四日目 ロージルさんの幼なじみ
「あんたはいったい何がしたかったんだ?」
俺が踞り動かなくなったロージルさんの前で、さてどーするかなと悩んでいると、後ろから女性が声をかけてきた。
「えっと、貴女は?」
「あたしはイルマ。その子の部下であり友達だよ」
オレンジの長い髪を編み上げて後ろで束ね垂らしている二十代半ばに見える美人さんだった。スーツとパンツ姿の男装が勝ち気そうな眼差しによく似合っている。そういえば昨日の試験場で、朝キラーウルフを出した時も、夕方ワニを出した時にも彼女はいた気がするな。
イルマさんがロージルさんの傍にしゃがみ込み、肩に手を置く。
「ロージル、ロージル?」
声をかけるとロージルさんはぼんやりと顔を上げ、イルマさんだと気が付くとガバッと抱き付き泣きじゃくる。
「イルマァ~! イルマァ~! ひっく、マビァさんが~、ひっく、酷いの~!」
ロージルさん、もはやいつもの毅然とした姿の面影もなく、寧ろ幼児退行しているような……。ジロリとこちらを睨んでくるイルマさんに言い訳をする。
「いや、これはロージルさんの為にやったんですよ。説明したいけどここじゃアレなんでロージルさんを応接室に連れてってもらえませんか?」
男どもの好奇な視線にロージルさんが曝され続けるのはイルマさんにとっても不快なようで、ロージルさんを宥めなんとか立たせて奥へと連れていく。俺も付いて応接室に入り扉を閉めて、二人の向かいのソファーに座った。
「で、何があった? あたしはこんなロージル見たことないよ」
イルマさんは上着の内ポケットから金属のケースを取り出すと、中から細長い棒を取り出す。それを咥え指先に魔法で火を出すとその棒に火をつけて吸い込み煙を吐いた。どうやらこっちでの煙草のようだ。
「なにから話せばいいのか……。えっと、実はロージルさん、ある男性に恋をしてまして……」
イルマの左腕にしがみついて、ひっく、ひっくと泣き続けるロージルさんを見ながら話す。
「この子が恋? いつから?」
イルマさんにとっては予想外の話だったようだ。驚いて目を見張りロージルさんを見る。
「正確には昨日の昼からかな? ロージルさんも突然の恋心だったようでえらく動揺してるみたいなんですけど。そういう話はこれまでしなかったんですか?」
は~、と溜め息とともに煙を吐くイルマさん。
「昨日今日と誰かさんのお陰で死ぬほど忙しかったからな。仕事以外の事を話す暇なんてなかったよ」
「あぅ、すみません」
俺が素直に謝ると、イルマさんはふっと苦笑して隣で泣くロージルさんの頭をポンポン叩く。
「この子は普段からそういう話題には疎かったからなぁ。で、相手は?」
「金物屋のガラムさんです」
「やっぱりなぁ。この子の部屋の台所を見ると、調理器具がポツポツと新しくなっていってたから、まさかとは思ったんだよ」
「決定打になったのは、昨日木工ギルドで真剣に仕事に向き合うガラムさんの表情を見たからだ、と言ってましたよ」
ロージルさんは自分を放っといて自分の恋愛話をされているので恥ずかしいのだろう。また真っ赤になり縮こまる。
「でもその後、ガラムさんと一緒に『キィマ』で昼飯食った時にはここまで過剰反応はしてなかったんです。ただガラムさんにディナーに誘ってくれないかなってカマをかけた時にエロい誘い方になってたから、ロージルさんは元々こんな感じに男を誘惑するタイプなのかな? って思ったんですけど」
俯いたまま激しく横に首を振るロージルさん。
「もう分かってますよ。この人自分がエロく見えてるって自覚全然なかったんですよ」
「あー……」
「で、今朝ここに来た時、ちょっと情緒不安定になってて、理由を聞くと、あのコニスがガラムさんに粉かけたらどうしようって心配になったらしくて」
「む~~……」
「俺がなんとか手伝おうと思って。ガラムさんが忙しくなるから料理の差し入れなんてどうかって提案したら、その時は乗り気だったんですよね」
煙草を咥えたまま上を向き、腕を組んで目を瞑るイルマさん。腕が上がったので抱き付き辛くなったロージルさんは、一旦手を放して今度は腰にしがみついた。ホント子供っぽくなってるせいでエロさは全然感じない。
