五日目 黒い三連狩りへの手解き……?
冒険者ギルドに戻って出入口から屋内をぐるりと見回すと、食堂のテーブルに突っ伏した『黒い三連狩り』の三人を見付けた。俺が出ていた間に帰ってきたようだが、訓練をするように言った他の連中が見当たらない。
まだ中庭の方にいるのか? 周りを見渡しながら三人に近付く。
「お疲れさん。大丈夫か?」
「ああ、マビァさん。待ってたぜ」
マッチューがプルプル震える両手をテーブルに突いて、なんとか上体を起こす。他の二人は眠っていたようで、「ふごっ?!」と鼻を鳴らした後、目を覚まして跳ね起きたが半分寝ぼけたままだ。
「他の奴らは?」
「みんな疲れ切ってたから先に帰らせた。俺達はあんたへの報告と、ちょっと話があってな。待ってたんだ」
「そっか、遅くなって悪かったな。こっちも忙しくてさ。ちょっと待っててくれ」
カウンターへ向かい、冷たいエールをジョッキで三杯買ってテーブルへ戻り三人に配る。
「エールでいいか? 待たせた詫びと今日も頑張った褒美だ。呑んでくれ」
「お、い、いいのか? ありがてぇ!」
「喉渇いてたんだ! 助かるぜ」
「うおぉ! ゴチになりやす!」
三人とも喜んで、半分以上を一気に飲む。戻ってきてからカウンターへ注文に行けないほど疲れていたようだ。
「このあとちゃんとメシ食って寝ろよ? 食わねぇと身体が回復しないからな」
三人して口の周りに泡を付けて、うんうんと頷いた。少しは精気が戻ったらしい。
「で、どうだった?」
「あぁ、みんなあんたの出したメニューをちゃんとこなしたぜ。もう身体中ガッタガタで随分時間もかかっちまったけどな。風呂屋に行った連中は湯の中で寝てんじゃねぇかな?」
「俺らも寝てたから笑えねぇなあ」
「メシ食ってから風呂入ったら間違いなく寝るだろな!」
ガイヤーンとオルティーガも疲れてる割には楽しそうだ。
「明日のワニ肉祭りも食っとけよ? 身体作りには肉がイチバンだし、なんせタダだしな」
俺がそう言うと、三人は少し難しい顔をする。
「マビァさん、あんた今この街にどれだけ人が集まってるか知ってんのかい? 俺達が街の周りを三周する間に防壁の外にすっげえ人数が集まってんだぜ。明日もまだ増えるかも知れねぇから、夏の『コロットセイ水上障害レース』で集まる人数以上だぜこりゃあ……。
一つの店にどれだけ客が並ぶか判らねぇし、人混みが凄すぎてまともに歩けるのかどうか……。そこにこのボロボロの身体で入っていける気がしねえよ」
……確かにそうかもな。今や子供相手でも殺られそうなくらい弱っているのに、明日になれば筋肉痛はさらに酷くなるだろう。そういう時にこそ、あのワニ肉を食べて欲しいんだけどなぁ……。
明日の作戦が順調に終われば、俺が貰ってきてやってもいいんだけど、今日訓練に参加したのが十五~六人だったか? ちょい多めに見積もって二十人前貰ったとして、一人相手に一つの店でそんなに沢山譲ってくれないだろうし、そんな貰い方をすれば後ろに並ぶ他の客からどれだけ反感を買うか分かったもんじゃない。
かといって、各店で二個ずつくらい貰って十軒行列に並んだりしてたらイベントそのものが品切れで終わってしまうだろう。う~む、どうしたものか。
「……なぁ、アイツらに並ばせて貰って来させるってのはどうかな?」
四人でどうしたもんかと首を捻ってると、何か思い付いたのかガイヤーンがポツリと呟いた。
「アイツらって?」
オルティーガが聞き返す。
「ほら、今日特訓を受けた参加パーティの休んだメンバーのヤツらだよ。今日参加した俺らよりは動けるだろうし、人数も丁度半分くらいだからさ。一人当たり二~三個貰ってきてくれりゃあ、全員一個は確実に食えるんじゃねーかな?」
「「「おお! それだ!」」」
ガイヤーンの完璧な提案に残り三人が立ち上がり、ズビシッとガイヤーンを指差す。
