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第三話 情報共有

900pt近くになっとる。


わーい!


 この八人の中で誰が最も奇人変人なのかを決めるのは後回しにして俺達は本題に入ることにした。


 誰も彼もが自分以外を推して決着がつくまで何日掛かるか分からない議題だったし。


「それでどこまで聞いてるんだ?」


 これはあの場に居た哲太達以外に聞いた質問だ。


「私が聞いたのは表向きのことだけですね。夜一君が会社の講習会中にG級ダンジョンで試練の魔物と遭遇。自分以外を逃がしつつ再戦した結果、試練の魔物の撃退には成功したが討伐には至らず逃げられた。その際にダンジョンコアを失う原因となってしまったため厳罰が下されるかもしれない、そんなところです」


 先生と呼ばれるだけあってこういう時は勘九郎が率先して話をまとめてくれる。


 他のメンバーが話し出すといちいち脱線することもあって、どうしても口を挟みたい時以外は黙っているのが俺達の常だった。


 だから俺もこういう時は基本的に勘九郎に向けて話をする。それが一番効率的だから。


「それでどうして撃退に成功したなんて嘘を吐いたのですか? 本当は討伐に成功したのでしょう?」

「……その通りだけどよく言われる前に分かったな」


 アマデウスのことや得られたスキルやアイテムなどを隠すためにあの場でそういうことにしたのだ。だがこの人にはその嘘は通用しなかったらしい。


「予想はしていましたが私が確証を得たのはここに来たあなたを実際に見たからですよ」

「俺を見たから?」

「あなたが撃退だけで満足するような人じゃないことはパーティメンバーなら誰でも分かります。もし仮にあの話が本当なら、あなたは今度こそ討伐するためにその異常な執念を燃やしている。そういった顔に見えないのなら答えは一つでしょう」

「既に目的を達成している、か。お見事というしかないな。大正解だよ」


 流石は何年もの付き合いになる奴ばかりだ。本当に俺のことがよく分かっている。


「ですがだからこそ疑問が生まれます。何故討伐に成功したことを隠したのかという」


 事情を知らないメンバーはそれに同意するように頷いている。


 そんな中でその疑問を口にした勘九郎だけは違う目をしていた。恐らくこの人はその理由についても何となく察しがついている。


 だけどそれだと周りが付いてこられないから、あえてその疑問を口にしたのだ。


(これが大人の余裕という奴なのかね)


 我ながら性格悪いと思うが、滅多に乱れることがないその余裕の態度がこの先に崩れるかと思うと少し楽しみですらある。


「まずそのことを説明する前に色々と補足しておこう。俺はこの半年の間に準備を整えていたこともあって最初の内は試練の魔物を圧倒していた。それこそ一度もダメージを与えられることもない完勝で一度は無傷でその首を刎ねることに成功してる」

「普通なら信じ難いですが君ならそれを成し遂げそうだと思わされるのが恐ろしいところですね。だがそれならより一層、何故そのことを話さなかったのでしょうか?」

「その後にボス部屋だったからかダンジョンコアが出現したんだが、試練の魔物がそれを取り込んだ。勿論どうにか止めようとしたけどどれも無駄に終わってそこから第二形態との戦いになったんだが、これが化物みたいに強くてな。ドーピングを重ねまくってもギリギリの勝利だった。運が悪ければ負けていたくらいのな」


 今にして思う、あれは本当に紙一重の戦いだった。

 同じことをやれと言われても今は無理だと断言できるくらいに。


「まあどうにか勝てたからそこら辺はいいんだ。問題はそのダンジョンコアを取り込んだ試練の魔物が普通の奴じゃなかったことだな」

「普通ではなかった? それはどういう意味です」

「文字通りの意味だよ」


 そこで俺はアマデウスという御使いや天神族や地神族の歴史、ダンジョンがどうしてこの世界に出来たのかについてなどアマデウスに聞いたことを全て隠すことなく語る。


 流石にこれは予想外だったのか勘九郎も唖然としていた。


「こんな話をしてもお前らのように俺が嘘を吐いてないと分かってくれる相手ならともかく、普通なら頭がおかしくなったと判断されるのがオチだ」


 それに仮に信じてくれたとしてもそれはそれで面倒事に繋がりかねない。


「……なるほど、その気持ちは理解できます。ですがそれだけならそのアマデウスという御使いの話は黙っておいて、試練の魔物を倒したとだけ言っておけば良かったのではないですか?」