「ガラムさんに会って現状を聞いたら、案の定、食事を疎かにしそうだったから、俺が今夜の晩飯を何か差し入れるって言って、ちょっと強引だったけど受け入れてもらったんだ。で、さっきそれをロージルさんに代わってもらおうとしたんだけど、今朝よりも挙動不審になってる上に、俺から見たらロージルさんは欲情して俺を求めてるんじゃないかってくらいエロかったってわけです」
「……つまり、さっき事務室で男達の視線を釘付けにした時と同じ状態であったと?」
「はい。でもロージルさんに自覚はまったくないわけで。ガラムさんがアレを見てどんな反応するかは分かんないけど、あの状態のロージルさんを男の前に出すわけにはいかないでしょ? だからまずロージルさんに自覚させるしかなかったんですよ」
「さっきのあれは荒療治だったってわけか。確かにさっきのは事務室内で他の女の目もあったから奴らも変な行動を起こさなかったが、これが誰もいない倉庫とかだったら、下手したら○○、場合によっては○○もあり得たわけだ」
「ですね。実際にあの時介抱と称して男達がわらわら寄ってきたんですから」
俺とイルマさんのあんまりな言いように顔を青くしてカタカタと震え出すロージルさん。スキルで男達の表情から感情を読み取ってしまったのだろうから、それもあわせて衝撃の真実だったのだと思う。
「で、ロージルさんが自覚するのと同時に、まわりの誤解も解かないといけないと思うんですよ。正直今後ロージルさんが一人になった時に襲われる可能性は、これまでの比じゃないほど上がっていると思うんです」
俺がその情況を作り出しておいて何言ってんだって感じだが、最後まで責任は持ちたい。だけど俺だけでは正直手が回らないからイルマさんに助けてほしい。
「だな。そっちはあたしに任せてくれ。まず女達の誤解を解いてから協力させる。送り迎えもあたしがしてやるから安心しな」
「イルマ……。ありがとう」
少し安心したのか抱きついていた手を離すロージルさん。
イルマさんは煙草をポケットから出した吸い殻入れに入れて立ち上がる。
「早い内にあたしはあっちをなんとかしてくる。……ありがとな。ロージルに何かあった後じゃなくて良かった。ロージルを泣かしたことは取り敢えず置いといてやる」
にっと笑い扉を出ていくイルマさん。男前なねーちゃんだ。
「マビァさん。わたくし無自覚で……みんなにあんな風に思われる姿を曝してたんですね。気付かせて下さってありがとうございます」
やっと冷静になり平常運転に戻ったロージルさん。涙を指で拭い顔を上げる。
「いや、ちょっと強引過ぎたからロージルさんに怖い思いをさせた。ごめんなさい」
「……はい。これまで男の人からあんなに強い感情を向けられた事がなかったので、すごく怖かったです。もう殿方とのお付き合いは諦めてしまった方がいいのかもしれませんね」
スキル『情報分析』が具体的に何をロージルさんに見せたのかは分からないが、多分少なくとも、
「え? いいの? そんなに強く求められたんじゃ仕方ないよね。それならそうと早く言ってくれればいいのにー!」
くらいはあの場の男全員が思っていてもおかしくない。もう誘惑系か催淫系の隠しスキルが発動してたんじゃないかってほどのスケベ男ホイホイだった。一応確認しとくか。
「ロージルさんの無自覚のアレは、まさかスキルじゃあないよね?」
「あ、はい。わたくしのスキルは『情報分析』と『情報管理』の二種類のみです。アレがスキルなのでしたらその方が良かったのかもしれませんね。少なくともレベルが上がれば制御は出来そうですから」
確かにそうかもしれない。レベルアップしても制御なしで効果範囲が広く強くなるだけって可能性もありそうだけど。
「でもさ、ガラムさんのこと嫌いになったわけじゃないんでしょ?」
俺の問いに顔を赤らめるが、うつむき暫し沈黙する。
「今は怖さが先に立って、あの状態のわたくしを見たガラムさんがどう思うか想像すると……。でも、まだ何もしてないのに諦めるのは嫌です」
