンやお義母様を説得して決めた計画でした。
王都に来る前に、シアンから『実は、私はただの侍女ではありません。間諜や護衛の訓練を積んでいます。ルルティーナ様のいいようにお使い下さい』と打ち明けられたからこそ決意したのです。
まあ、シアンが普通の侍女でないことは知っていましたが……。
ともかく【マリーアンヌ・イオリリス侯爵令嬢のお茶会が罠ならば、罠にかかったふりをして令息や実行犯を捕らえる】作戦は上手くいきました。
やっぱり怖かったですが。
「ルルティーナ様、もうこんな無茶はしてはいけませんよ」
「うん。……でも、今回は必要なことだったと思うわ。とても怖かったし気持ち悪かったけど。
それに、今日で全てが終わったのよね?」
「ええ。もちろんです」
「痛い痛い!やだよう!助けて!デルフィー!父上!」
私は泣き叫ぶ令息を見下ろしました。後ろ手に両手を縛られ、床に膝をついています。ドリィがやったのでしょう。
令息は私の視線に気づき、パッと笑顔を浮かべました。涙に濡れたエメラルドの瞳と大理石の肌がキラキラ輝きます。
は?何で笑顔?
「ルルティーナ助けて!僕を愛してい……」
「貴方なんて愛してません。嫌いですし気持ち悪いです」
「は?な、何を言ってるんだ?」
私の言葉にエメラルドの瞳はくすみ、大理石の肌はひび割れたように歪みます。
「パーレス・グルナローズ辺境伯令息。私は人の話を聞かず、私の愛しいドリィを侮辱し、周囲に迷惑をばらまく貴方が嫌いです。
こちらの気持ちや意思を考えず、妄想を押し付けるその精神性に至っては虫唾が走ります。気持ち悪い。
ここまで人を嫌いになったのは生まれて初めてです」
「き、嫌い?気持ち悪い?む、虫唾が走る……」
呆然と呟く令息。ぷっとシアンとドリィが吹き出しました。二人ともとても良い笑顔で頷きます。
「流石はルルティーナ様。的確な表現ですわ」
「ああ。これ以上ないほどこの男の醜悪さを表している」
「何だと!ぼ、僕を誰だと思ってる!王家の血を引く準王族で!グルナローズ辺境伯令息だぞ!」
「ああ、『元』がつくがな」
「へっ?うあっ!」
ドリィは令息の首元を掴み、無理矢理立たせました。
「貴様はルティに手紙を送った。封蝋に使った印章を覚えているか?グルナローズ辺境伯の紋章が刻まれた印章だ。
あれは、グルナローズ辺境伯だけが使えるものだ」
「え?でも、父上が邸に置いてたんだ。僕の邸にあるんだから、僕が使ってもいいだろう?」
ほ、本気で言ってる。
きょとんとした顔に恐怖が湧きます。
「貴様の父親が杜撰なのが一番の問題だが、辺境伯ではない貴様があの印章を使う事は犯罪だ。しかも、貴様の父親が使用を許可していないこともわかっている。
辺境伯の身分と権限の象徴である印章を勝手に使った。立派な盗用であり印章偽造だ」
「そっ!そんな事知らないよ!僕はそんなつもりじゃ……!」
「黙れ!貴様に自覚があるかどうかはどうでもいい!行いそのものが罪だと言っているのだ!」
ドリィの通りです。知らなかった、わからなかったでは済まされません。
「貴様の罪はそれだけではない。
王家も祝福している俺とルティ婚約にケチをつけ、事実無根の噂を流し俺たちとアメティスト子爵家を貶め、近衛騎士隊と騎士を侮辱し、何人もの女性をもてあそんでは金銭を貢がせた。
他にも数々の悪行を重ね、グルナローズ辺境伯と王家の威信に傷をつけた」
「ぼ、僕は……」
ようやく己の所業を理解したのか、顔色が悪くなっていきます。
「新しい辺境伯はもとより、両陛下と王太子殿下もお怒りだ。
貴様の血を重んじていた者たちも、流石にここまで罪を重ねた貴様を見捨てた。
『自分の息子という理由で、決して許されない罪を幾つも犯した』と知った前辺境伯夫人もな」
「は、母上も?」
「ああ。結果、本日をもってお前はグルナローズ辺境伯家から存在を抹消された。産まれたことすら無かったことになったんだ。
これからは平民として、己の罪を償うんだな」
「そ、そんな。この僕が平民……う、嘘だ!魔王め!僕は騙されな……ぐえっ!?」
「やかましい。寝てろ」
ドリィは令息……いえ、ただの男の腹を殴り、肩に担ぎました。
「俺はコレを片付けてくる。シアン、後は任せた」
「かしこまりました。団長閣下、ソレはまだ殺さないで下さいね。相応の目に合わせますので」
「わかっている。お前も殺すなよ。
……ルティ、側にいたいけど俺はコレを片付けて狩猟に戻らないといけない。また後で会おう」
私にだけ甘い笑顔を向けるドリィに、私も微笑みかけます。
「はい。ドリィ、お気をつけて。……えっ?」
ドリィは扉が開いた棚の中にむかいます。
あら?棚の中、底が抜けています。ドリィは男を担いだまま入って行きます。
ま、まさかその下に通路があるんです?そこから出入りしたから私を助けられたのね。
というか秘密の通路ですよね?!離宮にこんなものがあるなんて!
はっ!御一行お出迎えの時、ドリィが言っていた『私を助けるための情報』ってこれのこと!?王家の秘匿情報では!?
混乱しているうちにドリィの姿が完全に見えなくなりました。すぐに底板が戻り、棚の扉が閉じます。
「ど、どうなっているのかしら?魔道具?それとも別の技術?というか隠し通路の存在を知ってしまったわ。血の契約を交わすべき?」
「ルルティーナ様、お気持ちはわかりますが後にして下さい。そろそろお出ましです。急ぎますよ!」
「え?えええ?!」
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