「それはアマデウスの下から戻った後に手に入ったもののせいで無理だったんだ。ちなみに試練の魔物を倒して視力を取り戻した俺が未だに眼帯を外せないのもこれが理由さ」


 そう言って眼帯を外してそれを見せる。


 錬金真眼というユニークスキルによって虹色に輝く宝石のように変化した俺の人ならざる右目を。


「その眼はいったい?」

「試練の魔物を単独で討伐したご褒美の一つでユニークスキルの錬金真眼ってやつだ。まだ完全に能力を把握しきれてないが、透視能力と何らかのアイテムを見た時に鑑定してレシピを解析できることが判明している」

「レシピですって? まさかそれは特定のアイテムを作成できるということですか?」


 他のメンバーは俺の異常な眼の色に気が向いているようだが、勘九郎だけこの言葉の意味に気付いたようだ。


「ああ、今の俺は体力回復薬(ライフポーション)を始めとした錬金アイテムとカテゴライズされる物を作れる」

「それは将来的に、の話です?」

「その答えはYESでもありNOでもある。難しい物を作るためにはスキルやジョブレベルがまだまだ足りないが、普段使ってるような体力回復薬(ライフポーション)は実際に試して成功してる」


 この言葉に勘九郎が眉間を押さえて動揺を隠せずにいる。

 こいつのこんな姿、初めて見たな。


「なるほど、これは隠すのも納得の理由です。下手に全てを公開すれば最悪の場合、国によって夜一君はひたすらポーションを作ることを強要されることになるでしょう」


 そう言って納得しているところに悪いがまだ終わってない。


「それだけで済めばよかったんだが、この話にはまだまだ続きがある」

「なんですって? ……そう言えばさっきその眼はご褒美の一つと言っていましたね。ということはまだ他にもあるということですか」


 やはり理解が早くて助かる。話がサクサク進むというものだ。


「試練の魔物を倒したことでランク35になったからか第四次特殊職の錬金術師というジョブを獲得した。これはまだ普通だったんだが、錬金真眼というユニークスキルのせいなのか第六次固有職の錬金剣士も手に入れてる」

「第六次だけで世界の誰も到達していないのにその上、固有職(ユニークジョブ)なんてきいたこともないですよ? 君は自分が一体何を言っているのか理解しているのですか?」

「流石の俺だってこれがバレたらヤバいことは理解してる。だからこそ必死になって試練の魔物を倒した事ごと隠そうとしてるんだ」


 一人で試練の魔物を倒したという事実が判明すれば確実に注目を集める。


 そりゃそうだ。自分で言うのもなんだがC級八人で倒せなかった魔物をたった一人、しかも錬成術師という一般的にはゴミジョブで成し遂げたのだから話題性としては非常に大きいと言えるだろう。


 そしてその秘密について調べようとする奴も出てくるはずだ。そいつらにこのことを知られる危険性を考えると、迂闊に注目を集める事態になるのは避けなければならない。


「まさかそこまでの事態になっていたとは思いませんでした。私はてっきり貴重なアイテムでも出てそれを隠しているのかと。試練の魔物は討伐した時にレアアイテムを落とすことがあるという情報は調べて知っていましたから」

「えーと、疲れてそうなところで悪いけどそれも間違ってないぞ」

「やっぱりそれもあるのですか……」


 追い打ちを掛けるみたいで申し訳ないがまだ問題は残っている。


「まずダンジョンコアだったものがアマデウスの御霊石という別のアイテムに変化していた。まあこれはどういう効果なのかも使い道も分からないから仕舞っておけば問題ないだろう。だけど他のドロップアイテムが色々と問題でな」

