表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/124

四日目 ウナギ料理と教授の自宅探訪

 ナン教授の自宅に近付くと香ばしい香りがしてきた。付けダレの焼ける、嗅ぐだけで腹が猛烈に空く匂いだ。間違いなくウナギを焼いている匂いだろう。

 教授の家の門の前に沢山人が集まっていた。匂いに釣られて集まったのかな? と思いながらゆっくりと近付くと人を掻き分けながらガテスさんとインディが大きな包みを持って出てきた。

 「やぁマビァくん、遅かったですね」

 「ガテスさん、この騒ぎはなんですか?」

 ガテスさんとインディは包みを持ち上げて見せる。

 「ウナギをご近所さんに振る舞ってるんですよ。なんせ大き過ぎますからね。たらふく食べても二~三百人は食べれるんじゃないでしょうか? 我々もノックスさん達のお見舞い分を戴いたので、これから届けるところなんです」

 「ウナギすっげぇ美味いぞ! 冷める前に届けたいから急いでんだ。じゃあな!」

 インディが元気良く走っていく。ガテスさんも「美味しく戴きました。マビァくんごちそうさま。それでは」とお礼を言って駆け足で帰って行った。


 しかし参った。人垣がすごくてこれは通れるだろうか? 荷車から降りて門に近付き、待ってる人達に声をかける事にする。ニッキーは後ろに付いてきた。

 「あのー、すみません。通してもらってもいいですか?」

 「なんだよあんた。割り込まないでくれるか?」

 「ちゃんと後ろに並べよ。みんなも待ってんだからさぁ」

 待つ人達から非難の声と視線が俺に集中する。


 「えぇ~……。いや、そうじゃなくて……」

 なんて言って通してもらおうか悩んでると「キュイ! キュイ!」とニッキーが大声で鳴いた。そしたら門の内側からカイラさんが顔を出す。

 「あらマビァくんお帰りなさい。遅かったのね」

 「カイラさん、ただいまです」

 カイラさんが人垣を押しながらこちらへ出てきた。

 「ほら、あんた達少し道を開けて。彼が通れないじゃない。もー、ちゃんと並べば人ひとり通れるようになるじゃない! ウチの門は狭いんだから考えて並んでよね!」

 人達を両手でぐいぐい押さえて強引に道を開ける。

 「なんだ。カイラちゃんの客だったのか」

 「わたしのってよりお義父さんのお客よ。お義父さんのお使いで出掛けてたの。ほら、ウチのニッキーもいるでしょ? てゆーかあんた達に振る舞ってるギガントイールを狩ってきたのも彼よ。マビァくん、新聞読んだなら知ってるでしょ? ありがたく思いなさいな」

 腰に両手を当てて「ふふん」と胸を張るカイラさん。いや、そんな恩着せがましい……。

 「……そうか、マビァって新聞の……。いやぁ悪かったな。あんたのお陰でご相伴に預かれるなら、感謝しないとな」

 頭を掻きながら謝ってくる男達。他の列に並ぶ連中もばつが悪そうだ。てゆーかカイラさんの威張りでこちらの肩身が狭くなる。

 「いやいやそんな、割り込みだって勘違いしても仕方ないですよ。気にしないで下さい」と取り繕い、カイラさんの後に付いて俺とニッキーは中へ入れた。

 「ニッキー、カイラさんを呼んでくれたんだな。ありがとな」

 ニッキーの横に並んで歩きながらニッキーを撫でる。ニッキーも喜んですり寄ってくる。獣使い持ちが魔獣を溺愛するのが分かるな。可愛すぎる。


 人の列の先には、竈の火を炭火に変えウナギの身を焼き続ける教授の姿があった。ぱたぱたと団扇で扇ぎながら一度に十枚ほどを焼いている。


 元の世界で食ってたウナギは大きくても太さ直径五センチ、長さ五十センチくらいだった。

 一度捌いて皮と身だけにした後、トマトソースで煮た料理が定番だったが、このギガントイールは直径五十センチと長さが八メートルはある。半身にした肉厚だけでも二十センチ以上あり幅も七十センチを超える。


