五日目 ロージルさんの痴女化対策会議
ロビーをぐるりと見渡すと、食堂の各テーブルに突っ伏す冒険者達の姿があった。
試験場で幻獣相手に訓練してた奴らだ。疲れきっているようなので、午後から中庭で訓練再開することを伝え、しばらく休ませることにする。
二階事務室に入っても、ロージルさん達三人はまだ応接室にいるようなので、そこに向かい扉をノックすると「は~い」とコニスの明るい返事があったので中に入る。
「もういいのかな?」
立って迎えてくれる三人の顔を見ながら近寄る。コニスはもう怒っていないらしく、にこにこコニスマイルで、イルマさんは咥え煙草でニヤリと笑い、ロージルさんはこちらを見る目が泳いでいた。
なんだ? ここを出る前と雰囲気が違う気がする。
テーブルの上には二枚の紙に色々と書き込まれている。俺が頼んでおいた件を纏めてくれたようだ。
「ロージルさん、さっきはすみませんでした。突然過ぎましたよね? ごめんなさい」
先程ちゃんと謝れなかったので、しっかり頭を下げて謝る。次はもっと過剰な反応になるかもしれないのだから、今回の反省を活かしてもっと慎重にならないとな……。
しかし、顔を上げて見えた彼女の表情は、少し傷付いた痛みを含んでいた。あれ? 今なんか俺悪いこと言った?
「い、いえ、そんな。こちらこそ申し訳ないです。わたくしこそ醜態を晒してしまって、お恥ずかしい限りです。こんな面倒臭い女でごめんなさい!」
頭が膝につきそうな程にお辞儀をして謝るロージルさん。「面倒臭い女」って……。あ、もしかして無意識の内にそんな感情が顔に出てた? こっちが悪いのに一瞬でもそんな考えが過ったかもしれない自分の本性に戸惑う。十分傷付いてる女性を追い討ちしてどうする。
「ロージルさんが謝ることなんて全っ然ないんですよ。悪いのは俺なんで、以後気をつけますから……」
心底反省しながら、なんとか宥めようとロージルさんに謝るも、そんな俺の顔を見たロージルさんが何故か泣きそうな顔になる。ほんと何故!?
「ま、まぁまぁ。それくらいにしときましょう!」
コニスが空気を読んでその場を収めてくれる。小声で(ロージル先輩、一旦OFFって下さい)と囁くのが聞こえた。そして部屋の隅にロージルを連れていき、何やら小声で話している。しばらくしてこちらに戻ってきた。
何が原因なのかコニスは分かっていそうだったので、説明を求める視線を送ってみたが、気付いていないのか無視される。一体どうしたもんだか……。
「どうやら、お互いの謝罪したいポイントがずれているようだな。まぁ今回はどっちもどっちだとあたしは思うぞ? 二人とも反省しているのはあたしにも分かるから、それは取り敢えず置いといて、話を進めよう」
イルマさんも状況が分かっている様だが話してくれそうにない。俺は俺だけの反省を心に刻んでロージルさんの反応は隅に追いやることにする。
「さて、マビァくんから出された案件だが、まずはこの子の安全を守る為の嘘の方から進めよう」
先程と同じ位置にみんなで座ると、イルマさんはテーブルに置かれた紙を一枚取り上げる。
「結論から言うと、『マビァくんが淫乱なロージルの夢を職員達に見せた』という嘘は貫くことにした。ちょっと形は変えるがな。その上で我がギルドは、マビァくんがまた同じ夢を誰かに見せた時には、街の法に則った行動に移ることとする」
「街の法?」
「『公然猥褻罪』の適用で軍に通報、逮捕投獄だな」
…………え~と、よく意味が分からない。誰が何故逮捕されるんだ?
