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五日目 ヌーメリウスの鐘

 地下の古代遺跡の探索!? なにそれ面白そう! 俺は好奇心の昂りに思わず身震いしてしまう。


 「俺のご先祖様が保存していた文献に『ヌーメリウスの鐘』に関するものってのがあってな。どうやらこの国の国民がちょっとのことで『恐慌状態』に陥りやすいのは『ヌーメリウスの鐘』の作用なのではないか、という仮説があるのだ」


 恐慌状態。つまりビビってパニックになることだ。確かにこの街の連中は、ちょっとしたことで怖がるヤツが多い気がする。


 「じゃあ冒険者達や大尉やケラル伍長が、幻獣のワニに対して恐怖のあまりに碌に剣すら振るえなかったのは、その『ヌーメリウスの鐘』のせいだって話ですか?」


 確かにそういった精神攻撃系や状態異常を起こす魔法やスキルはある。俺の『威圧』だって格下にしか効かないがそっち系のスキルだし、『恐れ』『狂気』『混乱』等、敵に仕掛けるものから、『戦意高揚』『鎮静化』『対精神攻撃耐性上昇』等の味方に使うものと、その用途や効果は様々だ。

 そんな精神攻撃系の何かが多くの国民にかけられているのだとしたら、個人の魔法やスキルの範疇ではない。


 「マビァはこの街がこっちの世界に来て初めての街だったな? だとしたら知らなくても仕方のない事だ。街の中央に立つ四角い大きな石柱。あれが『ヌーメリウスの鐘』という物だ。もっともその名を知る者は、現在俺達を除いて古代文明の研究員くらいと思ってもよいだろう。それほどまでに古く、一般の人々の間では忘れ去られた文献のようだ」


 確かに街の中央には四角い石柱が立っている。俺が活動の起点としている『翡翠のギャロピス亭』は、中央広場から中央南通りに少し入った所だし、冒険者ギルドはまさに中央広場に面しているので毎日あの石柱は目にしている。しかし外観的には鐘なんて見当たらないし、石の塊にしか見えない。


 まぁ、深く考えて見ると、あれほど大きな石柱をどうやって何の意味を込めて街の中央に立てたのかは理解に苦しむ。

 周りの建物より遥かに高い石柱。底辺の一辺が四メートルくらい。天辺まで三十メートルはありそうで、しかも複数の岩を加工して積み上げたような継目が見えず、こんな物を一枚岩から削り出し、何万トンだか何百万トンあるのだか分からない物を何らかの方法で此処へと運び、更に屹立させたのだとしたら、それは途方もなく高い技術と数万人単位の労力が必要になるんじゃないかと思う。

 俺はそういった建築や土木の知識は皆無に等しいが、素人目に見てもあんなに凄い巨大な芸術品が、こんな小さな街に立っている理由が分からない。

 ただの記念碑ならもっと小さくても良い筈だ。


 「あれの何処が鐘なんです? 異様な石柱だとは思いますけど、何かの記念碑とかじゃないんですか?」

 「あれはこの街が造られる前から此処にある。いや、あの石柱を起点に街が造られたんだ。……これについての話は少し長くなるが良いか?」


 中将が苦笑して聞いてくる。正直面倒臭いのだろう。俺も退屈な話なら苦痛だが、この話には少し興味があるので頷いて見せる。


 「そう、これはこの国の建国まで遡らなければならない話だ」


 ……頷いたことを後悔する。何だよそれ絶対長過ぎる話じゃん。しかし了承した以上最後まで聞かなきゃいけないんだろう。覚悟を決めてちゃんと頭に入れることにする。




 ◇◇◇カイエン中将による解説◇◇◇


 俺らのご先祖様の民族がこの地に住み着いたのは三千年以上前らしいが、その辺はまぁどうでも良い。今の王都の場所に辿り着いた彼らが目にしたのは、崩れて風化しかけ、緑に埋もれた都市の遺跡と、近くに遠くにいくつも屹立するあの石柱だった。

 その石柱は毎日正午になると必ず大きな鐘の音を鳴り響かせた。時計の無い時代に、常に決まった時刻に鳴る鐘というのは日々の生活を送るにはとても便利なものであろう?

