五日目 横流しの鎧がある理由(ロージルさんによる推理)
「らっしゃい。おうマビァくんだったか。……なんだぁ? しまりのねぇ顔してんなぁ」
ザンタさんにそう言われ、顔を軽くプルプル振って元に戻す。ロージルさんと二人きりの至福な時なら腑抜けててもいいだろうけど、第三者が介入するとなればそうは言ってられない。
「はは~ぁ。こちらの美人さんにお熱ってわけかい? 若いってのはいいねぇ!」
「いや、今のはこの人ではない人に対しての、『思い出しエロ妄想』ってヤツです。ロージルさん、勘違いさせたならゴメン」
ザンタさんの台詞を聞いて、ハッ! とこちらを向くロージルさんに、さらっとアドリブでフォローを入れる。
多分さっきのザンタさんの言葉に対して「もしかしてマビァさんはわたくしの事を好いてくれている?!」みたいなことを思ったのだろう。確かにその通りなのだが、ガラムさん一直線なロージルさんに余計な情報を与えるとアレが暴走しかねない。
まぁ、余計に『エロ』なんて挟んでしまったから、ロージルさんの視線がちょっと痛い。
「そうかぁ。まぁ、そうやって活力も性欲も旺盛な方が若者らしいってもんだ。悪ぃな嬢ちゃん、へんな勘繰りしてよ」
ザンタさんがちょっと気不味そうに頭をガシガシと掻く。やめたげて! 今日頭皮虐めすぎ!!
「いえ、そんな……。申し遅れました。わたくし冒険者ギルドにて事務室長を任せられておりますロージルと申します。元冒険者で『激闘☆カレイズ』リーダーのザンタ・オーエン様ですね? 僭越ながら貴方様の経歴を拝見させて戴きました。二十九歳で冒険者を引退された時のランクはBに到る寸前でした。この二百年中の国内ランクでは、当時一・二を争う上位でしたね。お会い出来て光栄です」
俺からジト目を外した後、コホンと軽く咳払いをしてからにこやかに自己紹介をする。
へぇ、ザンタさんがパーティリーダーだったんだ。でも納得のパーティ名だな。この店同様にちょっとダサいが耳に残るネーミングセンスだ。
「やめてくれや。若気の至りだし、あの程度で国内トップランカーだったなんて、恥ずかしくていけねぇや。この国は最低レベルだからなぁ。他所でちょっと活躍出来たら別格扱いだもんなぁ」
少し恥ずかしそうに、でも満更でもなさそうにテレるザンタさん。
「ザンタさんこれ、午前中に買った剣と盾の残りを先に払っとくよ」
ポケットから取り出した金貨一枚と大銀貨五枚をカウンターの上にパチパチリと置く。
「おお、ありがとな。そんなに急がなくてもよかったのによ」
「それで……。早速ですが、例の件の交渉に入りたいのですが」
ちょっと疚しい事なので、声をひそめて話題を切り出すロージルさん。
「あー、そうだな。ここで話すのは不味いか。おーいアリア! ちょっと店番頼めるかー!」
店の奥に続く扉を開いて大きな声で誰かを呼ぶ。
二階の住居から「はいよー」と返事があった。奥さんかな? トタトタと階段を下りてきて奥から出てきたのは、ずんくりと小さくてポッチャリとした五十代くらいに見えるおばさんだった。
「おやまぁ! あんた今話題のマビァくんじゃないかい! ん~? タブカレの写真とはちょっと違う気がするけど気のせいかねぇ? この人を随分と助けてくれてるそうじゃないか。ほんとにありがとねぇ」
ぐいっと詰め寄ってきて、こちらの両手を取りブンブンと振りながら嬉しそうに話すアリアさん。ドワーフのような外見なのに、かなりの素早さで避けるヒマもなかった。
アリアさんは、白髪混じりの蜂蜜色の髪を頭の上で大きなお団子にして纏め、簡単な髪飾りを挿して固定している。臙脂のワンピースに白のエプロンドレスのせいか、体型の割に軽やかに見えるし、実際に動きが鋭い。これは明らかに長年の実戦で鍛えられた体捌きの成せる動きに見えた。
「あんたのタブカレの写真、あたしら夫婦して惚れちまってねぇ。切り抜いて額に入れて飾ってんのさ。やっぱりあれかね? 闘っている時とは違って、普段は少しヌケて見えるもんなのかねぇ?」
「は、はぁ」としか返事が出来ない。
タブカレの写真が聖騎士然とした感じに写っていたのはハンセルによる捏造だし、あれより本物がヌケて見えるのは仕方ない。俺が冴えない顔してんのは自覚あるんだけど、はっきりと言う人だなぁ。
