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33話 夏星の大宴 祝辞と断罪 前編

 国王陛下が朗々とした声でご挨拶なさいます。


「今年も無事に【夏星の大宴】を開催できたことを嬉しく思う」


 開催にあたっての祝辞、諸侯の忠誠への感謝を述べ、次に特に功績のあった貴族への祝辞に移ります。


「ペリディア辺境伯マティアス・ペリディア、スピネル辺境伯モーリス・スピネル。前へ」


 まず、協力して南の国境を守る辺境伯家二家が壇上に招かれます。

 お二人とそれぞれが所有する騎士団が、長年の国境防御を果たしたことを讃えられます。そして、国王陛下自らが勲章を授与されました。

 また、莫大な褒賞が与えられることも明言されました。


「アガット辺境伯テオドール・アガット。前へ」


 次に東の辺境伯家、アガット辺境伯が壇上に招かれます。

 黄色に近いオレンジ色の髪、赤茶色の瞳の偉丈夫。緋獅子とも称されるお方です。

 シャンティリアン王太子殿下が、アガット辺境伯とアガット領辺境騎士団の功績を讃えられます。魔獣の大規模討伐で功績を上げられたのです。

 非常に稀なことですが、魔獣は魔境以外でも産まれ、繁殖することがあります。

 繁殖が止まらないと魔境化することもあるそうです。

 初期のうちに気づき、完全に討伐できていなければ、東部は大損害を受けていたでしょう。


「アガット辺境伯。見事な働きであった。これからも我が国を頼む」


 シャンティリアン王太子殿下自らが勲章を授与されます。

 殿下と共に魔獣討伐にあたったからでしょう。

 勲章を授与されたアガット辺境伯は、感極まったご様子です。


「コルナリン伯爵改め、コルナリン侯爵カトリーヌ・コルナリン、コルナリン侯爵夫君オリバー・コルナリン。前へ」


 王妃陛下に呼ばれ、コルナリン侯爵様とご夫君が壇上に上がります。

 コルナリン侯爵様の深みのある赤髪が、照明を受けて金茶に輝きます。

 優美なドレープを描く灰色のドレス、ご夫君の瞳の色である暗いオリーブ色の装飾品、これまでの功績を讃える勲章。

 灰色と赤茶色の夜会用衣装に勲章が輝くご夫君と共に、とても気品と威厳に満ちたお姿です。


「コルナリン侯爵とコルナリン侯爵夫君は、魔石の安価生産を実現しました。

 侯爵と夫君が開発した技術により、純度の低い水晶でも原料とすることが可能となります。

 また、魔力の注入が飛躍的に簡易となりました。詳細は後日、魔法局が発表します。

 我が国の魔石と魔道具技術は、さらなる発展をとげるでしょう。

 よって先日、コルナリン伯爵を侯爵に陞爵しました」


 王妃陛下のお言葉に、大広間がどよめきと歓声に包まれます。


 ーーー素晴らしい!他国に一歩抜きん出たぞ!ーーー


 ーーー誰もが魔道具を使える時代が来るわ!ーーー


 ーーーヴェールラント王国万歳!ーーー


 概ね、好意的な反応でしたが……忌々しげな声が響きます。


 ーーー赤錆のカトリーヌごときが侯爵ですって?!こんなのおかしいわ!ーーー


 奥様、アンブローズ侯爵夫人の声です。

 王妃陛下が身に纏う雰囲気が一変します。


「異議ある者は名乗り出よ!」


 シン……。と、大広間が静まり返ります。

 王妃様が、冷ややかな眼差しで奥様がいる辺りを見下ろします。


「どうしました?異議があるなら発言を許します。名乗り出なさい」


 銀髪と鮮やかな青い瞳のせいか、まるで冬の女神様か氷の剣のように、冴え冴えと恐ろしいお顔です。

 ああ、やはり誰かに似ています。

 いえ、無意識に気づかないふりをしていましたが、怒った時の……。


「名乗り出ないということは、異議なしととらえて構いませんね。どういった意図があったが、あるいは何も考えていなかったかは知りませんが、王家の寿ぎに水を差すとは無礼ですよ」