 俺が元の世界で食ってたような開いた身をそのまま調理するなんて不可能だから、教授は蒸して柔らかくなった白身を厚さ一センチほどに切り、長さも半分にしてそれを一人前として焼いているようだ。

 濃い茶色のタレを何回も付けながら焼くので、炭火に落ちたタレと皮面から滴り落ちた脂がジュッと焼ける匂いが堪らなく食欲をそそる。


 列に並ぶ人達は自前のお皿を手に持ってて、ホーリィさんが焼けた順にお皿によそっていた。各ご家庭の構成人数を把握しているようで、「チミーさん、お爺さんは元気?」とか「ランくんお店はどうしたの。まだ営業中じゃない?」などと言いながら、この人には五枚、この人には三枚とよそっている。この列の家族全員の名前把握してそうだ。ホーリィさんすげえ。

 「わたし達だけの食事会だったのにね~。お義父さんったら気前がいいからこっちが本番みたいになっちゃった。一地区全員に振る舞う事になりそうね」

 呆れながらもカイラさんは状況を楽しんでいるようだ。まったく豪気な一家だな。

 カイラさんに付いて行きニッキーを厩に入れ荷車を片付ける。井戸で手を洗わせてもらい教授の方へ向かっていると子供二人が突進してきた。

 「きゅーせーしゅー!」

 「せーきしー!」

 ドカッと体当たりで二人に抱きつかれ「おっと!」とたたらを踏む。三日前に教授と一緒にいたお孫さん達だ。

 長い金髪を三つ編みにして両おさげにしてるわんぱく全開のおねーちゃんが右腰に、クリクリな焦げ茶髪の弟が左脚にしがみついて頭をグリグリと押し付けられる。

 「あはは! もうこの子達には会ってるんですってね。ウチの子のカーリーとチック、上が五歳で下が三歳よ。お義父さんが貴方に会って帰ってくる度に新聞の写真を見せながら貴方の話をするもんだから、この子達の中では貴方は物語の英雄みたいになってるのよ」

 うへぇ、それはまいったな。子供の妄想力は無限大だ。この子達の頭の中で俺はすっっっっごい事になってるに違いない。

 「それはちょっとやだなぁ。英雄なんて柄でもないし、救世主も聖騎士も止めてくれ。

 俺のことはマビァって呼んでくれ。いいな?」

 二人の前にしゃがんで頭をグリグリ撫でながら言う。子供には俺の名前は言いにくいってのは孤児院時代から分かっているので、ふたりが「マビー?」と繰り返して言うのを「うん、それでいい」と頭をポンポンしてやった。

 「マビー! こっちきてー!」「こっちこっち!」とぐいぐい引っ張られるのでカイラさんを見る。

 「あっちはもう少しかかりそうだから、食事はお預けね。その間この子達と遊んでやってくれないかしら」

 肩を竦めて苦笑するカイラさんに頼まれて子守りをする事になった。今でも休みの日には孤児院に顔を出しているので、小さい子の相手はお手のものだ。母屋へと引っ張られて行く途中で教授に声をかけられる。

 「おう! すまんなマビァくん。もう少し待ってくれ!」

 「分かりました。先にこの子達に自慢のお宅を見せてもらってますね」と答えながら走って母屋へと入った。


 ナンチャッツ邸は敷地も広くそれなりに大きい。といっても建て売りなのか、この街特有の統一されたデザインの母屋自体は小さい二階建てで、そこからの教授自作の建て増しが凄まじく、一見本来の母屋が埋め込まれているようだ。

