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第三章 終わら(せられ)ない借金生活とダンジョン氾濫編

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第十二話 F級昇級試験当日

 試験日当日。


 愛華を連れて集合場所まで来たが、そこには既に他の受験者が集まっていた。


 男と女が二人ずつ。

 女二人は仲良さげに話している様子から察するにパーティだろうか。


「あ、もしかして他の受験者ってあなた達ですか?」

「ええ、そうです。ってことはあなた達も受験者ですよね?」

「はい、今日はよろしくお願いしますね」


 ショートヘアの女が俺達に気付いて声を掛けてきて愛華が応じている。


 その様子を見てまず気になったのは彼女達が明らかに鍛錬不足なことだ。


(G級に求め過ぎるのは良くないのかもしれないが、ここまで露骨に弱いのが分かると心配になるな)


 F級昇級試験を受けに来ているのだからG級としてはそれなりに活動してきたはず。


 それなのに見ただけで実力不足だと分かってしまうのはどうしたものだろうか。


 今の俺は教官でもなんでもないから別に俺が指導する義理はないのだが、会社でもそういう教育を行なっているからかついついそういう目で見てしまう。


 そんなこんなで互いに自己紹介して名前が分かる。ショートヘアの方が工藤(くどう) 実美(さねみ)で、もう一人のロングヘアーの方が高橋 ひまり。予想通り二人でパーティを組んでいるそうだ。


「何をそんなにジッと見ているんですか。まさか顔が気に入ったとか言いませんよね?」

「いや、あまりに鍛錬不足過ぎるのが嫌でも見て取れてな」

「ああ、そうでしたね。先輩はそういう人でした」


 小声でこっそり尋ねてきた愛華に何故か呆れられてしまった。


 探索者として最初に見るべきところなどそこしかないだろうに。


 そういう観点で見れば男二人の方がまだマシだろう。


 ただ俺の見立てでは力量的な意味で合格できそうなのは、その中でもより強いと思われる一人だけだったが。


 勿論これは俺達を除いての話である。


「へー二人は大学生一年生なんだ。学業をしながら探索者活動って大変じゃないの?」

「私達はそこまで本格的にやってる訳ではないので意外とどうにかなりますよ」

「そうそう。それに実美のお兄さんがE級の探索者で装備とか融通してもらえてるからさ」


 そんなことを考えている間に愛華はあっという間に女子二人と仲良くなっていた。


 ラフな口調のひまりを実美が注意しているが、最終的に年齢なんて気にしないでほしいという愛華の発言でそのままになった。


「ところでお二人はどういう関係なんですか? もしかしてカップルですか?」

「残念ながら違います。この人は会社の先輩で今日は私の付き添いみたいなものかな」

「付き添いってどういうこと? 試験は受けないの?」

「受けるけどこの人は私の先生みたいなもので合格間違いなしだからね。私達は企業に所属している探索者で今日の試験も仕事で受けに来たって感じかな」

「実は社内恋愛でした、とかは?」

「ありません。むしろそんな事に現を抜かしてたらこの先輩はきっと怒るわよ。業務を疎かにするなって」


 いや別に業務云々で怒りはしないが。

 油断していたならその点に注意はするけども。


 興味津々といった様子を隠しきれていない実美達だが、愛華は一切動揺せずにあしらっていた。


「えーつまんないの。探索者のカップルかと思ったのに」

「もしそうだったらお話とか聞いてみたかったんですけどね」

「何でそんなことが気になるんだ?」


 普通に疑問に思ったことを聞いただけなのに愛華が驚愕したような顔でこっちを見ていた。


 何をそんなに驚いているのやら。


「よくぞ聞いてくれました。実は実美がこの前、探索者をしている結構年上の男に告白されたらしくてさ。しかも結婚を前提にって。ていっても返事は保留にしてるらしいけど」

「ああ、付き合う前に探索者同士での経験談を聞いてみたかったと」

「そうそう、そういうこと。今日、実美が昇級試験を受けようとしてるのも、付き合うなら相手と少しでも級の差を無くした方がいいって噂を聞いたからだし」


 何故かひまりの方が率先して話していたが、実美も頷いているからもそれは正しい情報のようだ。


「結婚云々はともかく別に相手のことが嫌いじゃないのなら付き合うくらいはいいんじゃないか? 探索者同士で付き合うことは別にそれほど珍しいことじゃないしな」

「あれ、何々。もしかしてお兄さんはそういうことに詳しい感じ?」

「これでも探索者としての活動は長いから知り合いにそういう人も結構いるんだ。なんだったら元パーティメンバー同士で結婚した奴もいるし」


 そこで改めて名乗ってから話の続きに戻る。


 どうせ教官が来るまで暇なのだ。

 話しながら錬金する程度のことは今のDEXなら余裕だし暇潰しには丁度いい。


「ちなみに相手の年齢と等級は? 分かるなら探索者歴も」

「えっと、年齢は二十四歳でE級です。探索者歴は大学卒業したくらいに始めたはずだから二年くらいかな?」


 二年でE級なら特別優秀ではないがそれなりの腕はあるはずだ。


「ソロなら優秀な可能性が高いし収入もそれなりにあるだろう。パーティだとD級になれるくらいなら優秀な部類だな。そのくらいなら仮に結婚しても生活に困ることはないだろうよ」

