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四日目 ウナギの下拵えと、ロージルさんの・・・

 無事に作業を終えて魔獣を川で洗うのを手伝い、片付けを済ませて街へと帰る。教授の自宅は南にある港から入り防壁沿いを西へ少し進んだ辺りにあるということなので、土木組とは東門の手前で別れた。

 教授が二人にウナギ料理を取りに来いと言ったので、彼らとは後でまた会えるみたいだ。

 パチモン臭いタグでも無事に街に入れたので一安心だ。そのまま教授の自宅まで荷馬車に乗ったまま進む。

 どうやら防壁沿いならばノウトスを走らせてもいいらしい。やがて周りの統一された街並みとは見た目が違う一軒が見えてきた。あれが教授の自宅なんだろう。


 基本となる建物自体は周りの建物と同様のようだが、広い庭にあるいくつかの小屋や、二階三階四階と増築された外観はとても色鮮やかで複数の異国の文化をごちゃ混ぜにした感じだ。

 各箇所ごとの完成度は素晴らしいのだが統一感はなく、それなのに不思議と面白く纏まっていて独特な雰囲気を醸し出している。

 「これが俺の自慢の我が家だ。どうだマビァくん」

 「は~~。これは個性的ですね。この増築部分は教授が作ったんですか?」

 「その通り! 若い頃世界中で見てきた様々な建築物を再現したんだ。長年かけてコツコツとな。俺のライフワークのひとつだな」

 御者台の上で腕を組み、むふーんと鼻息を吹くナン教授。よほど自慢な我が家なのだろう。俺は二階三階へと複雑に増築されている内側を想像してみる。

 よく見るとブランコがあったり滑り台があったりと子供の遊具のようにもなっている。それに建物全体に巻き付いた太いパイプのような物はなんだ? 建物に出たり入ったりしてるので、あまり外観を損なっていないのだが……。

 「これは中が迷路みたいになってるんじゃないですか? 楽しそうだしお孫さんは喜ぶでしょうけど、奥さんは怒りそうですね?」

 「分かるかね。初めは息子の為、今は孫達の為にやっとる。かみさんは呆れ返っとるが嫁さんには怒られるな。だがこれぞ男のロマンの結晶だ。俺は曾孫にもここで遊んでもらうのが夢なんだ」

 それは気の長い壮大な夢だ。何より楽しくて堪らないって感じの教授の生き方が羨ましく思う。

 なるほど、平和な世界だとこんな夢の見方もあるのか。俺も今は戦ってばかりの生き方だけど、何か生き甲斐みたいなものを見つけてもいいのかもしれない。


 荷馬車を庭に乗り入れバックで小屋の前につける。教授は御者台を降りて小屋の扉を開ける。

 俺も手伝いに向かうと小屋の中は中心に石造りの大きな台があり、すぐ隣に蛇口と洗い場、壁に大小の刃物やノコギリの様なもの、調理器具だか解剖道具だか分からないものが掛けてある。

 「この部屋は……解剖室ですか?」

 「兼、調理室だな。昨日のワニや今回のウナギの様にやむを得ず捕らえてしまう魔獣を美味しく戴く為の部屋だ。もちろん体内の構造や特徴の研究が本来の目的だがな」

 荷馬車と台の間に板を渡して、ウナギをその上に滑らせて台に移す。ノウトスと荷馬車を片付けた後、教授は台の前に立ち蛇口の頭を引っ張るとシャワーのようにホースが延びた。

 手元の赤、青、白の突起の白に触れると勢いよく水が出てウナギを洗いだした。シャワーで丁寧にゴミや汚れを流すもぬめりは取れない。


 次に蛇口の赤い突起に触れるとシャワーから湯気が上がりだした。熱湯を満遍なくウナギの表面にかけていき部屋が湯気で満たされだす。

 次に青い突起に触れると今度は氷のように冷たい水をかけ始めた。ウナギの皮の表面が白く半透明のゼリー状に固まっていく。これがぬめりの正体だそうで、教授は壁から三日月状の器具を取り、弧の内側でゼリー状の膜を刮げ取るともう一度水洗いをして、布巾で水分を綺麗に拭き取った。これでぬめりと臭みの下処理は終わりだそうだ。