俺以外はその直後に「あいたたた……」と椅子に崩れ落ちたけど。
「じゃ、じゃあなるべく食い出のあるモンを選ぼうぜ! 新聞にどの店で何が配られるか書いてあったよな? 早速他のパーティのところに行って作戦練ろうぜ!」
三人はジョッキに残ったエールを飲み干すと、立ち上がって動かない身体で走り出そうとする。
「いやいや、ちょい待てよ。なんか話があるんじゃ無かったのか?」
「おおっと、そうだったぜ! あう、いてて……」
急停止したせいで痛みに呻く三人。戻ってきて椅子に座る。
「話ってのはあれだ。明日から試験場の使用と幻獣召喚を職員に頼むのが有料になるって言うじゃねーか。まぁ大した額じゃねえし? 二~三のパーティで折半すりゃあいいから別に文句はねぇんだけどよ。問題なのはあんたの訓練受けてるあいだ、俺達に収入がねぇって方なんだ。このままじゃ宿代もいずれ無くなるからボチボチ俺らも働かなきゃいけねぇわけでさ」
あー、確かにそうだよな。冒険者なんて日雇い労働より収入が曖昧だもんな。獲物を確実に採ったり狩ったり出来る保証なんてないんだから。
「だから明後日から二日ほど、アオムー狩りしてきてもいいか?」
「もちろん、生活の維持が一番大切だろ。でも、折角生きた魔獣相手にするんなら訓練も合わせてやってみないか?」
「「「訓練も?」」」
三人が同時に首を傾げる。むさい男がやっても可愛くないから止めてほしい。
「攻撃スキルの修得に挑戦してもらいたいんだよ。やる気はあるか?」
「おおおっ!」
「あ、あれだろ? マビァさんがやってた赤く光ってズバンッてヤツ!」
「俺達にもできるのか? やりてぇ! もちろん修得してえよ!」
少年のようにキラキラと目を輝かせる三人。
「じゃあコツみたいなもんを教えるから、中庭にいこうぜ」
席を立ち親指でクイッと中庭を指す。三人はそれぞれの武器を持って立ち上がった。……って、そうか。コイツら元から持ってたメイン武器に加え、俺が買ってやった片手剣と盾、木製武器まで持たせて長距離を歩かせたんだった。
今は剣と盾と木製武器は使わないからギルドの武器庫にでも預けさせてもらおう。俺も剣と盾を返してもらわないと。
食堂を出て四人でギルドのカウンターに向かうと、コニスとロージルさんとイルマさんが丁度帰宅するところに出くわした。三人とも制服から私服に変わっていて、それぞれの個性が出ていて美しさや可愛さが引き立っていた。
「あ、マビァさん。カイエン侯爵様との面会どうでしたか?」
「あぁ、上手くいきそうだって喜んでたぞ」
三連狩りの三人の荷物を預かってもらうように頼むと、他の職員さんが武器庫へ案内してくれると言う。三人を先に行かせ中庭で落ち合おうと言い、コニス達と話をする。
「少し見ない間に武器が一つ増えて、より物騒な出で立ちになったじゃないか」
顔をしかめて咥えた火の着いていないタバコをピコピコ動かすイルマさん。
「俺から言わせりゃ、指先一本で何でも焼き切れそうなイルマさんの方が物騒ですけどね」
俺がハチェットを一つ装備したところで、今のところスキル一つ使えないんだ。総合的な攻撃力のアップにはまだなっていない。対してイルマさんは生身で苛烈な炎を操る。どっちがヤバい存在なのかなんて言うまでもないだろうに。
「ま、まぁその辺で。マビァさん、わたし達もう帰りますし、明日の作戦には関われませんけど、成功を祈ってますので。終わったら報告お願いしますね」
険悪になりかけた俺とイルマさんとの間に入って話を変えるコニス。
「ああ、分かった。ありがとな」
ここでもめても時間の無駄なので、素直に礼を言っといた。イルマさんはこちらを無視して出入口へと向かう。
「マビァさん、わたくしもこれからお弁当作りに入ります。お手数ですが一時間半くらいしたら取りに来て下さいますか?」