「こら、あまり失礼な事を言うなよ。マビァくんのお陰で、たった二日で半年分稼がせて貰ってんだ。恩人と言ってもいいくらいなんだぜ?」
握った俺の両手にスリスリと頬ずりをするアリアさんの頭にペシンと掌を置くザンタさん。
おいおい、普段の売上どーなってんのこの店? 元の世界のシーヴァの平民街にあった、銅貨一枚で買えるショボい駄菓子を子供相手に売って碌に利益も無いのにそれでも潰れない、婆さんが経営してる駄菓子屋を思い出す。
まぁあれは、旦那さんが生前領地に大変貢献したようで、その遺族に恩を返す形で、一般的には高額と言える生活費を毎年婆さんに支給されているから出来ているんだそうだ。
あの婆さんは、一人で暮らすには少し多い生活費を使い、子供達の憩いの場としてあの店を造り、採算度外視で提供しているのだと、大人になってから知った。
子供好きな婆さんにとっては、子供とのふれあいや言葉の遣り取り、場合によっては悪タレ小僧への説教は楽しみであり生き甲斐なのだそうだ。
かえって子供達にとっては、初めて自分の欲しいものを少ない小遣いで何を買うか学ぶ場でもあるし、婆さんとの遣り取りによっては少し得をする可能性もある、良い社会勉強の場でもあった。
俺も孤児院時代に稼ぎで浮いた金を握りしめて、あの婆さんの店に通ってた。
今思えば大して美味くもない菓子を買って、たまにしか味わえない甘味を頬張ったあと、わずかに残した菓子を年下の子供達に分けていたのを思い出し、その罪悪感と後悔がヂクヂクと心を突き刺すのを感じる。それがあってか今は甘さに対して若干のトラウマがあったりしてるんだよな。
それは俺自身の葛藤であって、全く関係ない婆さんの駄菓子屋は良い店だと思う。まぁ、中には上手く万引きなどをして社会のゴミと呼ばれる存在を作り出す原因にも極稀になったりするのだが……。それはまた別の話である。
閑話休題。
確かにあんまり儲けて無さそうだったザンタさんは、そんなことはどうでもいいとばかりに言い放つ。
「大体お前だって冒険者だった頃は、シュッと細くてよぉ、街でも評判の美人だったじゃねぇか。それが今じゃあ見る影もねぇってのはどうゆーこった?」
ザンタさんがアリアさんの二の腕をポニポニと揉み、横っ腹をたゆんたゆんと叩く。
「はーぁあ? あんたがそれを言うのかい? こんなに腹も出て、髪の毛だって抜けちまった方が多いくらいじゃないかい?」
アリアさんも負けじと、ザンタさんの腹を両手でパンパン張り手した後、残り少ない髪の毛をワシャワシャとかき混ぜる。
なんか今度は夫婦喧嘩に飛び火しそうになったので、ロージルさんと二人して「まぁまぁ」と必死で宥める。しかし、この夫婦にとっては軽口の掛け合い程度だったようで、本気の喧嘩になったことはないそうだ。必死に宥めようとする俺達を見て笑いだしたくらいだ。
身近に『夫婦』というものを見て育たなかった俺からすればよく分からないや。ロージルさんはご両親が近くにいてよく会ってるのに、こういった機微にも疎いんだなぁ。
「では、ザンタ様と同じパーティメンバーだったアリア・ステイツ様でいらっしゃいますね? ザンタ様同様にCランクの上位冒険者で、フレイル型のモーニングスター使いだったと資料を拝見しております。お目にかかれて光栄にございます」
なんと、そんな物騒なもんをこのおばちゃんは振り回してたのか。
フレイル型のモーニングスターってのはあれだ、凶悪なトゲトゲの生えた鉄球を五十センチくらいの長さの鎖で棍棒に繋いだようなヤツ。遠心力で加速した鉄球はトゲがかするだけで薄い金属鎧など引き裂くし、肉も抉られ持っていかれる。まともに食らったら装甲ごとミンチにするという恐ろしい武器だ。
俺の世界だとハンターより魔物が持ってたりする方が多い。つい先日も巨体のミノタウロスなんかがデカいモーニングスターを振り回しているのを遠目で見たばかりだ。
あの武器は防ぎにくいから嫌だなぁ。まだ闘ったことはないが剣でも盾でもトゲ鉄球は逸らしにくいだろう。