 それに、豊かな大地に流れる清流、四季もあり生き物が溢れるこの地はご先祖様達にとってはまさに理想郷のように感じただろう。ここに国を築くのは当然のことだった。


 その後、民族を増やし現在の王都の場所を起点に石柱の立つ場所へと開拓を進め、各地に今の街の基礎となる村々ができていく。一千何百年もかけて南に流れるダムラス川まで民族の棲息域は広がった。このカレイセムは南東の端だから開拓が行われたのは一番最後になる。その時のリーダーが俺のご先祖様という訳だ。


 当時、ダムラス川の対岸には気性の荒い少数の蛮族が棲んでいた。今のヨーグニル王国の民とは違う民族だな。

 川を小舟で渡りこちらの村から略奪を繰り返す蛮族に対して我々の民族も戦ったのだろうが、我が民族は戦いが元々得意ではなかったのだろう。だってそうだろう? 強い民族だったのなら元いた土地を捨ててこの地に来たりはしない。元いた土地の自然環境が厳しい場所だったのなら尚更だろう。

 しかし弱い者は知恵を振り絞る。極力被害が少なく済むよう集落の周りに壁を築き、川沿いに(ほり)を掘ってガチガザミ等の危険な魔獣が住み着くようにした。消極的にだが土地を守り生き延びることに成功する。


 やがてぐんぐんと時は流れ、民族は国となり集落は街となる。川向こうの蛮族は、南より侵攻してきた現在のヨーグニルの前身に当たる民族に滅ぼされ、その民族は国を築いた後にこちらへと攻めいってきた。

 しかし臆病者のご先祖様達は必要以上とも言える頑強で高い防壁を各街に築いていた。この僻地としか言い様のないカレイセムですら分厚く高い防壁に囲まれておるだろう? 余所の街も推して知るべしというわけだな。


 大して大きくない街を相手に攻城戦だ。しかも何万もの兵と攻城兵器を乗せた船で川を渡り、陣を敷いて街を包囲せねばならんから相手側の士気も下がるというものなのだが、一度宣戦布告をした以上何もせずに退いたのでは体面が悪過ぎる。退くに退けぬ敵軍は短期決戦をしかけてきた。しかし頑強な防壁を前に消耗戦に持ち込まれ数日が過ぎても被害が増えるばかりだ。


 日に日に消耗する敵軍の兵士達。しかし敵将は兵の士気の低さに違和感を感じた。勇猛な筈の自軍の兵士達が日が経つにつれ戦意を失い臆病風に吹かれる者も現れ出したのだ。

 だが、その変化は寧ろこちらの方が強く現れていた。防壁の上から弓矢や投石で攻撃する者はともかく、梯子で登ってくる敵兵を槍などで直接攻撃する者の中に恐怖で動けなくなる者が初日からおり、こちらも日に日に増えていったのだ。


 損耗率の高くなった敵軍が退き、侵攻に失敗した隣国は内政が不安定になり、やがてヨーグニル王国へと生まれ変わり、こちらとの講和条約が結ばれそれ以来平和が保たれている。


 更に時が進み、古代遺跡の研究が活発になってきた頃、この攻城戦の戦記と古代の遺物である石柱を結びつけて考える研究者が現れた。それがヌーメリウス博士という人物だ。


 ヌーメリウスが提唱したのが、


 「石柱の鳴らす鐘の音には人の戦意を抑え、争う者の恐怖心を増幅する効果があるのでは?」


 というものだった。

 様々な方法で実験を重ねた結果、ヌーメリウスの考えは正しかったようだな。

 あの正午に鳴る鐘の音には、聴いた者に『恐怖』の状態異常に近い効果を植え付ける。ただ聴くだけなら生活に支障は無いのだが、人と人、または人と魔獣が争い戦わざるを得なくなった時に効果が発動し、恐怖心を増幅させる。

