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湯屋「あいあい」  作者: 黒辺あゆみ
二話 湯屋の清水
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7 助けられて

「ギャギャギャ!」

「ギャアギャア!」


相撲勝負を挑んで人間が勝ってしまったことで、他の河童たちが騒ぎだした。

 人間に負けるはずがないとでも考えていて、この結果に驚きなのと、不満なのだろう。


「これこれ、なにをするか……!?」


囲んでいた河童たちが群がってきたので、福田はたまらず逃げようとするが、逃げる隙が無い。

 そのまま川底の方へと連れていかれるのではないか、と考えたら、急に河童たちのことが怖かったことを思い出し、恐怖でふうっと気が遠のいていく。

 そして意識が途切れる寸前の、その時。


「河童ども、なにをしているか!」


河原を望む土手の上から一喝が飛んできたのが聞こえたのを最後に、福田は意識を失った。


「オニ!」

「オニメ、オニメ!」


一方で、河童たちがいっそう騒ぎだすが、それはこれまで福田を相手にしていた時とは様子が違い、どこか怯えた様である。

 それもそのはずで、土手から駆け下りて来たのは河童たちにとっては恐怖する相手、鬼の千吉であった。


「シシシ!」


その千吉の背には、三太の姿がある。

 ちょうど近くを通っていた千吉を、こっそり三太が呼びに行ったのだ。

 というより、そもそも福田が見かけた河童の喧嘩というか、他の河童連中に絡まれていたのが、三太だったのだが。

 固まってぶるぶると震える河童たちを、千吉はじろりと見据える。


「てめぇらの得意で挑んでおいて、負けをうやむやにしようたぁ、他の河童連中が知ったらなんと思うか?

 河童の長老に言ってやってもいいんだぞ?」


この脅しは、河童たちにはなかなか効いたらしい。


「ゲゲッ!」


身体の大きな河童がひと鳴きすると、河童たちはどぼんどぼんと、大川に飛び込んでは、たちまち姿を消した。

 残されたのは、川の水に半ば身体を浸している福田である。

 見れば半ば白目をむいて、気を失っているではないか。


「これはいかん、引き上げないと風邪をひくぞ」


千吉は福田をひょいと担ぐと、土手に置いている車の方へと戻ると、その上へ乗せた。

 しかし気になるのは、事のいきさつである。


「けれど三太よ、本当にこのお人が河童相撲に勝ったのか?」


千吉は訝しむ顔で尋ねる。

 先程は河童たちにああ言ったものの、本当の勝負の現場を見ておらず、全て三太の話でのことなのだ。

 相撲は河童たちが得意とするもので、それに唯の人間が勝つのは容易ではない。


「シシッ!」


これに、三太が大きく頷くので、どうやら本当らしい。

 千吉は気絶した福田をじいっと見ると、前に見た時より、妙な感じというものが強い。

 やはり人間ではない気配が混じっている気がする。


「妙なお侍だとは思っていたが。

 こりゃあ、狐か?」


千吉が首を捻っていると。

 

 ジャリ、ジャリ


 千吉の耳に、耳障りな音が聞こえて来た。

 音の出どころは、車によじ登った三太が抱えている小石だった。


「三太よ、そりゃあ小石か?

 もしや、ここへはこれを拾いにきたのか?」

「コレ、イイモノ」


言葉があまり上手くない三太は、そう言いながらたくさんの小石をせっせと磨いていた。


「三太、その小石をどうするんだ?」


千吉が問うと、三太は「シシシ」と笑ってから答えたことは。


「ユニ、シズメル」


つまり、奥の湯槽の底に沈めるということだ。

 三太がああやって磨いているくらいだから、きっと小石とはいえ特別な小石なのだろう。

 そう思ってじっと見て見れば、小石から精気が感じられる気がする。


「さては三太、それを拾いにきて、さっきの河童共に絡まれたんだな?」


つまり、自分からわざわざ絡まれに行ったようなものだ。

 福田はどうやってそれに巻き込まれたのかは、さっぱりわからないが。

 その福田だが、青い顔をしていて、目を覚ましそうにない。


「仕方ない、お屋敷まで連れていくか」


というわけで、千吉は車を南部家下屋敷へと向かわせるのだった。

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