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教室の隅のヒペリカム  作者: 滋賀ヒロアキ
5/13

罰ゲーム

 中庭での一件から数日後。

 宣告通り、清咲さんはタオルを洗濯して返却しにきた。……それもHRの前に、わざわざ僕のクラスを訪れてという形で。


「これ、ありがとうございました」


 澄んだ声と共にタオルを差し出す。

 ブックカバー付きの本を読んでいた僕は、そのあまりにも堂々とした渡し方に面食らってしまった。いや、それ自体は立派なことだし、中学生じゃあるまいし今さら異性と話した程度でどうこう言われはしないのだが……。

 チラリと回りの生徒を尻目に見る。

 ……思った通りだった。各々の時間を過ごしていた生徒たちは、信じられないものを見た───とまではいかないが、皆珍しそうに視線を送ってきていた。

 当たり前である。

 そもそも清咲さん単独だって、場所によっては目立つだろう。なにせこの美貌である。

 そしてそんな美人が、自他共に認める2-1カースト最下位に位置する僕に話しかけていたとなれば、尚更だ。クラスにおいて『コイツよりは上だな』と思っていたブサイクが美人と話していたら皆ガン見するだろう。それと同じことだ。

 ほら、教室の隅で駄弁ってた都宮さんもすごく微妙そうな顔してるし。これ一応元は彼女のタオルだしね。


「……落城さん?」


 無言で実況ばかりしていたせいか、清咲さんは不思議そうに小首をかしげていた。……むしろ何故彼女はこのような態度でいられるのだろう。いや、彼女は教室での僕の立ち位置を知らないのだから当然か……。

 とりあえず早急に場を納めたかった僕は「ありがとうございます」とタオルを受け取った。

 この後更に雑談でも始まったらどうしようかと思ったが、幸いというか清咲さんはそれ以上長居しようとはせず、


「それでは」


 一礼して自分の教室に戻っていった。

 彼女の姿が見えなくなると同時に、二割ほど小さくなっていた教室の喧騒が元の音量に戻る。

 タオルをバッグに戻しながら、僕は思わずため息を吐いた。

 無駄に注目を集めることになってしまった……。なるべく目立たず、問題を起こさずこのクラスでは立ち回りたかったのに……。


 ……そして、それに引っ張られたからかはわからないが。



「おーおーどうしたぁらくじょー君?」



 ポン、と肩に手が置かれる。それは僕にとって拳銃を押し付けられたに等しかった。

 隣を見ると……そこには予想通り、戸塚正が立っていた。傍らにはいつもの取り巻きも。


「俺は昨日の部活でイライラしてるってのに、えぇ?らくじょー君は知らない女とイチャイチャかぁ?」


 彼らは、やたらとニヤニヤしていた。だが僕は、それは戸塚が苛立っている時にする癖なのだということを知っていた。


「随分楽しそうだなぁおい?らくじょーごときが、彼女でも作ろうって?」


「いや……別にそういう人じゃ」


「うるせぇ」


 胸ぐらを掴まれ、戸塚の顔の位置まで引っ張られる。体が少し浮き、首が絞まった。

 そして───



「放課後、校舎裏に来い。昨日の分のストレス発散に付き合え」



 それだけ吐き捨て、椅子に投げ捨てられる。

 固い木にぶつけた尻をさすりながら、僕は体が震えるのを感じた。









 未だに悪夢に見ることがある。


 あれは中学三年、受験シーズン真っ只中の頃。一学期ラスト付近になると、三者面談があったり生徒同士で頻繁に話題に上がったりで志望校に対する情報交換が活発になる。その情報は、机に突っ伏してクラスの喧騒に耳を傾けるだけでもある程度収集できるものだ。

