第五話 ゴブリンダンジョンへ 後輩と一緒に
ダンジョン消滅から一ヶ月が経過した。
予想通りだったが勘九郎の抗議を経ても俺への罰は大して変わらなかった。資格剥奪ではなくG級への降格処分に変わっただけで他の罰金20億円というのに減額はなし。
普通なら降格された上でこの額の借金を背負うことは、人生崖っぷちを通り越して既に崖下に落ちているも同然の状態だろう。
流石に俺も対試練の魔物用の準備で資金が心許なかったので一括返済は不可能。
ダンジョン協会も全額を一気に回収するのは無理だと分かっていたから、借金の担保にこれまでのダンジョン攻略で集めてきたアイテムや装備を預かることで今のところは話が済んでいる。
ちなみに当初はこれも中々認められなかったが、椎平などがいざという時の保証人になることでどうにか認めてもらった話だった。
なおここでいういざという時というのは、俺が夜逃げしたりダンジョンで死んだりして返済が不可能になった場合の話である。
無論のことそんなことには絶対にならないので椎平達に実際に迷惑を掛けることはないのだが、それを信じてくれてこちらに全面的に協力してくれることには感謝してもしきれない。
この恩は倍以上にして返すことにしよう。
と、ここまで言っておいてなんだが実はこの展開は全て俺の望み通りだ。勘九郎が俺の復讐計画のためにこうなるように誘導してくれたおかげである。
まあ奴らは誘導されたなんてこれっぽっちも思っていないだろうが。担保として預かっているアイテムも俺の返済が一度でも遅れたら接収して自分達の資産にしようと計画しているのも知っている。
そうするように進言したのは他ならぬ社コーポレーションから回復薬のデータを盗み出して信頼を勝ち得た勘九郎なのだから。
(ま、あいつらに痛い目を見せるのはもうしばらく後だ。精々今は幸福な未来を思う存分に思い描くといい)
その時間が長いほど、その描いた未来との落差が激しくなるほど絶望も大きくなるというものだ。俺を敵にしたことをしっかりと後悔してもらうためにも事はじっくりと進めていこう。
なにより今は他にやらなければならないことが山ほどある。
あんなのを始末するのは後に幾らでも出来るから今は放置だ。
そんなこんなでやって来たのは新宿にあるビル型のG級ダンジョンだ。
ここは昔、マンションだかの建設の工事をしていて完成間際に突如としてダンジョン化してしまったという経緯がある。そのせいか傍から見る分にはただの高層マンションでしかない。
だがその入り口を潜ると中にいるのは大量のゴブリン。数が多いことで有名なG級の魔物がマンションの廊下を徘徊するようにウロウロしている形になっている。
もっともその通路の長さや広さは明らかに敷地よりも大きく構造も階層ごとに異なっているため、他のダンジョンの例に漏れず中の空間がおかしな形でねじ曲がっているのは間違いないが。
そんなマンション風のダンジョンは上に行ける階段が各フロアに一つだけ存在しており、それを登っていくことで進んでいき、最上階の五十階に到達すれば晴れてボスとご対面となる。
「とまあこれがこのダンジョンの概要だな。何か質問はあるか?」
「それじゃあまずは一つだけ。なんで私も一緒に行くことになってるんですか?」
そんなことを言っているのは隣にいる愛華だ。
そう、今回のダンジョン攻略は俺だけでなく彼女も半ば強引に連れてきている。なお今更取り繕ってもしょうがないので素の自分を出している。
「いえ、分かってはいるんですよ。あんな話を知ってしまった以上は逃げられないって。むしろ下手に逃げようとしたらどうなるかなんて恐ろしくて考えたくないです」
「大丈夫だって。余計なことを言わなければ始末されることはないはずだから」
「始末って言った! 現代日本で普通なら聞くことないワードが口から飛び出てましたよ!」
だからと言ってここで何もしないと嘘を言っても信用しないだろうに。
まあこんな感じでギャーギャー騒いでいるが説得の仕方は心得ている。と言うかここに来るのもこの方法で説得したのだ。
「安心しろ。俺だって愛華を巻き込んだ責任は感じているからな。だから後悔させないようにしっかりと鍛えて稼がせてやると約束するよ」
「とても借金二十億を抱えた人の発言とは思えないんですけど……本当に大丈夫なんですね?」
「ああ、その証拠を今からこのダンジョンで見せてやるよ」
「……分かりました。そこまで言うのなら今は騙されたつもりでその証拠を見させてもらいます。嘘だったら末代まで呪ってやりますからね」
「その時は俺のことを副本部長に売るなり好きにするといいさ。ただあいつは折を見て破滅させるから深く関わると巻き込まれて痛い目を見ることになるからそこだけは気をつけろよ」
「少し前からそうじゃないかって思ってたんですけど、先輩って実は頭おかしいですよね?」
本気で忠告したのにドン引きされた顔でそんなことを言われてしまった。
だから笑いながらこう返してやる。
「安心しろ。今までは前座に過ぎず、ここからが本番だから」
「それのどこに安心できる要素があるんですか!?」
そんな風にダンジョンで騒いでいて何も起きないなんてことがある訳がない。
いつの間にか通路の先でゴブリンが集まってきていた。まあだからなんだという話なのだけれど。
「とりあえずしばらくの間は俺がゴブリンを倒しまくってランクアップのための経験値を貯めるから、その間は後ろを付いてきてくれ。一段落したら金稼ぎの方法について説明するから」
「でも先輩はランク1に戻っているんですよね? その状態で本当に大丈夫なんですか?」
「全く大丈夫じゃないな。正直に言えばステータスが半分以下に減った影響で体も頭も死ぬほど重い上にキレがなくて仕方がない。だからさっさとゴブリンで経験値を稼がせてもらって少しでも元の状態に近づけたい。幸いなことにここのゴブリンは幾ら狩ってもすぐに別の場所でリポップするから狩り放題だぞ」
そう言いながらステータスカードを取り出す。そこには探索者となった時のような数字が並んでいた。もっともステータスの数字以外では初期の頃とは大きく違う項目も存在していたが。
八代 夜一
ランク1
ステータス
HP 24
MP 16
STR 12
VIT 7
INT 9
MID 25
AGI 10
DEX 11
LUC 2
スキル 錬金レベルⅠ 錬金素材作成レベルⅠ 錬金真眼レベルⅠ(固有) 霊薬作成レベルⅠ アルケミーボックス 錬金術の秘奥 剣技覚醒
ジョブ 錬金剣士レベルⅠ(固有)
このままでは流石に弱過ぎるので早くゴブリン狩りで経験値を稼がなければ。
「いやその状態で集団相手は流石に大丈夫なのかって意味だったんですけど……」
「え、なんだって?」
目の前に迫っていたゴブリン十数体を鈍った身体であろうとも体に染みついた動きで放てる斬撃で次々と一撃で切り伏せていく最中に後ろで愛華が何か言っていた。
「いえ、何でもないです。無駄な心配だったみたいなので」
よく分からないが問題がなかったのならよしとしておこう。
それよりも今は目標のランク5まで一刻も早く駆け上がらねば。
そうして俺は新たな集団を見つけると今度は自らそこに突撃してダンジョンに血の雨を降らせるのだった。
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