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六日目 作戦決行準備

 研究所本館の裏手に回ると、小さいが物々しい風体の建物が現れた。


 五メートル四方くらいの窓のない石造りのその建物には鋼鉄の重々しい扉一つしかなく、本館と違って装飾も何もない。

 更にそれを囲うように、四面と上面が太い格子で守られている。いや、まるで猛獣の檻のようだから、建物を閉じ込めているみたいだ。


 カイエン侯爵は檻の扉の前で立ち止まると、こちらへ振り向いて皆を見渡した。


 「さて、これからここから遺跡へと入る。その前に決めておきたい事がひとつある。それは礼儀作法についてだ。俺とテイレルは貴族なのだが、これから先の戦場においては敬称・敬語は使わなくても不問とする。

 まぁ、見てもらった通りお忍びの姿であるし、俺自身、公務でない限りざっくばらんにやることの方が性に合ってるんだ。

 それに、この遺跡での戦いは苛烈を極めることになりそうだ。この場に居る全員が周囲に気を配り、即断即決で行動しなければならぬ状況になることは間違いないだろう。

 そんな中、皆が俺達に注意をしようとした時、貴族に対する礼儀が邪魔になるだろう? だから、作戦中は俺らの事をカイエン、テイレルと呼び捨てでも構わん。言いにくければ俺の場合は侯爵でも中将でも構わんし、テイレルは大佐でもいいか? まぁ好きに呼んでくれれば良い」


 フッと笑って肩を竦めて見せるカイエン侯爵。公の場以外では気を使われるのが好きではなさそうだから、本人はその方が楽なんだろうけど、こっちはそうもいかない。

 シャルはふんふんと頷いてるけど、研究員達は了承し辛いようで、お互いに顔を見合わせて出方を探っている。

 当たり前だよな。お貴族様に気安くタメ口きいていいって言われて、はいそうですかと頷いて名前を呼び捨てにしたりできる平民なんてあんまりいないだろ。

 ここは年長者に任せようとザンタさんに視線を向ける。ザンタさんもアリアさんも俺らの様子をチラリと見て、苦笑して引き受けてくれた。


 「わかったぜ! じゃあ中将、大佐と呼ばせてもらいましょうか。何せ乱戦覚悟の作戦だ。それに連携も探りながらやってくしかねぇから、お互いを守るためにもぶつかったり突き飛ばしたりすることもあらぁな。その辺はおとがめ無しでお願いしますぜ?」


 ザンタさんも堅苦しいのが好きじゃないので、戸惑う研究員達を安心させるために明るく答える。これで研究員達も俺も中将、大佐で呼ぶことができるようになった。


 「ああ、もちろんだ。早速だがザンタとアリア、二人は遺跡での戦闘経験がこの中でもっとも多いし、衛兵(ガーディアン)の攻略法を確立したとマビァから聞いた。何か方策があるのなら任せたい。頼めるか?」

 「了解だぜ。昨日依頼を受けてからよ、アリアと二人で昔の事を思い出しながらどういうフォーメーションでいくか考えたんだ」

 「あたしらは歳だし現役じゃないからね、後方を守らせてもらうよ」


 中将に推されて二人が作戦を発表する。



 まず編成は三ブロックに分けられる。


 シャルを中心に、防御に専念する研究員三人で編成された中衛。


 俺を先頭に、やや下がった位置の左右に中将と大佐で前方を攻める前衛。


 そして、後方からの攻撃を蹴散らすザンタさんとアリアさん二人の後衛だ。


 前衛後衛の戦闘組は、各々が攻撃する範囲をあらかじめ決めておく。

 中衛を取り囲むように立つので、ザンタさんが時計で例えて説明してくれる。

 シャルが時計の中心だとすると、進行方向を十二時とした場合、十時から二時の範囲が俺。二時から四時までが中将。四時から六時までがザンタさん。六時から八時までがアリアさん。八時から十時までが大佐となった。

