五日目 教えてザンタさん!
「なんだよ急に殊勝な顔して。それにお前さん、もうタメ口になってたじゃねーか」
「……人にお願いをする時くらい、俺だって礼を尽くそうとするよ。そうゆーのを叩き込まれて育ってんだ。しょうがないじゃないか」
俺の急な態度の変え方を訝しむザンタさんの言い様に、ちょっと反発してしまう。
俺は初対面の人にいきなり偉そうな口利けないし、尊敬出来る人物は敬いたいから、出来るだけ丁寧な話し方をする。今のザンタさんやウェルみたいに敬語を嫌うタイプの人には、たとえ年上で敬える人であってもタメ口でいられるけど、やっぱり人にお願いする時には自然と敬語になる。
まぁ、端からこっちを見下して凄んでくる輩だったら敬う価値もないから、同じ態度で返してやるんだけど。
「へぇ、しっかりした親御さんだったみてぇだな。で、聞きたいことってなんだい?」
俺に親はいないが否定して言い直すのも無駄だし、そのまま話を進める。
「武器での攻撃スキルについて聞きたいんだ。十年以上冒険者として戦い抜いてきたザンタさんやアリアさんなら、戦闘用のスキルもいくつか身に付けてるんじゃないかと思ってさ。今俺、冒険者達に戦い方を教えようとしてるんだけど、スキルはどうやって教えたもんだか悩んでて……」
「新聞読んだ限りじゃあ、俺達なんかよりマビァくんの方がよっぽど強ぇんじゃねぇのかい? スキルらしきもんも、いくつか使ってたみたいだしよ。なんたって史上初のSSランカーなんだし、所詮Cランク止まりの俺達に教えることなんてあるのかい?」
「茶化さないでよ。あのSSランクってのはサブマスのコニスってのが悪ふざけで捏ち上げたもんだし、新聞だって大袈裟過ぎに書かれてたんだ。俺が強いなんて十年は早いよ」
「そんなことありませんわ。わたくしは一昨日の東の沼での戦いも、その後のギルド試験場での幻獣による再現での戦いも、昨日のギガントイールを素手で倒した時も近くで見ていたんです。マビァさんをSSランクにでもしないと、他の冒険者達のランクの付けようがありません。コニスの判断は誰もが納得の行く選択だと思いますわ」
ロージルさんが真剣に俺の意見を否定する。この遣り取りは何度も何人もとしてきたけど、どうしても俺の意見が通らない。
まぁ仕方ないよなぁ。文字通り住む世界と常識が違い過ぎるんだもん……。
「それは置いといてさ、俺は確かにスキルをいくつも修得してるんだけど、どうやって覚えたのか記憶にないんだ。戦っている内に頭の中にスキル修得の文字が出てたから片っ端から修得してきたけどさ、修得条件みたいな詳しいことに関しては全くの無知なんだよ。だから、スキルを人に修得させる為の効率的な教え方が知りたいんだ。何か知らないかな?」
スキルの覚え方については嘘を吐く。俺が元の世界で覚えたやり方だと、こちらの世界の人間では覚えられないかもしれないからだ。
「そういうことなら、まぁしょうがねぇか。確かに俺も戦っている最中にピロリンって頭ん中にきたことあるもんな。戦闘スキルについて聞くなら、この街じゃあ俺かアリアが最適かもしれん。いや、アリアは感覚派だから教えるのはヘタだろうな。俺達のパーティは、この街じゃあ珍しい武闘派で通ってたんだ。とにかく討伐系の依頼ばかり受けてたから、この地域の魔獣に物足りなくなって外国を転々としてたってわけだしな。いざって時に仲間のメインとサブの武器は使える様に練習してたんだ。だから他の奴らよりは複数の武器を使えるし、それぞれのスキルも多少は使えるぜ」
へぇそりゃすごいや。でもそれだとひとつの武器を極めるなんてことは出来ないだろうな。それぞれのスキルを修得してたら修得可能上限まであっという間だろう。
