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五日目 SIDEコニス コニスのスキル 後編

 コニスは王都にある中級商家の末っ子として産まれた。

 上から順に姉、兄、兄、姉を持つコニスは、特に一番上の姉に可愛がられて育った。

 コニスが十歳の時、長女が嫁ぐ際にコニスに残したのが、彼女の愛蔵書で全二十四冊にも及ぶ大作ラブロマンス小説、それが『真実の愛の物語』だった。


 一冊が分厚く、全巻積み上げでもすれば高い天井に届いてまだ余るほどで、重さも一冊八キロは下らない。

 その全巻を譲り受けた時には、ニコニコ笑顔な長女が四角い塊で自室を埋め尽くしていくのを見てコニスは途方に暮れた。


 ストーリーは「平民生まれのヒロインが特待生として貴族学院に入学し、学業に友情、恋と青春を謳歌する」というありきたりなものであったが、構成が変わっていた。

 例えばヒロインが素敵な男子生徒と出会った時、ヒロインの取る行動がいくつか選択肢として現れる。それぞれの選択肢の先に「第○巻○頁に進む」と出る。どれを選ぶかによって物語が大きく変わるのだ。


 物語が進み登場人物が増え、イベントがある度に選択肢があり、その度に頁や巻を移動せねばならないという非常に面倒臭い構成だったのだが、コニスは夢中になって何度も読み返した。

 ひとつの選択肢を選ばなかった場合の裏側のストーリーも良く作り込まれていて面白かったのだ。

 全ての『もしも○○だったら』という展開が気になり、読み返す度にヒロインへの感情移入が増したコニスは、ヒロインとして様々な男子との恋や学院生活を何度も楽しんだ。

 そして、全てを読み終わった時、脳裏にスキル修得の選択が浮かんだのである。


 そのスキルをコニスが修得することを長女が望んでいたから愛蔵書をコニスに託したのか、そもそも完読した場合に修得出来るスキルだったのかは分からなかったが、完読した後の達成感と共に押し寄せる寂寥感を、このスキルが払拭してくれるのではないかと感じたコニスは迷いなく修得した。



 『真実の愛の物語』のスキルは変な名前だけあって、スキル能力も随分と複雑なものに感じたコニスは、通っていた初等学校の男子相手に色々と試してスキルの性質を把握することにした。


 まずこのスキルの特徴として、普段はコニスの意思で、また男を前にした時にはオートで、他人には見えない複数の小窓がコニスの目前に現れていることだった。

 小窓の一つには相手の男の基本情報が書かれていた。名前・年齢・誕生日・趣味・特技・性格など、様々な情報が記載されている。これは相手と交流を深め、話を聞き出すことによって自動的に書き込まれ追加で更新していた。

 二つ目はその男の家族構成と交友関係、仲が良いか悪いかが分かる相関図。こちらも自動更新する。

 三つ目は自分との関係性を表す『好感度グラフ』だった。

 四角い窓を右上と左下に配置し、二面の角の接点がゼロで、相手の男と初対面な場合はここからスタートする。

 右上窓に光点が進むと愛情度や友情度を表し、左下窓に光点が進むと嫌悪度や不仲度を表す。相手が自分をどう思っているかが光点のある位置で瞬時に分かる仕組みになっている。

 分かりやすく言うと、右上窓の右上の端に光点があると、相手の男はコニスの事を溺愛している。右下端だととても仲の良い親友。

 逆に左下窓の左上端だと、コニスに全く興味がなく友情を結べるとも思えない。左下端だと同じ空間に居ることすら堪えられないほど嫌われ憎まれている。といった具合だ。

 実際にはそこまで嫌われた事が無いので、左下窓の左下に光点が行った時の相手の気持ちがどの様な状態なのかはまだ知らない。


 他にもいくつか小窓があり、これまでに関わってきた男性達の名簿や、会話に困った時に使える例文集などを開けたり閉じたり見えなくしたり出来るのだが、一番目立つ小窓は大きなピンク色のハートが描かれたものだ。

 コニスが『ドキドキハートメーター』と呼んでいるソレは、相手の自分に対する関心具合がハートの大きさと鼓動の速さで把握出来るものだった。

 ハートの下には簡単に描かれた顔の絵があり、相手の気持ちが表情で表されている。笑顔や怒り顔、泣き顔にイライラ顔等々……。自分との会話中の相手の隠された感情が表示されるのだ。

 