 人と人、または人と魔獣が争う時、闘争心、または怒りや殺意といった激しい感情をぶつけ合うだろう? 効果が発動すると、そういった感情を放つのを抑え、争うことの恐怖を強く感じ身を竦ませる。

 だから投石や弓矢の兵にはあまり効果を発揮しなかったのだとヌーメリウスは言っている。遠距離攻撃の場合、激しい殺意よりも冷静に的を射ることに集中するだろう? 近くで敵に殺意を向けられることも無いしな。


 『ヌーメリウスの鐘』の効果範囲は石柱より約半径三・五キロメートル。聴いた回数が多いほど効果が強くなる。


 では何故古代文明人はこのような物を各地に立てたのか?

 ヌーメリウス曰く、


「犯罪抑制と治安維持を目的として設置されたのではないか?」


 という仮説らしい。確かに我が国は犯罪が少ない。問題を起こすのも大抵は鐘の効果範囲外の村落や小さな領地、それと外国人だしな。まぁそのお陰で碌に戦えもしない軍の出来上がりだ。だからといって軍を解体したりはしない。基本的に臆病な民だから守るための組織は手放せないのだよ。その副作用と言うべきか、軍人はエリートの集団だと勘違いした『軍人至上主義』などという派閥が横行している始末なのだがな。




 長い長い中将の説明がやっと終わる。よくこれだけ長い話を何も見ずに語れるものだ。いや、侯爵で領主、軍では中将となると国での地位は相当高いだろうから、これくらいの能力がないと務まらないのかもしれない。


 「なるほど、大尉や他の兵士達がビビって碌に動けなくなったことは納得いきました。でも俺、ここに来て五日目ですけど、今のところ何の影響も無いみたいですよ?」


 掌をぐっぱしてみせる。

 初日は街に着いたのが夕方だったのと、昨日は朝から外へ出ていたので、正味三回鐘の音を聴いた事になる。鐘の音に状態異常の効果があって戦いの際に俺の感情に反応して発動するのなら、何らかの影響が出ていてもおかしくないのだが、ついさっきも百人斬りしたばかりだし恐怖も特に感じなかった。


 「お前の場合は戦いの場数が我々と比にならんだろう。先程の模擬戦だって殺意も恐れもなく、まるで遊びのように楽しんでおったではないか。こっちに来て必死になった戦いは東の沼地でワニの群れに追い詰められ大火傷を負った時だけなのだろう? その戦いですら死の恐怖を感じなかったのではないか?」

 「…………。まぁ、そうですかね」


 言われてみれば確かに、と、俺は頬をポリポリと掻く。あの時はあまりのワニの多さにウンザリしてたのと、左腕の大火傷を負った自分の不甲斐なさに腹が立っていただけで、結構焦ってはいたが、もうヤバい死ぬとか思って無かったし恐怖も感じてなかった。

 シーヴァ防衛戦の時はホントにヤバかったから死ぬかもって思ったし、ドラゴンの火炎で上級ハンターが一瞬で消し炭すら残らず焼かれたのを見た時にはかなりビビった。

 あれほどの恐怖はこちらに来てからはまだ無いので、ちょっと緩み気味なのも確かだよな。


 「それにな、ある条件に達した者にはあの鐘の効果は無いのではないか、と俺は思っている」


 茶で喉を一度潤してから、中将は話を続ける。


 「この世界では人も魔獣も戦えば戦うほど、鍛えれば鍛えるほどに強くなることができる。まぁ上限はあるのだろうが、俺はその果てに辿り着いた者は見たことも聞いたこともない。マビァの世界ではどうだ?」

 「俺らの世界には化け物みたいに強い人達がいますけどね。そりゃもう神にでも匹敵しそうな人達をつい最近見たばかりなんで。……あんなふうになれるとは思いませんけど、俺だって駆け出しの頃と比べりゃ大分強くなってるので、鍛練や戦闘経験が多ければ多いほど強くなれるのは確かですね」