 その中、僕は戸塚の志望校が自分と同じだということを知った。知れた。知ってしまった。


 次の授業中丸っきり放心してしまう程度には、僕は絶望していた。

 嫌だ。中学に続き高校も戸塚と同じ環境で過ごすなんて本当に勘弁してほしい。最近は暴力も過激になってきたし、まだ少額とはいえ金銭も要求されるようになってきたのだ。

 これ以上彼と付き合い続けたら、いずれ骨の一本か諭吉の一人でも失うことになるのは目に見えている。

 僕は母に頼み込んで塾を増やしてもらい、ノートもしっかり取るなど文字通り死ぬ気で勉強した。だが最終的に偏差値こそ上がりはしたものの、試験当日に緊張から吐き気や腹痛を起こしてしまい、結局合格できたのは戸塚と同じ高校だけだった。

 教室にてスマホで合否判定を見た時、僕はショックでスマホを取り落としてしまった。

 床とスマホがぶつかる音に、近くで駄弁っていた戸塚が反応する。音の主が僕だと認識すると、戸塚は「ちょい絡みに行くか」とニヤニヤしながらスマホを拾った。

 そうして合否判定画面のままだったスマホを断りもなく覗き込む。


「んん?おおっ、おいおいマジかよらくじょー!お前も暗寧高校受験してたのかよー!俺も同じだったんだから言ってくれよなー、しかも合格してるしー!」


 スマホを持った手で僕と肩を組み、頬と頬が触れるほど近づく。体から汗が噴き出た。


「高校に行ってもよろしくなぁ!仲良くしようぜ!」


 傍目からはいかにも朗らかそうな声で言ってから、彼は首に回した手をより強く締め付けた。

 圧迫感と恐怖から、僕は錆び付いたロボのごとく緩慢に首を向ける。

 戸塚は笑顔のまま、僕にだけ聞こえる声で言った。



「高校でも、ちゃあんといじめてやるからな?」



 その時の戸塚の表情は、今でも悪夢に出る。

 あれは足を粗方もいだ虫が、なおも生きるためにもがいているのを見た子供の顔だった。

 まさに蛇に睨まれた蛙。この時僕の心はハッキリと、音を立てて折れた。

 本能的に悟った。

 無理だ。僕はもう、こいつからは逃げられない。こいつが飽きるまで、オモチャとして使い潰される。


 顔に理由なく笑いが浮かんでしまったあたりで、この悪夢(トラウマ)は終わりだ。



 あと二年ぐらいしたら、今のいじめの体験が『新しい悪夢』として上書きされるのだろうか。


「あーーー!イライラするっ!!」


 ドスッ、という音が校舎裏に響く。その度に、胃が焼けるような感覚。

 既に呼吸困難の手前であり、ロクに悲鳴を上げることさえできない。制服の下の腹にはもう立派な青痣ができているだろう。

 今にも膝を曲げて重力に身を任せたくなるが、


「おおっとコラコラ、グロッキーにはなんなよ?つかさせねぇし」


 戸塚の取り巻きである今宮が、僕の羽交い締め役と立たせ役を兼任している。背中に壁のように立つコイツのせいで、僕は倒れることすらできない。


「しかしこれで十七発目……戸塚ちょい殴りすぎじゃね?そろそろ死ぬかもよコイツ」


「腹殴ったぐらいじゃ死なねぇだろ。痣がついても服着てるからバレねぇだろうし。もし死んだら……まぁいいだろ。どうせ死なんし」


 それこそサンドバッグを殴ってるような気軽さで拳が振るわれる。

 バスケ部で鍛えられた剛腕は、もちろん手加減なんてされてない。


「にしてもあのクソ顧問……なーにが『お前よりニシハラの方が真面目に取り組んでいる』だよ……偉っそうな口きいて俺をレギュラーから下ろしやがって」


 声は静かだが内心相当苛立っているらしく、今までと比較しても戸塚の拳は重かった。

 ……誰だよ、そいつ。僕その顧問やニシハラのことを聞いても顔が浮かんでこないんだけど。

 それぐらい僕とは関わりが無い事柄なんだけど。


「なんでアイツなんだよ……俺よりも下手糞のくせに……あーもう今回の大会ぜってー負けたわ。あーあ。顧問の無能采配のせいでよぉ!」


「うぶっ……!」


