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湯屋「あいあい」  作者: 黒辺あゆみ
一話 湯屋の釜焚き
14/63

14 ひどくなる盗人騒動

千吉とこのような会話を交わした後。

 なんだか気が晴れないままなので、湯屋へ行っても浜へ顔を出しても気が乗らず、ろくに誰とも喋らず帰ってしまう。

 そして夜には早々に寝入ると、すぐに夢の中へと旅立つ。

 しかし――


 バサバサッ!


 昨夜と同じように大きな羽ばたきの音が、屋敷のあたりで響いている。

 このあたりを火の用心で見回っている者たちなどは、その大きな羽音を少々不気味に思ったものだが、寝てしまっている加代はその音に気付かない。

 その羽ばたきはしばらくそこいらでウロウロしていたのだが。


「クサイ、オニクサイ!」


そんな甲高い声が響いたかと思うと、突風が吹いて静かになる。

 この声が風に乗って聞こえた者は、このあたりにはそんな変な鳴き声の鳥がいたものか? と首を捻ったことだろう。

 ところで、その大きな羽ばたき音の鳥のことを、遠くから眺めている姿があった。


「あいつめ、全く鬱陶しい」


忌々しくそう零す人影は、手拭いを被ったかなりの大男――そう、千吉である。

 しかしそんな色々なことは、布団の中でぐっすり夢の中である加代の知る由もないことであった。



加代は昨夜、夜中に厠に起きることもなく、ぐっすりと眠った。


 ――やっぱり、その前のアレは寝ぼけただけなのか。


 そう割り切った加代は、あの時感じた胸のざわざわについては、気にしないことにする。

 それにしても、その昨夜にどこぞの大店のお屋敷に盗人が入ったらしく、今朝方やって来た通いの奉公人である登代が、まるで見て来たかのようにしゃべってくれた。

 しかも今回は死人が出たという話で、手口がだんだんと残忍になってきていると、八丁堀の方々がピリピリしているそうだ。


「いやぁね、掏りだって増えているっていうし、そこいらを歩くのも怖くなって来るじゃないのさ。

 お佳代ちゃんも、外歩きには気をつけなよ?

 アンタになにかあったら、大造さんが大泣きしちまうよぉ」

「ありがとうお登代さん、あたしも気を付けるから」


登代の言葉に、加代は苦笑しつつ頷く。

 この登代は大造の昔馴染みで、登代の伝手で加代はこのお屋敷の奉公に入れたというわけだ。

 なので登代に話したことは、もれなく父に筒抜けになってしまう。

 なので既に掏り騒ぎに巻き込まれてしまったことは、父に不要な心配をかけるので、言わない方がいいだろう。

 というよりも、父の口から弟の大介の耳に入ったら面倒そうだ。

 「姉ちゃんが心配だ」とか言って、加代の周囲にべったりと貼り付いてきたら鬱陶しい。

 実は過去に、そのようなことがあったりする。

 そんな登代と賑やかにお喋りして過ごし、そろそろ登代が帰る時間になる頃合いになってから、湯屋に行っていた遠山様が戻ってきた。


「湯屋でも、盗人に入られたって話ばかりだったなぁ」


加代が喉を潤すようにとお茶を出すと、遠山様はそれをグビッと飲んでそう話す。


「まあ、そうなんですねぇ」


加代は登代の様子から薄々そうだろうと思っていたが、やはりそうらしい。


「全く、こうも盗人の話ばかり聞かされては、気が滅入るというものだ」

「本当ですねぇ、そろそろ明るい話題が欲しく思います」


そう言ってお茶を飲み干す遠山様に、加代は同意して頷く。

 さらに遠山様は、別の懸念があるそうで。


「先だっては殿にも心配されて、この盗人騒動が長引けば、ここに警護の侍を入れるそうだってぇんだ。

 そんなのがうろついてもらっては、気楽な隠居暮らしじゃあなくなるってぇものさ」


遠山様がそうぼやく。

 どうやら先だってのあのお殿様御一行の来訪は、終わらない盗人騒動で遠山様の身の安全を心配されてのことだったらしい。

 確かに普段この屋敷にいるのは年寄りの遠山様と加代だけなので、不安に思われるのも無理はない。

 夜にはちゃんと同心の方々に見廻りをしてもらえているとはいえ、自前で盗人をやっつける力を持っていた方がいいのは明らかだ。


 ――お侍様が来るかもしれないのかぁ、厳つい人だったら嫌だなぁ。


 厳つい人相は漁師連中で見慣れているとはいえ、侍の厳つさはやはり少々違う。

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