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五日目 SIDEロージル マビァさんの恋愛模様? 後編

 「なるほど……。冒険者達の負傷を心配してのことで、ザンタさんのお店に相談に行ったら、この街じゃあ売れる見込みの無い、お父上が造った鎧があったってわけですな? しかしなぜマビァさんがそこまでなさるんです? 十セットとなるとかなりの大金でしょう」


 やはりハンセル様もお疑いのようです。マビァさんの言葉に裏表がないか見極めようと、マビァさんの目から視線を外しません。

 顔絵は目をギラギラとさせながら、ニヤリと笑っています。状況を楽しんでいるのでしょうか?


 「えーと、最初からの流れで言うと、冒険者達も駐屯基地の兵士達も戦闘職なのにまともに戦えすらしなかっただろ? でもいずれはワニくらい倒せるようになってもらうのが俺の希望なんだ。それにギルドの改革で討伐対象の魔獣がガラリと入れ替わったんだ。俺はこの地域の魔獣については詳しくないけど、キラーウルフの子犬一匹に逃げ惑ってたんじゃあ話にならない。Dランクでギルドのトップパーティの『黒い三連狩り』が討伐に失敗してFランクのイモムシ狩りをしてたってのは聞いたよな? あいつらがいい例で、みんな戦いから死を連想して恐怖でまともに動けてない。だったら、多少攻撃されても跳ね返せる鎧を身に纏えば、その恐怖を少しは柔らげられるんじゃないかってな」


 マビァさんは一旦言葉を切って、木箱をポンポンと叩きます。

 その姿をハンセル様がカメラで撮影していました。


 「俺があいつらを煽ったんだ。後は勝手に強くなれってのはあまりにも無責任だろ? 一昨日のワニワニ大混乱と昨日のウナギで予想外の収入が入ったし、良い鎧も見付けたから試しに買ってみた。そりゃ俺にとっても高過ぎるくらいの買い物だったよ? でもあの三人に限らず、冒険者の誰かがこの鎧を着て成果を出せれば、ギルドが残りを買い取ってくれるんだからケチケチすることはねぇ。上手くいけば支払った金も戻ってくるんだから安い投資だよ。俺の我が儘でギルド全体に色々迷惑をかけてるし怖がらせているから、こういうことしとけば多少は評価が上がるかも? って打算もある。……あ、これは書かないでよ?」


 と言って、ハンセル様と軽く笑いあいます。


 でも、後半は嘘ですわね。マビァさんは冒険者達が立派に育つまで、この街に長居するつもりは無さそうですし、ギルド側としても、成果が出ないとマビァさんから鎧を買い取りお金を支払うことが出来ません。つまりあの五百万カルダが戻ってくることを、端から期待しておられないのです。


 「ふむふむなるほどねぇ。では次にザンタさん。お父上が造ったってことは、彼は武具職人か何かだったんですかい?」


 ハンセル様は手帳に書き込みながら、ザンタさんに質問致します。


 「さぁなぁ。親父の過去の話を聞いたこと無かったし、おふくろも死んじまったしなぁ。俺もこの鎧を見たのは数十年ぶりだったんだ。なーんにも分かんねぇのよ」

 「長年動かなかった在庫が売れるんですから、さぞや嬉しいでしょうな」

 「おおよ! 纏まった資金が入るし倉庫も空きが出来たから商品も増やせるってわけさ。まったくマビァ様々ってぇわけよ」

 なっはっはっと大声で笑うザンタさん。最後に荷物の前でわたくし達三人が並んだ写真を撮って、取材は終了致しました。



 ハンセル様と別れギルドに向かう途中で、ザンタさんが小声で囁きます。


 「マビァくんは分かってるようだが、ロージルちゃんもあの記者にゃあ気を付けろよ。街の娯楽の為だって言って、記事で遊ばれたヤツが何人もいるんだ。取材だからって下手なこと話すと酷ぇ目にあうぜ?」


 わたくしはコクンと小さく頷きました。ウェルゾニア氏も出鱈目なことを何度も書かれていたと、噂で聞いています。今日はわたくしに対しては優しい態度でしたし、今はこちらに協力していただいていますから多分平気でしょうけど、先々のことを考えると油断しない方が良いのでしょう。