 一際強く拳がめり込んだ。

 自分の意思と関係なしに口が開いて、胃液とも唾ともつかない液体が口からこぼれた。

 吐かれた液体は風に乗って飛び、そのまま戸塚の制服にかかる。


「っ、きっったねぇなお前!!」


 顔を歪ませ、戸塚はそれまで避けていた僕の顔面をモロに狙った。

 肉を押し退けながら、手が思い切り頬を殴り抜ける。視界が九十度横を向いて、耳鳴りに似た謎の音が鼓膜に響いた。

 二拍ほど遅れてから頬がジンジンと痛み始める。防衛機能の一環なのか、目に勝手に水の膜が張って視界が揺らいだ。今まで殴られたことなんて親からはおろか、本気の喧嘩になった友達からも無かったのに。

 だが、戸塚はなんの感慨も抱かずに


「やべ……ついカッとなって顔殴っちまったわ。周りには適当に誤魔化しとけよらくじょー」


 赤く染まる僕の頬を尻目にプラプラと手を振った。

 ……仮にも『人を殴る』という行為をしているのに、ここまで何も感じていないように振る舞える戸塚に、今更ながら畏怖のようなものが湧いてくる。……それとも僕が知らないだけで、人を殴るのって案外何も感じず気軽にできることなのだろうか?


「あーあーもう。戸塚はおっちょこちょいだなぁ全く」


「殴り終わったらこの制服のクリーニング代もぶん取っとかなきゃなぁ」


 二人してケラケラ嗤うと、不意に戸塚は準備運動するようにその場で何回かジャンプした。

 何をするつもりなのかと、そろそろ勝手に閉じ始めてきた目でなんとか確認しようとすると、


「おーーーらっと!」


「ぶ……」


 軽く助走をつけてから、戸塚の蹴りが思い切りみぞおちへ叩き込まれた。


 痛い。


 壁を蹴るような勢いだったというか、『この蹴りによって助骨が折れました』と言われても信じられそうな一撃だった。

 内蔵が潰れたような感覚と共に、また胃液らしきものが口から出る。落ちた液体がわずかに赤黒かったのは見なかったことにした。


「……さて、今日はこんぐらいにしといてやるか。まぁまぁスカっとしたし」


「お。お前はもう終わんのか?」


「ああ、さすがにこっちも手痛くなってきたわ。コイツも反応鈍ってきたし。残りのストレスは帰りのゲーセンで発散すっか。あ、一応ボイスレコーダーの類いがねぇか確認しとくぞ。見張りは本山がやってっけど」


 パッ、と。

 それまで足の代わりに僕を重力から支えていた今宮の手が離れる。考える間もなく、骨組みが無くなった人形のようにドチャリと倒れた。

 景色が横を向く。もう力なんて入らなかった。

 頬や体に地面の温度が伝わってくる。ひんやりとした感覚が熱くなった体を冷やして、場違いながら気持ち良いと思った。

 そんな僕を───冷たさを感受するのに夢中でピクリとも動かない僕を前にしても、二人は折れた木の枝でも見るように微動だにしない。念のため生きているかどうかを確認することさえ、しない。


 まぁ、当然だ。

 人間扱いしてもらえるのは人間だけ。彼らにとって僕は人ではない。人の形をしたオモチャだ。

 オモチャで遊ぶのに一々壊れるか心配する人はいない。落としても血眼になって駆け寄る人はいない。他にもオモチャがあるなら、一つのオモチャに特別執着する人はいない。


「そんじゃあ後は適当に金取って、ゲーセン行くか」


「あ、おい待ってくれよ戸塚」


「あん?」




「まだオレのストレス発散の分もあんだけど」




 オモチャが壊れても、その時はその時だ。







 殴られ続ける内に、いつしか意識を失っていたらしい。

 次に目が覚めるまで、僕は自分が本気で死んでいたかと思った。()()()()()()()()、ようやくああ僕はまだ生きていたのか、とわかったぐらいだ。

 眼球だけ動かして空を見ると、既にオレンジ色が引っ込んで暗くなってきていた。確か殴られ始めたのは五時ぐらいでその時はまだ夕焼けが見えていたから……軽く一時間ぐらいは意識を失っていたらしい。

