第十四話 錬金素材とレッサーゴースト
その後、愛華は浄化の短剣なら急所を攻撃しなくても一撃で弱いアンデッド相手なら倒せることに感動していた。
まあ腕を掠るような斬撃だけで敵が浄化されて砂のように崩れていくのだ。驚いて当然だし普通に戦うのとはあまりに落差があるから調子狂うくらいだろう。
(浄化して砂と化したグールでも解体はできると。しかも浄化していようがいまいが手に入る素材に変化はなしか)
そこで手に入ったのは錬成砂だ。
どうやらグールの肉体は解体しても錬成砂にしかならないらしい。
グリーンゴブリンの肉体は解体した際に錬成水と錬成砂が手に入った。どうも魔物の血は錬成水、肉は錬成砂となるらしい。
なお魔石はグールもゴブリンも錬金砂だったので死体よりも魔石の方が価値というか素材のレアリティ的には高いと思われる。
錬成術師の頃の経験からランク5までの素材については把握している。
レベルⅠで錬成水、Ⅱで錬成砂、Ⅲで錬成草、Ⅳで錬成土、そしてⅤで錬成紙だ。
なお錬金剣士となった今はそれぞれの上位互換である錬金水などが作れるようになっている。
つまり今の俺はレベルⅡまでの錬成水、錬金水、錬成砂、錬金砂が錬金素材作成スキルで作れる訳だ。
(レベルⅢの錬金草が作れるようになれば低位回復薬の量産の目途が立つからな。早めに上げておきたいところだ)
そのためにMPは常に一定以上になる度に素材作成で使うように心掛けている。
おかげで砂と水素材が大量にアルケミーボックス内に在庫として存在しているが、今後に大量に必要になるのは目に見えているので無駄になることはないだろう。
そうしてグールとの戦闘を繰り返していると遂に目的の奴が現れた。ただ愛華はそのことに気付かずに目の前のグールとの戦闘に集中している。
その背後から半透明の人型の幽霊のようなレッサーゴーストは音もなく近付くとその身体を通り抜ける。
「ひゃ!?」
「目の前の敵ばかりに集中しているとそうなるぞ」
「は、はい。ああ、びっくりした」
幸いなことにレッサーゴーストの攻撃でHPは削られない。
その代わりにああしてゴーストに触れられるとMPが削られるのだ。その際に冷たい何かが体を通り過ぎていくという妙な感覚のおまけ付きで。
まあ今の愛華はMPを消費する戦闘スキルを覚えている訳ではないから特に困らないだろう。
だがこれが上位種になるとHPも同時に奪ってくるので今の内にそうならないように警戒する術を覚えておかなければならない。
「うわ、本当に物理攻撃が効かないんですね」
先にグールを片付けた愛華が試しとばかりに自前のメイスでレッサーゴーストを攻撃するが効かずにすり抜けてしまう。
更に今度は自分の手で叩いてみようとしたがそれもすり抜けて、おまけに触れたことでMPを奪われるという散々な結果に終わった。
「うひゃー冷たいしぞわぞわする変な感じ」
「その妙な感覚こそMPが奪われる時の特有のものだからしっかり覚えておくんだぞ」
「これを知らないとMPを奪われているのに気付くのが遅れるってことがあるってことですね」
大正解だ。上に行けば居るだけでMPが奪われ続ける罠部屋とかもあるくらいだし。
「それじゃあ大切なことは学んだようだからさくっと倒してくれ」
浄化じゃなくても特殊攻撃ならこいつには効く。
だから魔法とかが使えればそこまで対処に困ることはないのだが、ランク10になるまでにそれらを覚えている奴はほとんどいないと言っていい。
そしてランク10まで上げれば大半はF級になれる。そうなったらここよりも稼ぎの良いアンデッド系の魔物が出現するダンジョンがあるから、わざわざここに戻ってくる必要は全くない。
もっとも今はその攻撃手段を与えているので問題はない。
愛華が浄化の短剣でレッサーゴーストの身体を軽く突いただけその霊体は霧散して討伐は完了。
その残滓である床に魔石と魂石片だけ落下していく。それを拾って愛華はこちらに渡してきた。
「これも解体したら砂になるんですかね? 幽霊が砂になるって変な感じですけど」
「それを言うなら血肉が水と砂に変わる時点で色々とおかしいからな。原理もよく分かってないからそういう仕様なんだと今は思っておくしかないさ」
そうして解体を実行したら予想外の事態になっていた。
「錬成魂と錬金魂だって?」
魂石片が錬成魂、レッサーゴーストの魔石が錬金魂という見たことも聞いたことも無い素材へと変化していた。
恐らくこれらはレベルⅥ以降で作れるようになる素材なのだと思う。
そしてこれらの素材は原型ホムンクルスなどの用途不明のアイテムを作るために必要な物の一つでもあった。それがG級ダンジョンで手に入る。
これは大きな誤算だ。それもこちらにとって大変喜ばしい類いの。
試しに錬成魂を取り出してみると相変わらずどこから作られたのか不明のフラスコが現れた。その中に奇妙な白い光の丸い塊が入った状態で。この光る謎の物体が魂ということなのだろうか。
(色々と試すのにダンジョン内なのは好都合だな)
蓋を開けてみると光は浮き上がって外に出てくる。
それを掴もうとしても霊体なのか触れられない。
(MPを奪われる感覚はなしか)
浄化の短剣で突いてみても特に効果はなし。どうやら触れることは出来ないようだ。
そのまま光はフワフワと上に浮いていく。
移動をするのにエネルギーを使うのか、それともフラスコの外では形を維持することが出来ないのか段々とその光は小さくなっていって最終的には消えてしまった。
錬金魂の方も違いは光が強いくらいで何をしても触れることは出来ず同じように消えてしまう。どうやら錬成砂や水と同じであくまで素材としてしか活用できないようだ。
まあ錬成水の方はフラスコの外に出しても消えてしまうことは無く飲み水にするくらいは出来たが。美味しくはなかったので常飲しようとは思わなかったけど。
「綺麗でしたね」
「まあ確かにそうだけどそれだけだったな」
やはり錬金素材はあくまで錬金するためのあるもので、錬金しなければ活用は出来ないと考えた方がよさそうだ。
「そう言えばここには中ボスとかいないんですか?」
「中ボスはいない。ボスはゾンビだけど戦ってみるか? 浄化の短剣があるならいい勝負できるかもしれないが」
「先輩、頑張ってくださいね」
「だから俺に押し付けるなっての。まあゾンビの魔石を解体したらどうなるか確認したいからやるけどさ」
その言葉通りある程度の錬成魂と錬金魂を確保した後にボス部屋に向かう。
今回周回はしないので一戦だけやって魔石を回収したが残念と言うべきか解体した結果は錬金砂だけだった。
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