 「よぉ、マビァくんとロージル嬢ちゃん。おお、ザンタも一緒とは、知り合いだったのか」


 冒険者ギルドまで帰ってくると、今度はナン教授がやって来ました。


 「教授~。俺らにもウナギ分けてくれよ! あ~。知ってりゃあアリアと二人であんたん()に突撃してたのによぅ」

 「がっはっは。悪い悪い、昨日はバカみたいに忙しかったからな。お前のことなんぞすっかり忘れとったわ」


 ザンタさんは昨日のウナギの件を今朝の新聞で知ったのでしょう。とっても悔しがっておられます。

 ザンタさんとは歳も近くて、昔馴染みなのだそうです。マビァさんがどうしてギルドに来たのかと問うと、


 「今朝、東の沼までギガントイールの調査に行ってきてな。なぜ今まで人を襲った記録のないウナギがマビァくんを襲ったのか気になってな。原因が分かったから報告にきたんだ」

 「ほんと?! さっすがナン教授!」


 マビァさんが手を叩いて喜びます。……やはりお二人とも仲がよろしいのですね。好感度グラフがかなり良い位置に移動していますわ……。

 全くマビァさんの嗜好はどうなっているのでしょうか? 節操が無いというか、どちらかといえば男色寄りに思えます。アリアさんもお好きな様でしたので、女性嫌いというわけでは無さそうですが、これは姉さんの言うところの『両刀使い』というお方なのでしょうか?


 「んん~~。詳しく聞きたいけど、先約があるんだった。これを片付けたらそっちに行かなきゃいけないから、ロージルさんあとで教えて下さい。ナン教授すみません、失礼します」

 「がっはっは。相変わらず忙しなくしとるみたいだな。マビァくん、今晩時間があったら俺の家に来れんか? 息子を紹介しとこうと思ってな。俺の息子は古代文明とキューブの研究者なんだ。君の探すスキルの件で役に立てるかもしれん」


 ザンタさんとギルドの搬入口に向かうマビァさんに声をかけます。荷車を押しながら顔だけ振り返って「了解です! じゃあ八時頃に」と返事をして搬入口に入って行きました。




 「ではナン教授、奥でお話をお聞かせ願いますか?」

 「うむ」


 わたくしとナン教授は正面出入口から入りました。わたくし達に気が付いたコニスがすぐにこちらへと来ます。


 「お帰りなさい。ナン教授? そうそう、丁度聞きたいことありましたよね?! あれ? マビァさんはどこですか?」


 笑顔で迎えてくれたコニスは、次々と疑問を口にします。それが彼女の賢さの表れでもあるのですけど、逆にそれが幼く見えて欠点に見えるというか、可愛らしくて人を惹き付ける美点であったりもします。

 ナン教授はコニスに「よう」と片手を軽く上げて挨拶をしました。


 「マビァさんは御用があるそうで、荷物を片付け次第そちらへと向かうそうですよ。ナン教授はギガントイールについての調査結果を報告していただけるそうです。応接室でお話を聞きますのでコニスもおいでなさい」

 「わっかりました!」


 元気に返事をしたコニスは、一度受付に向かい引き継ぎをお願いしてからこちらへと合流します。


 二階事務室奥の応接室に入ると、早速コニスがお茶の準備を始めます。ナン教授がお茶請けのお菓子がお好きなのをコニスも知っていたので、器に大盛りでテーブルに置かれました。


 「おう、ありがとさん」


 ナン教授はお茶で喉を潤すと、お菓子をサクサクと嬉しそうに頬張ります。権威ある大先生なのですが、全然威張った事などなさらないお方ですし、お菓子を食べる表情は、失礼ながら可愛らしく思えてしまいます。


 「では、早速お聞かせ願いますか?」

 「うむ、本来夜行性の筈のギガントイールが、昼間に人に襲いかかった。しかも砂地ではなく葦原の沼地でだ。どちらも過去に記録のない事例だったので、まず昨日の現場へと向かった。葦を物資として利用する地域では、必ず年に一度、枯れた葦を焼き払う風習があるが、それは大抵冬に行われる。ギガントイールは冬に冬眠する魔獣なので、今回のように焼き払われた葦原を歩いたとしても襲われることはまず無いわけだ」


 なるほど、今の時期に葦原が焼き払われて人がその縁を歩くなんて、これまで無かったことなのでしょう。


 「それにこの時期の沼はいつもバーンクロコダイルの群れが棲み着いとるから、ウナギも自由に水面まで上がって来れんだろう。それが今年はクロブのヤツが追い払って、今や一頭も残っておらん」

 「例外に例外が重なっちゃったんですね~」


 コニスがお菓子を食べながら相槌を入れます。……この子、茶飲み話のつもりなのでしょうか?


