第八話 探索者講習会 特殊職講義その2
日刊ローファンタジーランキングで70位に入ったようです。
評価していただいた方々、ありがとうございます。
何か興味を引くようなことを会話で言ってしまったのか獲物を狙うかのような視線で見られている。大分分かり易いのだがこの視線を向けていることに本人は気付いていないのだろうか。
(まあ別に不快ってほどではないし面白いからいいか)
敵意や殺意があれば流石に気になるが、そういった負の感情はあちらからは感じないのでセーフにしておこう。問題はそれを隠そうともしない鳳の方が。
「鳳君も何か聞きたいことはないかな?」
「……特にないです」
こちらが気を使って話しかけてもこれだ。それでも傷薬は塗る当たり特殊職を習得する大切さは理解しているようだ。
(だったら他のことも我慢して学ぼうとしてくれないものかね。中途半端が一番対応に困る)
まあでもこういう奴が特別かと言わればそんなことはない。成りたての探索者なんてどいつもこいつもこんな風な誤った自惚れを多かれ少なかれ持っているものだ。
その原因も分かっている。初めて魔物を倒した時に得る万能感。それが勘違いを引き起こす大元だ。
ステータスカードを持っていない状態でダンジョンに入っても体が重くなるなど変化は特にない。頭の回転も体のキレも地上と同じ状態だ。それはつまりステータスカードを有すればその効力は即座に適用されて、その瞬間に地上の二倍近い力が手に入るということでもある。
それが地上に出れば半分になっていつもの自分に戻る訳だが、ダンジョン内で急に能力が上昇したことで多くの者が勘違いするのだ。
自分には才能があるのではないかと。身体も今までにないくらいに素早く的確に動く上に頭もスッキリとして思考もはっきりとしている。
初めて訪れる場所でこんな上手くいくなんて自分は探索者に向いているかもしれない。きっと隠れた才能があったのだ。そう、自分は天才だという風に。
G級の魔物だと特殊な奴を除けば一次職の低補正値でも十分に戦えるし倒せてしまえるのもそれを加速させる要因だろう。一度でも痛い目を見ればその幻想も冷めるのだが運が良いのか悪いのか経験者組の奴らはそれを味わうことはなかったらしい。
その最たるものが鳳なのだろう。ランク6まで苦労することがなかったであろう弊害が顕著に出ている。
(思っていた以上に早く済んだからまだ時間はある。よし、それなら早い内にその自惚れは打ち砕いておくか)
折角全員が薬師のジョブを習得できたのだ。この勢いのままランクアップも経験してその補正値の凄さも分かってもらうとしよう。
「それでは全員、ステータスカードでジョブの項目に触れながらジョブチェンジと念じてください。そうすれば頭の中に転職できる候補が出てくると思います」
休憩は終わりなので仕事の口調で話し出す。
「あ、本当だ」
「出てきました……あれ? でも薬師だけじゃないです」
「私も何故か元々の農民以外に薬師と貧民が候補にあります」
貧民は特殊職ではないけれど色々と変わったジョブなのでこれはおかしいことではない。
「そのことについては後で説明するので今は薬師を選択してください。ジョブチェンジは一度行うと再度行うのに一週間の時間が必要になるのでここで貧民になるとこの後の講習には参加させられなくなります」
その言葉に従って全員が薬師になったのを確認した後でその事情について説明する。
「資料をよく読んでいる人は気付いていると思いますが、貧民は補正値がランダムで-4から4になる運要素が強いジョブです。そしてこのジョブでランクアップ経験しておくとある特殊職の習得条件をクリアできます」
「え、薬師以外にも特殊職があるんですか?」
「それは勿論。むしろ発見されていないものもたくさんあると言われていますよ。そもそも特殊職に限らずジョブの習得条件や効果は実際にそのジョブを習得してみなければ分からない。だから誰も手に入れていないジョブを手に入れるには偶然に頼る必要があると言われていますね」
剣使いから剣士のように連想できて分かり易いものはまだいい。一定のステータスや剣に関するスキルか何かが必要だろうと何となく予想できるからだ。
だが薬師のように前職もなければ何もないところから突如として現れるジョブは予想のしようがない。もしそれらの未知のジョブを手に入れようと企むなら色々と考えを巡らせて試してみるしかないのだ。
それでも何の手掛かりも得られないこともザラなのであまりお勧めはしないとだけ言っておこう。少なくとも簡単ではない。
「話が逸れましたね。貧民で一度でもランクアップを経験すると賭け好きという特殊一次職に転職できます。この賭け好きというジョブは全ステータスからランダムで-9~9で補正が掛かるというギャンブル要素を更に強くしたジョブです」
「それってつまり運が良ければステータスが凄い勢いで上がるけど、そうじゃなかったらステータスが下がるってことですか?」
「いえ賭け好きまでなら下がることはないです。マイナスの補正でも一項目につき-1までしか振り分けられないようになってるので仮に-9の補正値を引いても全ステータスがランクアップで上がる分と相殺されて何も変化がなくなるだけです」
だがその先は違う。
「ただしその先の第二次特殊職の遊び人は補正値がプラスマイナス18。第三次特殊職の賭博師に至ってはプラスマイナス27なので運が悪いとランクアップしてもステータスは下がるという最悪の結果に陥ります」
仮に最高値を引き続けられればとんでもないステータスの補正値を叩き出すがそれはロマンでしかない。大抵はマイナスを引いて止めておけばよかったと後悔することになる。
「まあもしかしたらこれらのジョブレベルを上げることが条件で更なる特殊職が見つかる可能性も否定できないのでどうしてもやりたいというのなら止めませんけどやりたい人はいますか?」
この質問にYESと返答する無鉄砲な奴はこの中にはいなかった。それでいい。高い補正値で安定している薬師ブーストが出来るのならそっちの方が断然お得だからだ。
(俺のように興味本位で手を出してみるアホはいなくてよかった)
その結果は他のランクの奴よりもステータスが低い現状を見れば嫌でも分かってくれるだろう。
だからこそ俺はその劣っているステータス分を補うために剣士や剣豪でありながらもアイテムを使ってここまでやってきたのだ。やはり初期LUC2の低さでギャンブルなんてやるものではない。
(あるいはLUCが高ければ高い補正値を引き続けられる可能性もあるけど、その検証をするのは流石にリスキー過ぎるからなあ)
これ以上、賭けに負け続けるとシャレにならなくなるので俺には検証はできない。なので後進の誰かがいつの日か解き明かしてくれる日を待つとしよう。
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