 これはあくまで基本的な範囲で、同じ敵に二人で同時に攻撃したり、各々がてんで勝手に攻撃をするなどといった無駄をなくするための予防策でもある。

 各々両隣の様子を見ながら、声を掛け合ってフォローし合おうと決めた。これは実戦で慣れていくしかない。

 俺の担当範囲がやや広いのは、百人の兵士を軽くあしらえる視野の広さと突破力を見込まれてのことらしいが、あんな兵士相手だと元の世界での同ランクのハンターなら誰でもできるので、あまり買い被らないでほしいんだけど……。

 取り敢えず戦いが始まったら、状況を見ながら俺のペースでジワジワと前進することになる。



 そして防御の要となるのがシャルの付与魔法だ。


 『ギャロピスの永走』は昨日ロージルさんから聞いた通りの能力で、十分間継続的に持久力を回復してくれる魔法だ。

 疲労と回復のバランスを考えて上手く立ち回れば、スタミナの消費ゼロで汗一つかかずに動き続けられるらしい。

 しかし、回復を上回るスタミナ消費をした場合、急激に疲労と筋肉痛の反動が押し寄せる。ただ便利な魔法ってわけじゃなくて、それなりにリスクはあるんだな。

 それすらも無効化できる治癒魔法をシャルは使えるという。


 「でもこの魔法はからだを動きはじめる前に戻しちゃうんです。だからからだをきたえたいときにはむいてないんですよぅ」


 と、困り笑顔で笑うシャル。

 苛烈な戦闘は身体を虐め抜くような使い方をすることになる。それを無事に切り抜ければ、残った疲労は回復すれば心肺機能の向上に繋がるし、筋肉痛は身体をさらに強く作り変える。戦士として強くなるには最も効率の良い鍛え方だ。もちろんハイリスク過ぎるんだけど。

 それを無効化できる治癒魔法とは……。筋トレした後にこんなのかけられたら俺ならぶち切れそうだけど、今回は作戦成功が第一だ。必要ならかけてもらうしかないよな。


 『ゴステロスの硬壁』は防御力上昇の魔法で、敵の打・斬・突の物理属性攻撃の威力と痛みを十分間半減することができるそうだ。見えない硬い鎧を着てる感じになるんだろうか?


 最後に『ライデンマンドルの被膜』は、少しヌルヌルした感触のある、実体のない薄い被膜に全身が包まれ、電撃系の攻撃を無効化してくれるそうだ。

 ヌルヌルするのは嫌だなぁ。実体が無いとはいえ、剣がすっぽ抜けたりしないだろうな。


 どの魔法も効果時間は十分。同じ魔法の重ねがけは不可。リキャストタイムは五分だそうだ。


 「シャル、魔法三つで一セットとして、何回くらいかけられるんだ?」

 「五十回くらいはいけますよー! 魔力回復のジェムももってきましたから、もっとできます!」


 俺の質問にムンッと力コブを作って見せてくれるが、ローブで見えないしあんなほっそい腕ではコブなんてできてないだろう。しかし魔力が呆れるほど多いな。

 傷の治癒にも魔力が必要になるかもしれないから、回数は少な目に見積もっといた方がいいだろう。



 次は『キリバチ』と『ヒラグモ』の行動パターンと部位破壊の場所、壊しちゃいけない核の位置を聞いておく。



 キリバチは素早く飛び回りながら、左右の回転刃で切りつけてくる。尾の先に麻痺毒があって、こっちがメインの攻撃手段だそうだ。

 回転刃を振り回しこちらが防御している隙に、別の個体が死角から針で戦闘不能にする。連携のとれた戦い方をしてくるので、常に周囲のキリバチ全体に気を配る必要がある。

 先に羽根を切り落とし、地面に落ちてから毒針と回転刃を破壊する。ついでに脚を破壊しとけば逃げられなくすることができる。



 ヒラグモは左右ジグザグに移動しながら接近し、間近に来ると口に見える部分から電撃を放ち、こちらを戦闘不能にしてくる。電撃は放射の前兆でパチパチと口が光るので避けやすいのと、一撃放ったら二撃目までのタイムラグがある。その弱点を補うために他のヒラグモと入れ替わるので、逃がさぬように脚を全て先に壊しとくらしい。こちらも口を先に壊すと口が自動修復するまで逃げ回って面倒なことになるそうだ。