 「先ほど砂地ではなく、と仰いましたが、砂地だと襲われる可能性があるのでしょうか?」

 「ウナギが好んで捕食するのはガチガザミだからな。ガチガザミは砂地や小石が多い川原に潜って獲物を待つ習性がある。甲羅を岩に擬態して見せてな。捕食者のウナギはそれを見抜いていて水中から飛びかかり食らい付く。ガチガザミを狩りに来た者が襲われる可能性は確かにあるだろうな」


 ガチガザミとは今回の改革で討伐対象Cランクに指定された、大型の蟹型魔獣です。

 鈍色に輝く金属のような甲羅は、鋳物の鉄器並の硬度がありその反面軽いので、遠い外国では鎧などの加工品に材料として使われているそうです。

 わたくしがここに就職してからは討伐された記録はありませんが、鑑定するための資料として剥製がこのギルドにも保管されているので、姿は見たことがあります。

 体高五十センチを超える円錐状に尖った甲羅に、左右の大きなハサミが特徴で、ハサミに掴まれると金属製のブーツを履いていようと脚なんて簡単に切断されると聞きます。

 孵化したばかりのバーンクロコダイルを捕食するらしいので、バーンクロコダイルが減り過ぎないようにするためには、数を管理して討伐する必要が出るかもしれません。

 塩で茹でて食べると美味しいのだそうですが、この街では皆恐ろしがって誰も獲ろうとはしません。


 「では、夜行性のウナギが昼間に捕食しようとしたのは何故でしょう?」


 わたくしの質問の途中で、スキルの言葉が頭に響きます。


 《筆記具の用意》


 ナン教授がご所望のようです。脇に置いていた、いつも持ち歩いているケースから紙とペンとインク壺を取り出し、ナン教授の前に差し出します。


 「おう、ありがとよ。ロージル嬢ちゃんは勘がいいな」


 受け取った紙に、川と沼、ウナギ一匹と川原にカニを数匹描いていきます。こう言っては失礼ですが、お顔に似合わず可愛らしい絵を描かれます。


 「元々日に何度も喰わなきゃならん人間とは違って、一週間に一度くらいの間隔でガチガザミを捕食しておる魔獣でな。春になり冬眠明けでがっついた後、かなり喰うペースが落ちた筈だ。その間にワニが川を下ってきて辺りを占拠。川原で産卵を始めるとその辺のガチガザミは一旦逃げるだろう。狩り場を荒らされたウナギは空腹で、昼間でも寝ておれんかったのかもしれんな」


 上流から降りてくるワニを描き、川辺に小さい◯を五個一塊でいくつか描いていきます。卵ですね。カニから川原の外へ向けて矢印が伸びます。川原から逃げたということなのでしょう。


 「一昨日ワニどもを撃退した後、マビァくんと川原まで見に行ったが、近くにガチガザミがおらんかった。ワニの産卵もぼちぼち終わるだろうから、もう戻って来るだろう」


 トントンとペン先でカニの絵を突付き、ペンを置きます。


 「マビァくんが襲われたことについて、まず俺が予想したのが、盾と剣の反射光をガチガザミの甲羅の照り返しと勘違いしてではないか、というものだ。試しに俺も盾と剣を持って沼地の縁を何度も往復してみた。そしたら予想通り一匹襲いかかって来おったわ」


 してやったりと、がっはっはとナン教授は笑います。


 「じゃ、じゃあまたウナギ料理振る舞ってくれるんですか?!」


 興奮したコニスがテーブルに両手を突いて身を乗り出します。はしたないですわよ。……まぁわたくしもご相伴にあずかれなかったので、食べたくはあるのですけれど。


 「いやいや、俺では弾き飛ばされただけで、身を守るのが精一杯だったわ。若い頃なら俺でも仕留められたんだがな。俺は戦士じゃないから剣は使えん。得意な鎖縛術はウナギのヌルヌルと相性が悪くてなぁ。一撃で首をハネるのが一番手っ取り早いんだが、あんな化け物ウナギの首をハネられるのは、ここではマビァくんぐらいのもんだろう。ザンタやアリアなら若い頃には出来たかも知れんがな」


