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五日目 手解きとロージルさん家へ

 壁に立て掛けてた盾を取って装着し、広いところへ移動して木製片手斧を構える。

 実物とほぼ同じ重さの木製片手斧は、俺の剣の二倍くらいの重さで、全長六十センチぐらいで幅広で同じ形の斧刃が左右にあるタイプだ。重心は柄の埋まる斧腹にある。


 実物と同じ重さにするために、そこへガラムさん監修の鉄塊が嵌め込んであり、斧刃全体のバランスは完璧なのだが、この武器の特性上全長の先端寄りに重心があるので、先端が下に引っ張られるのは仕方がない。

 なるほど、これじゃあ中段の構えでは初動でどう動くとしても中途半端な攻撃になるだけだ。


 もしこれが俺の剣だったら重心は鍔のあたり。振り回すのには都合の良いバランスだが、その分攻撃に重量が載らないために、斧に比べて軽い斬撃になってしまう。

 柄をまっすぐ上に立てて、重心が握りの真上にくる構えが正しいらしい。

 そういえば、ハンターの重量武器使いも最初の構えは真上に構えるか、真下に下ろす構えしかしていなかった。後は肩に担ぐくらいか?


 試しに真上の構えから左足を踏み出して振り下ろしてみるが、やはり剣より重いので出だしが遅く、速度も目に見えて遅い。リーチも剣より短いから攻撃範囲も狭い。やはり遠心力による加速が必要みたいだ。

 今度は左斜め下に斬り下ろし、踏み出した左足を軸に身体を一回転させて真下へと振り下ろす。

 加速した刃を地面に叩きつけ、手に衝撃がビリビリと伝わった。これなら十分に破壊力がありそうだ。

 ワンアクション増やした分、ただ振り下ろすより速度も破壊力も二倍はあるかな? 実戦ではその分早めに動き出さなきゃいけないから、一瞬先の予測をしながら技を繰り出す必要があるだろう。これは重量武器全てに言えそうだけど。


 続いて連続斬りをしてみる。加速用の一回転後に横薙ぎ、斬り上げ、斬り下ろしの三連だ。回転ごとに加速が増すので、勢いを殺さないように斧刃の角度を変えながら回転し、最後に地面に叩きつけた。


 「おお~!」


 中庭の隅にある丸太に座った三人から歓声が上がる。


 「片手斧はこんな感じかな? あんたらの武器の中じゃ一番扱いやすいけど、遠心力で斧刃を加速させて相手に叩きつけるのが普通だろう。まぁこれは、あんたらより非力な俺がこの武器の特性を活かすためには、こう動いた方がいいからなんだけど。

 ゴリゴリなあんたらなら、キラーウルフ程度ならそのまま力一杯振り下ろせば十分に必殺の一撃になるんだ。逆に言うと、一撃目で倒せなければ武器の重いこちらは立て直しが遅れる。隙だらけになったところを反撃されるんだ。それで敗けた経験はあるんじゃないか?」


 俺の言葉に三人は俯いて頷く。これがイモムシ狩りに転向した原因かな?


 「自分より素早い敵を相手にするには、相手の行動を予測する必要があるよな? 一昨日、幻獣召喚のキラーウルフ相手にあんたらに防御だけさせたのは、相手の動きに慣れ行動の予測をさせるためでもあったんだ。三十分を三回やったから、キラーウルフがどのタイミングで突進してくるのか、もう大体判っただろ? それをイメージして斬りつけるように素振りで練習すりゃあいい」


 「おお~」と声を揃え納得する三人。


 早速、俺のマネをしようとオルティーガが立ち上がり、ギシギシと軋む身体で片手斧を振り上げるが、手に力が入らず斧を落としそうになる。


 「おおっと、あぶねぇ。上手く動けねぇや……いてて」

 「焦らなくていい。そのうち身体が慣れてくるから身体を休めることに専念した方がいい。今は話を聞いてイメージするだけでもいいんだ。繰り返しイメージしていれば、実際に動いた時に感覚を掴みやすくなる。これはスキル修得にも必要なことだからな」


