第五十七話 六人目
書籍3巻が1月19日に、漫画の2巻が1月23日に発売となっています!
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天空ダンジョンが被害を出すことなく消滅してから二週間ほどの時が経過した。
死傷者がゼロであったため万事問題なし……で済むほど世の中は甘くもなければ単純でもない。
どうしてこんな危険極まりないダンジョンが発生したのか。また同じようなダンジョンが発生する可能性はないのか。仮に発生した場合はどう対処するのか。
そんな色々なことにまで考えを巡らせなければならない人がいるのだ。
特にダンジョン庁や協会などのダンジョン関連の事態に対処する責任がある団体などは特に。
それもあってダンジョン協会や日本政府は、まだ一連の事件の後始末に奔走しているらしい。
「それなのに天空ダンジョンを消滅させた張本人のお前は暇していると」
「別に暇じゃない。これでもやることは山積みだっての」
稼ぎの一環として会社の研究室に回復薬を作りにきていた哲太に俺は反論する。
現に今も会社の業務をこなしているのだから決して暇ではないのだし。
「会社の業務以外でも新しく手に入ったレシピの整理もまだまだ時間が掛かりそうだしな」
こちらもレシピが手に入ったからそれで終わりとはならない。
まず必要とされている素材を確認しなければならないし、それが終わった後でもそれらの素材がこちらの世界で集められるのか、という問題もある。
「ダンジョンを巡れば異世界由来の素材を集められるって訳ではないのか? これまでの回復薬とかは割とそんな感じだったけど」
「御使い連中の話を聞く限りでは、ダンジョンで再現できる環境や素材には限度があるみたいでな。それにダンジョンの機能は環境適応の方に重点を置いているのもあって、貴重な素材はどうしても入手し辛いんだと」
つまり黄金神のレシピが手に入っても中には素材が手に入らないものもあるということである。
少なくとも現時点では。
「環境適応が進んでもっと余裕が生まれれば、素材を生み出す方にもっと力を割けるようになるそうだがな」
ただしそれは一日や二日でどうにかなるものではないし、下手をすれば年単位で時間が掛かる可能性が高いとのこと。
ただダンジョンによる世界崩壊の件だってあるのだし、それをただ待っているなどできるはずもない。
「だから現状でも使えそうで、尚且つ素材を集められそうなレシピを選出してる最中だと」
「そんなところだ。あとはこれから先の事を考えると、俺が錬金の力をもっと深く知る必要があると痛感したのもある」
錬金真眼などの特別な力を得ていたこともあって、俺は愛華の様に苦しむことなく最初から特に苦労することなく錬金することができていた。
それ自体は悪いとは言わない。
だが色々と手に入ったレシピやホムンクルスの性能などについて知れば知るほど、俺は自らが利用している錬金という力を、かつての黄金神一派が司っていた能力を完全に活用できているとは言い難いと思わされたのだ。
「だから今はエルーシャとか黄金神一派の御使いから色々と吸収してる最中でもあり、学ぶことが多くて割と大変なんだよ」
強くなるために何かを学ぶ必要があるのならやるしかない。
だから今の俺は決して暇などではないのだ。
「高みに至るために利用できるものは何でも利用しようってことか。相変わらず貪欲なこって。……ってそういうことをこれまでアマデウスからは教えてもらってなかったのか?」
確かにアマデウスは先代黄金神の右腕だって奴であり、そういう知識も持っていなくはなかった。
そして俺を強くしたいと考えている奴ならば、真っ先にそういう知識を与えるものと思うだろう。
「それがあの野郎、基礎的な内容は意識しなくてもできるくらいに身についていたせいか、口頭で説明するのが逆に難しいとか言いやがった」
アマデウスからすればどうすれば立って歩けるようになるのですか、と聞かれているような感覚なのだとか。
あまりに簡単過ぎて説明のしようがないという感じで。
かと言って実演しようにも本来の肉体や力を失った今の状態ではそれも難しい。
それに加えてホムンクルスなどについては実物がある程度の数は必要になるのが分かり切っており、それらが手に入るようになってから説明するのが効率的だったとのこと。
「なによりも私と君の答えが一緒になるとは限らないからね。だからこそ初めの内は君自身の手で経験を積み、自分自身で錬金という力に学んでいくべきだと思ったんだよ」
錬金という力の中身は多岐に渡る。その中からどういう力を極めて、どういった形で自分の物としていくのか、それを決めるのは己自身であるべき。それがアマデウスの考えだった。
促成栽培された探索者が脆いように、与えられただけの力や知識は紛い物でしかないからと。
「いずれにしても自分を強化する方法が幾つか見つかりそうなのは僥倖ってもんだからな。そのためならどんな努力も惜しむつもりはないさ」
「その分だとお前が探索者の頂点に、A級になる日もそう遠い日じゃなさそうだな」
不敵に笑うこちらに向かって呆れたような様子を見せる哲太。
そんな空気を壊すかのようにバタバタとした足音を立てて誰かが研究室へと駆け込んでくる。
と言ってもこの場所は関係者以外が立ち入れないので、おおよそ誰かなのかは予想が付いていたのだが。
「せ、先輩! 大変ですよ!」
「やっぱり愛華だったか。それで、そんなに慌ててどうしたんだ?」
また天空ダンジョンでも発生したか、という冗談は我ながら性質が悪いと思ったので言わないでおいた。
「これを見てください!」
そう言って差し出されたスマホの画面には、確かに驚くべき内容が記されていた。
もっともそれは俺にとって決して悪いことではなかったが。
それは日本ダンジョン協会からの通達だ。
少し前に椎平がB級探索者になった時と同じ。
ある人物が日本で六人目のB級探索者として認められたという慶事が発表されたのである。
その人物の名を誰かなんて言うまでもないだろう。
(さてと、これで椎平に追いついたな)
自らの名前が記されたそれを見ながら、俺は不敵に笑うのだった。