「そっか……。じゃあさ、今日ロージルさんが差し入れを持っていくのは止めよう。でも料理は作ってよ。代わりに俺が持っていくからさ。アレの改善は鏡で自分を見ながら治していくしかないんじゃないかな? 自分を客観的に見れればスキルで分析出来そうだし、イルマさんにも協力してもらえばそのうちなんとかなると思うよ」
少し道が開けて見えたのだろう。ロージルさんの笑顔が少しだけ戻ってきた。
「分かりました。お言葉に甘えて料理を丹精込めて作らせて戴きます。アレの方も特訓がんばります!」
「料理の方はほどほどにね。あんまり豪華だと俺がガラムさんに怒られるし、もう受け取ってもらえなくなるからさ。精々『屋台で買ってきました』レベルで抑えといてよ」
やれやれと苦笑をしながらロージルさんに言う。ロージルさんも自分の間違いに気付いたようで、「そうでした」と苦笑して小さく舌を出した。
ロージルさんの住まいの場所を聞く。俺が料理を受け取るまでイルマさんには部屋にいてもらうことを約束させた。俺にその気はないが男が女性の独り暮らしの自宅へのこのこ行くのは良くないし、イルマさんも心配する。
二人で応接室を出て事務室に向かう。ロージルさんは仕事中だったし、俺もここに長居しすぎた。
事務室に入ると仁王立ちしたイルマさん、その前で床に正座している男達、それを取り囲んで睨み付ける女達。という不思議な構図が出来上がっていた。
「おう、もう大丈夫そうか?」
イルマさんが振り返りロージルさんの様子を伺う。
「はい、ご心配おかけしました。皆さんの心を乱してしまった事、心より深くお詫び致します」
ロージルさんはいつもの仕事モードでイルマさんの隣に並び深く頭を下げて謝罪する。男達は既にさんざん女達に叱られたのだろうが、まだ少しロージルさんに対してエロい期待を残していたようだ。しかし現れたのはいつもの厳しいロージルさん。サキュバスの淫夢から覚めたような顔をしてロージルさんを見つめている。
ロージルさんもスキルで読み取ったのだろう。余裕の笑みを薄く浮かべて皆を見返した。
「これで分かったな。さっき見たのはマビァくんの幻惑魔法だかスキルだかによる悪戯だったそうだ。ここにいる全員がありもしない同じ夢を見たんだよ。だからもう忘れろ。第一ロージルがそんな変なことになるわけないじゃないか」
はい?! と内心驚くものの表情には出さずに考えを巡らす。確かに見られたものを全て夢のせいにして、無かった事にした方が、今後のロージルさんの安全を考えれば一番良い。俺はそんなスキル持っちゃいないが、男どもを納得させるには大量にスキルを保有している俺を犯人に仕立て上げるのが最善だ。イルマさんがこちらを見てにっと笑うので、策略に載っかることにする。
「いやー悪かった。みんなには突然やってきて無茶振りしたから、慰労の意味を込めて面白い夢を見てもらったんだ。ちょっと刺激が強すぎたんなら謝る。悪かった。
てことで、さっき見たロージルさんは実在しない作り物であり、現実のロージルさんとは一切関わりはありません」
こう言うとさっきのロージルさんの謝罪とは食い違いがあるように感じるが、逆にそれが男達を混乱させ煙に巻く。夢という曖昧極まりないものと、目の前のいつものロージルさん。男達がどちらを信じるかは明白だろう。
「ってことだ。だから今後少しでもロージルに変な気を起こしてみろ」
イルマさんが前に出した掌の上に青白く勢いの良い炎が吹き荒れる。部屋の温度が一気に五度は上がった。
「あたしがそいつのナニを焼き斬ってやる。分かったな!!」
「はいぃぃっ!」と悲鳴混じりに返事を返す男達。これでひとまず安心だ。ロージルさんが乱れない限りは問題は起こらないだろう。
「そうだ、忘れるところだった」
俺はポーチからウナギのジェムを取り出してロージルさんとイルマさんに見せる。
「ジェムですか? 青色でこの大きさは珍しいですね」
「これは希少だぞ。なんの魔獣のなんだ?」
ふたりには分からないらしい。滅多に流通しないのだろうか?
