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初日 川原にて 1

 今回は少し長くなったので、二話に分けて投稿しました。

 前回までが前振りで、今回からマビァくん独りの『冒険奇譚』の始まりです。

 小鳥が囀ずり、さわさわと風が草を撫でる音がする。青々とした瑞々しい草の香りが鼻を擽り、目覚めた俺はまたうつ伏せで倒れていた。

 顔を上げると何処かの草原で、陽が昇って二時間ぐらいだろうか? 朝日が眩しく眼を刺す。

 身体を起こし胡座をかき、身体を見回す。左手に持っていた皮袋と、プレイヤーのところに放置してきたはずの解体用ナイフが地面に落ちているので、拾い上げ腰のポーチに戻す。そして立ち上がり、周りをゆっくりと見渡した。

 色としては青と緑の風景と、爽やかで心地好い空気と風。暖かな陽射しに、思わず腕を広げ深呼吸をする。ふたつ前の自分の世界が血と土と焼け焦げた肉や獣毛の臭い等、吐き気を催すような環境だったために、綺麗な空気を求めて身体が勝手に動いた気がする。

 目覚めた場所は小高い丘で、見えるのは草原と近くの川に雑木林。少し離れたところに森があり、その数キロ先に奥から手前に向かって流れる大きな川がある。それに沿うように道が等間隔で何本かあり、広範囲に広がる畑や集落、雑木林を格子状に区切っている。かなり遠くには牧場に家畜らしき点々。そのさらに向こうに大きな川に張り付くように城壁に囲まれた街らしきものが見える。山も近くに遠くに、高低様々にあり、地形に富んだ地域でとても豊かそうに見える。

 「ここが異世界……なのか?」

 やはり、嘗てない経験の連続で現実味を感じることができず、暫く風景を眺めていると、耳元から声が聴こえてきた。

 「やっぱり君は呑気だねぇ」

 「うぁっ?! プレイヤー?」

 俺は驚きキョロキョロするが、周りにあの球体はない。

 「ああ、ここだよ。君の左のこめかみに通信用のピアスを付けさせてもらったんだ。痛みもないし、骨伝導を利用しているから外にボクの声は漏れない。小さな声でも良く聴こえるだろう?」

 左のこめかみを触ってみると、小さな塊を感じる。骨伝導なるものは理解できないが、俺以外には聞こえないって理解で良さそうだ。これで会話ができるらしい。

 「君に最低限のことだけを伝えないといけないからね。そちらの異世界の名前は、まあ知らなくていいよ。どうせそこの住人だって知らない者が殆どだし。初めての異世界転移なんで君の世界に近いものにしておいた」

 その言いように俺は顔をしかめる。

 「気になる言い方だな。さっきも言ってたが、お前が俺を引っ張って行くこともあるって。…もしかして今回だけじゃなくて、二回目もあるってことじゃないよな?」

 「そこは君の活躍次第さ。でもそれは今回を無事に終えてからの話だからね。ボクにも君にもどうなるか分からないんだから、無視していいんじゃない?」

 ふむ…。それもそうだと頷く俺。

 「で、最低限ってどれくらいフォローしてくれるんだ?」

 「そうだね、町の方角くらいかな」

 それなら遠くにもう見えてるんだが。…あそこには行っちゃいけないヤバいところなのか?

 「あ、見えてたか。ならあそこでいいんじゃないかな。あとは特別サービスのアドバイスを。君、そこの川で全身丸洗いした方がいいよ。そのままじゃ、誰も口きいてくれないし、即逮捕は間違いないね」

 そう言われ、自分の惨状にやっと気付く。全身返り血や体液を浴びてるし、剣も盾もドロドロだ。特に酷いのが、自分の脇腹の出血だか胸で押し潰すように殺したゴブリンの血なんだか分からない染みが、胸の鎧から腰までの前面を赤黒く染めている。確かにこれなら俺が門兵でも街には入れずに逮捕するね。

