エピローグ
世田谷のG級ダンジョン消滅事件はすぐに探索者界隈で広まり、後日テレビのニュースなどでも何回か取り扱われた。
まあG級という最下級のダンジョンだったこともあってテレビでの報道はすぐに落ち着いたけど。話題としても旨味もなければそんなもんだ。
まあこうなるだろうことは分かっていたし、そもそも隠し切れることではないのでそれは問題ない。
それに問題とするならこっちの方だろう。
「お、情報が発信されたみたいだな」
日本政府はダンジョンという突如として現れる謎の空間に対処するための省庁を数年前に立ち上げた。
その名もダンジョン庁。
その関連組織として東京にあるダンジョン協会本部と各地方の協会支部が主にダンジョンやそれを攻略する探索者を管理している形だ。
昔は違ったが今では新たなダンジョンを発見したらこれらの組織に通報しなければならない。
その組織は自身のホームページやSNSなどで情報発信を行なっている。
探索者募集だったり各ダンジョンについての分かっている限りの情報だったり、あるいは簡易的な魔物の倒し方や素材の採集の仕方、はては美人な受付嬢ランキングなどその内容は多岐にわたる。
そんな玉石混淆の情報のなかでも最新情報と注意喚起については重要なことが多いので暇があれば目を通しておくべきものだ。
今回はそこに俺のことが書かれていた。
流石に個人名は伏せられていたが内容は以下の通り。
世田谷のG級ダンジョンのラットダンジョンのボス部屋で試練の魔物が突如として現れたこと。またそれが原因でラットダンジョンが消滅したこと。
それを引き起こしたのがC級探索者であったこと。その探索者には罰金20億円と最低のG級への降格という重い罰則が科せられたことなどが主な内容だ。
(よし、試練の魔物がボス部屋に現れた際は一度倒してもダンジョンコアを取り込んで強化されて復活するからボス部屋で試練の魔物との戦闘は絶対避けることも、俺が討伐に失敗して逃げられたことがダンジョン消滅の原因だって嘘もちゃんと載ってるな)
まあこれを知らずにボス部屋で下手に試練の魔物に手を出すと大変なことになるので、ダンジョン庁も隠しておく選択肢はない。ネットだけでなく各支部で直接注意喚起がなされるはずだ。
ネットはこのC級探索者は人生終わったという論評で溢れている。まあ傍から見ればそうとしか見えないだろう。
多額の借金を背負った上に積み上げてきた実績も事実上失われた。
どこからどう見ても全てを失った人生の落後者そのもの。
そんな愚か者をバカにするネットのコメントを見て俺が思うことは一つしかない。
「狙い通りだな」
これでボス部屋にて試練の魔物と戦おうとする奴はまず現れない。
俺が吐いた嘘によってコアを取り込んだ試練の魔物に逃げられたら今回のように重い罰が下されることになると思うから。
更に言えば倒せたとしてもその時にコアが無事な保証もないので、余程の物好きでなければ手を出そうなんて考えもしないだろう。
下手に手を出してダンジョンを消滅させれば億を超える罰金とランク降格。
割に合わない上にこれらのことは情状酌量の余地があった上でのこと。
手を出さないように注意喚起されている中で同じことをしたらもっと重い罰が下るのはまず確実だ。
「こんな状況の中でわざわざリスクが高い試練の魔物を狙うのはバカのすること。そんなバカなことするのは復讐に燃えているって設定の俺くらいのものだろうさ」
つまり少なくとも日本においては試練の魔物は俺の独り占めみたいなものだ。
まあ実際にそうするためには今の実力では足りない上にボス部屋にどうやったら試練の魔物が現れるかを調べる必要があるからすぐに出来ることではないが。
それでも俺がその準備を整えるまでの足止めくらいにはなるだろう。俺が一からやり直す、その間の時間稼ぎに。
俺の転落を喜んでいる奴らは楽しみにしているといい。
一からやり直した上ですぐに追い抜いてやる。
その上でその影も踏めないような圧倒的な速度で引き離してみせよう。
(後でこっちのいいように誘導されたと知って悔しがるといいさ)
その時になって後悔しても遅い。
誰を敵にしたのか存分に思い知らせてやる。
現在の俺のステータスカードに表示されるランクは1。
とあるアイテムのおかげでこうして一部のスキルとジョブ以外は全てリセットされている。
これが新たな始まりだった。
人生の落後者や脱落者、あるいは落ちぶれた錬成術師という蔑称でバカにされていたある探索者が後に『隻眼錬金剣士』という異名で世界に認められることになる。
本人と少数の仲間だけしか知らない大逆転の快進撃がここから始まるのだった。
これで序章は終わりです。
そしてようやくタイトルにあるように隻眼錬金剣士となりました。
ここまで読んでいただけた方なら薄々分かっているかもしれませんがここからが本番です。笑
次から第一章、まずは逆襲の準備から始まります。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価をよろしくお願いします!




