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[書籍第2巻、4月18日発売!]隻眼錬金剣士のやり直し奇譚-片目を奪われて廃業間際だと思われた奇人が全てを凌駕するまで-【第4回HJ小説大賞 年間最優秀賞受賞!!!】  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第二章 継続する借金生活と霊薬騒動

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幕間 道化の末路とその後を追う愚者

 全てを失った。そう、全てを。


 襲撃を企てた息子はブースト薬とやらの過剰摂取による副作用で衰弱死した。どうにかできないかとありとあらゆる手を尽くしたがどうしようもなかったのだ。


 段々と息子の命の火が消えていく様が今でもこの目に焼き付いていて離れない。


 しかもそれだけではない。

 そこからはまるで予定されていたかのように私の人生の転落が始まった。


 身に覚えのない社コーポレーションの襲撃計画を仄めかす文書が見つかったことに始まり、過去に揉み消してきた悪事や企てが録音データなどの確固たる証拠付きで暴露される始末。


 これまでうまく隠しきっていたダンジョン協会の活動資金などに手を出した横領の事実まで発覚してはどうしようもない。


 私はなす術なく副本部長の職を追われることとなった。


 しかもそれで終わりではない。


 このままでは身に覚えのない襲撃計画の首謀者として私は逮捕されて重い刑罰を科されることになるだろう。


 何者かは知らないがここまであからさまに私を嵌めようとしてきているのだ。


 その追及がここで終わりだとは思えない。


「ああ、終わりだ。私の人生はもうどうしようもないところまで落ち切った」


 もはや取り返しがつかないところまで来てしまった。


 警察が逮捕しに来る前に逃げるだけで精一杯で資金も心許ない。


 これまで私の言いなりだった妻や愛人、挙句の果てには橋立議員を始めとした後ろ盾だった人達とも一向に連絡も取れず、見捨てられたのが嫌でも理解できる。


 残されたのは持ち出せた資金と錬金釜という貴重なアイテムだけ。

 これだけで起死回生の手を打てるほど世の中も敵も甘くないだろう。


(だったらせめて息子の復讐だけは果たさせてもらう。今の私に出来ることなんてそれぐらいしかないんだ)


 遅かれ早かれ私は捕まるだろう。そして大方そのまま事故でも装って消される。


 ならばその前に一人の父親として息子を死なせた人物である八代夜一だけでも道連れにしてやる。


 そのために連絡を取った腕の良い殺し屋との取引が間もなく行われる。

 有り金全てとポーションが作れるようになるアイテムでそいつは仕事を引き受けたのだ。


 寂れた街にある一軒のバー。指定された場所にはそいつ以外の客は誰もいなかった。


「お前が例の殺し屋か」

「ブツは?」

「ふん、これだ」


 こちらの質問に答える気がないその態度はムカつくが背に腹は代えられない。


 私は残る全ての財産をそいつに渡す。


「ターゲットは八代明石や会社の幹部ではなく八代夜一でいいんだな?」

「そうだ。息子を殺した奴だけは絶対に許せない。勿論、それ以外の奴らもやれるならやってほしいものだがな」


 襲撃計画を企てた首謀者だと祭り上げられたのだ。だったら本当になってやろうではないか。


(このままただ死んでたまるものか。奴らも道連れにしてやる!)


 残された復讐心だけが私を突き動かす。これまで築き上げてきた地位や名誉、財産に至る全てを奪われて失うものがない私はもはや止まりはしない。


「いいだろう。ただしこの仕事をやるのはこの件の前に請け負った依頼をこなしてからになるがいいな?」

「なんでもいいさ。奴を殺してくれるのならな」

「そうか、それは良かった」


 その言葉と同時に胸に軽い衝撃が走った。

 見れば左胸にナイフが突き立てられている。


「え……?」

「そのターゲットはこれまで悪事の限りを尽くしておきながらその権力や罪のない他人に罪を押し付けることで罰を逃れてきたダンジョン協会副本部長の森本恭吾。おっと、今はもう元副本部長が正しかったか」

「き、貴様……」


 痛みはないのに体が痺れて動けない。


「ふう、要するにあんたはやり過ぎたんだよ。罪を擦り付けてきた人達から少なくない依頼が出てるぜ? 憎いあんたを始末してくれってな。まあそうするように俺が唆したんだけどな」


 その筆頭はこの前、懲戒免職に追い込んだ名前も憶えていない奴だと殺し屋は言う。


 そんな奴らなど知ったことか。そう言いたいのに口が痺れてまともに話せない。


「なによりあんたは手を出す相手を間違えた。その過ちを地獄で精々後悔するんだな。ああ、安心してくれ。ここでは殺さない。ちゃんと夜一さんの計画通り、最後の仕上げをした上であんたには死んでもらうから」

「お、お前は、奴、の手先、か!?」

「そうだよ。ちなみにあんたがスパイにしたと思っていた勘九郎先生もな。要するに最初からあんたは夜一さんによって良いように動かされていたのさ。死ぬ前に真実が知れて良かったな」

「こ、殺して、やる!」


 どうにかして目の前の男を殺そうとするがどれだけ藻搔いても身体がまともに動いてくれない。それどころか意識が段々と薄れてくる。


 その時になってようやく目の前の人物が誰だか分かってしまった。

 顔は見ていないが間違いない。錬金釜を取引した際にいたもう一人の男だ。


「大丈夫、あんたには復讐を果たさせてやる。まあと言ってもその復讐相手は夜一さんじゃなくて橋立とかいうこっちにとって邪魔な議員連中だけどな。その後に人生に絶望したあんたは自殺するってのが今回の仕上げな訳よ」


 誰がそんなことをするものか。そう思ったが意識が薄れてどうしようもない。


「そういう訳で薫さん、暗示をお願いします」

「はいはい。うん、燃え盛る復讐心を向ける対象を変えるだけだから割と簡単だね。探索者でもないなら抵抗なんて無意味だし」

「そりゃよかった。それにしても親子共々、暗示によって身を滅ぼすことになるなんて面白い話ですよね。あるいはこれまでの悪事の(バチ)が当たったんですかね?」

「なんでもいいさ。こいつも修二とかいうあの愚か者も私からしたら玩具にすらならなそうなガラクタだったからね。私はガラクタに興味はないよ」


 そう言って笑い合う恐ろしい奴らの会話を聞いて戦慄した。


(バカな、私達は初めからこいつらの掌の上だったというのか……)


 そんな最後の最後まで自分が操り人形だったという事実を思い知らされながら私の意識は途切れていった。

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