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五日目 冒険者の武装

 中庭に出ると、『黒い三連狩り』の三人は広いところに行って木製武器を振り始めた。相変わらず型も重心移動もあったもんじゃないし、素振りをするだけなら本物の武器の方がわずかに重いから、筋力を育てるのならそっちの方がいい。


 大きな怪我をせずに打ち合う事が出来るのが木製武器の利点なのだが、彼らの振る姿を見て「ありゃ、間違ったかな」と、呟いてしまう。


 彼らの持つのはさっきも言ったが『両手剣』『片手斧』『両手斧』であり、実物の場合の攻撃力の方向性は『斬る』ではなく『叩き潰す』だったりする。


 刃物の姿をした鈍器。それが重量を活かした武器の本来の姿だ。もちろん刃はあるしそれなりに鋭いので、刃を立てて何度も擦れば切れるが、研ぎ澄まされたナイフや包丁のように一度にスパッと切れるわけではない。

 重量と勢いを活かして目標に叩きつけ、押し斬るとか、潰して断つといった表現の方が正しい。

 で、何が『間違った』のかというと、実物から木製になり刃もなく多少軽くなったとはいえ、鈍器としての性質は変わらないってことだ。打ちあって武器で防御し損ねれば、骨折すること請け合いだ。


 そして片手剣ほどの軽量武器ならば寸止めで振ることも出来るのだが、遠心力で加速した重量武器を寸止めしようとすれば、持ち手の身体を痛めることになる。重量武器は木製だろうが振るえば破壊あるのみ。そもそも模擬戦には向かないのだ。


 俺ならば盾で逸らしたり弾いたりで相手をすることが出来るし、元の世界の重量武器使いはそんなこと当たり前に知ってるので、防御や回避の(すべ)を武器の扱いと同時に身に付けている。

 それに比べるとコイツらは人同士の模擬戦すらしたことがないんだ。コイツら同士でやらせると誰かが確実に骨折して治癒するまで訓練が止まるしモチベーションも下がる。オルティーガが盾持ちだが、これまで見てきた様子だと持っているだけマシって感じだもんな。


 その上この三人に限らず、この街の冒険者も兵士達も防具が貧弱なんだ。兵士の方はそれなりに見栄えの良い装備だが、鎧や鎖帷子(くさりかたびら)ではなく厚手の革ジャケットって感じで、防刃性はどうか知らんが槍で突かれれば簡単に貫かれるだろう。矢も防げるか怪しいもんだった。

 それに輪をかけて貧弱なのが冒険者達のそれだ。『黒い三連狩り』の三人はお揃いの黒い厚手の半袖シャツに紫のベスト、武器や道具を吊るす斜め掛けの革ベルトに、肘から先は革ベルトを巻いて指貫グローブをはめているだけで、かなりの軽装だ。

 模擬戦で怪我をしないようにする為には、せめて兜に肩装甲、手甲くらいはないと、大怪我で済めばいいが下手すれば死ぬことだってあり得る。


 「なぁ、なんであんたらに限らず冒険者はそんなに防具が貧弱なんだ?」


 俺の言いように少しムッとしたのか、マッチューが振る木製両手斧を降ろしてこちらを睨む。


 「確かにあんたの鎧のような頑強さはないけどな、あんたの鎧はここらじゃ何百年も前に廃れたアンティークだぜ? 大きな屋敷の通路に飾ってある以外の使い道は誰も思い付かないだろうぜ。俺らが軽装なのはこれ以上の防御力が必要ないからだよ。装備が硬くなれば重くなる。そうすりゃ動きが鈍くなって体力ももたねぇ。必要最低限の防御力があればここじゃあやってけるんだ。問題ないんじゃねぇのかい?」

 「そうだぜマビァさん。それにこう見えてもベストは防刃性だしインナーのシャツだって結構丈夫なんだ。ここならこれで十分だと思うけどなぁ」


 オルティーガもマッチューを援護する。ガイヤーンもこくこくと頷いているので同意のようだ。

 はぁ~。やれやれと俺は大きく溜め息を吐いて肩を落とす。


 「あんたらイモムシ狩りをするはめになった原因を忘れたのかよ。大怪我してDランクの魔獣狩りを諦めたんだろ?」


 そう言ってやると、三人は揃って息を詰まらせる。やはり都合の悪い事は忘れていたらしい。


 「大体防刃性ってのは、刃を滑らせて斬らせないってだけで、槍なんかの刺突武器や獣の牙とかの『貫く攻撃』には殆ど無力なんだよ。あんたらがやられた魔獣の攻撃もそっちなんだろ? じゃあそれを防ぐ硬い防具はこれからも絶対に必要になってくるんじゃないのか?」


