五日目 冒険者ギルドでの問題のあれこれ
フロントに向かうとガラムさんがいた。
「あれ? ガラムさんどうしたの?」
「おうおはようさん。丁度お前に取り次いでもらおうとしてたところだ」
ガラムさんは言いながら昨日の夕食の包みを持ち上げて見せる。他にも重そうなザックを左肩に担いでいた。
「わざわざ持ってきてくれなくても取りに行ったのに。でもありがとう」
容器の入った包みを受け取る。
「いや、俺はこの後木工ギルドに納品したら、鍛冶ギルドに帝国式の防錆加工を教えてくるから昼過ぎまで家には帰らん。それでな……」
語尾で視線を泳がせ言い淀むガラムさん。照れてるのか顔が少し赤い。
「その……なんだ……。今晩の飯も同じところで買ってきてもらってもいいか……?」
おお、ロージルさんの料理を気に入ったらしい。これは良い感じだ。
「もちろん! これから行くから頼んどくよ。届けるのは昨日と同じ頃でいい?」
「あぁ。宜しく頼む」
照れ臭いのか、それだけ言うとガラムさんは足早に外へと出ていった。俺もフロントに鍵を返して外に出る。
玄関を出て軽く左右を見渡すと、咥え煙草で後ろを気にしながらこちらへと歩いてくるハンセルの姿を見つけた。
「やぁマビァさん、おはようございます。今のは確かガラム金物店の店主のようでしたが、なぜこちらに?」
煙を吐きながら眠そうにこちらに聞いてくるハンセル。ガラムさんは以前コイツの餌食になりかけたんだったよな。なんとか誤魔化さないと。
「あぁ、ガラムさんがウェルの依頼で木工ギルドでの罠造りを手伝ってるのは知ってるよな? 俺もあの人と仲良くなったんで昨日の晩飯の差し入れをしたんだけど、そのお返しをわざわざ持ってきてくれたんだよ。今日は忙しくてもう会えないだろうからってさ」
手に持つ包みをぷらぷらと振って見せる。うん、嘘は言ってないよな。
「ほ~……。それは殊勝な事ですなぁ」
ガラムさんが去っていったらしい方を眺めながらも、大して興味無さそうに感想を述べるハンセル。
「それで、何か俺に用があったのか? それともウェルにか?」
変にガラムさんに興味を持たれても厄介なので、早々に話を逸らすことにする。
「あぁそうそう、いやね、昨日の記事に入りきらなかった件をマビァさんにお伝えしといた方が良いかと思いましてね」
「今朝の記事は役に立ったよ。ありがとうな。今からその件でギルドに行くところだったんだ。それで、伝えたい事って?」
「変な噂を冒険者ギルドの職員から聞いたんですよ。記事を校了した後、酒場で偶然耳にしたんですがね? 確か一昨日の東の沼でお会いした、ロージルさんという女性の事務室長さんでしたか。マビァさんが何らかのスキルで職員達全員に、彼女の淫乱な姿を夢だか幻影だかで見せたとかなんとか……」
いやらしいニヤケ笑いを浮かべ、探るように聞いてくるハンセル。
「まさか、あんた……」
ロージルさんをネタに不快な記事を書く気じゃあるまいな。俺はハンセルを睨みながら右手を剣の柄へと伸ばす。
「いやいや、勘違いせんで下さいや。いつもの私ならそんな記事も書いたかもしれやせんが、今は協力関係にあるんですよ。仮に書いたとしてもわざわざそちらに教えに来たりしやしませんって」
両手を振って否定するハンセル。それもそうだと思い直し右手を戻して話の続きを促す。
「私がマビァさんについて書いた最初の記事覚えてますか? 二日前の記事なんですがね。その中でマビァさんがギルドの試験場でワニを倒したのをトリックだと大袈裟に推理した部分があったでしょ?」
何が推理だか。と、ハンセルの言いように俺は渋い顔になる。まぁ今となってはコイツの遣り口は理解したつもりだ。腹は立てずに「それで?」と促す。
「今回、マビァさんがロージルさんの幻だかを見せたって話が、その真偽はどうあれ、私の書いた記事にリンクするわけですよ。皮肉にもここ二回の私の記事は、捏ち上げの面白記事では無くあなた方に協力する形で真実を書いています。多少盛ってはいますがね。
