第2部 11話 反省会と不快な手紙
お茶会後。アメティスト子爵邸の居間にて。
私はソファにぐったりと座っています。
お、落ち込みがひどい……。きっと今の私の顔はしわくちゃね……。
「ルルちゃんったら。萎れた花みたいな顔しないで。作戦は成功したんだからいいじゃない」
「お義姉様……ですが……」
「うふふふ。早速ご注文頂いちゃったわ。売るわよー。売れるわよー。うふふふ」
ああ、駄目ですね。商人の顔をしているお義姉様には私の声は聞こえません。
落ち込む私に、シアンが優しい眼差しで語りかけてくれます。
「ルルティーナ様、シトリン子爵夫人の仰る通りですよ。
ラピスラズリ侯爵をはじめ、社交界で影響力を持つ方々相手にご立派でした。
翡翠蘭ハーブティーは流行し、不快な噂は収まるでしょう。当初の作戦以上の成果です」
そうです。今回、翡翠蘭ハーブティーを『私とドリィの仲が良好で、すでに共同事業も行っている』ことを強調するため使いました。同時に翡翠蘭ハーブティーのお披露目でもあります。
翡翠蘭ハーブティーは、もともとお義姉様たちに販売して頂く予定でした。しかし、元魔境産ということで忌避感を抱かれる恐れがあります。
私たちドリィは、少量生産で限定したお客様にだけ販売するつもりでした。
しかし、お義姉様は『このハーブティーは絶対に売れる。大々的に売り出すべき。増産しておきなさい』と譲りませんでした。
「半信半疑で増産したのですが、お義姉様の言う通りになりましたね」
「うふふ。当然よ。うふふ」
予定よりも早く効果的なお披露目になったので、お義姉様は笑いが止まらないご様子。慧眼が証明されました。
流石は、お義兄様と共に商人として辣腕を奮っているだけはあります。
確かに効果的でした。私も嬉しいです。ですが。
「そういう作戦だったとはいえ惚気すぎだわー!
あんな大勢の方の前で!ドリィのことをあんなに好きだと言ってしまったわ!恥ずかしい!お義母様からも厳しいお言葉を頂いてしまったし!淑女失格よ!」
惚気すぎで浮かれすぎ。淑女にあるまじき感情の制御の無さ。
お義母様からのご指摘はごもっともです。私はお淑やかに、ドリィとの円満な関係をお伝えするはずが……。
「いいじゃない。今回はあくまで私的なお茶会だもの。それにラピスラズリ侯爵も仰ってたでしょう?惚気るルルちゃんは可愛くて素敵よ」
「ううう……浮かれてて恥ずかしいばかりですよう」
「まあまあ。ルルちゃんも、翡翠蘭ハーブティー飲んでまったりしましょ。お菓子もまだまだあるわよ」
お義姉様が私の隣に座り、私の肩を抱いて頭を撫でてくれます。
「お義姉様ぁ!」
思わず抱きついてしまう私。お義姉様いい匂い。温かくてホッとします。
「うふふ。ルルちゃん可愛い。好きよ」
「ルルティーナもイリスお義姉様大好きです」
ふわふわと幸せな気分になりましたが……。
「イリス!ルルティーナ!しゃんとしなさい!だらしのない!」
「はい!ごめんなさい!」
バン!と扉が開き、お義母様が居間に入ってきました。背筋を伸ばします。
お義姉様は平然としています。流石です。私は真似できそうもありません……。
「まったく!ルルティーナ、いくら社交に不慣れとはいえ浮かれすぎですよ」
「はい……仰る通りです……」
「まあまあ、お義母様。あの気難しいラピスラズリ侯爵に気に入られたんですよ。ルルティーナの社交界での地位は安泰です。ナルシス伯爵夫人にご協力頂く必要はありませんでしたね」
そうです。翡翠蘭ハーブティーと私とドリィの良好さを喧伝するため、あらかじめナルシス伯爵夫人にご協力頂いたのです。
ナルシス伯爵夫人は社交界に影響力を持つ淑女です。
また、辺境騎士団員ジュリアーノ・ナルシス様のお母様でもあります。
醜聞を起こしたナルシス様に対し、ご夫君であるナルシス伯爵様と共に厳しく接すると共に強い責任感を抱いていらっしゃいます。
ご夫妻からは、【夏星の大宴】の際に謝罪を受けました。
ナルシス様が辺境騎士団で起こした事件を、ご本人からの手紙で知ったそうです。謝罪だけでなく、賠償金まで払うと言われて驚きました。
謝罪はお受けしましたが、賠償金はことわりました。ナルシス様の罪はナルシス様自身が償い、辺境騎士団団員として務めているのですから。
『では、私たちでお力になれることがございましたら、遠慮なく仰って下さい』
『ええ、派閥の違う者こそが出来ることもございます』
ありがたいお言葉を頂戴いたしましたので、ご協力頂いたのです。
「お黙りイリス。あの方が場の雰囲気を和らげ、お客様方の意見を誘導して下さったのよ。本気で気づいていないなら、淑女教育と商売を学び直すべきではないかしら?」
「手厳しいわね。……ごめんなさい。ふざけ過ぎました」
あ、お義姉様が謝罪しました。流石はお義母様の眼光と圧です。憧れます。
いずれ私もお義母様のような淑女になれるでしょうか?まずはあの眼光を真似して……。
「ルルティーナ、何か妙なことを考えているわね?やめなさい。それよりも、貴女宛に手紙が届きましたよ」
「手紙……ですか?」
お義母様が不快そうに眉根を寄せます。その手には手紙らしきものがあります。
私宛の手紙は少なくありません。執事やシアンからではなく、わざわざお義母様が持ってくるなんて……。
「ああ、例の不快な方からですね」
ドリィの放つ氷のように冷たい声が出ました。私、こんな声が出せたのね。
「ええ。例の不快で無礼な令息からです。
取り決め通り貴女より先に内容を確認したけど、下らない戯言しか書いていないわ。読むかどうかは貴女の判断に任せます」
下らない戯言。そうでしょう。
ブランカ夫人から聞いた新たな噂。
【か弱く哀れなプランティエ伯爵は、幼い頃からの恋人がいる。その恋人に密かに支えられていたから、虐げられても殺されずに済んだ。あと少しで恋人と結ばれるはずだったのに、ベルダール辺境伯が強引に攫った。
恋人は、さる高貴な生まれの方である】
これを流したのは、恐らく令息かその周囲です。手紙の内容も似たようなものでしょう。
また、令息の為人や噂については調べ済みです。
読みたいか読みたくないかで言えば、読みたくありません。ですが。
「読みます」
ドリィも言っていました。
『敵を効率よく屠るためには、敵を良く知らなければならない』
私は実に不快な相手……パーレス・グルナローズ辺境伯令息を屠るために、令息の手紙を受け取りました。
上質な紙が使われています。割れた封蝋は暗い真紅。
封蝋の模様に目が留まりました。
「柘榴、薔薇の蔓、ガーネットが組み合わされた模様。グルナローズ辺境伯の紋章ですよね?」
「そうよ。恐ろしいことにね」
ある理由からゾッとしました。
やはり、相当おかしい方なのね。恐らく周りを固めている方々も……。
読みたく無いですが、読まなければなりません。意を決して手紙を広げて読みました。
そこに書かれていたのは……。
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