 オルティーガは痛む身体を引き摺って、二人の側に座り直す。三人とも今すぐ何かしたいのに、身体が動かなくてもどかしいといった表情でこちらを見つめる。


 さて、やっとスキル修得のコツを教える準備ができた。


 「スキルを修得する為には、武器を構え、振る。この動作を、同じ剣速で同じタイミング、同じ軌道で放てるようにならなきゃいけないんだ。見ててくれ」


 俺は壁に立て掛けてた剣と木製斧とを交換する。

 剣を抜いて鞘を地面に置き、いつもの中段に構えた。

 実演して見せるのは上段斬り下ろしの縦斬り単発スキル『スライス』だ。

 今の構えからスキルの起点である高さまで振り上げ、左足を踏み込んで、斬り下ろす。

 一連の動作を、まずはゆっくりとした動きで三回見せて、次は通常攻撃の速度で三回見せる。

 最後にスキルを発動させて勢いよく放つ。

 赤く光る剣身が数倍の速度で空気を裂いて、辺りの空気を押し退け軽く風が吹き荒れた。


 「お……おぉ。やっぱすげぇや」


 呆然とこっちを見つめる三人を置いといて剣を鞘に戻し、また壁に立て掛ける。


 「とにかく同じ動作で同じ攻撃を繰り出せるようになること。素振りで何度も練習してみてくれ。で、明後日アオムー狩りに行くなら、動きの遅い獲物は丁度いい練習台になるから、ひたすら単発縦斬りだけで討伐するんだ。そうすりゃいつかは頭の中でピロリンって音が弾けてスキル修得が可能になる筈だ。

 さらに続けて鍛練していれば、さっき俺が見せた三連斬りみたいなのもスキルとして昇華させることができるようになる筈だ。自分なりに考えて新しい技を作り出すこともできるだろうから、可能性は無限大なんだ。ワクワクするだろ?」


 俺の煽りに目を輝かせ、身震いする三人。


 「あ、ああ! そんな話聞かされて燃えないヤツなんて男じゃねぇ! 絶対にモノにしてやるぜっ!! ……いてて」

 「お、俺の大剣も使って見せてくれよ!……うぐっ」

 「うおお……。今見た動きを覚えているうちに練習したいのに、か、身体が……」


 やる気が漲っているのに、身体が悲鳴を上げている三人。今日は残念だけど諦めるしかないな。


 両手斧と両手剣も振って見せ、マッチューとガイヤーンになんとなく感じたコツだけを教えて今日はもう帰らせる。

 明日のワニ肉無料配布をどれだけ多くゲットできるか、他のパーティと相談するために急いで帰っていった。


 俺一人中庭に残り、ハチェットの素振りを再開する。

 約束の十分前に出るとして、後四十分くらいしかない。

 スキルがまだ使えないから、時間いっぱい動き続けたとしても体力は大して消耗しそうにない。これじゃあまだ腹が減りそうにないなぁ。




 十分前になったのでギルドを出てロージルさんの住屋へと向かう。

 工場や職人達の住屋が多い街の南東一帯は、明日の休日は一斉に休みになるのだろう。陽気な住人達が家の庭や小さな酒場などで酒宴をして楽しんでいた。

 ワイワイと賑やかな通りを歩きながら、なんかいいなーこの雰囲気……と感じながら行く道を急いだ。



 ロージルさんの住屋のベルをチリリンと引くと、やはり現れたのはイルマさんだった。


 「よお、時間丁度だな」

 「護衛ご苦労様ですイルマさん。怪しいヤツにつけられたとか無かったですか?」

 「ああ、昨日も今日も特に何もなかったよ。今日なんか休日前で皆浮かれてるから、痴漢の一人や二人湧いてもおかしくないと思ったんだがなぁ。隙だらけで歩いて襲ってきたら返り討ちにしてやろうと思ってたのに、声一つかけられなかった」


 腕を組んでムスッとした表情で答えるイルマさん。

 痴漢を返り討ちにできなくて怒っているのか、美女二人が隙だらけで歩いてんのに、誰一人声をかけてこないことに怒っているのか……。


 隙だらけって言ってもこの人の場合、普段から殺気纏ってるように感じるんだよな……。普通に恐くて誰も近寄れなかっただけなんじゃないか?


