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44話 王家のお茶会 2

「うむ。全ての原因は、元司法局局長アンビシアン・ルビィローズ公爵の野心だ」


 ルビィローズ公爵は元王族。しかも先代の王弟殿下であらせられました。


「アンビシアンと先王は、同腹で歳も近い。その為、どちらが王太子になるかはアンビシアンが成人するまで保留にされた。

 アンビシアンは文武ともに優秀で、魔力量が豊かだった。おまけに、成人する前から数々の武功をあげた。当時は戦の多い時代だったため、英雄としてあつかわれ支持が集まった。

 先王もまた優秀だったが、当時はあまり功績を上げていない。少ない功績も、華やかさに欠けた」


 先王陛下の功績を思い出します。麦の品種改良、治水、医療体制の改善などです。

 確かに、戦乱の世では目立ちにくい功績でしょう。おまけに、どれも時間がかかります。

 先王陛下の政策は、王位に就いてから実ったものが多かった。そう、歴史の勉強で学びました。


「諸侯からの忠義もアンビシアンに傾いていた。先王もアンビシアンが王になり、自分が内政に力を入れれば良いと考えていた。本人もそのつもりだった。

 しかし、最終的に先々王が選んだのは先王だった。プランティエ伯爵、何故かわかるか?」


 ルビィローズ公爵は確か八十歳、成人は十六歳なので六十四年前ごろのことでしょう。

 私は頭の中で、我が国の歴史を紐解きます。


「最大の脅威であった【帝国】と、正式に和平が結ばれたからでしょうか?内政に力を入れるため、能力的に相応しい先王陛下が選ばれたのではないでしょうか?」


「いいや。アンビシアンは内政にも才覚を発揮していた。また、外交手腕もあった。平和な時代の王になり得た人材だったのだよ」


 ならば何故。

 国王陛下の緑の瞳が暗く翳ります。


「そもそも初めから、先々王は先王に王位を継がせるつもりだった。成人まで待っていたのは、議会の反対を受けたからだ。最終的には押し切ったがな。

先王に王位を継がせた理由はただ一つ。先王の瞳の色が緑で、アンビシアンが赤だったからだ」


 ハッと気づきます。それは……。


「先々王は暗君ではないが迷信深かった。しかも王妃もだ。

 特に、【緑目の王は飢え知らず】【赤目の王は負け知らず】この下らない迷信を強烈に信じていた。まあ、色々と理由があるのだが」


 言い淀む国王陛下に代わり、王妃陛下が述べます。


「先々王が生まれた時代は、飢饉と戦争に苦しめられた時代でした。特に大飢饉では、王都でも大量の餓死者が出ました。

『戦で勝っても飢えで死ねば意味がない』

 先々王はそう考えたため、緑の瞳を持つ先王を王位に継がせたのです。

 先王が王太子に指名された後、アンビシアンは当時のルビィローズ公爵令嬢と結婚して公爵家を継ぎました」


 ルビィローズ公爵は軍部から引き離され、司法局に入局したそうです。

 国王陛下は苦悩を浮かべました。


「アンビシアンは忸怩たる思いを抱いたであろう。だがしかし、結婚してからは司法局の改革と領地経営に邁進し、翻意を一切見せなかった。差別に対する刑罰を厳格化し、ルビィローズ公爵領を富ませ、議会で頭角を表していった。

 アンビシアン、いや、叔父上は先王である父と余を支えてくれていたのだ。だからこそ、司法局に関しては完全に一任していた。だが……老境に至り変貌したらしい」


 三十年ほど前から、ルビィローズ公爵はじわじわと変化していったそうです。

 あらゆる迷信を憎んでいたはずなのに、あらゆる迷信を受け入れて差別する方に。

 臣下として支えていたはずなのに、王位を簒奪せんとする反逆者に。


「さらには【帝国】と通じた。ルビィローズ公爵領は、【帝国】と近い。アンブローズ侯爵家のポーションなど、我が国の特産品を【帝国】に密輸して軍資金を貯めていたのだ。……最も、アンビシアンが変貌した原因は【帝国】にあるのかもしれないが」


 確かに疑わしいです。【帝国】とヴェールラント王国は和平を結んではいますが、お世辞にも良好な関係ではありません。

 とはいえ、ルビィローズ公爵の過去はまだわからないことが多いので調査中だそうです。


「これだけのことをしていたが、気づけたのは一部の者だけだった。反対し、止めようとした者もいたようだが、アンビシアンはその者たちを容赦なく殺した。己の息子ですらだ。

