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五日目 仕事の報告

 冒険者ギルドに帰ってきた俺はカウンターへと向かう。コニスがこちらに気が付き、何やら気不味そうに一瞬目を逸らした後、笑顔を作ってこちらに声をかけてくる。


 「マビァさんおかえりなさい。どこ行ってたんですか?」

 「ここの領主様に呼ばれて駐屯基地で仕事をしてきたんだ。これに依頼内容と報酬額の内訳と、依頼達成の証明なんかが書いてあると思うから確認してくれ。これが報酬の小切手な」


 中将から預かっていた封書と小切手をコニスに手渡す。


 「へ? カイエン侯爵?! 仕事って……、二百十六万カルダ!! この短時間で何すればこんなに稼げるんですか?!」


 コニスの大声に、ロビーに居る職員や冒険者がこちらへ「なんだなんだ?」と集まってくる。

 ザワザワと大勢が騒ぐ中、混乱気味のコニスは手を上手に動かせないのかもどかしそうにペーパーナイフで封蝋を切って、中から紙を取り出して内容を確認する。

 二回、三回と文字列に目を走らせて、「はあぁぁぁ~……」と大きく溜め息を吐くコニス。


 「百八人の兵士を一度に相手にした模擬戦、一人勝利につき一万カルダ。全員倒して勝利すれば成功報酬で更に倍……ですか。これはマビァさんにしかできない仕事でしょうねぇ。ほら皆さん、これは全く参考になりませんから散った散った!」


 シッシッと手を振って集まった連中を追い払うコニス。

 去っていく連中も口々に、


 「なんだよそれ」

 「うまい儲け話じゃなくて無理無理な難易度じゃねーか」

 「まぁアレにしかできねーんじゃねーの? 化け物だぜまったく」


 などと愚痴っていた。

 いや、信じられんほど美味しいお仕事だったのだが、『ヌーメリウスの鐘』の件を聞いたので腹も立たない。コイツらがまともに討伐系の仕事をこなせない要因が、まさか古代遺物の魔法の効果という、外からの障害によってだとは思いもしなかったもんな。

 戦おうとすると怖くて動けなくなって、それが全くの原因不明……。なんてことが俺にも起こっていたら、混乱し絶望していたかもしれない。

 そう考えるとやはり『鐘』は止めた方が良い気もするが、今の治安の良さを棄てるのも惜しいし……。

 俺が考えながら去っていく彼らを目で追っていると、コニスが何やら言ってきた。


 「でもマビァさんが達成可能だとしても、仕事内容が異常過ぎるでしょ。百八人VS一人なんて普通なら絶対勝てるわけないんですから。これ賭事にしたらスゴい倍率付いて、勝ったら二百十六万カルダの十倍は儲けられそうですよ」

 「……なんの話してんだよ。大体この国にゃ闘技場なんかの戦う系ギャンブルは無かったんじゃなかったか?」

 「それだけ無茶な仕事だって言ってるんですよ! 前例が無いから分かりませんけど、もっと貰っても良かったと思うんです」


 ははぁ……。さては中将閣下、あの場で報酬を決めて事後承諾でギルドに報告なんて方法にしたのは、ギルドと交渉したら報酬が跳ね上がるのが分かってたからか? 無知でこっちの世界の金に執着の無い俺一人の方が、さぞかしチョロかっただろう。


 「いやぁ十分ふんだくったつもりなんだけどなぁ。逆に金貰って良いのか? ってくらい楽な仕事だったし、百人斬り放題だったから新しいスキルも修得できたし。メチャ美味しい仕事だったぜ?」

