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四日目 再び東の沼へ

 「それで、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 「はっ。し、失礼致しました。わたくしったら職場でなんて話を……」

 我にかえり、やっとここがどこか思い出したロージルさんは、両手で頬をパンと叩く。……昨日のギルド前での様子もこうだったけど、『恋は盲目』をここまで体現してる人は初めて見たわ。


 「はい、ご質問はなんでしょう?」

 仕事モードに切り替えたロージルさんは、姿勢を正しキリッとした表情でこちらを見返す。こうなると無自覚痴女さんは姿を眩ますが、こっちの方がこちらの精神を乱されないので話しやすい。

 「冒険者ですよ。昨日の連中は軒並みいないんじゃないかな? ロビーや食堂で見かけた数人も初めて見る奴らだった気がするんだけど」

 「あぁ、それでしたら昨日の連中は疲労と筋肉痛で、皆さんお休みになられるみたいですよ。各パーティのリーダー達が『悪いが今日は回復に専念したいから休ませてほしい。また次に頑張るから、とマビァさんに伝えてほしい。くれぐれも、くれぐれも! 宜しく頼む』と懇願してきたので断り切れなかったのだとか」

 ありゃ、昨日やらせたのは基礎中の基礎、完全武装での持久走十八キロだけだったのに。

 「ん~。こりゃあ先が思いやられるな。まぁいっか、休息も体力作りには必要なことだし、木剣もまだ出来てないしな。『早く強くなりたいんなら無理してでもやり抜け。楽したいんなら好きにしろ。俺には関係ないことだからな』って今度来たら伝えてやってください。

 しかし、そこまで必死に頼まなくってもなぁ。昨日言った通りにサボったからって俺は怒りもしないのに」

 「きっとマビァさんに失望されるのが怖かったんじゃないですか? まだ初日なのにみんなでこの体たらくだったんですから。彼らなりに何とか食いついていきたいって必死なんでしょうね」

 「で、さっきのロージルさんの口振りだと、懇願する冒険者達の願いを職員達は出来れば断りたかったと?」

 「う……」

 俺の指摘にロージルさんは言葉を詰まらせた。


 「よーするに職員達は、冒険者達が頑張っていないと休養を許可した自分達の責任になって、自分達が俺から怒られるかもしれないと思ったってわけだ」

 「……はい、そのようです。申し訳ありません」

 「それでさっきのあいつらの態度に納得した。別に責任取らせたりしないよ。みんな俺の我儘に付き合わせているようなもんだしなぁ。

 俺はSSランクに祭り上げられただけの新人なんだから、ここを占めてるわけでもないし、仕切るつもりもないよ。ただ魔獣の討伐ランクの見直しはナン教授にお任せしたんだから、あれには従ってもらわなきゃならない。そうなると討伐難度が改革前よりもずっと上がっているから、希少素材の採取はこれまで通りでよくてもジェムの収穫はこれまでよりもガクッと減るんじゃない?」

 今は俺らのせいで一時的にワニのジェムが沢山入ってきているけど、罠が完成しても年間捕獲制限が出来るだろうから、すぐに頭打ちになるのは目に見えてる。

 これまでのようにイモムシなんかのジェムも買い取るんだろうけど、もう討伐対象ではないから報酬はジェムの買取り金額だけになって、生活に響いてくるだろう。となると強くなって討伐報酬のある魔獣を狩らなければならない。

 「てことは、冒険者達の幻獣召喚での強化は必須になるわけだよね。その冒険者達も一足飛びでは強くなれないんだ。繰返しの鍛練と休養がなけりゃ無理。

 俺に怒られないように、なんてつまらない責任の押し付けあいなんてする暇あったら、どうすればギルドの発展に役立つか話し合った方がいいんじゃない? あまり冒険者と職員とを分けて考えない方がいいと思うんだけどな」