 自分が赤竜石隊の人達みたいになれるとは思っていないが、今が己の限界だなんて思いたくない。


 「ならお前もこれまでの成長の中で、前の自分を乗り越え一段上がったと感じた事が何回かあった筈だ。それまで修得できなかった剣技を放てるようになったり、明らかに力や速度、持久力が前より上がっていたりな」


 確かに心当たりがあるのでこくこくと頷く。


 「スキルの中には熟練度を上げるとレベルが上がるものがある。剣技だと☆五つでマスタークラスになる。『猫の目』だと☆五つでマスターの後に『蛇の目』修得で更に☆五つでマスタークラスという具合だな」


 うん、その通りだけどなんでスキルに話が飛んだ?


 「俺はこのスキルのレベルアップと同じ様に、人の基本能力にもレベルの上昇があるのではないかと思っているんだ。数値としては見えないが、確実に成長の段を登った感覚は残るし、新しい事ができるようになるのだからな」

 「……つまり、人としてレベルがいくつか上がっていれば『ヌーメリウスの鐘』の影響は受けない……と?」


 中将は俺の答えに意を得たりと満足げに頷いた。


 「その通りだ。おそらくスキルをいくつかマスタークラスにまで上げている者は、人としてのレベルもいくつか上がっているのだろう。お前に限らず、俺やテイレル、ウェルに紅月。ウェルの部下には何人も居るだろうな。クロブの様なのは言わずもがなだが」


 それならザンタさん夫婦やガラムさん、ロージルさんにナン教授もそうか? 他にもコニスやハンセルなんかもスキル持ちだ。でもアイツらはギルドの試験場で幻獣にビビってたな? この辺の線引きが難しい。それに一つ疑問が湧いた。


 「でも、だったらさっきの攻城戦の話の敵兵の中にスキル持ちが何人もいたっておかしくないですよね? そんな連中が数人いれば『鐘』の影響を受けずに街の兵士を蹂躙することだってできたんじゃないですか?」

 「戦場というものは数人優れた者がいたところで、そう簡単に覆ったりはせんよ。ましてや攻城戦だ。矢の雨や煮え油を浴びせられ早々に死んだのかもしれん。スキル持ちならば上官である可能性も高い。そんな者なら前線に立たんだろう。それにスキルは今の時代でも秘密にされる事が多い。今話した戦記は四百年も前のものだ。そんな昔だと理解度も低かったかもな」


 なるほど~。そう言われれば納得できる……かな? 

 でも、俺らの世界では、たった五人で戦況をひっくり返した人達を見てきたばかりだから、イマイチ腑に落ちない。

 まぁ、あの人達は別格だとは思うし、こちらの世界の最強が俺程度だったとしたら、底辺との差はそんなにないので、矢の雨なんかが降り注げば百人いても全滅するかもしれないな。


 「これで『ヌーメリウスの鐘』については理解してもらえたかな? では依頼の話に戻るとしよう」


 あ、そうだった。何か頼まれようとしてたんだっけ?


 「この街の地下に『ヌーメリウスの鐘』の基部まで通ずる経路がある。マビァには研究員三人を連れて基部までの道を護衛してもらいたい。もちろん俺とテイレルも護衛に加わる」

 「護衛って、街の地下遺跡に何か敵が棲んでるんですか? それって街が危ないんじゃ……」

 「古代人が遺跡を守るために配置したのは命無き機械の様な衛兵(ガーディアン)で、上の街に出てくることはない。遺跡への侵入者に対して迎撃を行うだけで上に攻め込んで来たりはせんよ」


 元の世界の魔術師が使うゴーレムみたいなものだろうか? 術師の簡単な命令に従い、その場を守れと命令されたら壊れるまで任務を全うする魔法人形で、その構成素材は土や樹木、岩に鋼鉄など様々だったりする。