そこにマビァさんが真実ではない幻を大勢に見せる事が出来ると公言してしまったわけです。そこでタブカレ読者の彼らが思い至るのは『昨日、今日とタブカレの記事を信じられるのなら、一昨日の記事も真実だったのではないか?』という事ですなぁ。
つまり、一昨日試験場でワニを倒して見せたのもやはり記事通り何らかのトリックで、それはマビァさんが見せた集団催眠みたいなもんで、自分達が見た試験場での出来事は全てまやかしだったのでは? という疑いが広がりつつあるって事ですわ」
……なるほど。昨日イルマさんがロージルさんを守る為に捏ち上げた話が、偶然にも一昨日のハンセルの記事に繋がったわけだ。しかし、今日、昨日のハンセルの記事を信じられるから一昨日のも真実だと言うのなら、今日のウナギを倒した記事も、昨日のワニワニ大混乱の記事も信じて、一昨日の記事を疑えよとは思うが、そこは人間、自分にとって都合の良い事しか目や耳に入らなかったりする生き物であるから分からなくもない。
その辺を理詰めで攻めれば説得出来るかなぁ? でもどこまで行っても分かり合えないヤツっているからなぁ。
「なるほど分かったよ。ありがとな、わざわざ教えに来てくれて助かった」
「ははっ。礼を言われる事じゃないです。自分の尻拭いをしたまでの事ですわ」
そう言って近くの壁に背を預けて煙草を吹かすハンセル。取り敢えず急ぎの案件を終わらせたって感じだ。彼なりに誠意を見せてくれたのだろう。その気持ちが嬉しかったが、ここで礼を重ねると彼もむず痒いだろうから、彼に背を向けて「じゃあ行ってくる」と軽く手を上げるに留め、冒険者ギルドへと向かった。
「マビァさん、おはようございます! わたしが休んでる時に面白いことしないで下さいよ~」
冒険者ギルドに着くと、ロビーのテーブルを拭いていたコニスが出迎えてくれる。
「何のことだよ?」
「みんなに聞きましたよ? ロージル先輩のえっちぃ姿の夢を事務室のみんなに見せたって。ロージル先輩本人には言えませんけど、見れなかった連中が今朝からコソコソと騒いでるんですよ。わたしも見たいです! 見せてください!」
……思ったよりも面倒臭い事になっているみたいだ。
コニスに限らず冒険者や職員達が期待に目を輝かせてこちらをチラチラと見ている。ハンセルの言ってたことも合わせてなんとかした方がよさそうだ。
布巾を握り締めてグイグイ寄ってくるコニスの頭を押さえて遠ざける。
「面白いっていやぁ、お前、サブマスターなんだってな?」
「へへ~、気が付かなかったでしょ? って何が面白いんですか。わたしはちゃんとサブマスの仕事もしてますよ。出来る女なんですわたしは!」
俺の手を払いのけ、ふふんと薄い胸を張るコニス。フェネリさん、紅月、コニスの薄ペタ三連コンボを見せられても一向にゲージが溜まらんわー。何のかは知らんけど。
「ギルマス亡き今、お前がここの責任者じゃないか。そんなヤツがロージルさんのえっちぃ姿が見たいと騒いでどうする。大事な話があるんだ。サブマスにも考えを聞きたいから出来る女なら一緒に来い」
コニスの腕を掴んで二階の事務室へと向かう。「な、なんなんですか、も~」というコニスの抗議を無視して階段を上がっていると、背後に殺気の籠った視線をいくつも感じた。多分コニスの信者の職員や冒険者だろうが、こちらも無視する。
「おう、来たな。奥へ行くぞ」
事務室に入るなり、ロージルさんの席の側に立っていたイルマさんがこちらの行き先を促す。どうやらこうなることは二人とも読めていた様なので話が早い。二人に続いて応接室へと向かう。後ろから職員達のざわつく声が聞こえてきた。
「おお! 今日は三人ともか?」
「コ……コニスちゃんのあられもない姿に期待……!」
「イルマも胸は結構デカいからな……じゅるり」
昨日俺がロージルさんと応接室に入った後、ロージルさんが痴女化して出てきたもんだから、男どもは今度は三人同時にエロくして連れてくると思っているんだろう……。バカな奴らだ。
俺は振り返り、男どもに不快感を示す女職員達に声をかける。
「男どもが興奮して仕事しそうになかったら、椅子でも何でもいいから使って半殺しになるまでぶん殴っていいからな」