 さらに、相手と幾度か会話を繰り返せば、相手が興味を持つ会話の単語や、使わない方が良いNGワードを出してくれる小窓もある。これにより会話を上手に回す事が可能になった。


 また、この小窓達はいくつかの操作で『相手が自分をどう思っているか』のモードと『相手がその場に居る第三者をどう思っているか』のモードに切り換える事が出来た。この時は『第三者が相手をどう思っているか』も分かり、第三者は男女の区別無く見ることが出来た。

 これにより複数の対人関係を俯瞰で掌握可能で、操作に慣れた現在のコニスにかかれば、複数の相手を同時に思う様にあしらうことなど造作もない事だった。

 こういった様々な小窓から得られる情報を駆使して、相手との関係を自分の有利に運ぶ。そんなスキルなのだとコニスは学んだ。


 こうしてスキルを使いこなしていったコニスは、学校一のモテ女になる。スキルに慣れるまでは少々やり過ぎて同性からの嫌がらせや落とした男同士のいがみ合いが起きて、収拾をつけるのには苦労したが、その経験を活かして、今のギルド運営は上手くやっている様だ。


 そして、これはコニスは知らないことだが、このスキルは女性が男性相手にだけ使えるわけではない。男✕女は勿論、男✕男、女✕女の場合でも使用可能だ。でなければ『真実の愛』などというスキル名が付くことはないだろう。

 隠し小窓の奥の奥にモード切替のスイッチが隠されているのだが、この場には使い手がいないので余談でしかない。


 「……といった感じのスキルなんですよ。使えそうでしょ?」

 「なるほど、お前はそれを男達の人心掌握に使って、ギルド運営に役立てているわけだな」

 「そうです。本来恋愛相手に使うスキルだと思うんですけどね。この街で最初にいいなって思った人でちょっと痛い目見まして、今のところ恋愛沙汰からは遠ざかりたい気分でして。人生楽しむためにこっそり使ってるんですよ」


 ギルドの職員と所属冒険者の男勢を三分の二以上掌握しておいて、何がこっそりだとイルマは呆れるが、スキルを使っていることは誰にもバレていないのだから間違ってはいない。


 コニスは持ち前の可愛らしさも然ることながら、末っ子特有の甘え上手なところも受けが良く、歳上の女達にもなかなか評判が良かった。一部のモテない女の嫉妬の対象になったりすることもあるが、基本大勢に愛されている。ここに来てたった一年足らずでこれだけの人望を得ているのだから、スキルの力よりもコニス個人の能力が優れているからだということはイルマもロージルも分かっていた。


 「わたくしが上手に扱えるとは思えないのですけれど……」


 ロージルは仕事上での他人との付き合いは完璧なのだが、一個人として仕事抜きの会話や付き合いは苦手な方だ。緊張して話せないとかではなく、共通の話題を見つけて話を盛り上げるのに慣れていない。

 せっかく『情報分析』が勝手に情報を集めて『情報管理』で膨大なデータを蓄えているのに、目の前の人に合う話題のチョイスが下手だった。質問に答えるのは得意なのだが自分から切り出すフリートークが苦手なのだ。

 そしてスキルによる先読みは、あくまでロージルがこれまでの経験から得た情報から割出し、最も確率の高いものを伝えてきているに過ぎない。それはロージルの主観から構築されていて、完全に相手の感情が読めているわけではないのだ。

 例えば、昨日この応接室でマビァを「変態!」と罵った時は、マビァの照れて焦る顔やチラチラとこちらの身体を這う視線、見るからに跳ね上がっている心拍数等々、明らかに自分をいやらしい目で見ているのが分かったから酷く罵った。

 そう、それは普通の女性なら誰でも気付ける『スケベな事を露骨に考えている男の視線』だったのだが、ロージルはそんな男の態度に初めて直面して、スキルに教えられて漸く気付けたのだ。


 事務室での男達の時もそうだが誰にでも分かる事でこれなのだから、『キィマ』でガラムが上手に自分の感情を隠した時の事など分かるはずもなかった。それほど恋愛に関してはポンコツなのである。

 さらに交友関係の狭さがそれに拍車をかける。友人はイルマだけだし、近所に住む両親と姉夫婦と姪っ子くらいしかプライベートで会わないのだから仕方がない。


 「わたしのスキルとロージル先輩のスキルの相性は良さそうなんですけどねぇ。わたしのスキルはいつでもOFFに出来ますから、相手の気持ちが分からないって時だけに使うのもありだと思いますよ?」