普通の武器の場合は、剣・斧・槍・棍……。まぁどれでもいいが、それらが目標を捉えて屠る時に集まる力は衝突する面に接する刃の一点で、貫いたり叩き潰す場合でも力は一点に集中している。
しかし、トゲトゲ鉄球ってのは遠心力で得た破壊力をそれぞれのトゲの先端と鉄球本体に宿しているのだ。
例えば、こちらの身体を鎧ごと粉砕するつもりで襲い来るトゲ鉄球を剣で防いだとする。剣は最も鋭く突き刺さろうとする先端を逸らしたとしても、他のトゲに引っ掛かり、刀身に鉄球を叩きつけられ、場合によっては剣を折られる。
逆に盾で防いだとしても、かなり付呪で強化していない限りボコボコのガタガタに潰され、攻撃を逸らす為の綺麗な曲面を失う。
相対する事があるなら、一撃受ける前に倒すか、全て回避しないと分が悪い。アリアさんが敵でなくて良かった……。
「やだよあたしらごときに様付けなんてしないでおくれ。しかしあんた、あたしの事まで知ってるなんてスゴいねぇ。あたしらのパーティは国内じゃあまり活躍していなかったし、外国での記録をギルドに提出しただけだから、知ってる人なんて当時でも殆どいなかったってのに。若いのに凄いわねぇ」
今度はロージルさんの手を取りブンブンと振り回す。冷静だったロージルさんもタジタジだ。
「じゃあ元パーティメンバー同士の夫婦なんだ」
「おう、俺達ぁ元々幼なじみでよ。冒険者として十五で国を出て、それなりに楽しくやって来たわけなんだが、二十半ばを過ぎると他のメンバーもギルド幹部にスカウトされて脱退したり、結婚したりで抜けてって、行き遅れの俺達だけ残っちまった。今後どうするか考える為に一度故郷に帰ってみることにしたんだが、帰ってみりゃ親父は死んでて、おふくろ一人で店を頑張っててな。もう店を継ぐ他なかったのよ。その時コイツが『腐れ縁だから』って一緒になってくれてな。今に到るってわけだ」
へぇ~。なんかいいなそういうの。長年仲間としてやって来たからこそ通じ合うものもあるだろうし、酸いも甘いも噛み分けて今があるって感じが、普通に想像する夫婦愛ってのを超越してそうでなんか羨ましい。
テレることなく話すザンタさんとアリアさん。見た目はアレだけどカッコいい大人って感じた。
にこやかに送り出してくれるアリアさんを店に残し、三人で倉庫へと向かった。
ザンタさんはロージルさんに品物を見て貰うために、壁に立て掛けていた折り畳みのテーブルを出し、箱から鎧一式を取り出して並べる。
改めて見ると内側に鎖帷子も備えられていて、一般兵の大量生産品とは思えない立派な造りをしている。
「マビァさんから聞いていましたけど、本当に新品同様な保存状態ですね……」
鎧の表面に指を滑らせながら感心するロージルさん。その仕草がなんとも艶かしいけど、やっぱ自覚ないんだよね。
「ザンタさんのお父さんって鎧職人か鍛冶屋かやってたの? これって素人の仕事じゃないでしょ?」
俺も兜を取り上げて、くるくると回しながら外側と内側を観察する。これで職人の銘が入ってないなんて信じられない。
「よく見るとこれ、ただの大量生産品じゃないよ? 改造してグレード上げてるみたい」
各所に強度を落とさず軽量化を図る為の貫穴。内側の革も蒸れないようにパンチ加工や溝堀加工がされている。鎖帷子も後から付けられた物だろうが違和感なく感じる。
「親父は確かに器用だったように思うが、まさかここまでの腕前があったのは知らなかったぜ。この鎧の事を知った時には、もう親父は死んでたんだ。店を引き継ぐ時に、おふくろから『倉庫の鎧は軍の横流し品だ』って聞いて、俺もちょっと頭にきてたから冷静に観察せずにずっと封印してたわけだしなぁ。……まったく、どういうつもりで親父は横流しに荷担して、こんな改良まで加えて売らずに残しといたんだろうなぁ。今となっては、唯一事情を知ってそうなおふくろは三年前に死んじまったし、書き置きも何もねぇんだから、どうしようもねぇやな」
腕を組み、木箱の山を見上げるザンタさん。
「その事ですが、少し気になったので先ほど図書館に行って、当時の新聞を調べてまいりました」
さらりと凄いことを言い出すロージルさん。
「調べたって……三~四十年くらい前の事だぜ?」