 「うぅ……」と唸る三人。こいつらの頭には苦い敗退が甦ってるんだろうな。


 「重い防具なんてのは、着て動いているうちに重さなんて気にならなくなるもんなんだよ。それに……」


 と言って、右手に持つ木剣を高く空に投げる。突然の行動に三人は木剣を目で追う。その隙に俺は剣を抜き、マッチューに向かって袈裟斬りに剣を振り下ろし納剣。くるくると回って落ちる木剣をぱしりと右手で取って、切っ先でマッチューの胸をトンと突いた。その軽い衝撃で、ベストとシャツが斜めに切れてぺらりと捲れる。


 「どこが防刃性だよ。あっさり斬れるじゃねーの。こんなのカゼノカマの飛ぶ斬撃だったら、あんたらが縦に十人並んでても、全員キレイに上下に切り分けられるぞ」

 「ああっ?! お、俺の一張羅が?!」

 「あ、あんた何おっそろしいことしてくれてんだよ!」

 「こえー! やっぱこえーよこの人!」


 知らぬ間に装備をダメにされて慌てるマッチューと、その後ろに隠れて震えるオルティーガとガイヤーン。何をこれしきの事で大袈裟な……。


 「そんなの俺に言わせたら防具でもなんでもない。タダの普通の服なんだよ。そんなんで木製とはいえ手加減出来ない重量武器なんかでやりあったら……」


 マッチューの左肩、右肩、左腕、右脇腹、頭頂部と立て続けにスパパパパパンと木剣で(はた)く。もちろん寸止め同然の接触だがちょっとだけ痛くした。


 「(いった)ぁぁーーっっ?!」


 頭を押さえて踞るマッチュー。そんな彼を盾にして「ひぃぃっ!」と一緒に踞るオルティーガとガイヤーン。お前ら何気に酷い奴らだな。


 「寸止めの出来ないあんたらの武器じゃ、今打ったところ全部粉砕骨折だぞ。痛いの嫌ならちゃんとした防具を身に付けろよ。訓練が辛くなるだけだぞ?」

 「……でもよぉ、あんたのような防具はさっきも言った通り今の流行りじゃねぇから、俺たちどこで売ってんのか知らねぇよ。それに買い揃えるだけの金だってねぇ。どうしろってんだよ」


 木製武器を貰って子供の様にはしゃいでたのに、現実突き付けられてテンションだだ下がりな三人。


 「しょうがないから、金は俺が出してやるよ。ワニでかなり稼げたしな」

 「ほ、ホントか?! そりゃありがてぇがホントにいいのか?」

 「あぁ、あんたらにはこれから先も活躍して貰わなきゃいけないからな。その代わり訓練は厳しいぞ? それらメイン武器の他にも片手剣&盾も使いこなせる様になって貰いたいんだ」


 俺が居なくなった後の教官代わりになってほしいと思っている。だったら一撃粉砕な武器だけ使えてるんじゃダメだ。


 「ああ! 強くなれるなら何だってやってやるさ! なぁお前ら!」

 「「おぅ!」」


 勢い良く立ち上がり拳を突き上げる三人。気持ちが上向きでなんとも頼もしい。ここのトップランカーでありながら辛酸舐めて底辺で燻ってた奴らだ。変なプライドを捨てて上を向いた今なら期待以上の成長をしてくれるかもしれない。


 「取り敢えず防具を売ってる店に行ってみるしかないな。あんたらのその装備はどこで買ったんだ?」

 「『冒険野郎ザンタの店』だよ。この街じゃああそこより安い店はねぇからな」


 やっぱあそこか。また行くことになるとは思わなかった。しかし、俺が買ったバッグはなかなかの掘り出し物だったが、このサクッと切れる防刃装備は正直戴けない。武器防具の製造といえばガラムさんが一番だろうけど、今は忙しいからなぁ。


 「じゃあ早速行ってみよう。あ、訓練も兼ねるから店まで全力疾走な? 木製武器も持って走るように」

 「「「おう!」」」




 『冒険野郎ザンタの店』は中央東通りを五百メートルほど行ったところにある。

 道のあちこちに明日の主役となる屋台と、お祭り気分で飾られた街灯の華やかさが目につく。ウェルの部下か商業ギルドの者だと思われる人達が忙しく準備を進める中、俺達四人は走り出した。


 全速力で走り出した三人は揃いも揃って二百メートルも走る前に、ぜ~ぜ~と荒く息をしだしてヘロヘロになった。体力ねぇっ!!