「いや、最初に出る要素が収入のことって生々し過ぎない?」

「そう言われても人柄も分からないんだから仕方がないだろう」


 それと俺は稼ぎで判別しているのではない。

 探索者としての腕を重視しているのだ。


 これは俺の判断基準が偏っているとかいう問題ではない。

 探索者を結婚相手に選ぶ時にそれは非常に重要なのだ。


 なにせそれを満たしていない相手は、ダンジョンで死んで帰ってこない可能性が高くなるのだから。


 その時は意外なほどあっさりと訪れることを俺はこれまでの経験から知っているのだ。


 勿論収入も大事ではある。

 金がないと色々苦労するのは間違いないし。


「ちなみにその告白してきた奴は実美のお兄さんのパーティメンバーで、実美とはそれなりに交流があるらしいよ」

「知り合いなのか。なら人柄とかは分かってるんだろ?」

「えっと良い人ではあると思います。同じパーティの兄もあいつは良い奴だぞって勧めてくるくらいですし」


 そう語る実美の顔からもその相手のことを憎からず思っているのが分かる。


 だとすれば何を躊躇っているのだろうか。


「……探索者は探索者と結婚するのが良いって言うじゃないですか? でも私は相手と違って本格的な探索者って訳じゃないので」


 なるほど、どうやら世間に流れる真偽の定かでない噂を聞いて迷っているのか。


 そして少しでもその差を埋めておきたくて無謀でも試験を受けに来たと。


「分かった、それならまず大事なことを教えよう」

「大事なこと?」

「な、なんですか?」


 息を呑んで待つ二人に俺はその真実を教えてやった。


「E級以下なら探索者と非探索者でもそれほど困ることはないからそんなことは気にするな。本当に困るのはC以上になってからでDだと微妙なラインってところだな」


 そう、これこそが真理だ。


 この五年間で数多の探索者カップルを見てきた上に哲太と優里亜という夫婦を知っている俺が言うのだから間違いない。


「なんでC級以上だと困るの?」

「単純に力の差が開き過ぎるんだよ」

「え、困るって物理的な意味でなの?」


 呆れた様子のひまりだが、これは冗談でもなければ笑い話でもないのだ。


 いや、俺はその話を聞いて笑ったこともあるけど本人達はそうでなかったはずである。


「俺の知り合いにとあるC級と非探索者のカップルが居たんだが、仕事でしばらく会えてなかったその二人が久しぶりに会って抱擁(ハグ)した時に悲劇が起きたんだ」


 そう、それはまさに悲劇だった。


「そのカップルの仲は良かったそうだし久しぶりの再会で嬉しかったんだろうな。そのせいで探索者側が力加減を誤った結果、非探索者側が全身の骨を骨折して入院する羽目になったそうだ」

「え、その女の人は大丈夫だったの?」


 この話を聞いてそう勘違いした奴が多いこと多いこと。

 だがそれは逆なのだ。


「言っとくが骨折したのは男側だぞ。探索者が女だからな、この話は」


 その言葉に唖然とした様子を見せる二人。


 そう、ステータスの前では性別による力の差などないに等しい。


 そしてC級にもなればダンジョン外でも人外の力を発揮できるようになっているのだ。


 その結果、意図せぬ形で非探索者を傷つけてしまうケースが世界中でそれなりにあるらしい。


 それと流石にこれは直球過ぎて言わなかったが行為(・・)の最中に相手を怪我させるケースが多いとのこと。


 まあ理性がなくなっている状態だと加減に失敗しやすいということだろう。


 だからこそそういう意味で探索者同士が付き合うのが良いとされているのだ。


 勿論それ以外の面もある。


 ダンジョンに潜って魔物を狩る探索者と普通の社会で過ごす人では、価値観が大きく異なってしまうことなどもあるにはある。


 だがそれは国が違う者同士で結婚するようなものだ。

 互いに歩み寄ろうとすればどうにかなるかもしれない問題だし、それはもう当人達の性格とか相性の問題だろう。


 少なくとも相手を抱きしめようとして大怪我を負わせてしまうなんていう、割とどうしようもない事よりマシだと俺は思う。


 とそこでようやく試験官がやってきたのでこの話は区切りとなった。


「なんか、思ってたのと違ったね」

「……うん、そうだね」


 そんなことを話しているのが聞こえてきたがスルーして俺は今回の試験についての説明の方に耳を貸すのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この場合、差がついて困るのはランクであって級は関係なくないですか? 級は人間側が勝手に決めてるだけで、強さの基準にはならんのですし(あの馬鹿息子とか実質F級のD級でしたし)
[良い点] これはいい探索者トリビアw
[一言] わろたw
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