 「ふぇ~、あの『冒険野郎』なんて変な名前のお店のご店主夫婦ですよね。あの人達、そんなにスッゴい冒険者だったんですか?」

 「こらコニス! 失礼ですよそんな言い方」

 「がっはっは。よいよい。俺もアイツらが店を引き継いで店名を改名した時に、指差してバカ笑いしてやったもんだ。アイツらとは若い頃から縁があってな。遠くの外国で何度も再会して、フィールドワークの護衛を依頼してたんだ。一人一人はマビァくんと比べるべくもないが、パーティ連携はなかなかのもんだったぞ」

 「わたくしも先ほどザンタさんの剣技を見せていただきましたが、凄まじかったですわ」

 「ほう、アイツが?」


 ナン教授にとっては、ザンタさんが剣技を披露したことが意外だったようです。


 「マビァさんが冒険者達に武器攻撃スキルを教えるために、スキルの修得方法の基本を教えていただけるようザンタさんにお願い致しました。快くご教授して下さっていましたよ」


 わたくしがそう言うと、二人はポカンと口を開けて呆けます。


 「……なんと、あのマビァくんが……」

 「……あれだけ強くて、人を教えられないんですか。それにまだ学ぶことがあるなんて……」


 その事実にお二人は唖然としています。その反応は本来なら当然のことなのでしょう。でも、マビァさんの非常識にはこちらの常識は通用しないのです。


 「ザンタさんに教わったことで、何かを掴んだようでしたわ。マビァさんがいつも言っているように、彼の基準ではご自分はまだまだ弱い、というのは事実なのでしょう。彼の出身が何処の国なのかは存じませんが、いつ、どうやって戦闘スキルを修得したのか覚えていないほどの戦闘回数をこなしていたようなのです。しかもまだ十七歳ですのよ? とても信じられない話なのですけれど……」


 わたくしの言葉に、ナン教授が目を逸らします。何か知っておられるのでしょうか?


 わたくしの知る限り、世界中各国の情勢を思い出してみてもそんな国に覚えがありません。強いて言えば何年か前に滅んだナクーランド帝国くらいのものですが、三日前にマビァさんご自身が仰っていた、


 『十歳の頃から命懸けで凶悪な魔獣と戦ってた』


 という言葉とは一致致しません。

 

 それに、帝国出身のガラムさんと同郷ではないでしょう。肌の色も違いますし、マビァさんは帝国のことを何も知らないご様子でしたので。

 そういえば、ガラムさんはマビァさんの地元の話を聞いて恐れているようでした。

 どういった経緯でマビァさんがその話をする必要があったのかは不明ですが、どんな恐ろしい話を聞いたとはいえ、あれだけ頑強そうなガラムさんが顔を青くして恐れていたというのも不可解です。

 ……実はガラムさん、怖い話が苦手……なんて可愛い面もあったりして?

 それは姉さんの言うところの『ギャップ萌え』というものでしょうか? それは少し興味を惹かれる展開ではありますね。わたくしも怖い話は苦手なので、もしそうならお互いの共通点を一つ見つけたことになります。

 はっ! いけません。これ以上ガラムさんに想いを寄せていてはまたアレになってしまいます。心を落ち着かせなければ。



 十五歳から成人扱いなのは、ほとんどの国で適用される筈です。

 本来なら十七歳と言えば、多くの先輩方の師事の(もと)、まだまだ学ぶことばかりなのに、一つ下二つ下の後輩の面倒も見なければならない時期なのです。

 社会人としては、当然にぶつかるべき壁であり、それを乗り越えなければ、後輩にも追い越され悔しい思いをすることになります。

 そう言った意味では、マビァさんが更に強くなりたいと思うのは当然のことなのかもしれません。


 色々と謎の多いマビァさんのことを考えていると、スキルの声が脳裏に響きます。


 《二日前、マビァの発言『俺らの世界では』の分析が不完全。追加情報が必要不可欠》


 ……一昨日? マビァさんそんなことを仰いましたかしら?