 「ほら最後まで走り切ってみろ。遅くてもいいから楽しようとだけはするな」


 三人のケツを木剣でぺしぺし叩きながら追い立てる俺。体力アップには心肺機能の向上が絶対に必要だ。もちろん地道な積み重ねが必要なので一朝一夕で身に付くものではないが、こうやって自分の限界に挑戦するのが一番の近道だったりする。なので死なない程度に追い込んでみる。


 店に辿り着いた三人はガクガク震える膝が身体を支える事が出来ずに、滑り込むように崩れ落ち、仰向けになって荒い呼吸を繰り返す。もう汗だくでしばらく動けそうになかった。うむ、我ながら程よい追い込みをしたな。


 「おお! マビァくんじゃねぇか! よく来てくれたぜ」


 入り口から見えるカウンターの向こうに座っていたザンタさんが、俺を見つけて通りまで出てきた。


 「新聞読んでるぜ? まったくどれだけ名声上げる気なんだよあんたは。まぁお陰でこれが良い看板になってくれてるけどな」


 以前俺がサインを書いた盾をバンバン叩きながらナハハと笑うザンタさん。それは入り口にぶら下げてあった。ちょっと恥ずかしい。


 「ザンタさん、いきなりで悪いんだけどさ、先にこいつらに水飲ませてやってくれませんか?」

 「ん? 誰かと思やぁ『黒い三連狩り』じゃねぇか。どうした? 死にかけたみてぇになって」


 不思議そうに見下ろすザンタさんに、三人は震える手を伸ばしかけ何か言おうとするも、ぜ~ぜ~言うだけで言葉にならない。


 「あぁ、水な。ちょっと待ってろ」


 そう言ったザンタさんは店の奥まで駆けて行き、しばらくすると桶と大きいヤカンを持って出てきた。


 ヤカンを俺に渡すと、桶に入った水を三人にぶっかける。大口開けてぜ~ぜ~言ってた三人は大量に被った水が気管に入ったのだろう。上半身を跳ね起こして「ぶはっ、げほっげほっ!」と水を吐き出す。なかなか乱暴なおっさんだ。


 「……ひ、ひでぇよザンタさん。殺す気かよ」

 「はははっ。火照った身体には気持ちいいだろ。ホレ、水は飲み過ぎんなよ?」


 ヤカンを受け取り少しずつ口に含んでは回し飲みする三人。呼吸も大分落ち着いてきていた。被った水で身体の火照りが取れたのが良かったみたいだ。陽射しも暖かいので冷えすぎるということはないだろう。


 「で? 俺の店に何か用があったのか?」


 三人にはしばらく休んで貰うことにして、俺はここに来た目的をザンタさんに話すことにした。


 「あいつらの防具をもっと頑丈な物に替えたいんだけどさ、その前にあの防刃ベストはちょっと酷いんじゃない? あれで防刃が売りってのは詐欺でしょ」


 座り込んで休んでるマッチューのベストを指差すと、ザンタさんは「なんだって?」とマッチューに近寄って覗き込む。


 「うおっ! なんだこりゃ。どうすりゃこんな切れ方するんだよ!?」


 マッチューに「脱げ脱げ」と急かしてベストを取り上げ、切り口をまじまじと観察する。


 「どうすりゃも何も、俺が剣で切ったんですよ。普通にサクッと」


 べつに『シャープシフト』などのスキルも使ってない。斜めに切り下ろしただけなのに、なんの抵抗もなく裂けた防刃装備の方に問題があるよな。


 「ちょ、ちょっとあんたの剣を見せてくれ」


 というので、鞘から抜いてザンタさんに手渡す。ザンタさんは刃をじっと見詰め、指の腹でそっと触れたあと、剣を掲げて上段からの振り下ろし。左右の払い斬りをしてみせた。おお、ちゃんと剣を使い慣れた動きじゃん。さすが元ベテラン冒険者らしく、今の現役世代よりも動きが良い。


