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湯屋「あいあい」  作者: 黒辺あゆみ
一話 湯屋の釜焚き
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5 浜の家族

「枝(手や足)が触ったらごめんなさいよ」


加代は洗い場にある明りとりからの日が届かず真っ暗な湯槽に向かって、先客にぶつからないようにと一応そう断る。

 すると湯槽の隅に誰か先客がいるのが、暗がりの中ぼんやりとだが見てとれた。


「湯加減はどうです?」


加代が話しかけるが、相手はこうしたおしゃべりが苦手なのか、なにも声は返ってこない。

 別段、湯槽に入っている者同士が会話しなければならない、なんていう決まりがあるわけでもないので、相手にされずとも加代は気にしない。

 ただ、「無口なお人だなぁ」と感じただけだ。

 加代は湯槽に入ると、その先客と離れたあたりにしゃがむ。


「はぁ~、気持ちいい」


ちょっと熱めの湯が、秋の風で冷えた身体になんとも心地よい。

 その上、この「あいあい」の湯槽はどの時間に入っても湯が清い気がすると、実は最近密かに評判になっていたりする。

 主がなにか工夫をしているのだろうが、客としてはありがたいことだ。

 しかし加代にとっては熱めの湯なので長湯はできず、上がろうと立ち上がる。

 先客はまだ湯に浸かっているようで、加代は軽く頭を下げてから先に出る。


 ――おとっつぁん、今日はなんの魚が獲れたかしらね?


 加代がそんなことを考えながら脱衣場に戻ると、加代と入れ替わりで湯槽にやってきた客がいた。


「おや、誰もいないで一人湯だ、運がいいねぇ」


その人がそんなことを言っていたなんて、加代は当然知ることもない。



こざっぱりとした加代が湯屋「あいあい」を出たら、暮れの七つの鐘が鳴っていた。

 秋にはこの鐘が鳴ってからの、日の暮れようが早いものだ。

 急いで戻ろうと、加代は漁師連中がいるであろう岸に向かう。

 今はちょうど午後に出た舟が戻ったばかりらしく、岸は魚を並べる漁師と買い物にきた者とで、たいそう混み合っていた。


「おとっつぁん」


その中に見慣れた父親、大造の姿を見つけ、加代は人を避けながらそちらに寄っていく。

 そこには父親と、父親の手伝いをする弟、大介の姿があった。

 弟は姿が父親に似てきていて、もういっぱしの漁師である。


「お加代、今日はいい鯖があるぞ!」


大造がよく日焼けした顔をニカリとさせて、魚を一匹掲げてみせる。

 確かに立派な鯖である。


「まあ、これだけの鯖なら煮付けなんてしないで、塩で焼くのがいいかもね」

「おう、こういう魚は変にいじくらねぇのが一番うめぇのよ!」

「じゃあ、貰おうかな」


加代はそう言って、他の魚も眺める。

 売り物になりそうにない小魚があったので、屋敷の片隅で干物にしようとこちらも貰うことにする。

 干してしまえばしばらく保存が効き、戻して食べるもよし、出汁にするもよしでなかなかに活躍してくれるのだ。

 ちなみに加代が干物作りを屋敷で行うことに対して、遠山様から叱られたりはしない。

 むしろ干物を天日干ししていると、ひっくり返す作業をしたがるのだ。

 なんなら屋敷の敷地に小さいながらも自分専用の畑を作っている遠山様なので、下屋敷は本当に隠居生活の場所であるらしい。

 もちろん南部様であったり客人が訪れた際には見えないあたりでやっていることである。

 さすがに主の間や客間の目の前に魚を並べたりはしない。

 加代は自分が屋敷の住み込み奉公に選ばれたのは、恐らくは遠山様からのこうした面での期待だったのではないか? と密かに思っていたりする。

 なにはともあれ、選んだ魚の代金を大造に渡す。

 親子であっても、魚は大事な商品であり、タダだったり値切ってもらおうなどと強請ったりはしないのだ。

 むしろ遠山様からたんまりと買い物代を貰っているので、値切るなんて論外だ。

 お金を払い終わると、大介が話しかけてきた。


「なあ姉ちゃん、最近物騒なことはないだろうね?」

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