 微妙な女心に呆れそうになるが、俺は感情が顔に出やすいとコニスに指摘されたばかりだ。ここで顔に出してイルマさんをより不機嫌にさせてもいいことは一つもないので、「問題なくてなによりです」と無難に答えておく。


 部屋の奥から機嫌の良さそうな鼻歌が聞こえてくる。料理の良い匂いも漂ってくる奥をチラリと見たあと、今日の昼間にロージルさんとの会話で感じたことをイルマさんに話しておいた。

 あの時はギルドに帰ったらすぐ話そうと思ってたのに、駐屯基地から帰ってみれば、ロージルさんが鼻血を噴いてぶっ倒れてたもんだからすっかり忘れていた。


 街の外にいっぱいテント屋が出て、お客達が焚き火を囲んで夜を過ごすと聞いて、俺がそういうのが好きだと言ったら、ロージルさんが「自分はそういった経験が無いので少し羨ましいですわ」と言った件についてだ。


 「あの時の笑顔や仕草であんなこと言われるとさ、男なら誰だって『誘ってほしいのかな?』って思うわけですよ。そんな感じでロージルさんが男に勘違いさせちゃったってこと、これまでにもあったんじゃないですか?」


 俺の話を聞いて、なんとも言えない苦い顔になるイルマさん。


 「む~……。確かに何度かあるな。でも、あたし自身が男心に敏感なわけじゃないからなぁ」


 なんでも、男の冒険者や職員とロージルさんが話しているのを見ていた時に、何度か男の方が急にデートに誘ったり嬉しそうに照れたりしたことがあったらしい。

 と、ここで前にコニスが言ってたことを思い出す。


 「そういやコニスが似たようなことを言ってましたっけ? 確か『妖艶なる死の永久凍土』と『凍結粉砕機フリーズ・クラッシャー』なんて変な異名を付けられた原因を」


 俺の言葉にポンと手を打つイルマさん。


 「あぁ、それだ。見ていて男達が『なんで今そんな行動に出る?!』ってあたしも驚いたことが何度もあったが、相手の男目線からすれば、そういった理由があったってわけか」

 「ロージルさん、やっぱ無自覚なんでしょうけど、アレにならなくても普段から十分に男タラシですよ。コニスのあざとさみたいに判りやすかったら対応も楽なんですけど、ロージルさんの場合は自然にさらっと会話に入れるから、俺みたいに恋愛対象にされてないの判っていても引っ掛かりかけましたよ。なんか対策考えた方がいいんじゃないですかね?」

 「う~~ん…………」


 頭を捻って悩むイルマさん。しばらくして大きく溜め息を吐いた。


 「一旦持ち帰って、ウチの旦那に相談してみるよ」

 「は? イルマさん、け、けけけ結婚してたんですか?!」

 「んぁ? なんかおかしいか?」

 「いえいえ、滅相もない」


 ブンブンと首と手を振って即座に否定する俺。


 ……すげぇな、こんな怖い人を嫁にもらえる勇者がいるんだ。


 「ウチの旦那は美容師をやっててね。大勢のお客に接する仕事だから人の心の機微ってのに敏感なんだ。ロージルは結局、自分が他人にどう見られているかってのに鈍いから相手から誤解されやすくなってんだろ? ウチの旦那とは真逆だからさ、相談相手にはいいかもしれないんだ」


 『美容師』ってのは、元の世界での『床屋』や『髪結い師』に近いものらしい。老若男女問わずに髪を切ったり結ったり、髭を剃ったり洗髪したりする職業みたいなので、お客に気持ちよく利用してもらうためには、お客の気持ちを汲み取り仕事をする必要があるのだろう。無神経なことばかり言う店には行きたくなくなるもんな。

 ちなみに俺のモジャ髪は、裏町にある床屋のじいさんに適当に刈ってもらっている。どうせ纏めようの無いクセッ毛だから戦闘で邪魔にならなきゃそんなに気にしない。


 「それからコニス、あいつからも相談されたぞ? まったく君が動く度に面倒事が増えてるんじゃないのか?」


 ガジガジと火の着いていないタバコを齧りながら睨んでくるイルマさん。


 「コニスとエリ公……エリンテル神官長の件は何ヵ月も前から続いてんでしょ? 俺は目の前でエリンテルの暴走を見せられたし、コニスがあまりにも凹んでたから希望をチラつかせたというか、適当に慰めたというか……」