 様々な様式の立て増された部屋が、螺旋を描くように一階から二、三、四階へと拡張されているので、内部の動線と効率の悪さを外観から感じた。

 しかし中に入るとまずは普通の印象の部屋割りや内装で、一階はリビング、ダイニング、キッチン。扉の表記でトイレ、浴室もあるのが判る。

 リビングとダイニングの壁に謎の小さな扉付きの太い柱が一本ずつ天井へ伸びているが、それ以外は普通にお洒落な造りだった。


 子供達に引っ張られ、そのまま二階へと上がる。

二階は教授夫婦の寝室と教授の書斎らしい。「ここおじーちゃんのへや!」と開けて見せてくれた書斎は、なるほど本棚に沢山の本とデスクに積まれた紙束、魔獣の化石、小さな骨格標本や壁に貼られた地図や子供達が描いたと思しき絵等々、いかにも教授先生らしい部屋だ。


 「次はこっちーっ!」とベランダへ出る。南向きのベランダからは庭の様子が良く見え、人の列がまだまだ連なってるのが分かる。ベランダの隅に扉があり、そこからが教授の増築部分になるみたいだ。

 開いた扉の先は建築様式がガラリと変わった。

 壁は土塗り、柱は装飾のない角材。窓には木の格子に白い紙が貼ってあるようで、外の明かりが白くぼんやりと部屋を照らす。床は細い草を束ねて縛った大きな四角い板を六枚並べて敷いてある。草絨毯って感じか? 柄はないけど。

 床の隅の一部が飴色に磨かれた木の板で、綺麗な壺や花瓶、木製の鷲の彫刻などが飾られており、部屋全体が静かで落ち着いた雰囲気をしている。

 「ここからは靴を脱ぐんだよ。靴下も脱いで」と二人は草絨毯に座って靴を脱ぎ出した。俺も習ってブーツと靴下を脱ぐ。草絨毯に上がると裸足の足にさらりと心地よく、子供達がゴロゴロ転がるので俺も寝転がってみた。床板とは違う柔らかさがあり、草の香りがとても心地よい。

 「きもちいーでしょ?」とカーリーが言うので、「うん、このまま寝ちゃいそうだ」と答える。

 正直元の世界で寝泊りしている安宿の、板にシーツを敷いただけのベッドよりもはるかに寝心地がいい。うっかり睡魔に飲み込まれそうになると「次いくよー!」と二人にバシバシ叩かれた。起き上がり次に続く引戸を開ける。


 開けた先は通路になっており、道は正面と右に進める。右は少し進むと下への梯子があり、正面は母屋を回るように階段になっていた。左側にも扉があるが、こちらは教授夫婦の寝室前の廊下に繋がっているらしい。

 「こっちの梯子を降りるとおじーちゃんの工房で、こっちの階段を上がるとあたしんちなんだ」「チックも、チックの家もー!」

 工房は教授に見せてもらいたいから、この子達の家を目指す。カイラさん夫婦とこの子達が住んでるんだな。

 カーブして上がる階段の途中にも外に出れて滑り台に繋がる扉や、出た先に下へと繋がる穴が床に空いていて、太いロープで降りれるようになっている。他にも異文化の様式らしき扉がいくつもあり、その先にはそれぞれの様式の部屋が造られているようだった。


 通路には窓もふんだんに付いているから狭い階段も閉塞感はない。内側にも小さな扉がいくつかあり、収納庫にでもなっていそうだ。


 三階部分に到着すると、視界が一気に開ける。太めの柱と一階から続いている扉付きの太い柱二本の他には壁もなく、広いリビングに大きなソファーとローテーブル。子供のオモチャが沢山ある空間、カイラさん夫婦のダブルベッドがある寝室らしき空間が、なんとなく別れているが丸見えだ。奥の南側には俺よりもデカイ窓の向こうに、これまた大きなベランダがあり、白いテーブルに大きな傘が開き、白い椅子が四脚。鉢植えの様々な植物が鮮やかな緑を彩っていた。