ロージルさんが俺に近付き、周囲の気配を伺った後、少し顔を赤らめて囁くように聞いてくる。俺が今朝返した昨日の弁当の包みを小さなバッグと一緒に胸に抱いている。
俺はロビーの壁掛け時計に視線を向けると六時前だった。
「七時半くらいだね。分かった」
俺が頷くとペコリとお辞儀をして、イルマさんを追って駆けて行った。
「じゃあわたしもこれで。マビァさんなら問題無いでしょうけど、お気を付けて!」
「ああ、今日は色々とありがとな。お疲れさん」
クルリと一度回ってから、こちらに手を小さく振ってスキップで帰って行くコニス。
やっぱあざといわー。あれはアレだな。俺に対してじゃなくて、周りの男の職員や冒険者の視線を意識してやりやがったな。それで上手くいってんならまあいいか。
受付嬢に一言ことわり、カウンターの中に入って盾と剣を回収。そのまま中庭に続く扉から外へ出る。
剣を腰に佩き盾を装着して腰のハチェットを右手に握る。
まず重心を把握するために掌の上で横に寝かせ、バランスの取れる重心を探る。
刃から柄へと変わる部分、柄舌にあたるところに重心がある。斧刃と斧頭のハンマーの重さは同じようだ。どっち向きに振っても差異が無いように造られている。
さっきも駐屯基地で軽く振ってみたが、小さくて重いわりには取り回しがしやすい。
軽く腰を落として構えてから、縦斬り下ろし、横薙ぎを放つ。続いて逆袈裟の斬り上げでハンマーを振り抜き、突きも試してみる。これだけ重く硬ければ突きでも骨は砕けるし、剣だって折れそうだ。
様々な角度で振ってみた後、上空にクルクルと投げてから落ちて来たところをパシリと捕まえる。
「やっぱいいな、これ」
艶消しの黒いバトルハチェットを手首で動かしながら眺めていると、後ろから声がかかった。
「おいおい、新しい武器かよ!」
「夜だと暗くて見えねぇな」
「小さいなぁ。そんなので戦えんのか?」
口々に言いながら、マッチュー、オルティーガ、ガイヤーンの三人が建物から出てきた。やはり動きがぎこちない。
「明日仕事で使うことになりそうだから、慣れとこうと思ってな」
「慣れるも何も、キレイに使いこなせてたじゃねーか。鮮やか過ぎて見とれちまったぜ。なあ?」
マッチューの言葉にうんうんと頷く二人。
「使いやすい癖の無い良い武器だからな。でもさっき程度の動きは基礎中の基礎だろ」
一旦ハチェットを腰に戻しながら言う。
「いやぁ俺達じゃああんな動きはできねぇよ」
「そりゃそうだ。このハチェットは軽量型の武器なんだから、あんたらの重量型の武器とは使い勝手がまるで違う。身体の動かし方だって俺の動きじゃ参考にもならねーよ。ちょっとそれ貸してくれるか?」
剣と盾を壁に立て掛け、マッチューの両手斧を借りる。
ズシリと重い両手斧は俺の剣四本分以上はあるだろうか? 全長一メートルくらいで、片刃で反対側の斧頭の方が鉤爪になっている。
斧腹を貫く木製の柄の先端には円錐型のスパイクが取り付けてあるので突き攻撃も可能だが、刃渡り三十センチはある広くて分厚い斧刃に重心があるので、バランスがこの上なく悪い。
これ横薙ぎなんかしようものなら、刃先が自然と下へ向く。その力に逆らって振り抜かねばならないから、全身にかかる負担はかなりのものだろう。
これは縦斬りと突きしかできないんじゃないのか? 鉤爪の方なんて下からの突き上げにしか使えそうにない。両手斧ってこんなにバランスの悪いもんだっけ?
つい先日の『シーヴァ絶対防衛戦』でもデカイ斧使いは何人も目にしているが、横薙ぎも切り上げも自在にやってたと思う。まぁあっちはスキルや付呪で筋力を上げたり斧を軽くしたりしてるんだろうけど、バランスの悪さってのは見てて判るもんだ。
それにガラムさんが監修した木製の両手斧。あれは斧腹に重心があったので、手の中でクルクル回せて片刃と鉤爪を軽く入れ換えることができた。
やっぱこの斧自体がおかしーんじゃねーの?