 「仕事もマビァさんも異常にレベルが高過ぎるって言ってるんです! SSランカーなんですからそれに相応しい報酬を請求してもいいんですよ」


 お前が無理矢理押し付けたSSランクだろうが。と蒸し返すと話が逸れるので聞き流す。


 「まぁ、流れ的にあの場で決めなきゃシラケてたしな。仕方なかったんだよ。もうあんな仕事は無いだろうし、前例としても残さなくていいと思うぞ」

 「……いいですよもう。なんなんですかねぇ、このマビァさんとわたし達との感覚のズレっていうか価値観の違いっていうか……」


 ジロリと半眼で睨んでくるコニス。ヤバい、また出身は何処かなんて話になると面倒臭いので話を逸らす。


 「それよかさ、もう一件領主から仕事を頼まれてんだよ。それも超急ぎで決行は明日朝六時って決まってんだ」

 「えぇっ?! そんな、領主様がそんな横暴なことをおっしゃったんですか?!」

 「側近のテイレル大佐が言うには、言い出したら聞かないんだとさ。だからロージルさんも交えて色々相談して決めたいんだけど、ロージルさんは事務室か?」


 中将の無茶振りに戸惑っていたコニスが、ロージルさんの話を振ったとたんに目を逸らし狼狽え出した。


 「え、え~~~………と。ろ、ろーじるせんぱいはですねぇ、………()務室です」


 「…………は?」


 気のせいだろうか? 予想の場所と一文字違った様な気がした。


 「医務室ですよ。ロージル先輩、ナン教授を見送ってわたしと話してたら突然アレになって鼻血噴いてぶっ倒れちゃったんですよ」


 周囲の目を気にするかのように辺りをチラチラ見ながら、ボソボソっと小さく囁くコニス。


 ……なんだそれ?? 話が全然見えない。ただここで話してて良い話題ではないのだけは分かる。


 「……コニス、ここじゃマズいよな? 全然話が見えないが、それお前がロージルさんをアレにしちゃったってことか? あんな紙貼り出して早々にサブマスが粛清食らった挙げ句に、俺と仲良く監獄行きってのはマズいだろ? どっか別のところでちゃんと話聞かせろ」


 顔を近付けコニスに早口で囁き掛ける。コニスの場合は女性職員からの粛清は無いか。去勢しようにもされるモノが付いていない。切り落とされたりねじり切られたりすり潰されたりする心配は端から無いのだ。それでも投獄は絶対に避けたいだろう。コニスの自尊心に賭けて煽ってみる。


 あんな紙とは、コニス自身が貼り出して冒険者達に勧告した『マビァが使った魔法でロージルが淫乱に見えるようになり、再発したらその時点で公然猥褻罪でマビァを監獄送り。他の者が誘発させても同罪』ってヤツだ。長い!


 つまり勧告されてからほんの一~二時間くらいで、貼り出した張本人のコニスがロージルさんを淫乱痴女にし、俺を監獄に送る理由ができたってわけだ。こうなるかもと思ってはいたが、ちと早すぎるだろ……。

 ロージルさんを守る為とはいえメチャクチャ強引な罰則なのだが、それはイルマさんの俺に対する嫌がらせも含まれているせいだ。

 しかし、作ったルールが守られなければ、『罰が無いのなら俺も』って動くヤツは必ず出てくるだろう。それではロージルさんの安全は保障されず本末転倒になってしまう。


 コニスも現状のマズさに気が付いたのか、周りをキョロキョロ見渡した後、こほんと軽く咳払いをし、


 「あ、はい。ではマビァさん。まずはタグの更新をしましょうか。新しい仕事の相談はその後にしましょう。こちらの部屋へお入り下さい」


 と、周囲の視線から誤魔化す為に一芝居打ち、俺を以前入れた小部屋へと案内する。




 俺を小部屋に入れたコニスは扉をきっちり閉めるとこちらへとやってきた。この部屋は防音になっていて音が外に漏れないらしい。

 冒険者が終わらせた魔獣の討伐なり薬草の採取などの査定をここで行うわけだが、中にはレアな魔獣を狩ったり薬草の穴場を新たに見つけたりしたその場所を秘匿独占したがる者もいる。まぁ当然だな。命懸けで見つけた穴場を、他の冒険者に聞き耳でも立てられて、根刮ぎ刈られたりしたらたまったもんではない。

 だがギルドには査定で討伐箇所や採取場所などが立体地図で浮かび上がり所在がバレる。報告しなければ報酬もないので仕方がないが、その冒険者の利益と権利を守る為、自ら他の者に話さない限り、ギルド側からの公開はしないそうだ。その為の防音密室なのだそうだ。