 「逮捕された君は異世界人だからこちらでの知識は皆無だろ? どんなに尋問を受けても君の答えは道理が通らず、こちらの尋問官にとっては支離滅裂な戯言にしか聞こえないだろう。今の君は明らかに何処かで何十人も殺戮してきたようにしか見えないから、証拠はなくても怪しすぎて、投獄されたまま獄中エンドで決まりだね」

 う、そうか。元の世界ならゲート防衛戦後だし、それ以外の時でもハンターは返り血を浴びて街に帰ってくる事なんてしょっちゅうだったから気にしてなかったけど、世界が変わって平和そうに見える街道をこんな姿で歩いていたら確かに危険人物にしか見えない。

 「そんな終わり方はボクも望まないからね」

 「ありがとう。気が付かなかったよ」

 俺は素直に礼を言う。

 「まったく。君は鋭いと思う時もあるのに、抜けてる時もあるから予測がつかないね。まぁそこが面白いんだけど。ここは全く何も知らない異世界なんだから十分に注意することだね。ボクからはここまでかな。じゃあ通信を切るね」

 そう言い、プツッと音がした後、何も聴こえなくなった。俺は取り敢えず近くに見えている川に向かい、全身を洗う事にする。


 川沿いに1本木が立っている所まで歩き、盾と剣を木に立て掛け、そこで鎧を脱ぎ始める。俺の鎧は青銅製で上は胸と肩、下はベルトに装甲を通してあり、腕の手の甲までカバーするアームガードと、足のブーツと一体化した脛当てで一セットになっている。血が固まっているので、川の流れに晒して溶けるように先に浸けておく。

 次に鎧下の上下を脱ぎ、これも川に浸けて流されないように大きめの石で押さえ、下着姿になった俺はそのまま頭まで川に浸かって身体を洗った。まだ朝早い時間帯だから川の水も皮膚が切れるかと思うぐらい冷たいが、我慢して頭も洗う。石鹸やタオル、着替えも欲しいが、元の世界の街の宿屋に荷物は全部預けたままだったから何もない。まぁその辺は元孤児院出身で何もない事には慣れているから動揺はしない。

 頭を洗っていると結構砂や小石が入っていてジャリジャリとする。血もかなり被ってたのと自分の出血も溶け出して川の水を濁らせていた。

 だいたい頭を洗い終えて髪をかき揚げ身体を見ると、腹を刺された時の流血が下着に染まり水で溶け出している。俺は肩まで浸かり下着を手でもみ洗いしながら、鎧や鎧下を見るとあちらもいい感じに血が溶け出して、川を赤く濁しているのが見える。

 川汚しちゃったけど平気かな? 周りに人気は無さそうだし。そう思いながら下流に眼を向けると、水面に何かが浮かんでくる。

 水を割って現れたそれは岩のようにゴツゴツ凹凸があり、キラリと光るガラス玉のような目と俺の視線がぶつかった。なんかヤバくない?

 俺はそ~っと陸へ近付こうと動くと、ヤツもこっちに動き出した。

 マズいあれ絶対肉食だ! 血の臭いに誘われて来やがった! 俺はなりふり構わずバシャバシャと全力で川辺を目指す。チラッと後ろを見るとすぐそこまで迫っていて、グアッと開いた口で足に食らい付こうとしてる。

 「ヒィィィッ!」

 俺は悲鳴を上げながら、重たくのし掛かる水から足を引き抜き、飛び出して木の下にある剣と盾を掴み、鞘を捨てて振り向き構える。

 それは大型の頭の大きなトカゲのようだった。普通の爬虫類ならこんな冷たい朝の川で泳げる訳がないのだが、陸に上がってきたそれは全身から湯気を上げ、とても絶好調のようだ。