「つまりだ、この先ロージルが誰かの目の前でアレになった場合、如何なる場合においても『マビァくんが見せた夢』ということになり、君を軍に引き渡すというわけだ。……我々にとっても苦渋の決断だった。君にはすまないと思っているよ」
全然すまないと思っていなさそうな表情で言い切るイルマさん。
「な…………」
絶句して固まる俺。まるっきり納得いかないというわけではない。淫乱ロージルさんが実は夢ではなかったと知れ渡ると、襲われる可能性が跳ね上がる。それを守ると決意したのだから、責任は全て被るのが俺の贖罪ってもんだろう。しかし、この数日の短期間でロージルさんに会う度に、彼女の無自覚淫乱痴女化が過敏になっている。
これから先、事務室で仕事中でもガラムさんのことを思い出すだけでああなる可能性だってあるんじゃないのか? そんな時に、もし俺が遠くにいたとしても犯罪者として逮捕されるのは俺?
そんな無茶な理屈が通るのだろうか……。
「ふふん、君の考えていることは分かるよ。君はここにいる時間の方が少ないんだからな。当然その事も折り込み済みだ」
ソファーにふんぞり返って長い足を組み、ニヤリと笑うイルマさん。ははぁ、これはウナギの時に続いて意趣返しだな。
「ロージルは君に、他人からは淫乱になったように見えるスキルだか魔術だかをかけられたことにする。そして君がかけるのに失敗して解けなくなったことにしてしまえば、君がいない時に人前でロージルがアレになっても、ロージルはただの被害者だ。なに、ロージルがアレを克服するまでの話さ。その間この子が人前でアレにならなければ君に害はない」
「っていう設定を、マビァさんのいない間に女性職員を集めて伝え、協力してもらうことになりました。内容はですねぇ、こんな感じです」
コニスがぺらりと出す紙を受け取り、読んでみる。
一番上に『主に男性の職員・冒険者への注意喚起』とタイトルがあり、その下に「大変重要な案件について記載しております。もし読まれずに下記記載の規則に違反した場合でも、刑罰の軽減や情状酌量などの処置は発生致しません」と赤字で書かれている。
……なんだ、この物騒な書き出しは……。気になりつつも本文を読み進める。
『この度、一人の女性職員に、他人には淫乱になったように見える幻像の魔法が、SSランカーのマビァ氏によってかけられてしまうという案件が発生致しました。
再度幻像が発現した場合、マビァ氏を『公然猥褻罪』に抵触するものとし、軍に通報し逮捕を要請致します。
魔法解除の失敗により、被害者本人の意思に関わらず突然幻像に包まれる危険性がありますが、もしそのような場面に立ち会ったとしても、しばらく放置して戴ければ、被害者本人により打ち消すことが出来ますので、誰も近寄らないようお願い致します。
もし被害者に対して、近付き触れようとしたり、淫らな行為に及ぶ者がいた場合、有志の女性陣により再起不能にした上で『淫行罪』で通報・投獄致します。
また、マビァ氏に該当の魔法を要望した場合も、『計画的に淫行を企てた疑い』として、有志の女性陣により去勢した上で通報・投獄致します。
~女性職員一同~』
……なにこれ? 怖い……。
淫らな思考の男どもを『再起不能』だの『去勢』だので徹底的に駆除しようとする女性職員達の姿勢に、思わず股間が縮み上がりそうになる。
嫌そうな顔をして紙を返す俺を、心底楽しそうにコニスが見ていた。
「確かにこれだけ脅せば、そう簡単にはロージルさんに手を出そうなんて思わないでしょうけど、俺が魔法をかけて失敗して解けなくなったなんて、そんなに上手く信じてもらえるもんですかね?」
「現に君が夢を見せたということは信じられているじゃないか。君は世間からみれば謎と非常識の塊だよ。何が出来たって不思議じゃないし、世界には謎のスキルや古代文明の技術が溢れている。なに、問題はないさ」
何を今更って感じに煙を吹くイルマさん。
「じゃあ、タブカレの記事の方はどうなるんです?」
「そっちはわたしが人を使って打ち消します。誰かがその話を出したら『たとえ自分達が夢を見せられたのだとしても、試験官が幻獣を出したのは事実だ。それをマビァが倒した事に変わりない。バカなことを言うな』って配下の者に言わせます。すぐに噂は消えますよ」
コニスの「なに、信者を使って悪事を揉み消すなど造作もないことよ。ふははは!」といわんばかりの、邪神教教祖のようなドヤ顔は気になるが、問題ないのならそれでいいや。
「マビァさん、わたくしマビァさんが犯罪者にならないように精一杯頑張りますから!」
申し訳なさそうな困り顔で、両手をグッと握り宣言するロージルさん。
ははは……はぁ。これまでもどうにもなってないから困ってるんだけどねぇ。
あ、さっきロージルさんの様子がおかしかったのは、これが決定して俺に悪いと思ったからかな?