 ……早く家に帰らないと。確か、今の暗寧高校は六時半が完全下校時間だ。

 萎縮したような脳で弾き出し、僕はうつ伏せから立ち上がろうとした。

 瞬間、体の中心から突き抜ける痛みが走った。ゾンビみたいな声にならない声を上げ、四肢が地面につく。

 それだけではなく、胃の方から急速に酸性の液体が込み上げてきた。咳が出る前から「あ、出るな」とわかるタイプのものだった。


「げへっげぇぇっっ。うぶっ、うおぇぇぇ……っ」


 顔だけを最低限上げて吐く。一度治まっても数回咳き込む度にまた汚い吐瀉物が出てきた。そして吐く度に先ほどの貫くような痛みが体を襲う。

 それでも止まらなかった。腹に泥でできた蛇がいてソイツが気ままに蠢いているようというか、胃の中に何かが入ってること自体を胃が拒否しているようだった。

 気持ち悪い。痛い。痛い。嫌だ。胃にダメージがあるから吐く。吐くことでより胃にダメージが入る。

 新手の拷問でも受けてるような気分だった。数時間も嘔吐し続けてるような気がして、実際には数十秒ほどの時間が過ぎてから、ようやく落ち着いてきた。

 全て出しきったはずなのにまったくスッキリしない。涙をこぼしながら必死に腹をさする。

 顔を上げると、さっきまで吐いていた汚い液体が目に入った。

 ……気持ち悪いことこの上ないが、この吐瀉物を口に戻せば二回ぐらいうがいができそうな量だった。当然ながら臭うし、端っこの方には朝に食べた菓子パンの一部がまだ消化されずに残っている。

 そんなパンと今の自分の姿を交互に見ていると、いつの間にか口が勝手に三日月を作っていた。


「……なんでだよ」


 胃酸が通った後のガラガラの喉でポツリと言う。

 独り言のつもりなので、返答が来なくても別に構わない。来たところでロクな答えじゃないのはわかりきってるし。

 痛む体を無理やり引きずって吐瀉物の海から距離を取ると、僕は寝起きの猫のように緩慢ながらそこで仰向けになった。当社比だが、うつ伏せよりも仰向けの方が疲労回復の割合が高い気がするのだ。髪に土が付いてしまうが今さらどうでも良い。

 顔の位置はそのまま、腹に手をやる。まだジンジンと痛むし、戸塚と今宮の拳がめり込んだ感覚がまざまざと思い出せる。

 腹部。学校生活において、一番露出の機会が少ない場所。そして個人的に、痛め付けられて一番キツい場所だ。

 とりあえず骨が折れてないかだけ確認して、手を元の位置に戻す。

 空に意識を集中すると、うっすらと月や星が見えていた。その近くを、赤や緑に光った飛行機が通り過ぎていく。きっと中の乗務員からは僕の姿なんて米粒にも見えないに違いない。


「……こんな時でも、お空は綺麗だなぁ」


 あはは、と虚空に向けて笑いかける。飛行機を追いかける形で目を動かして行くと、不意に校舎の屋上にある給水塔が見えた。

 距離……遠くはないな……。


 今の心境なら、飛び降りられるかもしれない。


 突発的に行動に移そうと思ったが、その途端に体が痛んで断念した。

 ダメだ。体が上手く動かない。死にたいけど痛い。死ぬ下準備をするのにも最低限の体力は必要だ。

 仕方なく、僕は天然のベッドで六時半ギリギリまで休むことにする。

 ふと、何の気なしに制服のポケットに触れてみると、帰りのHRまでは膨らんでいたはずの箇所がしぼんでいた。


「……あれ」


 本来そこにあるべき物は財布だった。もっと驚くべき場面だったのかもしれないが、もはやわざわざそんなリアクションをするのも億劫である。

 首だけを左右に動かすと、少し離れた位置に茶色い財布が開かれた状態で落ちているのが見えた。僕のだ。

 そうだ。確かアイツら『ボイスレコーダーの類いが無いか確認しとく』みたいな事言ってたな……。アイツらはいじめの時には僕がボイスレコーダーを忍ばせてないかとか、付近でカメラの音がしなかったかを常に警戒している。