 後はチーダスさんによる『鐘』の遺跡についての説明。


 百二十年くらい前に、他の大陸にある『鐘』の遺跡を攻略したという研究所が学会に発表し、公式文書として認められたらしい。

 で、その翌年に国の命令でここカレイセムの『鐘』の調査をした。穴を掘って遺跡を探しだし、人が入れるようにはされているそうだが、計画自体がすぐに凍結された。しかし遺跡に入るための入り口の維持に魔力が必要らしく、放置して魔力切れにしてしまえば再度遺跡に入るのが困難になってしまう。だから計画が再開されることを願って定期的に魔力の補充はされているそうだ。


 その公式文書の写しとカレイセムでの調査報告がここの資料室と侯爵城にもあったそうで、それを見つけた中将が二年前にもそれを参考にして遺跡攻略に挑んだ。

 もっとも、中将からしたら攻略パーティすら集められなかった時点で失敗するのは目に見えていたので、遺跡に入ってすぐ逃げるのを前提に、その公式文書がどの程度信頼できるのか見ておきたかったんだとか。

 遺跡の最奥部には少し広い部屋があり、通路から見て正面にある壁に扉がある。それを数人の冒険者でこじ開け研究員を中に入れ、公式文書に書かれた手順で衛兵の動作を止める……というのが今回最も重要なポイントだ。


 「百年以上前に一ヵ所攻略されてから、他の『鐘』が攻略されたって報告は学会に上がってないんですか? 普通ならもっと各地で攻略されてても不思議じゃないと思うんですけど」

 「奥まで行って衛兵を止めても、他に何も手に入らなかったそうだよ。キツいだけの遺跡なんて誰も攻略したがらないってのが常識だからね。それに『ヌーメリウスの鐘』の文献はここルーリライアス領にしかなくて、学会発足前の物だし後の世で検証による証明が何もされてないから、学会に発表したとしても誰にも相手にされないんだ」


 と、チーダスさんは苦笑する。他の研究員さんの様子からして『鐘』の文献を読んだことはあっても眉唾程度にしか捉えてないようだ。


 つまり『鐘』の文献を信じて攻略しようとしてるのは中将と大佐だけで、研究員さん達はそれが証明できれば重大な発表になるという、金鉱を掘り当てて一攫千金的なギャンブル性の高い挑戦になるらしい。まぁそれを学会に発表したとして、一カルダにもならないそうだけど。


 「とにかく最奥の部屋に入って、この文書通りの手順をすれば衛兵は止まるって話だ。多分僕達を部屋に入れて三分程度防衛してくれれば、衛兵は止まる筈だよ」


 チーダスさんは手順が書かれているらしい紙をパンパンと指で弾いてみせる。


 

 「……と、まぁこんなもんだろう。後は遺跡の規模がどの程度なのかで衛兵の数が違うかもしれねぇな。俺達が入ったことあるのはあんまり大きくないところでよ、もしそれよりもでっかかったら別のヤツも出てくるかもしれねぇ。不測の事態もありうることを忘れねぇでくれよ?」


 そういってザンタさんは説明を締め括った。俺達はみんな頷いてみせる。


 「では、向かうとするか」


 中将の合図でチーダスさんが鍵を取り出し、檻の扉を開け、続けて建物の扉を開けて中に入る。俺達も後を追った。

 大佐が壁のスイッチを押すと狭い部屋が魔光灯の明かりで照らされる。部屋にあったのは地下へと続く鉄製の螺旋階段だけだった。階段の壁にも等間隔に魔光灯が備え付けられ、灯りが下へ下へと続いているのが覗き見えた。