「はい、より情報を精査する為に四十年前から二十五年前の約十五年間分に目を通してきました」
三角メガネをクイッと上げてなんてことないとでも言うように微笑むロージルさん。
「おい、マビァくん……。俺がこの話をお前さんにしたのは昼ちょい前だったよな……」
「はい、……因みに俺がロージルさんに話したのが正午前だったし、昼休憩中に昼飯も食ってる筈だよ?」
十五年分の新聞となると、一年三百六十日だったとしても五千四百部になる。もしデイリーとタブカレの二部ずつとなると一万八百部、昼飯を早く終わらせたとしても約三十分でそれに目を通したことになる。
図書館という存在は聞いたことあるが、俺はどんなところか知らない。そんな膨大な量の新聞をどうやって保管し閲覧出来るのか知らないけど、ロージルさんならスキルをフル活用すれば一部分に目を通すのなんて数秒の事なのだろう。
とにかく情報を詰め込んだら『情報分析』と『情報管理』の二つのスキルが勝手に必要な結果を出してくれる。後はロージルさんがそれを披露するだけだ。
改めて考えると、その能力の凄まじさに思わず身震いしてしまう。
三人とも適当に木箱に座ってロージルさんの話を聞くことにする。
「まず、横流しの主犯である当時の駐屯基地のトップだった少佐の人物特定から始めました。三十年前の三月のデイリーに『シュミット少佐、栄転により王都へ。駐屯基地の統括官交代』という記事がありました。年代的にこのネイドル・ハルフ・シュミット少佐が該当する人物でしょう」
「あ、あぁ。多分そんな感じの名前だったと思う」
ザンタさんにとっては深く関わってない上に、帰った時には居なかった人物だ。おふくろさんから話は多少聞いててもよく覚えていなくても仕方がないだろう。
「このシュミットという人物は、一月後のタブカレの記事では栄転の話を蹴って軍を退役。元々男爵家の次男だったそうで、実家の小さな領軍のリーダーに収まったそうですね。タブカレの記事なのでどこまで信じて良いか分かりませんが、心に決めていた女性が地元に居り、王都に栄転しては女性の婚期を逃す為に国軍を退役し地元に戻ったとありました」
シュミット男爵領は、北の森と山の近くにある領地で、農地は少ないが魔獣の被害も少ない、貧乏ながらも平和で穏やかなところらしい。わずかにだが自警団レベルの領軍を配備しており、普段は領民と同じ様に暮らしているそうだ。
「さらにこのシュミット氏は、度々タブカレに登場します。タブカレの大袈裟な表現をかなり少なく見積もったとしても、ギャンブルがお好きだったようですね。三十五年前の八月の記事に『コロットセイ水上障害レース。大穴結果に会場が大荒れ!!』という記事で、本命に大金を賭けたシュミット氏が大負けしたとありました。他にも色々な賭け事で負けている様ですね」
「……つまり、それが横流しを計画する原因になったと?」
僻地の駐屯基地とはいえ、統括官で少佐ともなると薄給ではない筈だ。こんな娯楽の少ない街なら、真面目に貯めてればそう苦労することもなく大金は手に入る筈なのに……。
「呑んで騒ぐのもお好きだった様ですね。お金を貯めたい反面、『碌な仕事もしない俺達が街に還元しなくてどうする』というコメントがありました。お酒が入ると豪快に他のお客に奢ったりしていた様です。軍人で貴族なのに居丈高なところが無い方は珍しいですよね」
「親父もそれに交ざって呑んでたってわけか。確かに親父が好みそうな人柄みたいだが。……聞いた感じだと、呑んで騒いでは金をばらまいて、それの補填目的でギャンブルに手を出し、スッてからっケツになってたんじゃないか? とんでもねぇ少佐殿だなぁ」
「ザンタさんのお父様も、わずかですが記事に名前をお見かけ致しました。ゼンダ・オーエン様でいらっしゃいますよね? シュミット氏の暴走を止める役割という印象を受けました。先程話した三十年前の四月のタブカレに、別れの場面でゼンダ様と抱き合い涙を流すシュミット氏の写真がありました。記事にも『ゼンダ氏のお陰で新しい人生のスタートを切れるとシュミット氏は語った』とありましたから、親身になってシュミット氏を手助けしていた様です」