「その御霊石とやらと同じようにしまっておくのでは駄目なのですか?」

「最悪はそうするしかないけど可能な限りこれらは活用したい。と言うか卑怯なこと言うが勘九郎こそが最もそれを望むと思うぞ」

「私が望むですって? ……っ!?」


 これまでで一番の驚きを持って勘九郎がその場で座っていた椅子を倒しながら立ち上がる。こうなることが分かっていたからこの話は最後に持ってきたのだ。


 勘九郎が医者を辞めて探索者になった理由。

 それがこの態度には大きく関係している。


「さっき言ったよな。俺達が今使っている回復薬は作れるって。そしてこれらの正式名称は低位体力回復薬(ローライフポーション)だ」

「つまりその上の中位や高位の物があるということですね! そしてそれを手に入れたと!」

「ああ、これがそうだ」


 俺はアイテムボックスからアルケミーボックスに変化したスキルを使用してそれらを空中に出来た黒い穴から取り出す。


「これが中位体力回復薬(ミドルライフポーション)でこっちが高位体力回復薬(ハイライフポーション)。他には中高位の魔力回復薬(マナポーション)異常回復薬(キュアポーション)なんかもある」


 他のランクアップポーションなども一通りその大体の効果も合わせて説明しながら実物を見せていく。だが勘九郎の視線が向けられているのは体力回復薬(ライフポーション)だけだった。まあその気持ちは痛いほど分かるので、


「ほら」


 まずはそれを渡すことにした。

 幸いどれも五本ずつあるので一本くらいなら渡しても問題ない。


「調べたら中位で十分だった。けど心配なら高位体力回復薬(ハイライフポーション)異常回復薬(キュアポーション)も持っていってくれ」

「……本当なのかい。本当にこれがあれば妻は目覚めるのかい?」


 常に冷静で丁寧な口調の勘九郎が動揺を隠せないでいる。そりゃそうだろう。


 医者という築き上げたこれまでの立場などを捨ててまで五年間ずっと探し続けていた物がようやく手に入ったのだから。


「ああ、錬金真眼で既に調べてある。中位なら植物状態からでも回復させられるはずだ」


 勘九郎の奥さんはダンジョンが現れたばかりの氾濫という現象が判明していなかった頃に、ダンジョン外に溢れ出た魔物によって被害を受けてずっと寝たきりの植物状態になってしまったのだ。


 そしてそれを医者の勘九郎はどうにかしようとして最終的に医者という立場を捨てて探索者になることを選択した。


 それから約五年、勘九郎は努力を重ねてランクが上げにくい回復職である僧侶でC級にまで上り詰めたのだ。だがそこまで上り詰めたスキルでも植物状態を治療することはできていなかった。


 だがそれも今日までの話になる。


「本当にいいのですか。私の妻は現代医学ではどうしようもない状態で目覚めるのは奇跡を願う以外にない状態です。そんな妻が奇跡的に目覚めたらこの薬を辿る手掛かりになってしまうかもしれませんよ」

「まあ一部ではあんたがそういう回復薬とかスキルに対して多額の賞金を懸けてるのは有名だったからな。そこから察する奴もいるだろうよ。でもそれを気にして仲間の家族を見捨てるのは違うだろ」


 そう、そんな選択は俺にはない。


 そんなことまでして隠し通すくらいならいっそのこと全部バレても構わない勢いでやらかしてしまう方が性にあっている。勿論バレないことにこしたことはないが。


「感謝します。本当にありがとう。この恩は何があろうと忘れない。いつか絶対に返させてもらいます」

「それならここまでの話を聞いた上で薬を使用してもバレずに、しかもダンジョンコアを破壊した罰も免れる方法はないか一緒に考えてくれ。このパーティの作戦立案は基本あんたの担当だっただろ?」

「……そうですね、確かにそうでした」


 そう言って勘九郎は目に涙を浮かべながら笑う。

 苦節五年の苦労が報われたのだからそれも当然だろう。


「分かりました。私も全力で協力しましょう」


 これで頼りになる参謀が完全なこちらの味方になったのだ。さあここから反撃の準備に取り掛かるとしよう。

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