「ギガントイールって魔獣のなんだ。さっき沼で襲われてさぁ。今ナン教授の自宅で調理してるよ」
「「ギガントイール?!」」
うお、ふたりがハモった。その声に周囲の注目が集まる。カイラさんも驚いていたし有名だけど希少なのかな。
「よその国では高級食材として取引される魚型の魔獣ですよ。この街では目撃例はありますが、捕獲された記録はありません」
「ナン教授は大きな川ならどこにでもいるって言ってたからね。それとバーンクロコダイルの幼体にとっては天敵らしいから、いて当然だって聞いたよ。実際に俺に襲いかかってきたわけだし」
「おかしいですね……。人が襲われたと言う話も聞いたことがありません」
「まぁいいじゃないか。それよりどんなものか見てみたくないか? 『幻獣召喚』してみよう」
悩むロージルさんにイルマさんが急かす。周りの女性達や男達もざわめきだす。みんなどんなものか見てみたいようだ。全員で試験場に向かうことになった。……仕事いいのかよ。
試験場に行く途中、職員達が他の職員や冒険者に声をかけたので、ここに居るほぼ全員と思われる人数が集まった。で、何故か俺だけ一人で試験の舞台に立ち、残りは二階観覧席でひしめき合っている。
「なあ! なんで俺こっちに立ってるわけ?!」
召喚する演壇についたイルマさんに大声で問いかける。
「召喚するだけだったら俺もそっちで見ててもよかない?」
「いやぁ、幻獣を召喚するには標的が必ず必要なんだよ。他の連中はギガントイールを見たこともないんだから、その役は実際に倒した君しかいないじゃないか」
右手に持ったウナギのジェムを前に掲げ、準備を整える。
「だったらせめて剣と盾貸してくれよ! 丸腰は酷いだろ!」
そう、俺の剣と盾はナン教授の自宅に置いてきている。まさか街中で必要になるなんて思いもしないじゃないか。
「こっちはウナギをじっくり見たいのに、武器なんて君に渡したら瞬殺してしまうじゃないか。それに我々事務員はまだ仕事が山積みなんだよ。早く終わらせたいから保管庫に取りに行かせる時間もおしいんだ」
こちらを見下ろしニヤリと笑うイルマ。じっくり見たいのに早く終らせたいって矛盾している。これはあれだな、さっきロージルさんを泣かせた仕返しだ。こちらにロージルさんへの誠意と謝罪の気持ちがあったとしても、やはりあのやり方は鬼畜過ぎた。
「幸いここに集まった冒険者達は昨日一昨日と君の戦う姿を見ていない者達だ。SSランカーの実力を見てもらう為のハンデ戦、受けてくれてもいいんじゃないか?」
「ちっ! 分かったよ。それならこのままやってやる」
イルマさんの挑発に乗ってやる。いくらでかくて凶暴だとはいえ、所詮魚だ。陸で召喚されては碌に動けまい。
「なら出すよ! 出でよギガントイール!」
イルマさんの右手から放たれた青い光が舞台の上に降り注ぎ、八メートルを超える半透明の巨大ウナギが現れる。観客からの歓声と悲鳴、ロージルさんも呼び出したイルマさんさえも、その巨体に驚き固まった。実物がここまで大きいとは思わなかったようだ。
さて、どうやってボコッてやろうかとウナギを睨み付けると、ウナギはまるで大蛇のようにニョロニョロニョロ~ッと地面を走りこちらに襲いかかってくる。こいつ陸戦も出来るのか!