『はい!』と女達は声を合わせて返事をする。それを聞いた男どもの『ひぃ!』と言う情けない悲鳴が響く。そんな男どもにもう一つ釘を打っておく。
「それと男ども。昨日の今日でご褒美があるわけ無いだろ。それにそんなに欲情むき出しだとどんな女にもモテないぞ」
『あぅ……』と項垂れる男ども。対称的だなぁ。まぁ取り敢えずこれでいいだろ。俺も応接室へと向かう。
「なんなんですか? わたし以外話が通じあっているみたいですけど」
コニスの隣に俺、テーブルを挟んで向かいにロージルさんとイルマさんの席だ。
「案件は今朝のタブカレの記事の内容、そうだなマビァくん」
言いながらスーツの懐からタブカレを抜き出してテーブルに放るイルマさん。その間にロージルさんがお茶の準備を済ませて皆に配りソファーへと腰を下ろす。
ロージルさんの視線が俺の脇に置いてある容器の包みへとチラチラ移る。自分が作った夕食をガラムさんがどうしたのか気になって仕方がない様子だ。
イルマさんが俺の顔を見た後、ロージルさんの手をポンと叩き、意識をこちらへと集中させる。
コニスが居るもんな。この話は後だ。
コニスはタブカレを広げて記事に目を通す。
「『冒険者ギルド内に燻る不満』、これですよね? これならわたしも読みましたよ」
「それなら話は早い。職員達が俺に不満を持ってるのは感じるが、俺が居ない時の反応が知りたいんだ。実際に組織の運営に支障が出る程のものなのか?」
まずはコニスに聞く。
「んー……。そうですねぇ。わたしが掌握している男性職員や冒険者達は、わたしの命令ひとつで魔力が尽きてぶっ倒れるまで犬の様に従順に従ってくれますから、不満なんて感じてなさそうですよ? それ以外の男性達や女性達には、わたしお願いはしても命令はしませんから良く分かりません」
……。コイツからまともな返事が返ってくる事を期待した俺がバカだった。しかしコニス信者ならコントロール可能だ。コニスが反乱しなければだが。
「……それに一昨日も言ったように、マビァさんの担当はわたしかロージル先輩になりましたから、わたし達の耳にはマビァさんへの悪評や不満は入りにくくなってると思いますよ?」
なるほど、確かにそうだ。コニスやロージルさんに俺への悪口を聞かれてしまうと、俺に伝わるかもしれないって心理が普通に働くわな。
次にイルマさんに聞く。
「現状ならば、正直よく分からないってのはあたしも同感だ。この子ら同様にあたしもマビァくん側の人間だと思われているだろうからな。サボり癖のある連中が数人いるのは確かだ。そんな連中にはあたしは煙たがられているから、尚更そんな姿はあたしには見せないだろう。一昨日、あの日が職員達にとって一番大変な時だったのだが、あの日の夕刻、君にワニの幻獣を十一頭当てただろう? あの時に幻獣召喚に参加した者はやる気のある者達だ。あいつらは除外してもいい。そうだろコニス?」
「もちろんです! あの時の人達はギルマスと同じ様に幻獣召喚を楽しんでやってるみたいですから。……あの結末は予想外過ぎましたけどね」
ジロリと半眼で睨んでくるコニス。俺は何も悪くない。
「まぁ、マビァさんが来るまでは退屈な日々でしたから。わたしも安全で刺激的な娯楽として毎日やりたいくらいですよ。幻獣召喚ならどんなに凄い魔獣で冒険者を追い込んでも、血が出たり死んだりしないから怖くないし楽しいですよ?」
幻獣召喚は魔獣を操れるわけではない。幻獣の出現位置とターゲットを最初に指定出来るだけだ。だからこそ複数人の冒険者に対して魔獣も複数出した場合は、初期位置と誰をターゲットにするかで戦術が大きく変わってくる。どうやって追い込めるかを考えるのが楽しいらしい。
ちなみにコニスは幻獣召喚を修得してすぐに、バーンクロコダイルならば同時に三頭まで召喚可能になったそうだ。
その考え方は正直えげつなくて引くが、コイツに任せれば好きなだけ追い込んでくれそうだ。修行には良いかもしれない。
しかも相手が信者ならばコニスを独占出来るんだ。どんなに痛め付けられようともご褒美に違いあるまい。上達しなければコニスに相手をさせない事にすれば必死になって頑張るだろう。