「なぁマッチュー。これ冒険者になった時から使ってんのか?」
「いやいやまさか、当時十二のガキだぜ? さすがにこんな重いもん使えねーから、普通の薪割り斧くらいのからスタートしたんだ。これに買い換えたのは二十歳の時でよ。そりゃあ最初は苦労したぜ。まぁ今でも振り回されてんだけどよ」
マッチューは照れながら答える。こいつこの斧が欠陥品だってことに気付いてないのか?
「じゃあ聞くけど、今日ずっと木製の両手斧持ってたよな? 何回か振り回しただろうけど、使い勝手はどうだった?」
「ん~? ……そう言われりゃソレより楽だった気がするな? 重さも形も近かったけど、木製だったからなんかなって思ってたから気にしなかったぜ?」
んなわきゃねー。あれは元帝国で名を馳せたベテラン鍛冶師のガラムさんが監修してるんだ。本物と遜色無いバランスに仕上がってないとおかしい。
「ちなみにコレ買ったところってやっぱり……」
「そりゃあ俺らが行けて武器買えるとこなんて『ザンタの店』しかねぇよ。あん時店で見付けてよ、一目惚れしたのを掘り出しモンだからって、えっれぇ安くしてくれたんだぜ。だからそれから五年間大事に使ってんだ」
嬉しそうにニカニカ笑うマッチュー。
あのオヤジィ……。冒険者時代に様々な武器を使いこなせていたらしいし、商人としても目利きは良さそうだから、コレの悪さに気が付かない訳がない。
まぁ惚れたのも悪さに気が付かないのもマッチューの方だし? 欲しがってるヤツに捨て値で売ったんだろうからアコギなマネをしてる訳じゃない。でも買うのを止めるとか扱い方のアドバイスとか無かったのか?
「コレ、ザンタさんが売ってくれた時になんか言われなかったか?」
「おう、よく分かるな。さすがマビァさんだぜ。ザンタさんは初め『扱いが難しいからやめとけ』って言ってたんだけどな。売ってくれる時には『コイツを使いこなせるようになれりゃ途轍もない達人になれるぜ』って言ってたんだ。だから俺もいつかコイツを自由自在にって頑張ってるわけよ」
…………。
そりゃこんな無茶なバランスの得物を自在に操れるとしたら、達人と呼ばれるような人だけだろうよ。でも、素人にこんなもん渡しても成長の妨げになるだけだ。
「いいよなーお前だけ。俺の大剣は二十万もしたんだぜ? そんな『達人になれる』なんて言葉も言われなかったし」
羨ましそうにボヤくガイヤーン。
いや、その値段はまっとうだと思うぞ。
「俺なんか盾も合わせりゃ二十五万かかってんだぜ? なんだよこの格差はよ」
オルティーガも盾を振り、両刃の片手斧を手の中でクルクル回してグチる。斧のバランスは良さそうだ。
盾はスパイク付きで攻防どちらにも使える良いものだ。相手の攻撃を盾の曲面で滑らせて逸らすのには向かないが、特攻あるのみの戦闘スタイルならあれでも良いだろう。
合わせて二十五万なら少しまけてもらってるくらいだろう。悪どい商売では無い。
「ふっふっふーん。まぁ俺の方がザンタさんに見込まれてんだろーな。期待されてんだから頑張っちゃうぜ? 俺様はよー!」
あ、悦に入っちゃった。やだなぁもう、ホントのこと言いにくいわー。
「あー…………。マッチュー? あのな。俺もあんたら三人には期待してるんだ。だから傷付くかもしんねーけどホントのこと言っとくな?」
「んー? なんだい? 俺達ゃマビァさんのお陰で目が覚めたんだ。ちょっとやそっとのことじゃあ傷付いたりなんかしねーぜ?」
「じゃあ、言わせてもらうけど。…………コレ、ゴミだから」
俺は両手斧を、柄の方を上にして地面に着けてマッチューに返す。
「…………え?」
両手斧はゆっくりとマッチューの方へ傾き、マッチューが右手で柄を掴む。
マッチューも他の二人も、俺の言葉に固まり反応が無い。
「まぁ、ゴミは言い過ぎか? 鉄屑として鍛冶屋に売ればザンタさんが売ってくれた金額くらいにはなるかもな?」
「「「………………」」」
「だからもうソレ使うの止めとけ。そんなの使ってたらスキルを覚えるどころか下手クソなまんまだ。悪ぃこと言わないから、当分木製の両手斧で特訓すること」