 しかし、尾行され穴場がバレたり、他の冒険者が偶然見つけた場合は仕方がない。どう自分の狩り場や採取の場所を守るかは、各冒険者の自己責任になるらしい。


 「まずは今回のお仕事をタグに書き込みましょう。タグを貸して下さい」


 差し出すコニスの右手に服の中から引っ張り出したタグを乗せる。コニスはタグを機械に差し込むと前回も操作していた板を両手の指で弾き出した。

 砂でできた立体地図が形成され、俺を示す青い光点と、それが尾を引くラインが描かれていく。これ楽しいから好きだ。


 ラインは街の中をしばらくクネクネ動いた後、一つの大きな建物の中で停止。十秒ほど経ってまた街中をウロウロさまよい、東門を出て東の沼へと向かっていく。そうか、これは一昨日コニスにタグを貰ってからの俺の行動なんだ。

 葦原でウニウニとラインが動いて、沼の縁で丸い光の玉が浮かび上がりギガントイールの討伐とその時刻が文字で宙に浮く。その後街に帰ってきても目まぐるしくラインは動き回り、さっき長く止まった一点で一旦止まる。これは『翡翠のギャロピス亭』の俺の部屋で寝てしまったからだろうか? 止まったのも十秒ほどでまたチャカチャカと街の中をラインが駆け巡る。


 ……なにこの忙しない動きは。俺ってば一昨日の夕方からの二日弱でどんだけ駆けずり回ってんのよ……。うんざりとそのラインの動きを見ていると、コニスも同じ感想を抱いたのか呻き声を漏らす。


 「うぁぁ…………。こんなにジッとしてない軌跡(ログ)見たの初めてですよ。いくら早回しで見てるからって、ほとんど動きっぱなしじゃないですか。マビァさんってアレですか? 止まると死んじゃう系の生き物なんですか?」

 「うるせぇ。俺だってこの動きには呆れたが、精一杯頑張った結果じゃねぇか。ちったぁ勤勉さを労え」


 青いラインは北の駐屯基地に入り、練兵場内で止まる。砂山でできた練兵場がぐんと大きくなり内部が拡大されて、光点が赤に変わり点滅した。


 「ん? どうなった?」

 「あ、ここから模擬戦なんですね。普通、人に危害を加える行為は犯罪ですから、ここで何も手を加えなければ犯罪行為の証拠として記録が残るんですけど、今回は模擬戦が行われた事後承諾の依頼書がありますので、正当な行為として記録されます。えっと……百八人と対戦して、一人倒す毎に一万の報酬で、全員討伐で完全勝利なら報酬が二倍……と」


 カタカタと板を指で弾くコニス。すると光点は青に戻り、別の赤い光点が無数に現れる。広い楕円形の練兵場の、俺から見て右側に密集する赤い光点。どうやら反対派の兵士達のようだ。


 「うわぁ、訓練とはいえよくこの戦力差でやる気になりましたね」

 「ラクスト大尉やケラル伍長がアレだったからな。似たようなもんならどうにかやれると思ったんだよ。結果は予想よりも酷かったんだけどな」

 「ちょっと倍速率落として見てみましょうか」


 タンとコニスが弾くと、さっきまでよりは少し遅く光点が動き出す。俺を示す青が右へ動き、赤がそれを囲うように三日月型に広がる。青を赤が覆いつくそうとする瞬間に、青が左へ突き破るように突進。十数の光の玉が同時に飛び出し宙に浮いた。兵士討伐とその時刻の文字が密集して浮いてるが、そのほとんどがくっつき過ぎてて読めない。それを見たコニスがうんざりした顔で「うへぇ」と漏らす。


 その後は青が赤に触れる度に光の玉が飛び出す。一秒間に二個くらいのペースで止まることなく宙に飛び出し、文字も次々と宙に留まり続けるものだから、まるで雲の塊が作られているように見えた。

 青いラインに消されるように赤が消え続け、赤の光点が残り三分の一ほどになったところで、青がジグザグに動くと、一気にまとめて光の玉に変わる。最後の赤一つが離れたところで遅れて消え、ポツンと一つ光の玉が飛び出す。これがヤーデン中尉だな。