 黙ってずっと聞いていたロージルさんは考え込む。どうもここも軍と同じで職員にしても冒険者にしても、なんとか楽してサボりたいって奴らが何割かいるようだ。

 勿論冒険者の方は依頼をこなして稼がない事には宿代も食事代もすぐに消費するから、働かないわけにはいかない。

 でも採取限定の依頼ならば魔獣との接触を避ければ、命の危険を冒す事なく最低限の生活費を稼ぐ事は可能らしい。

 結果、討伐をしなければならない魔獣と遭遇しても『戦うなんてとんでもない!』とばかりに逃げ出し、自身の利益のみを優先させる為、魔獣の増殖を放置する事になる。


 また職員の方は固定給なので、クソ真面目に働こうが隙を見つけてサボっていようが給料は変わらない。

 何か良い働きをすればボーナスが付くらしいのだが、そこまで頑張らなくてもこの街では給料のみで楽々生活することが出来る。

 懐に余裕があってもこんな田舎の街では金を使う娯楽など殆どなく、年に数回の公営賭博か食道楽に走るのが精々の贅沢だったりするらしい。だから働く意欲の強い者よりも『いかにサボるか』と考える者が多いのかもしれないそうだ。

 そうなると真面目な奴らが割りを食ってしんどい思いをする。

 無理強いすれば反感を呼び軋轢を産む。そうなることが予測出来ているからロージルさんもすぐに返事は出来ないんだろう。


 「まーあれだ。コニスの休みが明けたらあいつに全部やらせりゃいいですよ。あいつが現責任者ですし、統率力もあるんですから」

 「男限定ですけどね……」

 ロージルさんは困り顔でこちらを見てくすりと笑った。

 「分かりました! その件はコニスが出てきてから話し合ってみます。後は今日来ている冒険者。彼らは昨日、一昨日とここに居なかった連中です。新聞や人伝(ひとづて)にマビァさんの話は聞いていても、実力を見た者はいません。どうします? もう一度試験場でやりますか?」

 「……勘弁してよ。二日この街に居なかったってんなら、採取専門の冒険者なんじゃないの? だったら別に強くなる必要は無いんだろうし、無理に強制することもないでしょ。強くなりたい気持ちがあるんなら相手するけど、その気がないなら好きにすればいいさ」


 元々『黒い三連狩り』の連中が上達したら、後輩の育成は任せるつもりだったんだ。

 この世界に留まれない俺が背負うべきものは何もない。

 それに植物採取メインの冒険者だっているだろう。それはそれで必要な存在なんだろうし、そいつらは採取地近隣の魔獣対策だけしっかり出来ていればよいので、無理強いして強くなってもらう必要もない。

 別に魔獣から逃げてもギルドに遭遇場所の報告さえしてもらえれば戦闘特化の部隊を派遣して討伐をすればいい話である。彼らが強くなりたくなった時には指導を受ければいいだけのことだ。

 「了解です。必要な説明だけはして、後は彼らの自主性に任せてみることにします」

 ちらりと壁の時計を見ると、もう九時を回っていた。

 「やっべぇ。急がないとまた遅刻しそうだ」

 「昨日の現場へまた護衛ですか?」

 「そう、ナン教授に頼まれてさ。念の為だから今日は問題は起きないよ」

 「そうですか。ですがくれぐれもお気をつけて下さい」

 応接室を出て外へと急ぐ。相変わらずギルド内は俺を避けるムードが漂っているけど無視無視。ガラムさんの店へと駆け出した。



 途中すれ違う人達にもザワつかれるが、幸い話し掛けて来る人もおらず無視して疾走。ガラムさんの店に着く前に買い出しから帰る様子のガラムさんに遭遇した。ラッキー!

 「ガラムさん、買い出し?」

 硬そうなパンとハードチーズをいくつか紙袋に入れたガラムさんがこちらへ振り向く。

 「おぅおはよう。今から試作の部品を何個か造るからな。暫く籠るから買い溜めだ」

 「……もしかして、その間食べるのこれだけ?」

 鍛冶は体力勝負だと聞いた事がある。熱波に晒されながら何時間も汗だくで作業するのにそんな食事でいいんだろうか?