咬み付き攻撃を既の所でかわしそのまま走って距離を取る。ウナギも向きを変え迫ってくる。俺も向きをウナギの正面に合わせ、また直前でかわし今度はウナギの横顔を右拳で殴り付ける。しかし高速で走り抜けるウナギを殴っても、表面のぬめりで滑って痛打にならない。ならば!
俺は何度もウナギの突撃をかわしながら、試験場の壁とウナギの進路が垂直になるように合わせ、壁際まで逃げる。大きく開いた口がこちらに咬み付く寸前で横っ飛びで避けてウナギを壁に激突させた。
ドチャッと開いた口を壁に激突させ、牙が何本も折れて光と消える。頭の急停止に身体が止まらず、地面に垂直に落とした一本の鎖のように、ぐにゃぐにゃと曲がりながら全身を壁に叩き付けた。
壁から地面にずり落ち、まだ立ち直れない今がチャンスだ。素早く立ち上がり魚の弱点、エラに緊急用のスキルを叩き込む。
手刀刺突スキル『ネイキッドダガー』
武器を戦闘中に弾き飛ばされてしまった時、一瞬だけ手刀にオーラを纏い鋼のように重く硬化させ敵を貫く緊急用のスキルだ。
エラの一番奥まで貫いて、硬化が解けた右手で辺りのものを適当に掴んで引き千切りながら腕を引き抜き、跳んで距離を取る。痛みにのたうちまわるウナギは俺に恐怖を感じたのか逃げだした。これで勝負ありだろう。辺りはまたしんと静まり返っていた。
イルマに視線を向けるとビクッと肩を跳ねさせ、魔法を解除する。
「はは、ホントに素手で倒しやがった。なんて奴だ」
イルマさんは煙草を取り出して火をつけずに咥える。
「わたくしもギガントイールの巨大さに、これはさすがに無理かと思ってイルマに止めさせようとしたんですけど……。こうもあっさり倒してしまうなんて」
ロージルさんも呟き、その場に座り込む。それを合図にしたかのように、観客達がざわざわと騒ぎ出した。ここの奴らのリアクションは大袈裟過ぎるからもういいよ。
「あー、先に事務室に戻ってるな」
なかなか収まりそうにない観客達に声をかけ、試験場を後にする。あぁもう、早く帰りたいのに。
「ロージルを泣かした君に意趣返しをしたつもりだったし、予想以上に大きなウナギが出てきてやり過ぎたかと思ったが、あっさりとはね除けてくれたな。お陰でこちらの溜飲が下がらん。だから謝らんぞ」
ギリギリと煙草を噛みながら悔しそうに言ってくるイルマさん。俺とロージルさんの三人で、ロージルさんのデスクの側で話している。
「そんなことだろうと思ったからさっきの無茶振りを受けて立ったんだよ。ロージルさんにはホントに悪いことをしたなって反省してんだから」
「もう止めましょうよ。それよりジェムの鑑定でしたね。ギガントイールの物でも極上の物だろうと言う証明は、先程の召喚で誰もが認めるところでしょう。前例を調べてみますのでしばらく預からせて下さい。
報酬はお預かりしているお金に加えておきますが、よろしいでしょうか?」
「うん、それでお願い。
あ、ガラムさんの料理の材料費、そこから適当に使ってよ。いくら抜いてもいいからさ」
「そ、そんなわけにはいきません! 自分の為にする事ですもの。お料理の代金は自分で……」
俺の突然の申し出を、焦って断るロージルさん。イルマさんはこちらの意図を察したようだ。ロージルさんの肩を叩いて話すのを止める。