 「へぇー、あの模擬戦を上から見るとこんな感じだったんだ。やっぱおもしれぇなこれ」

 「……ホントにあっさりと倒しちゃってますね。八分もかかってないじゃないですか。兵士の人達が気の毒に思えてきますよ……」

 「あ、そういや基地の練兵場とここの試験場って同じ仕組みなんだってな」

 「へぇ、そうなんですか?」


 どんな仕組みか説明している内にギルドの位置でラインが止まり、今現在までの行動の記録が登録されたようだ。




 「ちょっと待ってて下さいね。事後承諾の依頼書の登録なんて学校の授業以来なんで書き方うろ覚えなんですよ」


 今回の仕事はギルドが依頼を受け冒険者に回したものではないので事前登録されていない。依頼内容と報酬を全て書き込まないといけないそうだ。

 それでも二分ほどで大して待つこと無く登録が済んだようだ。機械からタグを外して俺へと返してくれる。


 「で? どーゆー状況なんだよ。鼻血噴いたってなんだ?」


 立体地図を見せて貰った魔法の台に寄りかかってコニスを促す。


 「多分マビァさんとガラムさんが濃厚にイチャコラしてるのを妄想したんだと思います。そうだ! やっぱりわたし悪くないですよ! マビァさんとガラムさんが仲良くイチャコラしてるのが悪いんです!」

 「はあぁぁあ?! なんだそのイチャコラって? 俺はガラムさんとそんな感じに仲良くした覚えはねーぞ!」

 「だってマビァさん、女の子にあまり興味なさそーじゃないですか~。寧ろウェルゾニアさんとかナンチャッツ教授と話してる時の方が自然体だし嬉しそうに見えますもん。やっぱり男色家なんじゃないかと疑いたくもなりますよ~」


 いやらしい目付きで口元を隠しニヤニヤと笑うコニス。


 「女同士のベタベタした付き合い方を俺がしてたんなら疑われてもしょうがないけど、男同士だとあれが普通だろ。大体、ここに来て最初に話した女がお前でがっかりしたから、お前にあまり興味がないだけで、ロージルさんはめっちゃ俺の好みだぞ? ガラムさんを好きだって早く知ったのと、ロージルさんは俺を全然対象として見てないから本気にならないだけだ」


 コニスに興味のない理由はハッキリと言ってやらない。コイツいちいちと小賢しいし、コイツが持つスキルの効果なのか、こちらの事を良く見ている気がするしそれに合わせてあざとく振る舞ってるんだろうなと感じる。その振る舞いがバカっぽくて油断させといて、少ない情報から答えを導き出せそうな賢さのあるヤツなんだ。気を抜くと何されるか分かったもんじゃない。


 「がっかりってなんですか! わたしにあまり興味が無いのは知ってますけどー。なんかハッキリ言われるとムカつくー」


 口を尖らせて分かりやすくむくれるコニス。ほら見ろそーいうあざといところだよ。警戒心しか湧かねぇ。だからかなり美少女の部類に入るのに好感を持てねぇんだよ。


 そんなコニスの頭を右掌でバシンッと叩き、そのまま指に力を入れてギリギリと締め上げる。小さな頭がめっちゃ掴みやすくて握力を込めやすい。


 「い・い・か・ら! 話を逸らすな。お前だけ責任逃れしようとするんじゃねぇ。俺の握力は陶器のジョッキくらい砕くぞ」

 「いたいいたいいたい! 言います! 言いますからーっ!!」


 掴んだ俺の右腕を両手でパンパン叩いて逃れようとするコニス。観念したようなので放してやる。


 「昼前に俺がここに戻ってからずっと、ロージルさんの様子がおかしかったんだよな。目が泳いでて挙動不審になったの、あれってお前がロージルさんに自分のスキルを使わせてたからじゃないのか?」


 あの時俺を追い出してから何かあったに違いない。頭を摩るコニスをジロリと睨んでやると、「うぐっ」と息を詰まさせた。


 「嫌なところで鋭いですね……」

 「なんでそんなにスキルの事を隠したいのか知らんけど、どうせ男を釣りやすくするとかなんだろ?」

 「そんなんじゃないですー。絶対にマビァさんには教えたくないんですけど、そうですねぇ……ほんのちょっとだけ相手の感情が普通より分かりやすくなるもの程度だと思って下さい。ほら今マビァさん、わたしにちょっと怒っててイライラしてる! アタリでしょ?」