 「…………無責任で酷かないか? それ」


 俺の言い様にドン引くイルマさん。


 「どう考えたって、コニスとエリンテルの間に俺の責任は無いでしょ。それよりも俺が『ロージルさんを淫乱に見せる魔法』を使える、なんて設定にしたのって、なんか元ネタみたいなもんがあるんじゃないかって思ったからイルマさん達に相談させたんですけど、どうなんです?」

 「……まぁね。そんな魔法や薬があるってのを聞いたことがあるくらいさ。リーデルの旦那が錬金術師だから、コニスの件はそっちに相談するつもりさ。しかしロージルの件で手一杯なのに同時に処理する必要があるのか?」


 ここにきてロージルさんの姉、リーデルさんが関わるか。

 リーデルさんは長い年月をかけてロージルさんを『男同士の恋愛小説好き』に洗脳してるのではないか? という疑惑のある人だ。

 まだ会ったことはないけど、イルマさん曰く『知らないうちに色々暗躍されたことがある』そうなので、どうしても警戒してしまう。


 む~~……、正直まともに話が進みそうに無い気もするけど大丈夫かなぁ?

  リーデルさんの旦那さんについては何も知らない。錬金術師ならコニスの助けになるかもしれないけど、現状では急ぐ話でもない。


 「俺だってロージルさんだけで手一杯ですよ。コニスの方は後からでもいいんじゃないですか? エリンテルの欲求不満を薬で一度発散してみたところで、すぐに解決するもんでもないだろうし」


 そう、あくまで『聖書で抑えつけられ続ける欲望を解放できたらどうなるのか?』を見るために薬なり魔法なりを探しているので、いきなりそれで解決したりはしないだろう。


 「で、思ったんですけど、ロージルさんとエリンテルの症状って、なんか似てると思いません? 向かう方向性は違うけど急にわーってなる感じっていうか、自分をコントロールできなくなる辺りとか。この街に『鐘』以外の何かがあったりしないですよね?」

 「確かに症状が似てる気もするが、あたしがそんなこと知るわけないだろ。そもそも『鐘』ついても君から今日初めて聞いたんだ。それでさえ半信半疑だってのに」


 ……言われてみれば確かにそうだ。俺だって『鐘』の件について知ったのは、イルマさんとそう時間差があるわけではない。

 この件に対しては、あまりにも情報不足なので対処しようもない。たった二例で物事を決めつける方がおかしい。


 「あたしも学生時代の三年間以外は、ずっとこの街で生きてきたんだ。それでもロージルのアレに似た症状なんて見たことも聞いたことも無いんだから、たまたまなんじゃないか?」

 「ですかねぇ。なんか原因があって、それさえ取り除けば解決するってんなら少しは楽かと思ったんですけどね」

 「ああ、まったくだ。具体的な対処法が無く、取り敢えず効果があるかも分からない何かをするしかないってのが、実にもどかしい」


 組んだ腕の上で指をトントンと叩くイルマさん。

 かなりイラついてるなぁ。今日だけでロージルさんは二回も気絶したんだから分からなくもない。


 「そうそう、明日はあたしとロージルの二人は休みだからよろしくな。君の対応ができるのがコニスだけになるんだから、あまりムチャしないでやってくれ」

 「そうなんだ。まぁ明日は午前中以外は予定が無いから、問題ないんじゃないかなぁ?」

 「毎日あれこれとやらかしといて、どの口がそんなことを言えるんだ。まったく当てにならんよ君は」


 やれやれ、肩を竦めるイルマさん。

 俺はほとんどの件で巻き込まれてるだけな気もするんだけどなぁ。


 「しかし、纏め役の二人が同時に休んでも大丈夫なんですか? ギルマス不在の中でコニスだけってのは、いくら優秀だからってちょっと心配なんですけど」


 明日は特に、これまでにないほどの人の数で街が溢れかえる。兵士に指摘された『冒険者達の素行の悪さ』で問題でも起きた場合、コニスひとりで対応が間に合うのだろうか。

 『ヌーメリウスの鐘』の効果が確かなら、正午に鳴る鐘の音を長年聴いてきたこの国の街に住む人達には強い抑止力が働いているので、諍いが起きたとしても精々罵詈雑言を放つくらいで、自ら殴り合いにまで発展させることはないと思う。

 しかし、鐘の効果範囲外の近隣の村々やお隣のヨーグニル王国から来ている人達には、『鐘』の効果はなく、正午に鐘の音を聴いたとしても、たった一度でどれほどの効果があるのか分からない。