 「こりゃとんでもない業物じゃねぇか。俺ぁこんなの見たことねぇぞ」


 剣を見詰めながらゴクリと喉を鳴らすザンタさん。何を大袈裟な……。


 「いやいやいや。俺の地元じゃこれでも並よりちょっと良いくらいなんだよ。これで業物なんて恥ずかしいからやめてよ」


 『劣化耐性』の付呪を付けているだけなので、剣の切れ味は元のままだし、ガラムさんだってこの剣を普通に修復してくれた。多分ガラムさんにも造れるレベルの品質だろうし、元帝国でもそこそこの品質として通用するレベルな筈だ。「とんでもない」なんて評価はおこがまし過ぎる。


 「なんだって……? ち、ちょっと待ってな」


 俺に剣を返し、ばたばたと店内へ駆けていくザンタさん。しばらくして片手剣、短剣、ダガー、包丁などと、材木を十字に組んだ物をガッチャガッチャと抱えてくる。


 「このベストは隣のヨーグニル王国から仕入れた物なんだが、その時試し斬りに使った刃物だ。あんたこれで試してくれないか?」


 十字の台にマッチューのベストを装着しながら俺に言う。俺は片手剣を鞘から抜いて刃を見てみる。なるほど、ギルドで借りたナマクラよりちょっとはマシだが、元の世界でならDランクハンター辺りが使う鋼鉄剣と同等くらいだろうか。


 俺達がここに来てから騒がしくしていたので、周りの人達が「なんだなんだ?」と集まってくる。当然のように俺の事を知っているようで、また俺が何かやらかすんじゃないかって期待が膨らんでいるのが分かる。何これ? 俺がベストを切り刻むのを期待してる?


 マッチューもそう感じたようで、自分の一張羅がズタズタにされるのを防ごうと、涙目でなにやら喚きながら動かない身体でこちらに這ってこようとしている。あまりに不憫なので手を振って止めさせ、「あれも新しいのを弁償するから」と言ってやると、ホッとしたのかその場に崩れ落ちた。


 「おいおい勘違いするんじゃねーぞお前ら。これはこのマビァくんがウチの防刃ベストを切り刻むパフォーマンスじゃねえ! ウチで売ってる刃物で切れるか試してもらおうってんだ。切れなかったからってガッカリするんじゃねぇぞ!」


 もはや観客となっている群衆に説明するザンタさん。うあぁ、こんな衆目の中でやれってか。まぁ今の口上なら結果は切れても切れなくてもどちらでも良さそうだ。さっさと済ませてしまおう。


 俺は片手剣を構え、本気の半分ほどの斬撃の袈裟斬りと横斬りをベストに当てる。ベストは剣の軌跡に火花を散らして揺れ、細い傷を付けただけだった。


 周りから「おお!」と歓声が上がる。群衆の反応になにか違和感を感じながらも、短剣、ダガー、包丁と二撃ずつ斬り付けていっても防刃ベストは切り刻まれることはなかった。


 全ての試し斬りが終わると、また群衆から歓声が上がる。


 「さあ、ご覧戴いたようにこちらの防刃ベスト! 今や時の人として知らぬ者はいないSSランカーの冒険者マビァくんの斬撃にも耐えうる逸品だ! 今なら特別価格で二万カルダのところを一万五千カルダでご奉仕するぜ! 限定五十着限りだよ! さぁ欲しいヤツはいねぇか!」


 ザンタさんの口上に買い求める人々が我先にと群がってくる。ぐわぁ! 宣伝に利用された!!

 慌てて『黒い三連狩り』の方に飛び退くと、呆然と群衆を座ったまま見詰めていた三人が呟く。


 「なぁ、これ俺達が買った時、八千カルダだったよな……?」

 「……あぁ、なんてアコギな売り方だよ。ボッタクリじゃねぇか」

 「今度からここで買う時は気を付けような。安いと思って買ってもどれだけ損するか分かったもんじゃねぇ……」


 こいつらの買った金額だって真っ当な値段だったのか怪しいもんなんだが。それに勢いに流されて買ってる客の殆どが戦闘とは縁の無さそうな一般人だ。防刃ベストで何から身を守るつもりなんだよ……。


 すぐに完売しそうな勢いのザンタさんのやり口に呆れながら、それをただ眺めるだけの俺達だった……。

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