 わたくしが記憶を探っていると、すぐにスキルが当時の情景を見せてくれました。


 焼け野原になった葦原で、座り込んだマビァさんが右手に持った空瓶を振って見せます。

 あ、マビァさんが左腕に大火傷を負った時のことですね! この時わたくしは、マビァさんの負傷があまりにも酷かったので気が動転して、まともに頭が回っていなかった自覚があります。経験不足とはいえ恥ずかしい限りです。


 『こーいうヤツ。飲むと傷を治して体力を回復させる薬なんだけど。俺らの世界では錬金術師が作って販売していたんだけとな』

 『ほう? 飲むだけで怪我を治せるのか……』


 そうそう、マビァさんとウェルゾニア氏の会話はそんな感じでした。

 飲むだけで傷を癒す飲み薬なんて聞いたこともありません。それに『俺らの世界では』なんて発言……。

 マビァさんの言う『世界』とはどう言った意味合いなのでしょう? 俗にいう裏社会とか闇世界とかの話でしょうか? 謎の多い彼のことです。マビァさんならそちら側の人間だといわれても納得出来そうですが……。

 スキルにより加速した思考を巡らせていた時、コニスの大きな声で通常時間に戻されました。


 「えぇーっ?! あの人まだ強くなる気なんですか? もういいです。考えたくないです」


 コニスが呆れ果て、思考停止宣言をしました。……まぁ、その気持ちには同意致しますわ……はぁ。


 「話が逸れたな。結論から言えば、ワニがいなくなった沼で快適に過ごしていたところを、マビァくんが餌に見えて喰らおうとしたんだろう」

 「ギルドとしては討伐対象に入れるべきでしょうか? もし入れるとすればランクは何が相応しいのでしょう?」

 「うむ、ギガントイールはワニとガチガザミが増え過ぎるのを抑止する役割にある魔獣だ。ついでにガチガザミの繁殖状況を、東の沼を基点に東西五キロくらいずつギャロピスで見てきたが、多くも少なくもないまずまずの状況でな。つまりバランスが取れているというわけだ。もし、ウナギを討伐するようになれば、ワニとガチガザミが増え過ぎるかもしれん。状況によっては討伐対象になるだろうが、他国ではAランクだった筈だ。どうせこの辺の冒険者じゃあ狩ろうとしても死ぬだけだ。川辺に近付かんよう注意喚起だけしておきなさい」

 「じゃあ、あんまり獲らない方がいいんですね……。たくさん獲っていいならマビァさんにいっぱい討伐させて、ウナギ肉と高級ジェムでギルドもウハウハーッてなるかと思ってたのに~」


 コニスがぐで~っとテーブルに突っ伏します。

 そうでしたわ。コニスはこのギルドを自分の思うように発展させることを、日々の楽しみにしていたのです。ギガントイールは高級食材であり、ジェムも必要不可欠な高級品ですので、このギルドで取り仕切れれば、その利益はかなりのものになった筈です。


 「おいおいコニス嬢ちゃん。そんなにたくさん捕らえても、この街でまともに解体出来るのは多分俺だけだし、解体可能な設備があるのもウチの家だけだ。調理にしたって、俺とウェルんところのシェフぐらいしか扱えんだろうな。俺も昨日の解体で結構腰にきててな、何匹も解体なんて出来やせんぞ」

 「捕らえるのも、捌くのも困難……。肉とジェムがどちらも高級という理由は、この辺にあるのでしょうね」

 「そういうことだな。捕らえるだけならワニのように何らかの罠を作れば可能だろうが、解体から調理、販売までの流れを完璧に用意しとらんと、ジェム以外を腐らせることになる。今回は鮮度優先、採算度外視で配りまくったし、ウェルのところも明日の予行演習とイメージ戦略があっての安売りだろう。本気でギガントイールを扱いたいなら、専用のギルドを立ち上げるくらいの覚悟が必要だろうな」


 さすがに今は新体制の確立とバーンクロコダイルへの対応、冒険者達の育成で手一杯です。大体マビァさんが来てからの状況の変化が激し過ぎなのです。

 ギガントイールの件はしばらく保留にするしかありませんわ。年単位で……。




 「コニス、少しよろしいかしら?」


 ナン教授にお礼を言い、正面出入り口でお見送りした後、どうしてもマビァさんの異常とも言える恋愛観が気になって、コニスを使われていない部屋へと連れていきます。誰も居ないことを確認して中に入り、もやもやとした疑念をコニスに打ち明けました。