 同時に、迷信の信奉者たちを強烈に支援した。

 元アンブローズ侯爵に家督を継がせるため、アンブローズ侯爵家の先代と嫡男を殺害したのも、その一環だ」


 やはりそうでしたか。国王陛下は私の目を見つめながら続けます。


「そして、卿が犠牲になってしまった。しかも調査の為に救出を遅らせるしかなかった。

 全ては、ベルダール辺境伯の報告を受けるまで気づけなかったヴェールラント王家と、腐敗した司法局の責任だ」


「そういう事でしたか……」


 色々なことが腑に落ちました。あの断罪の場で、ルビィローズ公爵について触れなかったことも。

 ルビィローズ公爵家とその家門は一大勢力です。もし全てを公表すれば、粛清の嵐が吹きます。司法局も総入れ替えか、下手すれば潰すしかなくなるでしょう。


「アンビシアンは、『元アンブローズ侯爵夫妻の不正を幇助したことを恥じて自決した』ことになっている。ルビィローズ公爵家自体には咎めはない。加担した者も同じ処罰か、あるいは生涯幽閉だ。

全容は闇に葬られる。卿にとっては不服だろう」


「いいえ。ご英断でございます。中には従うしか無かった方もいたでしょうから」


 これに答えたのは王太子殿下でした。


「その通りだ。ルビィローズ公爵家内でも、嫡孫のガスパルをはじめ大半の者が謀叛に反対していた。彼らは機をうかがい、私たちに恭順し協力してくれた。それもあって、ルビィローズ公爵家は存続させたのだ」


 ルビィローズ公爵が、実際にどう処されたのかは聞かないことにしました。ただもう一つは、流石に確かめておく必要があります。

 縁は切っても、肉親ではあるので。


「元アンブローズ侯爵家の方々はどうされたのでしょうか?すでに取り潰されたとは聞いていますが……」


「うむ。あの三名は……」


「国王陛下。あの三名の処罰については、私から説明します」


 お言葉を遮ったのは、アドリアン様でした。淡々と説明して下さります。


「元アンブローズ侯爵家の三名は、平民の重罪犯と同じ待遇で生涯幽閉された。さらに、苦役が課せられている」


 驚きました。大罪を犯した高位貴族は、毒杯を賜るか生涯幽閉されるのが通例です。

 平民の重罪犯と同じ待遇。つまり、髪を切り落とすか剃り上げ喉を潰した上で、平民用の独房に入れているのでしょう。さらに苦役まで課せられるとは。


「ルビィローズ公爵は、晩年はともかく功績の多いお方だ。『一連の謀叛と不正の主犯ではあるが、表向きは名誉の死を賜るべきだ』議会でそう結論された。

 しかし、元アンブローズ侯爵家の三名は功績もなく罪を重ねた。今後、君を傷つけるような愚か者を出さないためにも、奴らには生きて苦しんでもらうことになった」


「生きて苦しむ……どのような内容なのでしょうか?」


 鉱山での重労働か過酷な開墾作業かと予想しましたが、どちらも違いました。


「旧型の【魔力変換装置】に身体を繋ぎ、魔力を吸い上げる苦役だ」


 元アンブローズ侯爵家の三名は、非常に魔力量が豊富でした。

 その魔力を活かすためにもと、コルナリン侯爵夫君から提案されたそうです。


「コルナリン侯爵夫妻が開発した【人間の魔力を水晶に適した状態にする】魔道具【魔力変換装置】は素晴らしい魔道具だ。

 しかし旧型は、魔力を吸われる度に全身に激痛が走る。身体の内側から削られるような痛みだそうだ。毎日これに繋げて魔石の生産に使い、寝る時だけ独房に戻す。

君に相談せずに決めてしまったが……奴らの罪を思えば、この程度は軽いものだ」


 アドリアン様は目をそらします。


「優しい君には残酷に思えるだろう。減刑を希望したいかもしれないが……」


 確かに残酷です。しかし。


「いいえ。私からは減刑を望みません。【夏星の大宴】でも宣言しましたが、あの方々を許すことはありません。


 素直な気持ちを言葉にしました。いつか許せる日が来るかもしれませんが、今は無理です。

 それに、元アンブローズ侯爵家三名の被害者は私だけではありません。さらに元アンブローズ侯爵は、最近まで知らなかったそうですが、謀叛の軍資金集めに加担していたのです。

 それらを踏まえた上で、議会で承認された刑罰に否やはありません。


「……そうか」


 アドリアン様は、どこか安心したような顔になりました。

 私は王族のお三方に頭を下げました。恐らく全てではないでしょうが、闇に葬られる真実を教えて頂けたことに感謝しました。


「私のような一臣下に、お伝え頂きありがとうございます。改めて、ヴェールラント王国と王家に忠誠を誓います」


「プランティエ伯爵……。卿の忠誠に感謝する。我らもまた、その忠誠に値できるよう勤めると誓おう」


 お三方は真摯な眼差しで私を見つめて下さりました。


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