 「帝国時代はこんな感じので何日も籠ってたんたが、言われてみれば何年も前の話だし、当分根を詰めるような仕事もしていない。十代の頃のように無理は利かんかもしれんか……」

 袋の中身を眺めて首を傾げるガラムさん。

 それなら渡りに船だ。

 「じゃあさ、夜になんか力の付くもん届けるよ。店の勝手口って裏の方にあるのかな?」

 「いや、さすがにそれは悪い。気持ちだけで……」

 やっぱ断るよな。でもここで引くわけにはいかない。言葉尻に強引に被せる。

 「いやいやいや! 俺、ガラムさんの仕事も木工ギルドの仕事も楽しみにしてるんだからさ。今度は俺がみんなのサポートをする番だ。お互い様だからさ。もし気か引けるってんなら今度の剣のメンテ割引きしてよ。それなら別にいいでしょ?」


 「…………。分かったよ。お節介な奴だな。でも無理しないでいいからな」

 暫しの沈黙の後、なんとか折れてくれた。苦笑して頷いてくれる。

 「俺がお節介じゃなきゃ、この街でここまで色んな事に首突っ込んでないよ。それよりさ、昨日あれからどうなったの?」

 歩きながら話すとすぐに店の前に着く。

 今日から暫く閉店だそうで店の入り口には張り紙がしてあり、『しばらく休業します。ご用の方は裏口まで』と素っ気ない感じで書かれていた。

 「こっちだ」というガラムさんに付いて裏へと回る。

 裏には庭があって屋根付きの棚に金属板が何枚も重ねて置かれている。薪の他にも何やらいっぱいに詰まった麻袋もいくつかあり、口の開いた袋の中を見ると黒い艶消しの石がゴロゴロと入っている。石炭かな?

 裏口のある建物は赤い煉瓦造りで、統一性のある街の風景では、そこだけ異物が紛れ込んだみたいだ。

 でも俺の元の世界に近い光景なので、ちょっと懐かしさが胸に過る。建物から伸びた煙突は火を落としてないようで、白い煙と辺りの空気を歪める熱気が上がっているのが見えた。

 「朝方まで意見を出しあって、なんとか模型を作る目処が付いたところだ。木工ギルドではもう模型造りが始まっている筈だぞ」

 「ガラムさんは参加しないんだ。模型にだって金属部品使うんじゃない?」

 「サイズが十分の一だからな。鍛冶師の俺が造るには小さ過ぎる。模型には俺が書いた設計図を元に、細工師か時計職人に造ってもらうとシヌモーンさんが言ってたから任せてきた。早ければ明日の夕方には出来るんじゃないか?」

 それは楽しみだ。明日の夕方の予定も出来てありがたい。一緒に裏口から入る途中でガラムさんに質問される。

 「そういえばお前、何か用事があったのか? 確か今朝はナン教授と出かけると聞いてたが」

 ちらりと壁の小屋のような可愛い時計に目をやる。俺も時刻を見ると九時十分過ぎだ。

 「そうそう、昨日のマントを返しに来たんだった。ありがとう助かったよ」

 「ああそうか。いや、こんなもんでも役にたったんなら良かった」

 「じゃあ俺急ぐんで、また」とマントを手渡した後、裏庭を出て東門を目指す。

 後ろから「忙しない奴だな……」と、少し呆れたガラムさんの声が小さく聞こえた。



 ガラム金物店から東門まではそう遠くない、軽い駆け足で三分とかからずに辿り着く。

 「おう、マビァくん。こっちだ」

 昨日いた位置に近い場所でノウトスと荷馬車を停めてナン教授は待っていた。近くに土木ギルドのメンバーと思わしき二人が立っている。

 「教授、早いですね。俺が一番かと思ってたのに」

 「がはははっ! 年寄りの朝の早さを見くびらんでくれ。俺は今が楽しくて堪らんからな。なに、君まで俺に合わせる必要はないぞ」

 あれだけハードな一日だった昨日の翌日でこのタフさ加減は、現役ハンターの俺でもびっくりだ。

 土木ギルドのノックスさんはもっと年上だからさすがに今日はヘバッているだろうけど、残り三人は教授よりずっと若いぞ? と思いながら新顔の二人に目を向ける。すると向こうから挨拶してくれた。