 「コニスにいただいたスキルなのですが、マビァさんが他の方をどう思っているのか先ほど観察していたのです。ザンタさんにアリアさん、ナン教授はともかくハンセル様までもマビァさんは愛しておられるようなのですが、これはいわゆる『両刀使い』ということなのでしょうか?」


 わたくしの質問にきょとんとした顔で呆けたコニスは、いきなり「ぷふーっ!」と吹き出し笑い始めます。


 「あはははっ! 違いますよ~ロージル先輩。愛って言っても色々あるじゃないですか~」


 ひくひくと笑いを堪えるコニスに唖然としながら、その意味を考えます。


 「い、色々ってやはり『薔薇』とか『百合』とか『つんでれ』とかではありませんの? マビァさんがどちらかと言えば男色寄りってのは勘違いですの?」

 「ぷひーっ! ひーははは! も、もう、やめて下さいよ。お腹痛い~」


 バンバンと棚を叩いて笑うコニス。ちょっと腹が立ちますが会話にならないので、黙って落ち着くのを待ちます。


 「……あ~苦しかった。あのスキルは恋愛感情だけを愛情側に示すわけじゃないんです。家族愛に兄弟愛、師弟愛とか。恋愛に限らず誰かを慕ったり、尊敬したり、大事に思ったりも愛の形でしょ? さっき上がった名前はみんなそーいった感情だと思いますよ?」


 涙を指で拭いながら、コニスが教えてくれます。


 「そ、そうなのですね。わたくしそういった方面に疎いものですから、それらの感情を愛の形だと考えたことなんて一度もありませんでしたわ……」

 「先輩はもっと経験が必要ですねー。あ、そうか。スキルを渡したばかりだから、スキルの熟練度が全然足りてなくて情報不足だったのかもしれませんね。わたしはスキルを修得した時からマスタークラスだったので☆一つからの成長段階がどんなものか知らないんですよ」


 ……なるほど。もっとこのスキルを使い慣れれば、こんな勘違いをしなくて済んだのかもしれません。


 「大体、マビァさんが先輩の言う通りだと、一番グラフが恋愛寄りに高そうなのは、多分ウェルゾニアさんかガラムさんになるんじゃないですか? ウェルゾニアさんの宿に泊まってて、彼とは毎日ご飯も一緒に食べてそうですし、ガラムさんはお会いしたことないですけど、話を聞く限りじゃ相当仲が良さそうな感じじゃないですかぁ」


 ケタケタと笑いながら言うコニスの言葉に、ガラムさんとマビァさんが一緒にいた時のことを思い出します。

 超加速した思考の中、わたくしが見たお二人の映像がスキルによって脳内で再生され始めました。


 ……言われて見れば、マビァさんがこの街に来てからガラムさんと過ごした時間なんて、トータルでもまだ1日分にも及ばない筈なのですが、レストラン『キィマ』でも仲良くお話されていましたし、他の場面でもお互いのことをよく知っている、仲の良い先輩と後輩といった雰囲気でした。

 それに励ます為だったりとか気遣う為だったりだと思うのですけれど、ガラムさんがマビァさんの肩をポンとよく叩くのです。そしてマビァさんも嬉しそうにガラムさんを見つめ返していました。


 そんなお二人の様子が、昔姉さんの本を盗み読みした内容と重なり、ガラムさんとマビァさんの姿になって妄想してしまいます。


 ……裸になったお二人が、見つめ合い抱き合い、愛を語り合う姿を……。


 「そ、そんな、ダメですわー!」


 速く強く打ち鳴る鼓動。視界が真っ赤に染まり全身が燃えるように熱くなって、思考も身体も制御出来ずに、わたくしはその場に崩れ落ちてしまいました……。


 「え……えぇ? あー! やっちゃったー?! せ、先輩! ロージルせんぱーいっ!……」


 遠退く意識の中、コニスの呼びかける声が段々と小さくなっていきます。


 あぁ、またやらかしてしまったのですね……。


 まだ少し残る思考力で、わたくしはちょっと後悔をし、そこで意識を失いました……。

 申し訳ありませんが、予告通りしばらく潜伏致します。

 更新の再開は活動報告で事前に告知します。

 続きを楽しみにしておられる方がいらっしゃるのか怪しい本作ですが、気長にお待ち戴けるのなら幸いです。

 今後ともよろしくお願い致しますm(_ _)m

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