「娯楽でも遊びでもないけどな。やる気が出るなら何でもいいか。コニスを含めてあの時の連中は魔力を消耗して疲れたとしても不満は無いわけだ」
「ですです」
次にロージルさんに視線を移す。
「その一昨日のワニの件の時に、観客席の数名に仄暗い感情が宿るのを感知しました。あれはマビァさんが痛め付けられるのを見たがっていた様子でしたね」
なるほど。自分では仕掛けられない、面倒臭いのは嫌い、俺が堕ちるのを笑って見ていたいって考える奴らに相応しい行動だ。そいつらは俺が十一頭のワニにズタズタにされるのを見たかったのだろうが、当てが外れたらしい。いい気味だ。
コニスが「感知」のところでピクリと反応した。
それ話してもいいのかとロージルさんに目で尋ねると、ロージルさんは小さく頷く。イルマさんにも目を向けると同じく頷いた。やはりイルマさんはロージルさんのスキルを知っていたようだ。
「感知したって……。どうやったらそんなことが分かるんですか?」
ロージルさんのスキルを知らなければ当然感じるだろう疑問を口にするコニス。ロージルさんが説明を始めようとするのを俺は手で制し、口を開く。
「知りたいか? ならもうひとつ話を進めなきゃいけない。いいか?」
「は、はぁ。なんですか?」
「今朝、タブカレの記者ハンセルが忠告をしに来たんだ。一昨日の記事覚えてるか? 俺が試験場でワニの幻獣を初めて倒した時だ」
「えぇ~~と……。わたしが夜勤明けでそのまま大尉さん達へのお説教まで付き合わされた時のことですよね。あ、あれですか? マビァさんがワニを倒して見せたのがトリックだー、インチキだーって書いてあったところですかね?」
……コイツ凄いな。俺はその記事の内容なんて「なんとなく腹が立ったヤツ」くらいしか覚えてなかったので、コニスも覚えてないだろうからロージルさんのスキル『情報管理』で説明してもらおうと思ってたのに。
伊達にサブマスの地位に就いてるわけじゃないんだ。
「そう、それだ。昨日俺がそこの事務室で大勢に変な夢を見せたって認識が広まっててな、だったら俺がワニやウナギを倒して見せたのも夢だったんじゃないかって噂が出ているらしい。皮肉な事に今朝と昨日のタブカレの記事は、ハンセルがこちらに協力してくれているお陰でオチャラケ無しに仕上がっている。なら一昨日のトリックってのも本当だったんじゃないかってさ」
バカバカしい話だけどな、と俺は肩を竦めてみせる。イルマさんもロージルさんもまさかあの時に捏ち上げたその場しのぎの嘘が、こんな形で後を引くとは思わなかっただろう。俺だってそうだ。
「う~ん、一面だけ見れば筋が通っているようにも聞こえますけど、試験場で幻獣を出したのはわたし達職員やギルマスでしたからね。マビァさんの『夢を見せる』って力がどんなものかは知りませんが、わたし達が出した幻獣までどうこう出来るものでもないでしょう? ちょっと考えれば分かるのにバカですねぇ」
冷静に分析してお茶を啜るコニス。
「お、おおぅ。コニスが賢そうに見える……」
「むぅ! マビァさんはどれだけわたしの事をバカだと思ってたんですか!!」
怒りに頬を膨らませて肘打ちで俺の右腕をガスガス突いてくるコニス。
「痛い痛い、悪かったって」と謝っていると、ロージルさんがクスリと笑った。
「マビァさん、コニスは本当に優秀なんですよ。十五歳の時、つまり去年の王都で行われた職員採用試験と幹部候補試験で、両方首席を取ってるんです。ここのサブマスターに採用されたのは、前任者が寿退職したタイミングに偶然合っただけですが、他に適任者がいなかったのも確かなんです。あまりからかうと可哀想ですよ」
「そうですよ! ロージル先輩、もっと言ってやって下さいよ」
なんと、俺ごときがバカにしちゃいけないほど凄いエリートだったのか。
「じゃあなんでそのエリート様が受付嬢なんてやってんだよ」
「そんなのこの制服がこの職場で一番可愛いからに決まってるじゃないですか~」
コニスは短いスカートの裾をチラリと持ち上げてウィンクする。
……あざといわー。やっぱり残念過ぎるヤツだ。