 『シャープシフト』と斬撃スキルを併用すれば、鋼鉄のような硬い金属はともかく、大抵の素材は切断できるが、『シャープシフト』の効果時間は三十秒、リキャストタイムは四分なので、ずっと使いっぱなしというわけにはいかない。


 「そんなに詳しいってことは、一度奥まで行こうとしたんじゃないですか? あまり硬い相手だと剣じゃ相性悪いですよね」

 「ふっ、お察しの通りだよ。二年前に俺とテイレルの二人で研究員三人を護衛しながら地下へ入ったんだが、次々と湧いて出てくる無数の衛兵(ガーディアン)を捌き切れなくてな。碌に進むこともできずに尻尾を巻いて逃げるしかなかった」

 「五メートルも進まない内に、地を這うタイプと宙に浮くタイプに通路が埋め尽くされましたからね。逃げ帰るので精一杯でしたよ」


 苦笑する中将に溜め息を吐く大佐。


 「俺もテイレルも斬撃よりも刺突技を得意とするので、衛兵の急所を突ければ簡単に倒せるのだが、二人だけでは武器がもたん。そこで鉄の盾をも切り裂けるお前に助力を頼みたいのだよ」


 多分スピードタイプの二刀流使いの二人が捌き切れないなんて、本当に凄い数の敵に襲われたのだろう。


 「あれって時間制限有りの技だから、いつでもいつまでも使えるって訳じゃないんですよ。俺が一人入ったところで大差ないと思いますよ?」

 「確かに万全を期すならば、もう少し戦力が欲しいところだ。万が一怪我人が出ることも考えると、教会から神官を一人借りたいところだな……。マビァ、誰か伝手はないか?」


 中将は少し悩んだ後、顔を上げ問題を俺に放り投げる。


 「なんで余所者の俺に人脈を頼るんですか。あなた領主なんですから街にも軍にも伝手はいくらでもあるでしょうに」


 さすがに呆れて聞き返す。


 「俺の知り合いの腕の立つ冒険者は、こんな退屈な国からさっさと旅立って遠い国で活躍しておる。ウェルの部下なら使える者も居ようが、今は明日の準備で大忙しだし、アイツが良い人材を貸してくれるとは限らん。クロブはデカ過ぎて地下通路では邪魔なだけだし、燃費も持久力もすこぶる悪いので長期戦には向かんしな。軍は……さっき見てもらった通り散々な有り様だ」

 「く……。お役に立てず申し訳ありません」


 ずっと黙って聞いてた大尉が悔しそうに詫びる。 中将は、


 「気にするなとは言わん。俺やテイレルの様に『鐘』の影響を受けぬよう努力しようとすれば、いくらでもやりようはあるのだからな。今のその前を向いた気持ちを途切れさせぬよう精進すれば良い」


 と、大尉を宥める。


 「教会へ神官を雇いに行くのもマビァがやってくれると助かるのだが……」

 「どうしてですか?」

 「俺の立場だと依頼ではなく命令になってしまうんだよ。教会側に畏縮されても困るし依頼料も受け取りにくいだろうからな。だから俺の事は伏せて神官を一人雇ってきて欲しいんだ」


 なるほど、そういうこともあるか。身分の高い人にはそれなりの苦労がありそうだ。


 「まだ俺、依頼を受けるって言ってないんですけどね……。まぁ遺跡探索なんて面白そうだし、その衛兵(ガーディアン)てのも見てみたいですし。でも、一つ気になる事があります。中将はどうして『鐘』の基部へ行きたいんですか?」


 中将は『鐘』を止める気なのだろうか?