 「どんだけ深いんですこれ……?」

 「五十メートルはあるよ。帰りがちょっとしんどいんだよね」


 隣のチーダスさんが答えてくれる。

 中将を先頭に階段を降り始める。階段の幅は二人並んで降りられる程度なので、皆一人ずつ降りた。


 「シャル、大丈夫か?」


 俺の後ろを降りるシャルに声をかける。大人達と比べると身長が随分と低いシャルは当然歩幅も狭い。結構急な螺旋階段は一段が高いので、一段ずつ降りるシャルは大人に合わせると早歩きになってる。


 「降りるのは大丈夫ですよ? 帰りはとちゅうでざせつするかもです」


 実際には下りの方が登りより膝への負担は大きいのだが、いくら巨乳とはいえシャルの体重は大人よりかなり軽い。むしろ筋力の方ができてないので、登りの方がダメージがデカいだろう。

 一生懸命に早足で降りながら、シャルはにへらと笑ってみせた。その声が届いたようで、中将の降りる速度が少し弱まる。


 「帰りは行けるとこまで上がってみろな。後は背負ってやるから」

 「ぜったいに上まであがるのですよ! わたしまけません!」


 俺の言葉は真面目な性格のシャルを煽ってしまったようで、より気合いを入れて降り始める。自分を高めるために頑張るヤツは好ましい。骨は拾ってやるから頑張れー。




 階段を一番下まで降りると、また小さな部屋に着いた。正面に扉があり、扉のある壁にはなにやら機械のようなものが付いている。それにはジェムらしき物が嵌め込まれていて、虹色に鈍く光が揺らいでいた。扉も表面が薄い虹色に揺らいでいる。なんだろう……?


 「この先が遺跡内部になります。中に入ったらこの扉のように虹色の空間がありますので、そこから出ないでくださいね」


 鍵を開けたチーダスさんがみんなに注意する。そして扉を開けて、全員を遺跡へと入れる。

 遺跡へと踏み入れて最初に感じた違和感は周囲の明るさだった。

 地下五十メートルも潜れば陽の光が射さないのだから真っ暗だろうってのはバカでも判る。なのに辺りは昼間に大きな鎧戸を全開にした部屋の中のような明るさで満ち足りていた。光源が無いのにほどよく明るいってのが俺にとっては常識外で、なんか気持ち悪い。


 通路の行き止まりに見える、いわゆる袋小路的な所へと出た。この空間は、道幅も高さも大体四メートル四方くらいで、虹色の範囲も四×四×四メートルくらいの範囲だ。

 出てきた扉がチーダスさんに閉められるのを見ながら周囲を見渡す。水面に落ちた油のようにヌラヌラと揺れる壁面に触れると、予想外のざらりとした感触に驚いて手を引っ込めた。

 

 「俺達が入ったことのある遺跡にゃあこんな虹色の空間なんてなかったぜ。おいチーダス。やっぱこの空間から一歩出ると、あの古代語らしい声が聞こえた後、衛兵が無数に押し寄せて来るって考えていいのか?」


 なんか嫌な事を思い出したかのように顔をしかめるザンタさん。


 「うん、だから準備が整うまでは虹色の空間から出ないでね?」


 チーダスさんの説明によると、この虹色の空間は元々古代遺跡にあったものではなく、遺跡を発掘した者達が試行錯誤して造り出した空間なんだそうだ。

 過去、古代文明の研究が盛んになってきた頃、『鐘』の柱の立つ周辺にはいくつもの生きた(・・・)遺跡が地下にあると各地で判明され、一度造られた街の建物を造りなおすくらいに、発掘が行われていたらしい。

 大抵の遺跡はこの『鐘』の遺跡ほど深い場所で発見されたわけではなく、十メートルくらいの地下で見つかった。

 浅い地下遺跡は通路も短く部屋数も少なく、衛兵も一度倒せば復活しないことが多く、少しの『キューブ』や古代人の持ち物らしき物が発見された。

 もちろんその発掘過程で死んだ(・・・)遺跡らしき跡も見つけたそうだが、状態維持と思われる効果を失った地下空間は圧力で潰れ、特有の砂の地層に成り果てていたそうだ。


 で、此処ドライクル王国の首都やどの街でも発見されていない『鐘』の遺跡。国の方針でまず試しにカレイセムで探してみようといくつもの試掘孔を掘り、その内の一つが五十メートルほどの地下にこの空間を掘り当てる。