パーティの即時対応力や汎用性は高いかもしれないけど、強敵を相手にする場合は、倒し切るための強力な一撃を修得出来ないかもしれない。
「じゃあ、基本的なことからでいいのか?」
「はい、宜しくお願いします!」
俺が直立してお辞儀するのを見て、ザンタさんは「へへっ」と笑い、倉庫の壁に立て掛けてある売り物らしい片手剣を持ってきて鞘から抜く。
ロージルさんは邪魔にならないように隅に移動した。
「まずは簡単な単発のスキルの覚え方だ。マビァくん、縦斬りや横斬りの単発スキルは使えるかい? 使えるなら見せてくれ」
右手に持つ剣の感触を軽く振って確かめながら、俺に聞いてくるので「はい」と返事をする。
縦斬り単発スキル『スライス』と横斬り単発スキル『スラッシュ』を披露すると、ザンタさんは、
「ふんふん、お前さんのはそんな感じかい」
と、訳知り顔で頷く。
「じゃあ同じフォームと太刀筋で、通常攻撃は出来るよな?」
俺は頷いて、スキルと同じモーションの斬撃を繰り出す。
『スライス』も『スラッシュ』も再使用可能までのクールタイムは二十秒だ。その空白の時間に同じスキルを発動しようとしても、発動条件が満たされておらず同じモーションの通常攻撃が出るだけだ。そもそもスキルは、そのモーションと同じ通常攻撃を繰り返し修練することによって修得することが出来るようになる。
スキルは物によって様々だけど、通常攻撃より、威力・剣速・切断貫通力・射程距離などが二倍から数倍に跳ね上がるメリットがあり、単発のスキルであっても相手によっては一撃必殺の威力を持つ。
その代償として発動後の硬直時間があり、この二つのスキルの硬直時間は〇・五秒。この僅かな時間が戦場では命取りになることもあるので、どのスキルも使いどころを慎重かつ即断即決しなければならない。
俺の斬撃を一通り見た後、
「俺のはこんな感じだ」
と言って、縦斬り、横斬りのスキルを見せてくれる。
どちらも同じ角度で斬っている筈なのに、俺のスキルとは剣速・体捌き・間合いのどれもが違っていた。
やはり元の世界でのスキルとは別物なのか? と、思っていると、ザンタさんは意外な答えを教えてくれる。
「ご覧のように、俺とマビァくんのスキルは攻撃の目的は一緒だが、修得した結果は違うよな? つまり、そいつにとって最適な斬撃がスキルとして昇華されて修得に至るってわけだ。修得方法は簡単。とにかく使う武器に慣れる。改心の一撃が振るえる様になるまで何度でも練習する。最後に、いつでもどんな状況ででもソレが出せる様にとことん練習する。そーすりゃあ脳裏にピロリンって文字が浮かぶってぇわけよ」
うん、修練過程は俺と一緒だ。とにかくひたすら一つの斬撃を極めるしかないんだ。元の世界と同じなので、頷いて見せる。
「じゃあ、斬撃の単発スキルの種類っていくつあると思う?」
そう言われ、基本的な斬撃をゆっくりと数えながら時計回りに振るってみる。
真上からの斬り下ろし。右へ四十五度傾けて袈裟斬り。真横右から左への横斬り。斜め右下からの袈裟斬り上げ。真下からの斬り上げ。逆袈裟の斬り上げ。真横左から右への横斬り。逆袈裟。
「ええと、基本は八つかな?」
多少の角度のズレはあるけど、大体四十五度ずつに分けられる筈だ。他に考えられるのは突き技くらいだけど、これは『斬撃』ではなく『刺突』なので今回は省く。
「本当にそうかい?」
俺の顔を見てニヤリと笑ったザンタさんは、上段に構え切り下ろしスキルをズバンッ! と再び打つ。
〇・五秒の硬直後、剣を引き戻し、ザンタさんから見て右に僅か五度だけ傾けてスキルを発動。その後も連続で五度ずつ傾けてスキルを放っていく!