 兵士や冒険者達がビビりのヘタレで役立たずなのはあの『鐘』のせいだということはよく分かった。

 しかし、そんな状態でも何百年も平和な国が続いているんだ。それは何事にも代えがたいものじゃないんだろうか。

 確かにこの先もずっと平和でいられるとは限らない。前にガラムさんが言ってたように、この世界には戦争や紛争をしてる国が少なからずあるらしい。もし他国が攻めて来たとして、先程の攻城戦の話の様に今度も退散してもらえるとは限らないのだ。


 『鐘』に頼り、ハリボテの兵士のままいつまで続くか分からない平和に身を委ねるだけなのか。


 『鐘』の呪縛を打ち消し、自らを鍛え上げ、どんな敵が来ようとも返り討ちにできる軍に造り直すのか。


 後者の方が険しく厳しい道程だ。多くの反撥があるだろうと容易く予想できる。こちらの方が人として当たり前な暮らしなのだが、当たり前だということは事件や犯罪も増えるということになる。『鐘』による抑止力が無くなってしまうのだから。


 俺はいつ滅びるか分からない世界で毎日緊張感を持って過ごしてきた。しかしこの国はしばらく終わりそうにない平和、もしかしたらずっと終わらない平和の中で緩みきって生きている人達がほとんどだ。

 だから俺は、こちらの人達の生き方を羨ましいと思う反面、「これでいいのか?」と、常に疑い焦る気持ちがある。自分を納得のいく形で追い込んでいないと不安になるんだ。


 もしかして中将にも似たような感情があったのだろうか?


 「俺はこの『鐘』の機能を掌握したいと思っている。治安維持の為には今のままで良いが、兵士の訓練や業務には支障が出るので、訓練の時間帯や有事の際には効果を緩めたり、場合によっては強くしたりしたい。それに、軍部が『軍人至上主義者』によって腐敗してるのが気に食わん、というのが本音だな。その根本的な原因が『鐘』にあるのかこの目で確認したいんだ。

 昔と違って時計があるから時報代わりの鐘の音はいらんしな。まぁそれも基部に到達して操作できるのか見てみるまで分からん。止めるか現状維持の二択しか無いのなら、このまま放置して俺の許可無く止められないよう封印するつもりだ」

 


 なるほど、『鐘』を操作できる可能性もあるのか。俺は両極端にしか考えていなかった。


 「分かりました。その依頼を受けましょう。じゃあ俺はこれから伝手をあたってみますけど、作戦開始はいつなんですか?」

 「できれば明日の朝六時から突入したいのだが」


 平然ととんでもない時間を指定してくる中将。


 「は、早過ぎるでしょ!? それに準備の時間も人材も揃って無いのに!」


 朝六時自体が早いってわけじゃない。計画の立案から実行までの時間が無さ過ぎるのだ。


 「なぁに多分大丈夫だ。入口から基部まで二~三百メートルくらいらしいし、その区間の衛兵を殲滅するか防衛機能を止めるのが今回の目的だ。基部の研究は後でじっくり調べてもらえば良いのでな。それに朝早く開始すれば、昼からの祭りに間に合うじゃないか。折角ならそっちも楽しみたいだろう?」


 ……本音はそっちかよ。昼飯の時には諦める様なこと言ってたのに、この人お忍びででも参加するつもりだ。


 「この人昔からせっかちなんですよ。言い出したら聞かないんで、悪いですが付き合って下さい」


 テイレル大佐も慣れっこなのか、大して困った様子も見せず茶を啜っている。俺を巻き込む気満々だ。


 「分かりましたよ。その代わり依頼料は精々ふんだくってやりますからそのつもりで!」


 俺は立ち上がり扉へと向かう。


 「おう、任せておけ。言い値を払ってやるさ。では大尉。反対派との話し合いに向かうとしよう」

 「はっ、はい!」


 通路に出て、俺は軍人達と別れ街へと向かう。


 まずは冒険者ギルドか? 今日も俺走り回ってんなぁ。何でこんなに忙しいんだろ。

 この後の段取りに頭を悩ませながら、先程よりもより一層人の増えた中央北通りを、縫うように駆け足でギルドへと向かった。

一区切りついたところで、またしばらくの間、投稿をお休みさせていただきます。

再開の期日は未定です。活動報告にて事前に通知いたします。

よろしければまた、お付き合い下さいませm(_ _)m


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