 「へぇ……。すっげえカッコいい家だな!」

 今までに見たことのない開放的な部屋に、思わず興奮して声も大きくなる。こりゃ教授が自慢したくなるわけだ。

 「やったー!」と二人で手を打ち合う子供達。俺を驚かせることに成功したのが嬉しいようだ。世界が平和ならこんなにも面白く家を造れてそこに住めるのか。


 悔しいが元の世界では『ゲート』が永遠に無くならない限り、俺がこんな家を造って住むのは不可能だな。なんせ街中にも小さい『ゲート』が時たま開いて魔物が暴れるし、こんな大きなガラスを造る技術もなければ割られずにすむ方法もない。だから街にはガラス窓は普及せず、貧民だろうが貴族だろうが、窓と言えば飾り格子に鎧戸が基本だ。建物も頑丈な石造りか、すぐに建て直せる木の安普請のどちらかになる。とてもこんなにも綺麗で面白い家を造れる環境じゃないんだよな。


 「次はこっち!」と上がってきた階段の正面の扉を開けて入る。さらに左回りで階段が続き、途中にもいくつか外に向かって開く扉がある。外から見た時に小さな部屋がいくつも出っぱっていたが、これがその部屋への扉なのだろう。

 等間隔にある出窓には教授が彫った彫刻の魔獣が一頭ずつ置かれていた。じっくり見たかったが子供達がどんどん引っ張って先へ行くので付いていく。


 行き着いた先には天井がドーム状の天窓になっている彫刻置き場になっていた。ノウトス、トトス、カゼノカマ、キラーウルフ、ギャロピス、ブルケラトプス等々、他にも俺の未だ見ぬ魔獣たちが、さすがに原寸大よりもずっと小さいが、二十体以上、床や壁、天井から吊り下げたりと飾られている。

 精巧に造られた魔獣達は、どれもツルツルに削られた後、オイルか何かでピカピカに研磨されており、木目がまた良い風合いを出していて、西門噴水の大理石の彫刻よりも生き生きとして見えた。

 「これで趣味かよ。本職の彫物師が裸足で逃げ出しそうだな」

 呆れ半分尊敬半分で彫刻をじっくりと見る。

 子供達は今度は小さく「やったー!」と言って手を打ち合い、ニシシッと笑った後、俺を放っといて隅で遊び出した。ゆっくり見させてくれるらしい。


 教授の彫刻は毛皮の下の筋肉、筋肉の中の骨格まで伝わってくるような精巧な造りで、戦闘バカな俺みたいなのがこういうのを見ると、「この骨格だとこっちには前足が回らないから、回避するならここだな」とか「コイツの視野の広さなら死角はこの辺か」など、ついつい戦闘寄りの視点で考えてしまう。

 教授の彫刻がすごいのくらい素人でも分かるだろう。そこを超えた芸術性などは審美眼を養ったことのない俺では、到底理解出来ていないだろうから思考が戦闘に向かっても仕方がないと思う。

 その後もしばらく未知の魔獣の弱点を探ったり、動きを想像したりしながら時を過ごした。


 『カーリー、チックー、マビァくーん。ご飯にするから降りておいでー』

 どこからか少しくぐもったカイラさんの声が聞こえた。彫刻から顔を上げ、そちらを見てもカイラさんの姿はない。が、壁に向かって走るカーリーとチックの姿があった。

 「はーいママー。すぐ降りるねー」「すぐいくー!」

 カーリーとチックは壁にある金属パイプにラッパの先が付いた物に返事をする。さっきの声はあそこから聞こえていたのか。どうやら離れた部屋に声を届けるパイプのようだ。カーリーが返事をしたパイプには『キッチン』と刻まれており、別の部屋に繋がっているらしいパイプが左右に六本並んでいる。家が大きいと便利そうだ。


 「マビー。三階から滑って降りよ!」と二人は走って階を降りる。俺も小走りで追いかけると、三階リビングに着いた。壁に押し開きの扉が付いていて、上には『特急シュート!!』と看板が掛けてある。

 「チック、ごー!」

 カーリーの号令にチックは「おーっ!!」と足から扉に跳んで入る。シュルシュルと滑る音と扉がパタンパタンと揺れる音が残った。

 「じゃあ次はあたしが行くから、マビーは五つ数えたら飛び込んでね!」

 と、言うや否やカーリーも足から飛び込んだ。


 えぇ~……。これ大人の俺が入ってもいいヤツ? 