まぁ確かに、このままでは俺はいずれ投獄される流れに乗っている。どうしたものかと悩んでいると「はいっ!はいっ!」とコニスが元気に手を上げた。三人の視線がコニスに集まる。
「私、いいこと思い付きました! うふふ~、これは画期的かも知れませんよ~?」
「なんだよ、勿体振らずに早く言えよ」
「あ~、いーんですかぁ? そんな言い方しちゃって。マビァさんの運命かかってるかもしれないんですよ~?」
「へへ~ん」と意地悪く焦らすコニス。ちっ、こいつもさっきの意趣返ししてきやがった。まぁ、先にコニスを嵌めてスキルのことを話させようとしたのは俺の方だ。大人しく下手に出る。
「申し訳ありません。コニス様、どうか教えて下さいませ」
身体をコニスの方に向けて、膝に両手を突き頭を下げてお願いする。あまりにあっさりと下手に出た俺に「うっ……」と狼狽え、呆れながらも答えてくれる。
「い、いいでしょう。ロージル先輩、凍結・冷温魔法が得意なんですから、体温を調節して赤面や心拍数を抑えることが出来るんじゃないですか?」
「おお!」
コニスのアイデアを聞いて、レストラン『キィマ』でガラムさんロージルさんと一緒にカレーを食べた時の事を思い出した。
俺とガラムさんが赤い顔をして汗だくになりながら食べていた時、ロージルさんは汗一つかくことなく、涼しい顔をして食べていた。
「そうか、カレーの時も魔法使ってたって言ってましたよね? それを応用出来るんじゃないですか?」
辛いもん食って身体が熱くなり赤面して汗をかくのと、恥ずかしさや興奮でなるのとは違うのかもしれないけど、心拍数が上がり血流が速くなるのは同じ筈だ。なんとかなるかもしれない。
「まぁ待て、この子は普段から冷温魔法を使って体温を調節することには慣れているが、あの魔法は地味な割にかなり高等な技術なんだ。アレになった時のこの子は、知っての通り情緒不安定の極みだろ? あんな精神状態で魔法の体温調節が暴走すれば、極端な話、血液が凍結する危険性がある。命に関わる障害が出る可能性もあるかもしれん」
そんなイルマさんの説明の補足で、冷温魔法のエキスパートであるロージルさんが教えてくれる。
「人間の体温は暑い時でも寒い時でも平熱を保とうと身体が働きます。暑いと汗をかいて身体を冷そうとしますし、寒いと身体が震えて熱を出そうとしますよね? でも、人の平熱ってプラスマイナス一・五度くらいしか許容範囲がないんですよ。それ以上高いと熱中症になりますし、低いと低体温症になって異状が出始めます。
わたくしが『キィマ』でいつもやっている方法は、深部体温を〇・二度ほど下げて、体表面に薄く十八度くらいの冷気を纏わせて風魔法でゆっくり循環させているんです。十八度というのは冷気としては高く感じるかも知れませんが、冷気が冷た過ぎると血管が縮こまって血流が遅くなりますから、かえって冷しにくくなるんです。イルマの言った通り、地味な割に面倒な複合魔法を使ってるんですよ」
と、苦笑して俯くロージルさん。なんとそこまで複雑な魔法をあの時使っていたのか。こっちの世界の魔法の使い方はどうなのか知らないが、誰でも出来ることではなさそうだ。
そう言われると試しにやってもらうのも怖くなる。
「ロージル先輩が急激に情緒不安定になるのは、マビァさんがやったように急に話を振った時です。さっき確認の為にゆっくり話をした時は、鏡を見ながらですが、大変なことにならずに済みました。
そして、ロージル先輩には経験を活かして先読みが出来るスキルがあります。事前に予測してほんのちょっとだけ体温を下げてすぐに切る、ってことは出来るんじゃないですか?」
またもやコニスの優れた提案に、俺も「おお!」と声を上げる。イルマさんも「ふむ……」と頷き、ロージルさんは意を決したのか顔を上げた。
「……分かりました。試してみましょう。直接体内の温度を調節するのは危険ですから、薄く冷気を纏うだけにしますね」