 「アホか。そんなもんお前じゃなくたって誰にでも分かるわ。話を進めろ」


 もう一度頭を掴んでやろうかと思ってこちらが動く前に、コニスは二歩下がったので強ち間違ってはいないのだろう。先を促す。


 「ロージル先輩、昼過ぎに『冒険野郎』の店に行ってからそのスキルでマビァさんが他の人とどう接するのか観察してたらしいんですけど、マビァさん、ここを出てから鎧を買って帰るまでに誰と話しましたか?」

 「ん? ………え~と、ザンタさんにアリアさん、帰りにハンセルに捕まって、ここに着いてナン教授。この四人だな」

 「その人達のことをどう思ってます? 一人ずつ教えてください」


 変なことを聞くな? 一度首を傾げてから答える。


 「ザンタさんは今は商人でなかなか強かなやり口だけど、昔はこの国じゃトップクラスのベテラン冒険者だったらしいから、俺からすりゃ大先輩だな。あの人のお陰でさっきスキルを一つ修得できたし、まだまだ学べるところのある人だと思ってる。

 アリアさんも同じだな。あんだけ丸々した体型で動きは鋭かった。武器選択でモーニングスター選んでるところがエグくて面白い。明るくて楽しい人だから、もっと色んな話を聞いてみたいな。

 ハンセルは……、まぁ出会いから色々あったし一度はブッ潰してやろうかと思ったくらいだけど、今朝はアイツに助けられた。お互い利害関係あっての付き合いだが、昨日までのことは水に流しても良いかなと思ってる。

 ナン教授はすげぇよな。豪快だし優しいし、年を感じさせないほど行動力あるし。頭も良いし彫刻なんか本職以上の腕前なんだぜ? 孫ラブ魔獣ラブだし、家の増改築すっげぇし、ご近所さんにも好かれてる。ああゆう大人になりたいって思うけど、俺じゃあ無理だろ」


 聞いたコニスは少しムスッとする。


 「ベタ褒めですね。そんな中わたしだけ評価がめっちゃ低いのが腹立たしいですけどまぁいいです。つまりその四人は尊敬できたり、ハンセルさんは認めるところもあったりと、嫌いってわけじゃないと?」

 「他の三人は素直に好きと言えるが、ハンセルはなぁ……。まぁ才能は認めるし今朝のことに関しちゃ好感は持てたよな」

 「それなんですよ!」


 ズビシッと俺を指差すコニス。な、何がだよ?


 「ロージル先輩はそういった尊敬の念や好感を、マビァさんがそれぞれの人に抱く恋愛感情だと思っちゃったらしいんです」

 「はぁ?」

 「つまりマビァさんのことを『誰彼構わず男女問わず恋をするド変態さん』だと勘違いしちゃったんですね」

 「おいまてこら」

 「わたしが言ったんじゃないですよ。ナン教授が帰った後、その事で先輩に相談されたんです。あの人、あの年まで恋心一つ持ったことの無い特異な人だったんですけど、ミョ~~に特殊な恋愛についての隠語とか知識を中途半端に知ってるんですよナゼだか。『薔薇』とか『百合』とか『両刀使い』とか口走ってたんですよね」


 何か思い出したのかクスクスと笑い出すコニス。

 バラにユリは花だよな? そこに何故剣術が紛れる? あ、隠語ってことか? さっぱり分からん。


 「あ、知らなかったですか? なら忘れて下さい。話に出た女性はアリアさんだけなので、比率的にはマビァさんは男の方が好きなんじゃないかって。でもよく分からなくなったんで、わたしにスキルの事をもう一度聞こうと思ったんでしょうね」


 あぁなるほど。こちらでも同性愛者の立場がかなり悪いって事か? だが俺はその辺わりと理解ある方だったりする。


 十歳でハンターになって、十二の頃から今の『銀晶鳥(ぎんしょうちょう)の羽』に拾われるまでの間、ソロだった俺はかなりやさぐれていて、シーヴァ貧民街の『裏町』と呼ばれる地区に棲んでいた。

 そこには同性愛の恋人達が結構いて、その人達が多い酒場もあって、明るく逞しく人生を達観したような彼ら彼女らに当時の俺は助けられた。

 大きな失敗をして嫌な思いをして、落ち込んで死んだようになってた俺を、無理矢理店に連れ込んで強引に事情を聞き出し、笑い飛ばして酒を呑まされる。そんな事を何度も何度も繰り返され、俺を無理矢理に立ち直らせた。