 教授が帰ってきたのを察して母家から奥さんとお嫁さんらしき人が出てくる。

 「帰ってきたばかりで何やってるんですか。食事にすると言ってませんでしたか? もう準備は終わってますよ」

 奥さんは薄茶の髪をアップでまとめ、紺のドレスに白いフリルエプロン姿の四十代に見える可愛らしい女性だった。しかし豪胆な教授と釣り合うくらいに細身ながら気は強そうに見える。

 「うわ! ギガントイールじゃない。お義父さんよく捕れたわね」

 お嫁さんは肩までの金髪を後ろで束ね、赤いドレスに奥さんとお揃いのエプロンをしている。少し筋肉質でたくましい印象を受ける元気ハツラツな二十代のお姉さんだ。

 「マビァくんが護衛中に捕ってくれたんだ。

 マビァくん紹介しとこう。俺の妻のホーリィと息子の嫁のカイラだ」

 「初めましてマビァさん。我が家は貴方の話題で持ちきりなのよ。今日は会えるのを楽しみにしていたわ」

 「貴方の記事やお義父さんから聞く話って大袈裟過ぎてとても信じられなかったの。でもこんな大きなギガントイールを仕留めてくるなんて、本当にすごかったのね! 疑ったりしてごめんなさい」

 「マビァです。今日はお食事に招いて下さってありがとうございます。タブカレの記事の事でしたら充分大袈裟でしたので、疑われて当然ですよ」

 「俺は嘘は言っとらんぞ。むしろマビァくんが大袈裟に語られるのを嫌っとるからな。お前たちに話したのは控えめにしてたくらいだ」

 自分が話した事を家族の者がまともに取り合ってくれなかったので、教授は少し不貞腐れていたらしい。俺のせいでちょっと悪いことしたな。


 続いて教授は捌きに入る。ウナギの断面側を台に杭のような物で固定すると、刀のように長くて鋭い刃物を手にしウナギの背中側から刺し入れ腹の皮一枚を残して切り裂いていく。

 ウナギは八メートルもあって台からはみ出てるから、二回に分けてずらしながら切った。中骨を削ぎ落とすとペンチで腹骨を抜いていき、氷水シャワーで洗って下ごしらえの完成だ。

 教授は半身に切り分け、さらに四つに切り分ける。身をくるくると巻いて布で包み紐で縛る。それを四つ作った。やたらと軽そうに扱うが、ひとつの包みだけで五十キロはありそうだ。


 「マビァくん、悪いがこれをウェルの宿の厨房に届けてくれんか? ここじゃ全部は食べ切れんしお裾分けだ。俺はこいつの調理に入るから手が離せん。ウチのトトスを使ってくれ。頼まれてくれるか?」

 「お義父さん! それならわたしがいくよ。マビァくんはお客様なのに悪いわ」

 カイラさんが教授が責めるのを俺は遮る。

 「いいんですよカイラさん。丁度冒険者ギルドにも用があったし、俺トトスに乗るのも初めてなんで楽しいし」

 「すまんなマビァくん。カイラ、お前は身重じゃないか。重い物を運ばせるわけにはいかん。ホーリィ、ニッキーの準備をしてくれんか」

 なんとカイラさんはおめでたなのか。まだお腹が全然目立ってないから気が付かなかった。ニッキーはトトスの名前かな?

 「はいはい。ごめんなさいねぇマビァさん。この人言い出したら聞かないから」

 お互い苦笑してホーリィさんは調理室を出ていった。

 教授はその間に調理室の隣にある屋根付きの煉瓦造りの竈に火を入れる。竈の上は格子状の鉄板が載っており、そこに水の入った鍋を置き木製の木枠を重ねていく。木枠の中は細い木の棒を編んだ板が張ってあり、そこに大きな葉っぱを数枚敷き上にウナギの切り身を載せていく。その木枠が五段、一番上は編んだ板の蓋をする。どうやらウナギを蒸すようだ。

 「これだけ肉厚だと焼いただけでは中まで火が通らんからな。こうすると余計な脂も落ちるし柔らかく仕上がるんだ」


 ウナギの下に敷いたのは熊笹という植物の葉だそうだ。殺菌効果があり良い香りも付くんだとか。

 しかしなんとも準備がいい。どう見ても解剖と研究よりも捕って食う事を前提に用意されている施設にしか見えない。その事を教授に聞いてみる。

 「俺ら魔獣研究者が最も重要だと考えるのは命の扱い方だ。俺らは極力魔獣を殺したくないんだが、我が身を守る為や魔獣がかかる病状の研究の為に殺さねばならん時がある。

 そうやって奪った命をこの星に還さねばならん訳だが、どうせならその過程で俺らが出来る限り美味しく戴いても良いのではないかというのが俺の持論だ。さらに食い切れないからといって廃棄して腐らせるなど以ての外だな。