 多分滑り台だろうけど、途中で詰まったりしないかなぁ?

 不安は残るも子供達の期待を裏切るのもなんだし、他の皆さんも待ってるんだ。覚悟を決めて足から飛び込む。裸足の足でブレーキがかからないように踵を上げて、肩幅を縮めて出来るだけ細くなる。尻餅突くことなく滑らかに着地した俺は思った以上の加速でグングンと進んだ。

 三階から一階までなんて斜めに緩やかに滑り降りたとしても、ものの数秒で着く筈なのに、急降下と急上昇を繰り返し、途中全面透明で外が見える場所を通過し、一度大きく宙返りして一階リビングに滑り込んだ。これが外から見た時に建物に巻き付いていたパイプだったか。

 「……ふぃ~~……。もっと緩いのかと油断した……」

 到着点のクッションマットで寝そべったまま呟く。

 「どう? おもしろかった?」「かったー?!」

 カーリーとチックが左右から顔を覗き込んで聞いてくる。

 「ビックリしたけど面白かったよ。お前らこれいつも滑ってんのか? すげぇなお前らも、これ造った教授も」

 俺の返事にまた「やったー!」と手を打ち合うふたり。

 「おいおい、二人が滑って降りてきたからまさかと思ったが、マビァくんも滑ったのか」

 ダイニングから顔を出したナン教授が聞いてくる。

 「ええ、すごいですねこれ。次は普通に階段で降りたいですけど」

 上体を起こして答える。教授は肩を竦めて大袈裟に溜め息を吐いた。

 「君の体格だと途中で詰まる可能性があったぞ。それに安全設計基準が身長百五十センチ、体重五十キロまでだ。君は大きく超えとるだろう? 無事で良かった」

 なんですとーっ?! もしかしたらヤバかったのか。知らなかったとはいえもう少し慎重になるべきだった。

 「この子達に言われるがまま滑ったんでしょ? マビァくん、はい」

 カイラさんがわざわざブーツを取ってきてくれた。お礼を言って履く。

 「さぁさぁ、食事にしましょう。夕飯には少し早いけどお昼には遅すぎだわ。今日は少しお痛が過ぎたわねあなた」

 ホーリィさんがテーブルに着くように促す。最後の一言の教授を見つめる眼光がちょっと鋭かった。

 「う、ウナギは鮮度が命だからな。捌いたらすぐに調理せんと臭みが戻るし味も落ちる。それにご近所さんも喜んでくれたんだ。大目に見てくれ」

 教授は少し怯んだが言い訳でなんとか押し切る。ホーリィさんも苦笑して許し、食事が始まった。


 八人掛けほどのダイニングテーブルの真ん中に大きなパイが湯気を上げ、各席にサラダとパン。メインディッシュのウナギの切り身焼きは、まるで宿で食べたモウモステーキのように大きく、こちらもまだ熱々だ。パンの追加はバスケットから自由に取って食べるらしい。俺はウナギにナイフを入れかけてあることを思い出す。

 「あ、これまだ余ってるんですか? 息子さん……カイラさんのご主人の分はあるんですかね?」

 今ここにいなくて、一人食べれなくなるかもしれない息子さんの事を思い出したのだ。なんせあれだけ派手に配ってたんだ。残ってない可能性だってある。

 大人三人が顔を見合わせてクスッと笑う。

 「この状況でそこに真っ先に気が付くなんて、やっぱりマビァくんはすごいのね」

 カイラさんが笑いながら言い、それにうんうんと頷くホーリィさん。教授も笑顔でウナギを切っている。

 へ? 何がすごかった俺?