 変な人ばっかりだったけど、俺はあの人達を尊敬している。人と違った価値観を持ちつつ『普通』と呼ばれる大多数を占める価値観を否定しない。『普通』が良いという者は異端を認めようとしない人が多いが、あの人達は何倍も考え『普通』も認めているから視野がずっと広い。

 俺は『普通』側の人間だから女の人しか好きになれないし男と愛し合うなんてできないが、それと全く同じようにあの人達も男であっても男しか愛せなかったり、女同士だったり、あるいは両方OKだったりする。ホントたったそれだけのこと。もう本能としか言いようがない。

 だから、彼らを否定する気はないし卑下するつもりもないけど、俺が男好きだと思われるのは断固拒否する。ロージルさんの場合はあの恋愛オンチっぷりからしても、勘違いしてもおかしくないか?


 「なるほど、ロージルさんらしいっちゃらしいかなぁ? 女より男の数が多いから男好きって数の割合だけで決めちゃうところなんか。言っとくけど俺は女の人じゃないとダメだぞ。前にも言ったけどな」

 「そんなんどっちでもいいですよ。マビァさんが男と付き合おうとオカマ掘られようと」

 「お、おかま?」

 「あ、知らないんなら忘れて下さい。で、わたしはその勘違いを正したわけです。それは恋愛感情じゃなくて尊敬や師弟愛とかの方だって」

 「う、うん、そうだな。それならロージルさんも納得しただろ?」

 「はい、分かってもらえたのでわたし気が抜けたんですかね。大笑いした後でしたし。ついうっかり言っちゃったんですよ。『一番仲が良いのはウェルゾニアさんかガラムさんなんだから、マビァさんが好きになるのなら二人のどちらかじゃないか』って」

 「おいちょまて」

 「そしたら多分マビァさんとガラムさんの濃密濃厚なイチャコラを妄想したんでしょうね。真っ赤になってエロい声で『ダメですわー!』って叫んだと思ったら、崩れ落ちて鼻血ぴゅーって噴きながらバターンって」


 …………………………。


 「テヘッ♡」


 「やっぱお前のせいじゃねーか!?」


 あざとくテヘペロしてウィンクしてくるコニスの頭をもう一度ガッと掴んでギリギリ締める。


 「いたいいたいいたい! だからうっかり! うっかりですってば! マビァさんだってやってたじゃないですか!!」


 「……ちっ」


 言われれば確かにそうなので、コニスだけを責めるのは卑怯だ。舌打ちをして手を放す。


 ……あーもー無駄に疲れたわ。壁に凭れてしゃがみ込んで深く溜め息を吐く。コニスも「いたた……」と呻きながら頭を摩り機械へと寄りかかった。


 「で、このことはイルマさんも知ってんだろ?」

 「はい。このことで相談できるのイルマ先輩だけなんで、ロージル先輩が倒れた後、先輩の鼻にハンカチ捩じ込んですぐにイルマ先輩を呼んで二人で医務室に運んだんです。医務室はロージル先輩が倒れた部屋のすぐ近くだったんで、他の誰にも気付かれずに済みました」


 ハンカチ捩じ込んでって……。対処法は間違って無いんだろうけど、美人のロージルさんがその姿で倒れているのを想像すると憐れ過ぎる。


 「じゃあ、イルマさんだけ説得できりゃあ、なんとか投獄回避できそうだな。よしコニス。医務室へ連れてってくれ」

 「は~~い」


 うぉりゃ! と気合いを入れて立ち上がりコニスと共に小部屋を出る。コニス信者らしきヤツらが疑いの目でこっちを見てくるが、コニスも平然としているので無視無視。一階奥にあるらしい医務室へと向かった。


 チラリと近くの時計を見ると時刻は三時過ぎ。

 今日一日だけでもまだまだやらなきゃいけないこと多くて、先程の立体地図での忙しなく動き回る青いラインを思い出す。また同じ様な軌跡(ログ)がこのタグに刻まれるのだろう。

 でも、全て無駄な動きでは無かったと信じたい。信じてないと心折れるわ。と、心中でボヤきながらコニスの後を追った。

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