 異世界に来て早々に戦闘とはついてない。この展開はプレイヤーが喜びそうだな、と思い、まさかアイツの仕業か? 川に行くことを勧めたのもアイツだし。と邪推してしまう。

 足が裸足なのが不安だが地面は丸い石がゴロゴロしている川原なので、ブーツよりはいいかもしれない。やるしかない。いつも通りに戦闘に意識を集中する。

 俺から見て右が川で左が登り斜面が続く草の生えた土手。川原は幅十五メートルほどあるので、ここで仕留めるしかないだろう。川に入ればヤツの独壇場だし、土手は草に隠れて何があるか分からないから裸足の足を怪我する危険性がある。千切れて枯れて硬くなった雑草の茎でも、踏みつけると足裏に刺さることがあるからだ。

 ジリジリと左回りに移動しながら相手を観察する。頭が大きくて腹這いにしか進めない程に脚が短いが遅くはなさそうだ。尾の先まで入れると五メートルくらいか。背中の皮膚は硬そうで、突き以外で傷付けるのは無理だろうか? 尾も太くて強そうなので注意した方がいいだろう。俺の動きに合わせて顔だけこちらから外さずにじっと狙われている。角度が変わり見えてきた横腹の中が、呼吸に合わせてぼんやり光っては消えている。なんだ? あの光は。一度牽制をしてみるかと一歩踏み出したところで、トカゲの方から動き出した。

 予備動作もなく尾をこちらに振ると川原の石が弾かれて幾つも飛んでくる。慌てて『ミラージュシールド』を横に展開。致命打は防ぐも一撃左の太股に食らい激痛が走るが、間髪入れずに噛み付き攻撃が来たので、後ろに飛びつつ剣を横に払う。鼻先を浅く斬ったがやはり硬い。狙うなら腹か?

 間合いを測りつつ左足を曲げたり伸ばしたりしてみる。痛みも徐々に和らいでるので、どうやら骨折はしていないようだ。戦いにも支障がないみたいだ。

 慎重かつ狙える時には一気に行け! だ。俺は右に行くフェイントをかけ、噛み付きに飛び出そうとするトカゲの口を盾で逸らしつつ、右回転で逆手に持ち変えた剣で、体重をかけ喉元に深く突き刺す。暴れる前に跳んで離れ振り返ると、吹き出す血と一緒に火がボッボッと吹き出していた。それにも拘わらず喉を膨らすと内側の光が強く大きくなる。もしかしてコイツ…。

 俺の思考の通りに怒るトカゲは俺に向かって炎を吐く。しかしドラゴンやフレイムレックスのブレスのように、長く吹き付ける火炎放射ではなく、大きな火球と呼んだ方がいいものだった。俺は迷わず『ミラージュシールド』を右と上に展開。火球を『ミラージュバッシュ』で弾き返す。火球はビチャッっと粘液のようにトカゲの右肩から右脇腹にかけて張り付き燃え続ける。勘が当たって良かった。恐らくあの火球はその中心に燃える体液があるのではと感じた俺は、『ミラージュバッシュ』で弾く事に切り換えたが、炎や液体を弾き返した事がなかったので、一か八かの賭けだった。『ミラージュシールド』だけでは粘液は張り付き盾は炎に焼かれていただろう。

 炎に焼かれ苦しむトカゲは、必死に火を消そうと横回転で転げ回る。地面が砂か泥なら消せたかも知れないが、あいにく下はゴロゴロした石で消えそうにない。俺は川に逃げられる前に倒すため走り寄り、横回転の腹が上を向くタイミングに合わせて飛び掛かり、心臓が有りそうな場所目掛けて剣を突き刺し、横回転に巻き込まれないように剣から手を放して避ける。トカゲは一回転して横に腹が向いたところで息絶えた。

 俺は剣を抜き血を払った後、ふ~~~っと長い溜め息を吐いた。

 「コイツは魔物なのか野生動物なのか。俺らの世界ならDランク相当だろうな。デカい割りには攻撃スキルも使わずに倒せたし。取り敢えずまた出てくると嫌だから洗い物を先に済ませよう」

 まだ炎に焼かれるトカゲを放置して、急いで服や鎧を洗いに戻る事にした。

 引き続き、第八話もお楽しみ下さい。

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