 カイエン侯爵から聞いた昔話でも、侵略側の兵士達に効果が現れるのに何日もかかっていたみたいだし。


 つまり、『素行の悪い冒険者』が『鐘の効果を受けていない余所者』に絡んでいった場合、その余所者を無駄に怒らせて暴力沙汰に発展するかもしれないんだ。

 そうなった場合、街の兵士は役立たずだし、サブマスとはいえコニスは成人したばかりな上、威厳を感じさせないので、怒り狂う余所の大人達を押さえつけられるタイプではない。なんとか宥めすかすことならできそうだけど。

 こういった時に相手を問答無用で黙らせられそうなのが、イルマさんとロージルさんしかいない気がするんだよな。

 そんな二人が同時に休むなんて、心配になっても仕方がないと思う。


 「しょうがないだろ? ロージルは出血多量で体調不良だし、しばらくは目を離すわけにはいかないんだから。他のみんなには無理言ってシフトを変えてもらったんだ。調整して休める日は明日だけで、そのあとしばらく二人同時に休める日はないんだぞ? 誰かさんのお陰でな」


 ジロリと睨んでくるイルマさん。

 ワニ素材の流通や相場作り。皮革加工ギルドの規模拡張に、ワニ罠の管理に関する取り決め。市議会との打ち合せなどなど……。やることはいくらでもあるらしい。

 そりゃそうか。冒険者ギルドだけでも改革中でフワフワと浮き足だっているのに、街全体で新事業を立ち上げようとしてるんだ。動き出してまだ数日しか経っていないのだから、どれも草案すらできていないだろう。


 ……確かに俺が冒険者ギルドを引っ掻き回したことによって、職員達が忙しくなったのは認めるけど、それは元々のギルドの体制がダメダメ過ぎたからだし、ワニ関連で街が忙しくなってるのは、ウェルが張り切り過ぎてるからだと思うんだけどなー。

 俺悪くないじゃん? って思いつつも、イルマさんが怖いので、「はははー」と笑って誤魔化すことにする。



 話の句切りが丁度良いところでロージルさんの準備が終わったらしい。パタパタとスリッパの足音をさせながら奥から出てくる。


 「ごめんなさいマビァさん。少し遅くなってしまいまして……」

 「いや、イルマさんに聞きたいことがあったから丁度良かったよ。今から持っていけば、昨日と同じくらいの時間になりそうだし」

 「そうですか。ではこれ……お願いいたします!」


 昨日よりちょっと大きい包みと、紐の付いた円柱形の物を突き出す。

 昨日みたいにエロさ全開では無いが、ハァハァ赤いロージルさん。少しはマシになってんのかな?

 受け取るとずしりと重く、円柱形の物は中でタプンと液体が揺れる感じがした。これは水筒かな?


 「その水筒の中には冷たいスープが入っています。お気に召されたら良いのですけれど」


 モジモジと身をくねらせるロージルさん。ちょっとエロさが増してきた。

 それよりも包みから漏れる匂いの方が気になった。

 なんか昨日よりスパイス感が強くなってないか?


 「ロージルさん、これ……」

 「すみません。どうしても気持ちが抑えられなくて……」


 あぁ~~…………。またやっちゃったかー。ガラムさん受け取ってくれるかなぁ。


 「きゃんっ!」


 イルマさんが呆れてロージルの後頭部にズビシッとチョップする。悲鳴を上げたロージルさんは頭を抱えて踞った。


 「グスン……痛い、イルマ……」

 「やり過ぎるなと言ったのにこれだ。受け取ってもらえなくても知らないからな」

 「ううぅ……」


 すがるような涙目でこちらを見上げてくるロージルさん。しょうがないなぁ。


 「わかってますって。もし拒否られそうになったら、なんとか説得してみますから」

 「ごめんなさい。よろしくお願いいたしますわ」


 両手の指を組んで、ギュッと目を瞑り祈るように言う。……ダメだったらゴメン。


 一食目は熱々で食べてほしいとロージルさんが呟いたので、それならばと二人に別れを告げて、急いでガラムさんのところへ向かうことにする。


 走って揺らして、中身がぐちゃぐちゃにならないように、走らず揺らさず、できるだけ速く歩いて向かった。

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