「そういうことなら、こちらに話を移そう」
そういうイルマさんが、テーブルの隅に置いてあった弁当の包みをロージルさんの様子を見ながらそっと中央に移動する。
俺もコニスもロージルさんの様子を固唾を飲んで見守っていたが、表情が少し固くなっただけで痴女化することはなかった。
「お……おぉ……」
俺が感嘆の声を漏らすとコニスが、
「……まぁ、この包みに関しては、マビァさんがいない間に大分慣れてきてましたからねぇ」
と、水を差す。いいじゃねぇか別に。今までの激しい反応を見続けてきた俺にとっては、この反応は新鮮だったんだよ。
「マビァくん、先程は話を聞く暇もなかったからな。詳しく聞かせてもらおうか」
イルマさんに促され、昨日晩ガラムさんに夕食を渡した時のこと。料理がちょっと豪華過ぎて誰が作ったのか話さないと次からは受け取るのを拒否されそうになったこと。断られるわけにはいかないのでロージルさんが作りたいと申し出てくれ、正式に依頼料を払ってお願いしたというのを隠せなくなったこと。かなりの朴念仁なガラムさんでもロージルさんの気持ちになんとなく気付いていて、『キィマ』でロージルさんが見せたセクシーなお誘いを、カレーに夢中な振りをして誤魔化していたことを話す。
まだ話の全体からすれば序盤なんだが、黙って聞いているロージルさんは赤くなりかけたり、真っ青になったり、泣きそうになったり、手鏡を見てプルプル震えたりしたので、一旦休憩を挟むことにする。
やはり少し魔法が暴走しかけて、身体を冷しすぎたようだ。コニスが先回りして暖かいお茶を用意してくれたので、ロージルさんはカップを両手で包み込むようにして身体を暖める。
ロージルさんに対しては過保護なイルマさんが心配して火炎魔法で部屋を暖めようとしたが、コニスに止められた。苛烈な炎しか出せないイルマさんの魔法では、室温が上がり過ぎてかえって身体に負担がかかるし、俺達も耐えられないというのが理由だ。
ロージルさんは今夜も夕食を作って欲しいという嬉しい流れを既に知っているのに、今した話は事の前半のみで、どう聞いても断られる話の流れだったので、不安になって心が乱れるのは理解出来なくもないが、やはりいきなりでは制御が難しかったようだ。
なんとかロージルさんを落ち着かせてから、話を続けることにする。
ロージルさんの無自覚痴女化とその中身の違いをガラムさんに説明したこと。疑いつつもなんとか信じようとしてくれていること。そして、仕方がなかったとは言え、ロージルさんの恋心をガラムさんに話してしまったことを伝える。
かなり慎重にゆっくりと話したのだが、やはりこれは強烈だったようで、茹でダコのように真っ赤になったロージルさんは、魔法を暴走させて白い霜に包まれて「きゅう……♡」とまたもや昇天した。
「マビァさん! 告白を肩代わりしてたなんて衝撃強すぎますよ! お二人にとってとても大切な事じゃないですか。何でマビァさんが勝手に告ってんですか?!」
俺を罵りながら、ロージルさんを暖める為に身体のあちこちをごしごしと摩るコニス。
「ロ、ロージル、今暖めてやる!」
イルマさんも少し気が動転しているようで、十指を上に向け、シュゴーッと青白い炎を十本立ち上らせる。みるみると室温は上がり、肌をチリチリと焼く熱波はガラムさんの鍛冶場のようで、応接室の全体を炙り、あちこちからミシミシという音が響き出す。
「だからダメですって! 火事になっちゃいますよー!」
慌てて止めるコニスと俺。なんだこの地獄絵図は……。
「……だからぁ、仕方がなかったんだって。ロージルさんがこんなになった経緯を全部丁寧に伝えなきゃ絶対に納得なんてしてもらえないからな! ガラムさんは半信半疑でも受け入れようとしてるんだ。イルマさんやコニスだって、全部事情を知らなきゃコレ見ても信じられなかっただろ?」