「お前の場合、能力や仕事っぷりよりも素行の悪さが目立つんだよ」
イルマさんが煙草に火を着けながらコニスを叱る。コニスにとってイルマさんは怖い先輩なんだろう。「うぅ……」と首を縮めて黙り混む。
「話が逸れたな。すまんなマビァくん。まさか昨日の嘘がこんな風に悪い方に働くとは思いもしなかったよ」
両膝に手を突いてぐいっと頭を下げるイルマさん。
「そんな、俺だって予想外ですよ。それよりもこれからどうするか考えましょう。ロージルさんを守る為には真相を明かすわけにはいけないんだから。特に男どもには」
「ごめんなさい。元はと言えばわたくしのせいで……」
考え込む俺とイルマさん、落ち込むロージルさんをキョロキョロと見比べたコニスが口を開く。
「え、え? どういう事ですか? 話の流れからしてマビァさんの夢を見せる力ってのはウソってことですか?」
俺、ロージルさん、イルマさんの三人は見詰め合い小さく頷き合う。ギルマス不在の今、曲がりなりにもコニスがここの責任者なんだ。元々巻き込んで責任を押し付けるつもりだったが、ロージルさんのあの件は黙っておきたかった。しかし嘘から出た噂が広がって真実に成り代わろうとしている今、そんな事を言っていられない状況になりつつある。
「コニス、これ以上聞くからにはお前にはこちらに協力してもらうことになる。もし裏切ったら俺ら三人を敵に回すことになる。いいな?」
軽~~く『威圧』スキルを発動させながら低い声でコニスを脅す俺。コニスは座ったままビクッと跳び跳ねてコクコクと頷いた。
「その通り、俺にそんな力はない。イルマさんがロージルさんを守る為に咄嗟に吐いた嘘に、俺が乗っかっただけなんだよ」
「え、……てことは、えっちぃロージル先輩はホントにあったこと? そんなまさか、あり得ないですよ」
薄笑いを浮かべてパタパタと手を振り否定するコニス。強い確信があるようだが。
「あり得ない? なんで?」
「だってわたしがここに来てからまだ一年経ってませんけど、その間だけでもかなりの数の男達がロージル先輩にアタックしてるんです。先輩美人だしスタイル抜群だし、モテない要素があるとすれば仕事一筋な感じが強いってだけなんですよね。先輩は普段は厳しい上司って感じなんですが、ふとした瞬間に女性の色気を感じさせる事がたま~にあるらしくて、それに男達がホイホイと引っ掛かっていくんですよ。でも先輩は交際を申し込まれたとも感じていないらしくて、男達は全員撃沈……、というか勝手に自滅したって感じなんです」
そうなのか? ロージルさんの方をチラリと見ると、まさかそんな出来事があったなんて、と言わんばかりの表情で首をふるふると振っていた。
イルマさんも見ると、咥え煙草で腕を組み、やはり横に首を振る。男達はイルマさんが怖くて見付からないように告ってたんだな。
「次々と自滅していった男達、なのに告白後も何もなかったかのように振る舞う先輩。恋愛感情がないのではと囁かれ、氷結・冷温魔法が得意な事から付いた異名が『妖艶なる死の永久凍土』……。『凍結粉砕機』なんてのもあります。だからロージル先輩が、男を前に欲情してハァハァ言ってる姿なんて想像も出来ないんです。マビァさんが見せる夢なら本人そっくりなニセモノでしょう? だからそれならわたしも見てみたいと思ったんですよ」
困り笑顔で締め括るコニス。無自覚痴女(超マイルド)+恋愛に無関心なせいで変な異名まで付けられる羽目になろうとは……。
とことん鈍いロージルさんにも問題があるが、勝手に好きになって告白して振られたと思い込んだ男達の身勝手さやその後の行いにも呆れ返る。
ロージルさんもがっくりと肩を落として項垂れる。
「……わたくしに……変な異名が……ふたつも……」と、小さく呟いていた。可哀想に。
「そんなことになってたなんてな。全然気がつかなかったよ。ごめんな、ロージル」
イルマさんがロージルさんの背中を擦ってやりながら慰める。
コニスの説明によってすっかり空気が悪くなってしまった応接室の中、コニス本人だけが言いたいことを言ってスッキリした顔で、一人お茶を楽しんでいた……。