 その一環で、僕のポケットを探ったときに取り出したのだろう。

 亀のようにノロマに這って拾う。

 見たくないなぁと思いながらも中身を確認する。やはりというか、中に住んでいたはずの福沢諭吉が一人と、野口英世が数人、あと金色の硬貨も消えていた。あとはくすんだ色の小銭がいくらかあるだけ。今からうまー棒を三本買いにいけば、もう完全に廃村になってしまいそうな有り様だった。


「……はは」


 どうにもならなくなると、人は思わず笑ってしまうらしい。最近の僕は笑ってばかりだ。


「……お金だけなら、まだマシか。どうせ今すぐ買いたいものもないし」


 文具は兄のお古がある。本も滅多に買わない。

 お小遣いをもらったり短期バイトをやってれば、すぐ金は貯まるだろう。

 特にウチはちょっとした小金持ちだから、もらえる小遣いは一般的な高校生よりは多い。


 だから、まだマシだ。

 こないだみたいに、金のついでに学生証やポイントカードを捨てられたのに比べれば。



 そうだ、今日はまだマシなんだ。いつものと比べれば。

 殴られるだけだったし、金しか盗られなかった。痣はいつか消えるし金だってまた貯まる。

 だからまだマシなんだ。今日はいつもより浅い傷で家に帰れるんだ。

 あはは。

 あははははははは。


「……ざっけんな」


 手の平で目を覆う。涙は出なかった。

 全てがどうでも良くなり、地面にまた体を下ろした。そのまま不貞寝するような感覚で横になり、目を閉じる。

 人の目?知るか。完全下校時間?どうでもいい。

 ここは戸塚お気に入りの『人目に付かない場所』だ。どうせもう一眠りしてもバレない。




 だが眠る直前、僕の脳裏にとある映像が浮かんできた。僕を殴り終えた時の戸塚と今宮の光景だった。


『うーし、オレはこんなもんでいいか。残りはゲーセンで発散するとして……』


『終わったか。んじゃさっさと行こうぜ今宮ー』


 壊れたオモチャを見るような目を向けてから、ゆっくりと歩き去っていく二人……。

 だがその足取りが不意に止まる。


『あ、そうだらくじょー。お前に新しくやってほしいことがあるんだ。あぶね忘れるとこだった』


 振り返り、戸塚が再び僕の元へ歩いてくる。髪を掴まれて無理やり顔を上げさせられた。視界が戸塚の顔で埋められる。


『お前、二組の女に告白しろよ』


 視界の外で今宮が吹き出した。


『あの誰だっけ、えーと……そう、二組の清崎ナントカって女子。明日、ソイツに告白してこい。』


 ほぼ寝起きみたいな状況で僕は言葉を聞いていた。清崎ナントカ……どこかで聞いたような気がする名前だ。


『おいおい戸塚、それはちょっと可愛そう過ぎじゃねぇ?』


『いいんだよ。こいつなんか最近反応悪ぃし。それに今日、あいつと関わりあるってわかったし』


『それもそうか。まぁ最近殴るのもマンネリ化してきたし、たまにはこういうのもありかもな』


『そーそー。それに見た感じこいつ、清崎の噂知らねぇっぽいし……』


 二人は色々喋っていたが、僕としては早く意識を手放したくてほとんど聞いていなかった。



『んじゃ明日セッティングしてやるから、ちゃんと覚えとけよー』



 そう言い残して戸塚は今度こそ去り……僕もまた目を閉じた。






 ───というところで現在の僕が思わず目を開いた。


 ……今のは、なんだ?

 なんかサラっととんでもないことを命令されたような気がする。

 殴られていたときとは違う種類の汗が浮かび始める。いつの間にやら、眠気も疲労も全部吹っ飛んでいた。




 今のは……疲れた僕の夢か妄想……だよね?


 まさか現実にあったことじゃないよね?


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