 コニスはどうにかロージルに自分のスキルを植え付けたくてワクワク顔で推す。ラブロマンス小説にのめり込んでいたくらいなので、コニスは他人のコイバナが大好きだ。特に自分しか持たないスキルを人に渡す事自体が初めての行為だし、このスキルなら必ずロージルの後押しになると信じている。まるで大好きな恋愛小説を人に勧めるような気持ちでロージルと向き合っていた。


 「この子の場合はその手前で躓いているんだ。相手を想うだけであの状態になる。今は手鏡を使えばなんとか制御出来るのは分かったが、それは相手が目の前に居なければの話だ。アレになって以来ガラムさんに会っていないからな。今はどうなるか想像するのも恐ろしい。手鏡を見つめたままお付き合いなんて悪い冗談だしな。お前のスキルでは自分の感情のコントロールまでは出来んだろう?」

 「それは……そうですけど。あ、マビァさん、さっきガラムさんにお弁当作ったのはロージル先輩だってバレたって言ってましたよね。なんでバレたんですかね?」


 ガラムの話題に移ったのでロージルは再び鏡を見つめて気を落ち着かせる。その様子を気にしながらコニスとイルマは会話を続ける。


 「それはあれだな。この子が張り切り過ぎてな。スパイスを多めに使って予算オーバーな料理を作ってしまったんだ。当初マビァくんはロージルに直接夕飯を差し入れさせようとしていたんだ。それが昨日の朝の話で、昼過ぎにマビァくんがガラムさんに差し入れを受取ってもらう約束をして帰ってきた。その時にはもうロージルはアレになっていた。で、マビァくんがロージルが作った料理を屋台で買ってきた体で持っていったわけだが、受取りの条件に『あまり高価な物だったら受け取らない』ってのがあってな、恐らくその点を責められて話さなくてはならなくなったんだろうな」


 イルマがロージルの頭をポンポン叩きながら説明する。が、話している内に腹が立ってきたのかポンポンがバシバシに変わり、ロージルも「うっ、うっ、うっ」と呻き、最後のベシンッという一撃に「あぅっ!」と悲鳴を上げた。


 「イルマ……痛い」

 「自業自得だ。少しは反省して成長してくれ。まったく、こっちの身がもたんわ」


 盛大に煙を吹くイルマ。コニスも(大変だなぁ)と苦笑する。


 「てことはですよ? マビァさんがロージル先輩の事をどの程度かは分からないですけどガラムさんに話しているっぽいですよね。じゃあガラムさんは、それを知った上で今夜もロージルさんの料理をリクエストしたって事じゃないですか? 脈ありってゆーか両想いかもしれませんよ!」


 それを聞いたロージルは、またみるみる赤くなるが、イルマが「どうどう」と背中を叩いて落ち着かせる。


 「さっきはマビァくんから説明をほとんど聞かなかったからな。ちゃんと聞いてはっきりさせる必要がある」


 ここで一旦情報を整理する為、黙考するコニス。考えをまとめて口を開く。


 「わたしが思うに、ガラムさんとやらはかなり堅物なお方なんじゃないでしょうか?」

 「は、はい。その通りで、職人気質の頑固者ですが、なぜそれが分かるんですか?」

 「だって、マビァさんが口を割らされちゃったんでしょ? 多分『誰が作ったか喋らないなら受け取らない』って脅されたんですよ。そこからガラムさんの性格が予想出来ます。多分、えっちぃロージル先輩を前にしても襲いかかってくるタイプじゃないと思うんですよね。だから鏡である程度慣らしたら、直接会ってお互いに慣れていった方がいいかもしれませんよ」


 仮定の話ではあるが自信満々に答えるコニス。その様子にイルマは「ふむ」と頷く。


 「ロージル、取り敢えずコニスからスキルを受け取りな。要らなければ使わなければいいだけだ」

 「……分かったわ。コニス、お願いします」

 「はい、お任せください!」


 決意を決めたロージルが立ち上がると、コニスも立ってロージルの側に移動する。


 コニスが目を瞑り『真実の愛の物語』を思うと、脳裏にスキル名が浮かび上がる。

 その文字をそっと右手で触れるイメージをすると、右手がほんのり温かく感じた。

 目を開き右手をそっと開くと、金色に輝く小さな種のような物が乗っている。それがスキルの種だった。


 「へへへ~。わたし、スキルの種出したの初めてなんです。ワクワクしますね」


 その種を左手の指で摘まみ、ロージルの額へと近付ける。ロージルは目をぎゅっと瞑って待ち構えた。

 ロージルの額に触れた種は吸い込まれるように入る。今度は目を閉じたロージルの脳裏に『真実の愛の物語』の文字が浮かぶ。『イエス』『ノー』の選択肢で『イエス』を選ぶと金色の光が全身を包み込むのを感じた。