 威圧感と迫力は、似ている方以上です。

 怒りで魔力が出ているのか、冷気が大広間を包みます。

 私が叱責された訳でもないのに、血の気が引いていきます。きゅっと、隣に立つアドリアン様が手を握って下さります。


「当然のお言葉だが……恐ろしいな」


 顔には出ていませんが、アドリアン様も血の気が引いていらっしゃるご様子です。


「……ですね」


 ちょっとお可愛らしいわ。などと思ってしまいました。


 私たちが怯えて寄り添っている間に、コルナリン侯爵と夫君に対する祝辞は終わりました。

 王妃陛下が、コルナリン侯爵のこれまでの実績と、魔石の安価生産による今後の展望を述べる事で、再び明るいお祝いの空気を取り戻した形です。

 それにしても、コルナリン侯爵は奥様の妹にあたるお方ですが、仲がよろしくないご様子ですね。

 私とララベーラ様の関係と似ている。そう感じました。


 国王陛下が口を開きます。


「ベルダール伯爵あらため、ベルダール辺境伯アドリアン・ベルダール、アメティスト子爵令嬢あらため、プランティエ伯爵ルルティーナ・プランティエ。前へ」


 静かですが、ほんの少しだけ噂話が聞こえます。


 ーーー辺境伯に陞爵されたということは魔境は……ーーー


 ーーー通りで社交嫌いのベルダール卿がいるとーーー


 ーーールルティーナ?確かその名は……ーーーー


 ーーーアメティスト家に養女が入ったとは聞いていたがーーー


 ーーープランティエ家とは?まさか家名まで下賜されたのか?ーーー


 私どもは、大広間中の注目を受けながら壇上に上がりました。


 国王陛下が朗々と祝辞を述べます。


 まず、魔境の完全浄化が残り三年であること、アドリアン様主導の開墾が成果を結んでいることを告げました。

 大広間が大きくどよめきます。特に、南と東の辺境伯家の皆様が色めきだっています。


「二百五十年にわたるミゼール領辺境騎士団の魔境討伐と浄化の功績を讃え、全団員と遺族に褒賞を与える。また、特に功績がある団員は勲章や陞爵で報いる。

 よって、特に功績のあるミゼール領辺境騎士団団長ベルダール伯爵を、ベルダール辺境伯に陞爵した。

 また、魔境の完全浄化後は彼の地、ミゼール領を下賜する。

 ……この決定は議会でも承認された正当なものであるが、先程のこともある。皆の者にいま一度たずねよう。

 ベルダール辺境伯の陞爵とミゼール領の下賜に異議ある者は名乗り出でよ!」


 大広間は一瞬静まり返りましたが、すぐに大きな声が響き渡ります。


「アガット辺境伯テオドール・アガット!国王陛下の御意に異議なし!新たな辺境伯の誕生を歓迎いたします!」


 アガット辺境伯様のお声を皮切りに、他の辺境伯家の皆様も異議なしと叫ばれます。


 ーーー北の辺境伯万歳!ミゼール領辺境騎士団万歳!ヴェールラント王国万歳!ーーー


 歓喜の声があちこちから上がり、大きな喜びのうねりとなります。


 アドリアン様は歓喜に満ちた表情でそれを受けました。

 国王陛下が片手を上げ、場を鎮めます。


「魔境の浄化と討伐においては、ここにいるプランティエ伯爵ルルティーナ・プランティエにも多大な功績がある」


 そして、国王陛下が私の功績を説明して下さりました。


 六年前に登場した【旧特級ポーション】を開発し、作り続けたのが私であること。


 その【旧特級ポーション】を、国王陛下が辺境騎士団に下賜してから死傷者が大幅に減ったこと。


 死傷者が減り、人員、物資、予算に余裕が出来たため開墾に踏み切れたこと。


 辺境騎士団に入団し、ポーション職人長となった。そして、【旧特級ポーション】のレシピを、辺境騎士団のポーション職人たちに提供したことで【準特級ポーション】が生まれたこと。


 また、私だけが作れる【新特級ポーション】が、瘴気を浄化したこと。


「【新特級ポーション】によって、魔境の瘴気の浄化と魔獣討伐は加速する。

 来る春。余と王太子シャンティリアンは、ミゼール領にてこれを祝し、英雄たちに栄誉を与えるだろう」


 一つ一つ説明される度に、歓声と感嘆の声が上がります。


「これら数々の功績をもって、余はアメティスト子爵令嬢ルルティーナ・アメティストに、プランティエの家名と伯爵位を授与した。

 無論、功績に相応の勲章と褒賞の授与も予定している。

 この決定は議会でも承認された正当なものであるが、皆の者にいま一度たずねよう。

 プランティエ伯爵の家名の下賜と陞爵に異議ある者は名乗り出でよ!」


 ーーー意義なし!ーーー


 ーーー新たな伯爵家の誕生を祝します!ーーー


 大広間中から賛同の声が上がり、万雷の拍手が響き渡りました。

 しかし。


「異議あり!認められません!【旧特級ポーション】も【新特級ポーション】も我がアンブローズ侯爵家の功績だ!」


 アンブローズ侯爵の叫び声が響いたのです。


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