そう聞いたザンタさんは、少し驚いた様で軽く目を見張った後、俯いて溜め息を吐いた。
「……そうか。親父がなぁ……。俺は十五のガキの頃に国を出ちまったから、碌に知らなかったんだよなぁ。ガキの頃は大人の事なんて全然分かっちゃいねぇもんだ。俺は親父の事をホントに知らずに生きてきたんだなぁ……」
「ここからはわたくしの推理になります。シュミット氏が貯めようとしていたお金は、地元の女性と結婚する為の資金だったのではないでしょうか? 三十五年前のレースで大負けしたシュミット氏は、カレイセムでの任期を終えるまでに貯めておきたかった資金が、残りの年数頑張って貯めたとしてもとても間に合わない。そこで他のギャンブルにも手を出し、ますます状況が悪化する。一発逆転ばかり狙うシュミット氏をゼンダ氏が見かねて更生させ、飲酒とギャンブルを止めさせる代わりに、鎧を買い取ることに決めたのだと思います。一月に一つか二つ、誰にも見付からないように基地から持ち出すにはそれくらいが上限だったのでしょう。それにゼンダ氏も買い取る為の資金も稼がなくてはなりませんからね。五年をかけて任期のギリギリまで横流しが行われたのではないかと思います」
ロージルさんなりの結論が出され、少し沈黙の時間が流れる。俺もザンタさんも頭の整理が必要だ。
ってことは、つまり……。
「ってことは、つまり俺の親父が首謀者かも知れねぇってことか。無理して稼いで犯罪行為をしてまでも、ウチの親父はシュミット少佐の結婚を応援してたことになるよなぁ。そこまでの友人だったってわけか……」
「あくまで情報を精査した上での推論です。しかも情報元は新聞だけで、しかも半分はタブカレですので……」
慌ててフォローを入れようとするロージルさん。それを手を上げて止めるザンタさん。
「いや、いいよ。俺としても納得のいく結論だ。あの親父は権力者に強要されたからといって犯罪に手を染めるわけがないって思ってたからなぁ。そういう理由なら親父の気持ちも分かるってもんだ。でもこの鎧の山をどうするつもりだったのかまでは分かんねぇよなあ」
「それもある程度なら推測出来ます。十五年分の新聞を纏めて見たから気付ける事なのかもしれませんが、当時、魔獣が各地で活性化し、年々数を増やしていた様で、魔獣による被害や討伐の記事が増えていってました。この街周辺の被害は大したことなかったみたいなのですが、冒険者も武装強化をした方が良いのではと囁かれていた様で、長年廃れていた鎧にも需要が戻ってくるのではないかと、ゼンダ氏はお考えになったのかもしれません」
「……あ~、そういやぁ二十歳くらいの時に魔獣討伐がやけに増えた時期があった気がするなぁ。あん時は俺らのパーティはこの大陸の反対端の国まで行っててよ、結構強ぇ魔獣が多い地域だったから、ギルドの強制クエストで何度も駆り出されたのを思い出した。でも、ありゃあ確か……」
「はい、三年程で落ち着きましたし、こちらの方まで活性化の波はこなかった様です。それで売る機会を失ったのかもしれませんね」
ロージルさんの言葉に、はははっと苦笑を漏らし木箱を叩くザンタさん。
「そりゃついてねぇなぁ。その少佐殿のギャンブルの負け癖が助けた時に移っちまったんじゃねぇか?」
「でもさ、今こうして買おうってヤツが現れたんだし、長~い目で見れば結果的には良かったんじゃない?」
「けっ。この不良在庫のせいで、借金こそ無かったが貯蓄だってありゃしなかったんだぜ? 元が取れるったって三十年はちと遅過ぎるぜ」
親父さんの死に目にも会えなかったから、直接文句も言えなかったのもあってボヤきたくなる気持ちも分かる。でも、異世界人の俺が偶然この街に来て、冒険者ギルドの改革なんて始めたから、この鎧達は日の目を見ることが出来るようになったんだ。
俺が来ていなかったら、ザンタさんが死ぬまでここでホコリを被っていたかもしれない。それよりはずっと良いじゃないか。
俺は立ち上がりテーブルに置かれた鎧をもう一度触れてみる。
これは、父親から息子への、呆れるほど遅く届いたプレゼントなのかもしれない。
新品の様に銀色に輝く表面を撫で、そんなことを思った。