 内部の確認のため数人入れる程度に穴を広げ螺旋階段も造る。

 満を持して遺跡の壁に穴を開け、一人遺跡内に侵入すると、謎の言語の声が響き、無数の衛兵に襲われ慌てて逃げ出した。その直後に壁の穴がジワジワと塞がっていったらしい。


 遺跡の内部は自動修復の機能があるようで、壁や天井は勝手に直るし、逃げ出した際に放置した荷物も綺麗さっぱり無くなっていた。外から持ち込んだ物も、一定時間放置すれば遺跡に取り込まれる事が判った。

 何とか調査を続けたかった当時の研究員達が考え出したのが、この虹色に揺らぐ素材。『スニーキングリザードの皮』を錬金術で加工した壁紙だ。

 姿を周囲に溶け込ませ隠れる能力をもつ大トカゲの皮は、加工すると紅月の『忍』と同じ効果があるみたいだ。開けた穴をその壁紙で隠せば、穴が無かったように見せられるし、この空間のように周囲を被ってしまえば、外からは壁紙を貼る前の誰も居ない空間に見えるって言うのだから凄い。

 人や魔獣に効く効果が遺跡に効くのか、と驚いたが上手くいったらしい。


 「こうやって活動範囲を広げようとしたらしいんだけどね、予算がべらぼうにかかるし、ただでさえ見つからないスニーキングリザードの狩りなんて上手くいく筈もない。すぐに国から中止命令が出て計画が頓挫したらしいよ」

 「俺らが入ったことのある遺跡は、冒険者パーティ一組か二組で攻略できてたぜ? そこまで資金かけてやるなら冒険者雇った方が安上がりじゃねぇか?」


 衛兵に襲われないようにチマチマとトカゲの皮を貼って安全圏を広げ、結局予算オーバーで頓挫した国の研究所のやり方に呆れるザンタさん。

 今回みたいに一気に攻略した方が、条件が厳しいけど時間も予算も節約できる。


 「この街は昔っから常に戦力不足なんだよ。ザンタさん達みたいに活躍できる冒険者は余所の国に出ていくし、余所から優れた冒険者が入ってくることもないんだからさ」



 苦笑しながら教えてくれるチーダスさん。

 ん? 待てよ?


 「これって『忍』のスキルと同じ効果があるなら、スキル所有者だけで調査すれば安全に奥までいけるんじゃない?」


 俺の答えに唖然とする研究員三人。チーダスさんはハッと何か気がついて首をブンブン振る。


 「ムリムリムリ! 『忍』は緋の国の特殊部隊だけが持つスキルって噂だよ。修得条件だって明らかにされてないんだ。そんな人材を集めるなんて不可能だよ。なんでそんなスキルを知ってんのさ?」


 チーダスさんは紅月のことを知らないのか? 中将と大佐に目を向けると、二人とも首を横に振る。なんか黙っておいた方がいいらしいので話を逸らす。


 「じゃあさ、この素材で全身を被うマントかスーツを作ればいいんじゃない?」

 「それもやったらしいんだけどね。スニーキングリザードがこの能力を使う時には、じっとして動かないのが発動条件みたいで、そこから作られたこの素材もその特性は変わらなかったようだよ」


 なるほどー。さすがに俺程度が思い付くことは既にやっていたか。

 楽して進む方法があればと思ったけど残念だ。


 「さて、始めるとするか。シャルンティン、頼む」

 「はい!」


 中将の合図でシャルを中心としたフォーメーションを組む。左右後方に少しずれるとはいえ三人が並んで戦うにはこの通路はちょっと狭い。俺の剣ではリーチが長過ぎるかも知れないので、最初からハチェットを抜く。どうせ技後に硬直のあるスキルは使えない。昨日の素振りで大体のクセは掴んだからこっちでいける筈だ。ザンタさん夫妻と目が合ったのでハチェットを軽く振ってみせると、ニカッと笑ってくれた。