なんとか三人とも冷静になったところで、先程コニスに言われたことの返答をする。まだ赤いまま解けた霜が湯気を上げながらテーブルに突っ伏すロージルさんを、ズビシッと指差しながら言い放つ俺。
イルマさんもコニスもソレを見ながら、
「「うぅ……。確かに……」」
と、気を削がれる。しかし、今のところ冷温魔法は失敗っぽいなぁ。なかなか上手くいかないもんだ。
「……あとはさっき言った通りだよ。今朝これを宿まで返しにきて、『今晩も同じところで買ってきてくれ』って言われたんだ。だから今日もお願いしたい。あまり豪華にし過ぎないようにね」
全部言い終えると、俺はソファーの背もたれに身体を深く埋めた。他の二人もぐったりと身体の力を抜く。
「……上手くいくと思ったんですけどね~……」
もたれた身体をズルズルと下に滑らせるコニス。自分のアイデアが上手くいかなかったことが悔しいらしい。
「……アイデア事態は悪くないと思う。ただやはり、今のような不安定な精神状態での制御は無理なようだな。大体今の、片想いな上に恋に恋してるって感じなのが良くない。マビァくん、ガラムさんの気持ちはどうなんだ? 相思相愛なら早めに接触させて慣れさせた方がいいと話し合ってたんだが」
まるで飼い犬を他人に譲る時のような言い方をするイルマさん。彼女も魔法を使ったせいで疲れたようで、深くもたれ掛かり、咥え煙草で上を向いてダルそうに話す。
「面識があるなら分かると思うけど、あの人仏頂面してるからなぁ。ロージルさんの話になると、赤くなったり目を逸らしたりしてるから脈ありだと思うんだけど。それに、目の前でロージルさんがアレになっても、襲いかかるってより、苦手だから避けるってタイプだと思うんだ。本当にロージルさんが自分のことを好きなのか、急な話だし本人から直接言われたわけじゃないから信じられない。だから好意は受け取って、今は様子見って感じじゃないかなぁ?」
「奥手同士の恋愛って焦れったいですねぇ……」
ダラけた姿勢のままお茶を啜るコニス。三人揃ってダラけ過ぎだ。
「取り敢えず今夜持っていく弁当に、ロージルに手紙を書かせて入れとくか。せめて文通からでも始めなければ先に進まん」
「……長引けば、俺が投獄される確率も上がりますしね……」
チラリとイルマさんの顔を見る。
「ふっ。あれは君だから被せられた罪状だ。君ならばどうとでも逃げおおせられるだろう?」
あ、逃げてもいいんだ。やはり本気で逮捕させたいわけではなく、嫌がらせ半分だったらしい。
「でも、もし二人が付き合うことになったらなったで、イチャラブなことを職場で思い出してアレになる確率は上がるんじゃないですか? ほら、思い出し笑いみたいに」
言うなれば『思い出し痴女化』か。ロージルさんにしか使えない新しい言葉だな。さっき俺もそれは思った。
普通の幸せ真っ只中の乙女ってのは頭の中お花畑で、色々思い出して「フフッ♡」とか「クスッ♡」とかひとり照れ笑いして微笑ましかったりウザかったりするもんだが、ロージルさんの場合、いきなり痴女化して「あはんっ♡!」とか言ってハァハァ悶え出す。頭の中は同じ筈なのに見た目が違い過ぎる。
そうなった時、まだ俺がここに居るかは分からないが、もう街には入れそうにない。
「状況次第で、ロージルを暫く休ませるか退職させるかするさ。そうなると事務室の効率が半減するが、頻繁にアレになられても下がる効率は同程度だろうよ」
「う~……。ロージル先輩抜きじゃ改革後はやってけないですよ~。全体を把握してるの先輩だけですし、今だって抱えてる仕事いっぱいで……。ハッ! もうお昼前じゃないですか! 早く話を終わらせないと」
壁の時計をチラッと見たコニスがガバッと跳ね起きる。そうだ、昼には宿でウェルと飯食いたいのに、もうひとつ案件がある上にザンタさんの鎧の件も増えたんだ。急がねば!