「ええぇぇぇーーーっ?!」
大声で叫び、膝を突いて己の両手斧に抱きつくマッチュー。
「い、嫌だ。これは俺の大事な相棒なんだぞ?! 俺はこれで強くなるんだ! この『大裂斧』が鉄屑だなんて、俺ぁ信じねーぞ!!」
名前までつけちゃってたよ……。しかもなんか間違ってる臭い名前だな……知らんけど。
エグエグと咽び泣くマッチューの姿が色んな意味で痛々しい。
「……マビァさん。説明してもらってもいいか?」
なぜこうなったのか理解できない二人が聞いてくる。
二人に説明するために、武器庫からそれぞれの木製武器を持ってこさせる。
ガイヤーンの両手剣をそれぞれに持たせ、振らせた後、木製の両手剣で同じことをさせる。
次にオルティーガの片手斧で同じことを、最後にマッチューの両手斧で同じことをさせた。
「どうだ? 体感してみりゃ嫌でも判るだろ?」
両手剣と片手斧は木製の物と殆どバランスの差異は無いのに、両手斧だけ違い過ぎるんだ。こんなのアホでも判る。
ガイヤーンもオルティーガもうんうんと頷くが、やはりマッチューはぐんぐにる? を抱いて落ち込んでいた。
「言っておくがソレを売ったザンタさんが悪いんじゃないからな? その斧の欠陥に気が付かなかったあんたの責任だ。ザンタさんはあんたがそれに気が付いても鉄材として売れば元が取れるようにしてくれたんだから、そこは感謝しろよ?」
とはいえ、今まで信じてやってきたんだ。なかなか割り切れないよなぁ。
「俺の見立てだと、ソレをまともに振るえるようになるまで、毎日何時間も素振りしたとしても何年かかるか分かんないぞ? 実際にもう五年間使ってるんだろうけど、何一つ成長できてないんだろ?
ザンタさんの言う『達人になれる』ってのも嘘って訳じゃない。何十年も真面目にやってりゃその斧だけに特化した使い手になれるかもしれないし、スキルも覚えるかもな。
でもこの二人には置いていかれるぞ? 二人の武器はまともだから、ちゃんと訓練すればどんどん強くなれるしスキルもいくつも修得できるだろう。
反面あんたは一年経ってもほとんど成長しないんじゃないかな? たとえ死に物狂いにやったとしてもだ」
それだけやれば筋肉はかなり鍛えられるだろうけど、バランスの悪い重い武器は身体を痛めることの方が多そうなんだよな。
かなり可哀想だとは思うけど、絶望を突きつけられたマッチューの斧を抱く腕の力が弱まりほどける。あとは希望をちらつかせるだけだ。
「だが、あんたもこっちの木製武器で特訓すりゃあ、こっちの二人と一緒に強くなれる筈だ。ザンタさんもはっきりダメだと言わなかったんだから、新しい両手斧を買う時に少しまけてもらおうぜ。買う金も俺が無利息で貸してもいい。どうだ? 悪い話じゃないと思うんだけどな?」
「どうって、これ以上いい話なんてねぇじゃねーか! おい、マッチュー! マビァさんの話に乗らせてもらおうぜ!」
「世話になりっぱなしで感謝しかねぇよ。ほら、マッチュー立てって! こっちの木製武器で頑張ろうぜ!」
仲間二人に励まされて立ち上がるマッチュー。
「わがまま言ってすまねぇ……。あんたの話に乗らせてもらうよ。でもコイツはまだ手離せそうにねぇんだ。ダメな物だったって判ってもコイツへの思いが薄れた訳じゃねぇ。しばらくは手元に置いとくことにするよ」
両手斧を担ぎ上げ、左手で柄をポンポン叩く。
「あぁ、それで良いんじゃないか? 悪いな、大切な物なのに酷い言い方して」
「いやいや謝らねぇでくれよ。オルティーガの言う通りあんたにゃ感謝しかねぇんだ。さぁ、スキルのコツってのを教えてくれよ!」
やれやれ、やっとスキルについて教える準備ができた。
まさか武器自体がポンコツだったとは思わなかった。なんでこんなにトラブルが多いんだよ。
木製武器を折角持ってこさせたんだから、俺はそれらを使ってスキル修得のコツを教えることにする。
まずは俺が一番使いやすいだろう、片手斧の木製を手に取った。