 「まずこのウナギの暴力的な誘惑の香りの中で、君は俺の息子の分が残っていなかったら自分のを切り分けて残しておこうと真っ先に考えただろう?

 このギガントイールを使った料理にはな、独占欲を煽るような効果があると学会で発表された事もある、いわく付きの食べ物なんだ。カイラから聞いたが君がウチの門を通ろうとした時に、並んでおる連中の雰囲気が少し険悪になったんだろう? それはこの料理のせいだよ。

 この料理の本場では、毎年旬になると少し激しい諍いが起こるそうだ。刃傷沙汰にはならんらしいがな」

 なんと、いわゆる『魅了』のような効果がウナギから出ているのか? さすがは異世界の魔獣。そんなこともあるかもしれない。

 「でも、ここに戻った時にガテスさんとインディに会って、ウナギ料理を沢山持ってたけど機嫌良かったですよ?」

 「あれは持たす前にたらふく食わせてやったからな。他の並んでる連中にも一口食わせてから家族の分を持って帰らせてる。一口食っとけばしばらくは独占欲を押さえられるからな」

 なるほど、そう考えれば昨日食ったワニ肉も何か効果があったのかもしれない。いくつか思い当たる点がある。

 「それにわたし達が驚いたのは、他人の貴方が初めてきた家の食卓で、家族一人欠けているのに気付くことができて、当然のように面識のない者のために自分のを残そうとしたことね。この匂いの中で空腹の者が考え付くことじゃないわね。

 わたしが旦那の事忘れてたくらいだもん」

 といって、カイラさんは笑う。いや奥さん。それはちょっと旦那さんが可哀想。 

 「いや、それ俺のパーティでまともに料理が出来てたのは俺だけだし、食べてもらうのも好きだったからさ。だから全員平等に分けるけど、もし足りなかったら自分より人に食べてもらいたいって気持ちがあるからかな?

 それにお家の中を半分くらいかな? ざっとだけど見させてもらったから、ここに住んでる人の中でカイラさんのご主人だけが今いないってのはすぐに分かったよ。

 教授やホーリィさんのご両親がここにいないのは分かったし、カイラさんのご主人は仕事に行ってるんですよね? それもこの街の中に職場があるみたいだったから、今日夕刻には帰ってくるんじゃないかと思っただけですよ」

 ここの食器や普段使ってるだろうカップの数、三階リビングのローテーブルに置かれたご主人の私物らしき読み物の無造作な置かれ方、寝室に飾られたカーリーの描いた六人家族の絵。他にも毎日ご主人はここにいるなって形跡がちらちらと目に付いた。だから家族構成を見抜くなんて誰でも出来ると思うんだけど、三人は少し驚いた顔をしてこちらを見つめていた。子供達は夢中でバクバク料理を食べている。

 「そういうところなんだけどね。まあいっか」

 「ふむ、なるほどな……。マビァくん安心しなさい。アイツの分も残してあるし、おかわりも全員三回以上は出来る。さぁ、冷めないうちに戴こう」

 教授がフォークで切り分けたウナギを刺して食う。美味そうに笑顔がこぼれた。ホーリィさんとカイラさんもニコニコしてウナギを切り始めた。

 俺も安心してウナギを切る。皮表面がカリカリ、皮内側がプルプルで、身は口の中でホロホロに崩れて肉汁がジュワッと口に広がる。これまで口にしたことのない味と食感、旨味と香りが口の中で爆発したように感じて、思わず「ん~~~~っ?!!」と叫んでしまった。

 そんな俺の反応に教授一家は嬉しそうに笑った。  

 現実の大ウナギはあまり美味しくないから、食用には向かないそうですね。


 次回は四月四日(日)の正午に更新予定です。

 よろしければまたお付き合い下さいませm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