第六話 特別品の思わぬ特性
獲得ランク経験値倍増ポーションもドロップ品の例に漏れず品質は0である。
だから発揮するのは最低限の効果でありながらも倍率は二倍であり使用開始からきっかり二十四時間その効果が持続する。
(これでも十分すぎるのに品質があれば倍率も効果時間も増強されるんだからな。思っていた以上の役に立ちそうだ)
だから愛華がそれを使うのは次の休みの日にして、その日は可能な限りの経験値稼ぎをすることにしている。その候補となるダンジョンを俺は会社のパソコンで調べている最中だった。
(やっぱり俺達が潜れるG級ダンジョンに限定すると、東京近郊ならゴブリンダンジョンのボス周回が最適解か)
ダンジョン協会が出している情報やこれまでの経験などから考えてみるが、近場での最高効率を出せるのはやはりここだ。
それ以外ではF級ダンジョンでなら今の愛華なら行けて経験値的にも美味しそうなところはあるのだが、残念ながらG級の俺達では入れないので除外されてしまう。
「ランク10になったし俺もいい加減に昇級試験を受けるべきか」
G級の魔物では経験値が足りなくなってくる頃合いだし本気でそうするべきかもしれない。
愛華も想像以上の成長速度だからランク10にするよりも先に昇級させた方がいいだろうか。
その方がレベリング的にはやり易いし。
そんなことを会社で考えていたら外崎さんから連絡が来た。
しかも何やら大変なことが分かったとのことですぐに来てほしいという緊急の連絡である。
俺はすぐに外部から完全に遮断された研究室へと向かう。
「何があったんですか?」
「それが、成功してしまったんです」
「はい?」
「だから回復薬を配合した飲料水の開発に成功してしまったんですよ!」
「え、早くないですか?」
試作品は幾つも作っているのは知っていたが、少し前までは回復効果がなくなってしまったり長く続かなかったりしていたはずだ。
だからまだしばらく研究が必要かもしれないという話をついこの前にしたばかりだというのに。
「確かに報告していた通り通常品では中々思う通りに進みませんでした。仮に効果が残っても微々たるものでしかない上に短時間しか持たないものばかりで商品としては使い物にならなかったですし。ですが特別顧問が作った特別品を使ってみたら想像以上の成果が出てしまったんですよ」
そう言って渡された回復薬が混ざった水は、味はともかくとして確かに飲んだら疲労が抜けていくのが分かった。
「これにはHP回復効果はありませんが疲労などが回復します。この調子なら他にも一部の効果だけを抜き出した物も想像以上に簡単に作れてしまうかもしれません」
外傷を治すことだけ、あるいは体力を回復させるだけなど特定の効果を選べるかもしれないと外崎さんは興奮気味に語る。
それは良い事ではあるのだが、まだそのための体制が整っていないのが問題だった。
正直に言うと回復薬の売買だけでもかなり忙しくて他に手が回らないのが現状なのだ。
(またダンジョンに行ける時間が減りそうな案件だな、これは)
結構本気で萎える。
だけど自分が蒔いた種なのでそうも言ってはいられないのが辛いところだった。
「特別品ってことは品質が関係しているってことですかね?」
「いえ、それは違うと思います。恐らくは霊薬作成のスキル効果なのかもしれません。確かあれにはデメリットを無くすという能力があったはずですよね?」
ダンジョン産のドロップ品はそういう仕様なのか品質も0で統一されていて最低のものばかりだ。
仮にドロップ品は加工しにくいというようなデメリットが存在していた場合、錬金釜で作成したものも同じくそのデメリットも有している可能性が考えられる。
そのデメリットを俺のスキルが無効化した結果、今までにないくらい簡単に加工できるようになってしまったのではないか。
外崎さんはそう語る。
「一応、社長にお願いして用意してもらった強力な魔物の魔石を使って私達でも品質10の回復薬は作れました。でもそれを使っても加工のしにくさは通常品と変わりなかったんです」
となれば外崎さんの言う通り品質は関係ないとみるべきだろう。
つまり俺のスキルがまた問題を引き起こした形か。
「となるとミスりましたね。この前にオークションに出した特別品は俺が作った物だ」
「はい。つまり加工もし易くなっている」
知らなかったとはいえそれを売ってしまったのは不味いかもしれない。
普通に回復薬として使ってくれればその事実がバレなくて済むが、研究用に回されると他にも俺達が把握していない新たな事実を見つけられる可能性も考えられた。
英悟に渡したのも回収できればいいが、もう売ってしまった後だったら不味いことになるかもしれない。
「すぐに社長と話して対応を考えます。一時的な特別品の売買の停止も含めて考えないといけないかもしれませんし」
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