 食える状態に作っておいて食わずに棄てるのは許せん。しかしながら病気持ちの魔獣は怖くて食えんから、研究後はそのまま土に還してやるんだがな。この辺は俺も矛盾に感じる事もある。まぁ俺の矜持に沿うか沿わないかの違いだろうがな」

 なるほどそれなら納得がいく。

 俺も孤児院時代はいつも腹を空かしていたので食べ物に対する貪欲さは人一倍だ。今でも報酬が良かったり魔物狩りのついでに余分な肉が取れた時には孤児院に食べ物を持っていっている。

 その際に俺が研究した美味しく食べる調理法も後輩達に教えてるのだが、それは教授の持論に一致する。


 俺のいた元の世界でもあった事だが、裕福な平民街と貴族街では食べ切れない残飯が大量に廃棄されていると聞いたことがある。

 それなら棄てる前に孤児院に寄付してくれればいいのにと何度も思ったものだが、棄てる側からすれば貧民街の連中が自分達のおこぼれをタダで貪るのを不快に感じてしなかったのかもしれない。

 俺も与えられた餌を食べるだけの存在になりたくなかったからハンターとして独立したけど、この考え方は院長や先輩達が俺達孤児に叩き込んでくれたお陰だ。

 『家畜になるな。例え孤児だろうと立派に育って見返してやれ』が、孤児院のモットーだったので、それはもう厳しい環境で育てられたもんだ。

 それでもあまり出来が良くなかったから、底辺職のハンターにしか慣れなかったわけなんだけど……。


 「そうそう、ギルドに行くならこいつのジェムを納めて来なさい。君が討伐したんだから君の報酬にするんだぞ。……こいつも討伐の対象にした方がいいかもしれんな」

 と、教授は革袋に入ったウナギのジェムを渡してくれる。バーンクロコダイルのジェムと同じくらいの大きさがある。それをポーチに入れていると後ろからホーリィさんがトトスを連れてやって来た。

 「マビァさんお待たせ~。ほらあなたも荷物を積んで下さいな」

 ホーリィさんの指示で慌てて調理室に戻る教授。俺も運ぶのを手伝うがやはり重い。元の世界に戻ったら俺も『身体強化』のスキルを修得出来るようにならないと。確か何か条件があった筈だ。


 荷物を載せ終わると上に遮光シートを被せ、中に冷蔵用の魔道具を入れて発動させる。

 シート内に冷気が行き渡るのを待っていると、角のないずんぐりとした小さなノウトスに見えるトトスが俺にすり寄ってきた。

 「きゅ~んきゅ~ん」と鳴いて必死に甘える姿が可愛い。俺も「よーしよしよしよし」とめちゃくちゃに撫でてやる。

 「ウチのニッキーちゃんよ。よろしくね」

 と、ホーリィさんに紹介されたので「ニッキーか、よろしくな」とさらに撫でまわすと、嬉しそうに「きゃう!」と吠えた。


 俺は小さな御者台に座る。ん? 手綱がないけどどうやって操るんだ?

 「わたし達『獣使い』持ちが育てたトトスは街の地理を全て把握しているわ。目的地を言えばそこに連れてってくれるわよ」

 カイラさんがニッキーを撫でながら教えてくれる。なんとそんなに賢いのか。そういえば街中で何回かトトスにすれ違ったけど、無人のトトスも何頭かいたな。簡単なお使いならトトスだけでも行えるようだ。

 「今回はアポ無しだし特殊な食材だしな。マビァくんに『翡翠のギャロピス亭』のフロントのにいちゃんへ取り次いでもらうのが一番話が早い」

 「なるほど。そういうことならニッキー、『翡翠のギャロピス亭』の正面玄関までお願いな」

 手を伸ばしてニッキーの腰をポンポン叩く。ニッキーは「きゃう!」と一鳴きしてゆっくりと庭から出た。

 「じゃあいってきます!」

 教授一家に手を振ってニッキーと俺は出発する。



 ニッキーの能力には驚かされる。教授の家から通りに出ると速度を徐々に上げて、交差点に近付くと速度を落とし安全を確認して進む。

 速度の緩急でひどく揺さぶられるなんて事はない。走りはとても滑らかで足音も静かだ。これならギャロピスを街中で走らせるよりも乗り心地が良いだろう。速度も俺が走るよりも少し早いくらいだし楽でいい。