 「上手くいったみたいですね。イルマ先輩もどうですか? まだ種を出せますよ」

 「いやあたしはいい。旦那とは仲がいいしな」

 「……へ? イルマ先輩ご結婚されていたんですか?!」


 予想外の答えに驚くコニス。何かにつけて火炎魔法で男どもを脅し『煉獄女王』というロージル同様に不名誉な異名で囁かれているイルマが既婚者だったとは知らなかった。


 「まぁな。もう五年目だ。特に言いふらす事でもないから知ってるヤツは少ないけどな」


 後ろに垂らした髪を弄りながら答えるイルマ。その姿を見てロージルがクスリと笑う。それはイルマの照れ隠しの仕草だった。

 イルマが結婚を隠しているのは、自宅で二人きりの時にイチャイチャしているのがバレるのが恥ずかしいからだ。以前ロージルが料理のお裾分けを持っていった時に目撃してしまい、秘密にしてくれと必死に頼まれた事を思い出す。

 ロージルをチラリと睨んだイルマは髪を弄りながらそっぽを向く。


 「それよりも使い方を教わらないとな。練習はマビァくんでいいだろう? コニスから見たマビァくんはどんな感じなんだ?」

 「あはは~……。マビァさんですか。あの人はわたしにとってはかつてない難敵ですよ。あれほど攻略出来そうにない人は会ったことありません」


 苦笑を漏らしながらコニスはマビァに会ってから苦戦していることを二人に話す。

 

 コニスに対してのドキドキハートメーターは凪いだように穏やかで平坦な鼓動を鳴らし、ハートも大きくなったことがない。コニスにあまり関心が無いのが分かる。

 ハートの下の顔絵も無表情や呆れ顔、悪くて黒い笑顔がほとんどで、時々イライラ顔が一瞬表れていた。一昨日と今日にやっと黒くない微笑みが表示されるようになったのだが、最も多く表示されるのは憐れんだような悲しい表情で、こちらの胸を見られている時に表れていた気がするのが腹立たしい。人の胸を勝手に憐れむなと言ってやりたい。

 好感度グラフも初対面の時から中心のちょっと右上でスタートし、右側に牛歩の如くじわじわと動いているように見えた。嫌われてはいないらしい。一応愛情度寄りに行っているので恋愛対象としては見られているようだ。


 今まで多くの男達を攻略してきた経験を活かして、初日からマビァ攻略に挑んだのだが、大抵の男に効果絶大だった可愛い仕草や話し方で攻めるも、高確率でマビァをイラッとさせただけで大した好感を得ることも出来ず、これは無理だと感じたコニスは翌日の昼過ぎにはもう攻略を一旦諦めた。

 しかしその後の方が好感度グラフの上がりが僅かだが良くなった気がする。マビァ相手には本音でぶつかった方が好かれやすいのか? もう少し探ってみて攻略の糸口が掴めそうなら再開しようと思った矢先に、マビァはそう遠くない内にこの街から出ていくと言う。

 色々と体制が変わり忙しい中、あの難敵に挑むのはコニス的には燃える展開なのだが、たまに他の男達がしてこない言動をしてくるのでドキッとさせられる。振り回されるのに慣れていない上に、大抵マビァに主導権を取られているので、攻略出来る気はしていなかった。


 「……って感じですかねぇ。あの人は何もかも非常識って感じですから、どう攻めたらいいのやら。何ヵ月か時間をかければ落とせるかなぁ? って思うんですけどね。ロージル先輩は、マビァさん相手で小窓の見方に慣れてみて下さい。あまり視線を動かし過ぎない方がいいですよ。挙動不審に見えますから」

 「分かりました。気を付けます」

 「では一旦この話は置いておこう。後はあたしがマビァくんに押し付けた『夢を大勢に見せる事が出来る』って嘘の件と、怠惰な職員達の不満の対処だったか」


 イルマがまた新しい煙草に火を着けた。ロージルはお茶のおかわりの準備に立つ。


 「そうですね。ちゃちゃっと済ませてマビァさんを呼びに行きましょう!」


 コニスはテーブルに紙とペンを出して会議の準備をする。二枚の紙に議題名を書いて準備が整うのを待った。

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