 「女神様、慈悲深く気高き我らがサスティリア様。我が名はシャルンティン。我の心を捧げます。我らにギャロピスの如く走り続ける力を、あの力強く疲れを知らず、前に進む力を我らに与えて下さいませ」


 シャルの詠唱でみんなに光が降り注ぐ。立て続けに『ゴステロスの硬壁』と『ライデンマンドルの被膜』をかけてくれる。

 ……なるほど、液体も何も付いてないのに全身がヌルッとして変な感じだ。武器が滑って握れない感じはしないので安心した。


 「よし、マビァ先頭を頼む」

 「了解」


 全員虹色の空間から出たところで辺りに声が響いた。天井の一部が等間隔に赤く明滅しだした。


 【警告。当施設の担当職員以外の人物による無許可での立ち入りは禁止されています。登録証を提示されない場合は、不法侵入と見なし、即刻排除します。繰り返します……】


 なんだ? いきなり物騒な内容の警告文が女の声で聞こえてきた。誰か居てこっちを見てるのか?


 「おう、これよこれ! 何言ってんのかサッパリわかんねぇけど、生きた遺跡に入ると必ず最初に何かしゃべりだすんだよな。懐かしいぜ」


 辺りをキョロキョロと見渡しているとザンタさんがニヤリと笑った。


 「古代文明語は読み書きはできるんだけど、発音は全然解明されてないからね。僕らにも分かんないけど、多分不法侵入に対する決まり文句かなんかだと思うよ」

 「え? この声って古代文明語しゃべってんの? 俺には普通の言語にしか聞こえないんだけど」

 「……は?」


 みんながこちらを向く。シャル以外が「何言ってんだ?」って顔になってる。

 

 「……マビァくん、君はこれが何言ってるのか分かるのかい?」

 「分かるってゆーか、みんなと話してる言葉との区別ができないんですよ」

 「じゃ、じゃあさ、これは今なんて言ってるんだい?」

 「ええと……、『警告。当施設の担当職員以外の人物による無許可での立ち入りは禁止されています。登録証を提示されない場合は、不法侵入と見なし、即刻排除します』って繰り返してますね」


 俺は繰り返し聞こえる声をそのまま(なぞ)るようにしゃべる。そこで警告の音声が途絶えた。赤い光も止まり元の明るい通路に戻る。


 「マビァくん、古代文明語をそのまま話されても僕らには分からないよ。ちゃんと訳して話してくれないと」

 「え? 俺、今古代文明語でしゃべってました?」

 「最初の『ええと……』と『って繰り返してますね』以外は、何言ってるのかサッパリ分からなかったよ」


 チーダスさんの言葉にみんながうんうんと頷く。

 俺自身は全く話言葉を変えていないのに、みんなには違う言語に聞こえたらしい。

 どうなってんだ? と頭を捻ってすぐに気が付いた。『プレイヤー』から知らない言葉でも話せる力を貰ってたんだった。


 そもそも、俺が話している言語も元の世界の言葉をそのまま話しているし、それでこっちの世界の人達と普通に話ができている。

 全ての言語が、俺が普通に使っている言語で聞こえるんだから訳し方が分からない。今のも聞こえた通りにしゃべったら古代文明語になっていたみたいだ。すっげぇ便利な力なのに言語の使い分けができないとは……。

 どうしたもんかと悩んでいる俺を、研究員三人がギラギラした目付きで見ていた。良い研究素材を見つけたって顔をしている。


 「話はそこまでだ。そろそろ来るぞ。進めマビァ」

 「うす!」


 中将の合図で前進を始める。数歩進んだだけで前方の壁や床から大きな虫のようなものが大量に湧き出してきた。

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