 たいして大きくない街なので『翡翠のギャロピス亭』へは三分ほどで到着する。玄関先にニッキーを停めてフロントへ向かいシェルツさんに声をかける。

 「シェルツさん、ちょっといいかな?」

 「これはマビァ様。いかがなさいましたか?」

 「突然に申し訳ない。ナン教授と出かけた先でギガントイールを捕らえたんだけど、でかくて食いきれないからさ、教授がウェルのところへお裾分けしたいってんで持ってきたんだ。今表にトトスで来てるんだけどどうしたらいいかな?」

 「それはオーナーも喜びます。搬入口へ案内致しますのでトトスの移動をお願い致します」

 シェルツさんと一緒に外へ出て先に動き誘導してくれるので、ニッキーに付いてくるように言い、シェルツさんの後を追う。

 宿の建物の側面に搬入口がありそこにニッキーを停めさせると、シェルツさんは中に入り厨房のスタッフを二人連れてくる。

 台車を二台用意してニッキーの荷車から荷物を積み換えると、スタッフの二人はこちらに一礼して戻っていった。

 「厨房のスタッフも滅多に手に入らない食材ですから大変喜んでおります。マビァ様、ありがとうございます。ナンチャッツ教授にも宜しくお伝え下さいませ」

 深々と礼をしてくれるシェルツさん。俺はウナギの首を落としただけだから、今ここに綺麗な切り身があるのはひとえに教授の行動力のお陰だ。ウナギを斬った後俺だけだったらジェムを抜いて放置してきた可能性が高い。

 ウナギは元の世界にもいたけどこんなにバカでかいのを俺が知ってるウナギと同じ存在とは思えなかったから食うなんて発想が浮かばなかった。シェルツさんの感謝は教授に伝えるのが正しい。

 「了解。必ず伝えるよ。ところでウェルは? 市議会の方は上手くいったのかな?」

 「市議会は無事滞りなく終えたようです。商業ギルドの協力により屋台の規模と設置場所を決めてきたと申しておりました。オーナーは今、各屋台で出す料理のレシピを屠畜場にある調理室で研究中です」

 「そうか、順調そうで良かった。俺は冒険者ギルドにちょっと寄った後、教授のところにいるから用があったら連絡下さい」

 言いながら荷車に乗る。「かしこまりました」と一礼するシェルツさんに手を振って、次の目的地、冒険者ギルドに向かう。中央広場にあるのですぐに着いた。



 ロビーに入ると視線がこちらに一斉に集まるが、全員すぐに目を逸らす。はいはい分かりましたよ、と思いながら受付に向かいロージルさんの居場所を聞く。今朝行った事務室にいるそうなので受付嬢にお礼を言ってから直接そちらへ向かう。

 「あらマビァさん、お帰りなさい」

 立ち上がって迎えてくれるロージルさんに手を上げて応え、「応接室いいかな?」と聞くと今朝の部屋に入れてくれた。

 「どうされましたか?」

 「うん、ガラムさんの事なんだけどさぁ」

 お互いソファーに向かい合って座り、俺がそう切り出した途端にロージルさんはボッと顔を赤くしてキョドりだす。なんか時間が経つにつれて反応が激しくなってる気がするけど大丈夫か?

 「思ってた通り食事を疎かにして仕事に没頭しようとしてたんだ。硬いパンとチーズを買い込んでてさ。だから俺が晩飯を差し入れるって言っておいた。

 多分ガラムさんは夕方に木工ギルドに罠の模型を見に行くと思う。その後帰ってから仕事に集中しようとするだろうから、俺の代わりにロージルさんが差し入れに行ってよ」

 そう言うとロージルさんはモジモジが激しくなった。必然的にエロさも倍増する。

 タイトなスカートを強く握った分太股が露になり俺の視線を惹き付ける。

 端から見る分には眼福眼福と眺めていられるが、話し相手としては刺激が強すぎて迸りそうだ。俺がヤバい。

 「ロージルさん、ち、ちょっと落ち着いて。深呼吸、深呼吸」

 俺の言葉に気分を落ち着かせようと胸のシャツを両手で掴んでハァ…ハァと熱い吐息を漏らしだしたもんだから、引き下げられた襟元から胸の白い肌がチラリと見えてかえってエロさが増した。