 「初めまして、昨日はウチのギルマスとタチヤン、ライツロイツがお世話になりました。わたしはサブマスターのガテスって言います」

 四十代初めと思われるガテスは俺と同じくらいの体格のメガネのおっちゃんだ。格好は他の土木組とお揃いで少し薄汚れているが、どちらかと言えば事務職が得意そうに見える。

 「昨日の四人は余程怖い思いをしたのか、自宅で熱出して寝込んでうなされてるそうですよ。だから今日の埋め立てはわたしとコイツが受け持ちます。ほらインディ。挨拶」

 横からガテスに押されたインディという名の子は十二歳くらいだろうか? 細くて背の低い少年だった。サイズの合わない大人用の兜がボサボサ髪を押さえ目元が良く見えない。

 「あんたがマビァか! 護衛のクセに親方やライロイ兄ちゃん達を危ない目にあわせたんだってな!

 今日はちゃんと仕事しろよなっ!」

 最初は大人しい子かと思っていたが、いきなり強気で文句を言ってきた。

 「こらっ! 昨日もちゃんと親方から説明されたじゃないか。マビァさんが守ってくれたからあの四人は怪我一つしないで済んだんだ。寧ろ感謝しないといけないんだぞ」

 ガテスさんがインディの肩をぐいっと引っ張って叱る。でもインディはガルルルと唸りながらこちらを睨み続けている。

 「あぁ、ガテスさん。その子の言う通り俺の落ち度なんだ。守るって言っときながら守れなかった上に戦いに巻き込んじまった。土木ギルドの活躍がなかったら危なかったのは俺の方なんです」

 まぁまぁとガテスさんを宥めながらこちらの言い分を伝える。

 「しかし……」とガテスさんはナン教授に視線を向けるが、教授は俺が昨日の戦いに納得がいっていないのをよく知っている。何を言っても無駄だというように首を横に振って見せた。

 「ほらおれが言った通りだったじゃないか! 魔獣達もあんなに傷だらけで帰ってきたんだ。こいつがちゃんと守っていればあんなに怪我しなかったんだからな!」

 「インディの言う通りだよ。ごめんな? 昨日はちゃんと守れなかったからすっげぇ悔しかったし反省して、ちゃんとギルドの試験場で特訓してきたから今度はちゃんと仕事する」

 俺は腰を屈めインディの隠れて見えない目を正面から見つめて言う。

 「……口じゃいくらでも言えるからな。嘘吐くんじゃねぇぞ。今度も守れなかったらおれがぶっとばしてやるからな」

 インディも俺の目を睨み返し、ぐっと拳を突き出す。

 俺も「ああ、約束する」と拳を出しコツンと突き合わせた。インディは「ふん」と鼻を鳴らし門の外へと駆けていく。


 「すみませんマビァさん。何度も言い聞かせたんですがどうしても聞き入れなくて……」

 「先輩や魔獣の心配をして怒れるなんて優しい子じゃないですか。俺も昨日の戦いは最初からワニを舐めてましたから緊張感が足りなかったですし、反省してばかりなんですよ。ちゃんと叱ってくれる人がいるのはありがたいんです」

 試験場で復習したとはいえ、実戦はいつだって何が起こるか分からない。インディが責めてくれたお陰で改めて気が引き締まった。

 「そうですか……。インディはまだ見習いですし獣使いのスキルもまだですが、ああ見えて魔獣の扱いは上手いんですよ。仕事はちゃんとしますので期待していて下さい」

 そう言うとガテスさんは「それじゃあ外で合流しましょう」と門へと走って行った。


 「マビァくん乗りなさい。俺らも出るぞ」

 教授が御者席に座り隣の席をぽんと叩く。俺はノウトスの顔を撫でてからその席に座った。ポクポクと門を通過する荷馬車。昨日一緒に焼き肉を食った兵士達が話し掛けてくる。

 「あ、マビァさんおはようございます!」

 「やぁご苦労様。昨日の大尉の奢り肉どうだった?」

 「いや~、葦原で食った焼いただけの肉も美味かったけど、ちゃんと料理されたのはとんでもない美味さでした。俺達の班が食ったのがステーキだったんですが、他の時間帯の班はまた別の美味い料理を食べたらしいんですよ。朝からその話題ばかりしてます」