「ロージルさん。今回の料理の差し入れは俺がガラムさんに無理矢理押し付けたもんだ。いずれ料理がロージルさんの手作りだとバレるとしても、俺がロージルさんに代金を払って作ってもらった事にしておかないと、勝手にやってるお節介をロージルさんに丸投げしたみたいになっちまう」
「そういうことだな。差し入れの話をきいたロージルが自分が作るって言い出したことにして、マビァくんが仕事に見合った代金を払った事にしなきゃ筋が通らない。ガラムさんは堅物そうだからその辺はうるさいぞ」
イルマさんはロージルさんの頭に手を置きクシャクシャと撫で回す。
「……分かりました。当座の必要経費としてお金はいくらか預からせて戴きます」
「それだけじゃダメだな。一日夕食と夜食の二食を用意しな。夜食分は保冷魔道具で冷やして傷まないようにしないといけない。そしてこれはマビァくんからの依頼だから報酬も必要だ。
マビァくん、一食千カルダ、二食で二千カルダでどうだ?」
イルマさんしっかり考えてるな。この人がいれば心配なさそうだ。
「安過ぎませんか? ……いや、でも屋台で一食買って千カルダは高いか。高過ぎるとガラムさんは受け取ってくれなくなるよなぁ。それプラス材料費。ロージルさんがそれで良ければ」
ロージルさんもイルマさんもコクリと頷いた。料理が屋台で作られた物でないことは割りと早くバレるだろう。彼にはスキル『九十九神の言霊』があるからな。
「じゃあまた後で」とロージルさん達と分かれ事務室を出るが、階段辺りでさっきの男達に捕まる。
「な、なあ。さっきの夢って他の人がモデルでもいいから見せてくれないか?」
「お、おれコニスちゃん希望!」
「バカ! 神聖なる我らがコニスちゃんを汚すな! あの人にはそんな下卑たものを求めるべきじゃない!」
「じゃあさ、あの腹立つイルマを弱々しくエロく出来ないかな? ぜひ頼むよー」
次々と阿呆な願望を口に出す男達。…そんなだからモテないんだよ。とは思うがこんなカスどもがモテなかろうが知ったことではない。
「そのうちにな」と適当にあしらい急いで外に向かう。一部の男からは恐れられなくなったが、ちっとも嬉しくないな。
外に出ると待たされていたニッキーがこちらに気付き、尻尾を振って甘えた声を出す。
「ごめんごめん。すっかり待たせちゃったな。教授達も心配しているだろうから急いで帰ろうな」
謝罪の意を込めてめちゃくちゃに撫で回すと、ニッキーも嬉しそうにすり寄ってきて「きゃう!」と返事をした。御者台に飛び乗るとすぐにニッキーは走り出す。時刻は三時半に迫っていた。
幻獣召喚された魔獣は、青白い半透明な姿で再現されますが、半分実体化してるので内臓や骨、筋肉などもあり、質量もあります。
こういった試験場のような特殊な場所でしかこの術を使う事が出来ず、幻獣による殺傷能力も場の術式によって無効化されます。
例えば、試験者が体当たりで壁に叩きつけられても、打撲も骨折もせず痛みも無く、感覚だけはあります。負ったダメージ相当の麻痺がペナルティーとして与えられます。
あと、イルマさんは二十八歳のアラサーですw
マビァには若く見えたようです。良かったですね。
次回は三月二十八日(日)の正午に更新予定です。
よろしければまたお付き合い下さいませm(_ _)m