 ダメだこの無自覚痴女さん。俺は精神衛生的に悪いので目を逸らす。


 「わ、わ、わたくし、こんな急に話が進むとは思っていなかったので、いったいどうすれば……」

 「とにかく落ち着こう、スキル使ってるよね? 俺を見て! 今のロージルさんはヤバいから。男の前に出ちゃダメだから」

 ロージルさんのスキル『情報分析』があれば俺が今どんな気持ちでここに座っているか分かる筈だ。

 ロージルさんはチラッチラッとこちらを見た後、じーっとこちらを見つめ、何かを理解したようでビクッと驚き両手で胸を隠すように二の腕を抱いて、真っ赤な顔でこちらを睨んだ。

 「マビァさんいやらしい! そんな目で見ないで! スケベ! 変態!」

 「酷い言われようだな?! あんたの無自覚な仕草がそうさせてんだって! 今のロージルさんは男を色気で誘惑してるようにしか見えないんだよ。俺はヘタレだからなんも出来ないけど、他の女好きなヤツだったら押し倒されても文句言えないくらいエロく見えてるんだからな!」

 「そ、そんな酷い! わたくしのどこがエロいって言うんですか!」

 昨日と全く同じ反応をするロージルさん。自身の無自覚さが酷すぎる。

 このままではまずい。ガラムさんが今のロージルさんを見て欲情するタイプなのか女が誘惑するのを嫌うタイプなのかは分からんが、もし前者で押し倒してしまうタイプだったら、無自覚なロージルさんにとってガラムさんはいきなり襲い掛かってくる強姦魔になってしまう。

 また逆に後者だったら、ロージルさん的には少しあがっていても普通に接しているつもりなのに、ぐいぐいと色気で迫る彼女にガラムさんはドン引きするだろう。

 堅物で曲がった事が嫌いだから帝国から逃げ出したんだ。あの人はきっと後者に違いないが、どちらにしてもこの恋は難しくなった。


 ……これはちょっと手荒いがショック療法が必要かもな。


 「ロージルさん、ちょっとこっち来て」

 「きゃ?!」

 小さく悲鳴を上げるロージルさんの手を引き、応接室を出て男達が大勢いる事務室内に連れ出す。

 なんだ? とデスクから顔を上げ、普段見たことのない赤面モジモジロージルさんに驚く男達。ガタッと立ち上がる者もいる。

 顔を真っ赤にしてモジモジと身体をくねらせ、涙目で甘い吐息を漏らすロージルさんに男達の目は釘付けだ。

 これまで厳しい女上司でしかなかったのに、今は劣情むき出しで自分達を誘惑しているようにしか見えていないようだ。

 女達からしてもロージルさんは美人だが高嶺の花で、男達が言い寄らないだろうと高を括ってたのに、奥に引っ込んだと思ったら痴女化して出てきて男達の視線を独占したのだから面白いわけがないだろう。

 俺には人の感情を感知するようなスキルはなくとも、彼女らからどす黒いオーラが噴き出したのを感じた。これは予想以上の反応だ。

 「ロージルさん、スキルでみんなの反応を読んでみな。それが答えだ」

 俺が小声でロージルさんに耳打ちすると、男も女も何を勘違いしたのか負の感情を噴き出す。

 ロージルさんは上目遣いで職員達の顔を一人一人見る。中には耐え難い感情の発露をする奴もいるようで、そんな奴からはすぐに目を逸らしている。

 「うぅ……ひっ………いや……」と呟きながらスキルによって見える情報に翻弄されるロージルさん。


 さぁ止めだ。


 「今のロージルさんがすっげぇエロいと思う人、手を上げて~」

 俺の声に男も女もほぼ全員バッと一斉に手を上げる。男なんて半分以上が前屈みだ。なんでかは知らんけど。


 「い……いや~~~~~~っ?!!」


 頭から湯気を噴火させ、その場に踞るロージルさん。そして動かなくなった。


 ………やっべぇ、やり過ぎたかもしれない。


 鼻の下を延ばし介護と称して合法的にロージルさんの身体を触りにくる男達を牽制しながら、あまりに鬼畜だったかなとちょっぴり反省をする俺であった……。

 マビァくん、鬼畜過ぎですね。

 そして、ロージルさんがぶっ壊れました。

 果たしてどうなることやら……。


 次回は四月二十一日(日)の正午に更新予定です。

 よろしければまたお付き合い下さいませm(_ _)m

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