右からの横斬りで動きを止めるまでに放った斬撃の回数は十九回。その間、約一分弱……。
あまりの光景に俺は固まってしまった。
「ふぅ。久々にやると堪えるぜ……。若い頃は真下からの切り上げまでだから三十七回は出来たんだけどなぁ。すっかり鈍ったもんだぜ。これ以上はどうやってもスキル化出来なかったし、必要もねぇしな。大体、こんなに細かく斬り分けてみたのも冒険者を辞めるって決めてからのお遊びのつもりでやったからなぁ。実戦で使ったことなんてないんだぜ?」
続きの残り半周をスキル化出来なかったのは、ザンタさんのスキル修得の可能上限に到達してしまったからだろうけど、これは究極のスキル活用法なのではないのか?
単発のスキルは、構え・発動モーション・太刀筋をそのスキルが発動するように合わせなければならない。その上僅かな硬直もあるので、一撃目を放つ瞬間から二撃目を放つまでの時間は約三秒だった。ザンタさんのやってみせた連続単発スキルの技は決して速くはない。どころかぶっちゃけ遅い。
でも問題はそこじゃない。本来五度なんて角度は誤差として受け取られ、発動しようとしてもクールタイム内で使えずに普通の斬撃になる筈なんだ。
なのに、クールタイムを無視して放ち続けられるということは、ザンタさんが僅か五度毎にスキルとして修得したことになる。
確かに実戦では使う機会は無さそうだけれど、これまで一つの単発スキルを一度に一回しか使って来なかった俺からすれば、これまでの概念をひっくり返された様な衝撃を受けた。
俺の持つスキルの中に、二連撃、三連撃、四連撃のスキルがある。それぞれ単発スキルの組合せより硬直時間は長めだし型が決まっているので自由度は低いが、連撃数が増える度に威力・速度・切断貫通力・射程距離も増大する。より強力になる程に使い勝手が悪くなっていくのは仕方がない。
しかし、こうやって単発スキルを増やしていけば、連撃スキルよりは威力が劣るものの、理論上どの角度からの斬撃も自在に組み合わせられる筈だ。
硬直時間を挟むものの、使い勝手の良さや戦術の幅はこちらの方が遥かに高い。
例えば、一撃目の硬直するポイントから二擊目を放てたとしたら……。そうやって硬直時間と発動の構えを繋げて無駄を消せれば二連撃として使えるかもしれない。
でも、それだとスキル修得可能上限であっという間に頭打ちになるだろうし、どこまで単発スキルを修得出来るかなんて誰にも分からない。それに単発スキルだけで上限に達してしまうと、以降強力なスキルを修得する機会に恵まれたとしても、諦めるしかないかもしれないのだ。
新たな無数の可能性と選択肢を突然突き付けられ、頭からプスプスと煙が上がりそうになるほど考えが廻る一方で、別の結論も得た。
なるほど、元の世界では指南書を借りてそこに書かれた動きを再現したり、スキルを使える先達からモーションを教わってコピーする修練方法しか知らなかった。
しかし、よく考えると俺が教わったスキルにも編み出した開祖という者が居たわけで、それは誰であってもいいわけだ。
異世界人の俺がこちらの修得方法を元の世界で再現出来るのかって疑問も残るが、『プレイヤー』がこの世界に送ってくれたってことは、それが可能だってことなんだろう。
「……つまり、誰でも、俺でも、スキルは自由に創れるってこと?」
混乱気味な俺がそう答えると、ザンタさんはニヤリと嬉しそうに笑う。
「そーいうこったな。より強力なスキルを自分で編み出すには、体術や場合によっては魔力も必要になってくるかもなぁ。俺じゃあそこまでの領域に辿り着けなかったが、お前さんなら可能かもしれねぇぜ?」
そう言いながら剣を鞘に納めるザンタさん。彼の言葉に胸が熱くなった俺は、敬意を込めて頭を下げて礼をした。
「ご指導、ありがとうございました!!」
明けましておめでとうございます。
あと二回、隔週で更新する予定です。
その後、また潜伏せざるをえない状況になりそうです。
それでもよろしければお付き合い下さいませ。
楽しんでいただけているのなら幸いですm(_ _)m