 味を思い出したのか唾を飲み込みながら「煮込み料理が美味かったらしい」とか「また食いたいな」とそれぞれ口にする。ウェルの思惑通りにいっているようでなによりだ。

 「次の休日にウェルゾニアさんがタダで振る舞ってくれるんでしょ? 俺達任務があるから行けそうにないんですよね」

 ひとりが悔しそうに言う。こいつらの怠惰っぷりを俺が昨日散々バカにしたから、さすがにサボって食いに行こうって台詞は出てこない。

 「ウェルが出来るだけ多くの人に振る舞おうとしてるけど、街の人達全員に行き渡るかまだ分かんないんだよ。出来れば先に食べた兵士達には遠慮してほしいんだけど、休暇の奴や当直時間外の連中が私服で来たら食べるなとは言えないだろうなぁ」

 俺がそう言うと更に悔しがる兵士達。

 「まぁ今回は我慢しろよ。あんたらの班は他の連中より多く食べてんだからさ。それより大尉の説得はなんとかなりそうなのか?」

 兵士達はお互いの顔を見合せ口ごもる。ひとりがなんとか話してくれた。

 「兵士の六割くらいは大尉の言い分に納得してるんですが、やはりエリート意識の強い連中の反発があるんで……今朝大尉は市議会に参加するので相談はしてくると思いますよ」

 「そっか。じゃあ暫く様子みるしかないか」

 こちらも仕事があるのでいつまでも話していられない。後ろがつかえるのでさっさと門の外に出る。


 ガテスさんとインディが既に魔獣を魔獣舎から連れ出して待っていた。

 たった二人なのにカゼノカマ二羽とブルケラトプス四頭を使うようだ。二人ともカゼノカマに乗っている。他にもウェルの部下がノウトス二頭立ての荷馬車二台に二人ずつ同行する。

 彼らは石化したワニを街まで持って帰る役割を担っている。彼らとも挨拶を交わし、いよいよ出発だ。


 「では行きますか」

 ガテスさんの合図でカゼノカマの後をブルケラトプス達が付いていく。教授はその後ろに荷馬車を進ませた。その後ろから二台の荷馬車が続く。

 「二人で一度にあんなに操れるもんなんですね」

 素直に動く魔獣達に感心して教授に質問する。

 「獣使いのスキル持ちで熟練者ならあれくらいなら一人でもなんとかなる。インディという子はまだ見習いでスキルなしだと言っとっただろう。あの子でも調教された魔獣なら二頭は操るだろうな」

 「へ~すごいな。ん? じゃあ昨日四人もいたのは?」

 「実際にはノックスさん一人でも問題なかっただろうな。突然の戦闘もそれでいけただろう。現場監督のタチヤンくんは西の葦原も仕切らんといかんから参加する意義はあったが、ライツくんとロイツくんは面白そうだからって理由で付いてきたって言っとったぞ」

 はっ。そう言えば昨日の戦闘の時、ノックスさんの指示だけで魔獣達は動いてた。他の三人は青い顔して手綱を掴んでただけだった。

 ライツロイツは興味本意で付いてきたのに戦闘に巻き込まれて死にかけて、今は熱出して寝込んでるなんて、マヌケと言うべきか気の毒と言うべきか悩むところだ。


 昨日と同じくポクポクとブルケラトプスのペースに合わせて一行は進む。その時間を利用して教授に今日の作業行程と俺はどうしたらいいのか聞いておいた。

 今日は葦原に三本の道の埋め立てを一気に進めるそうだ。まず昨日刈り進めた道の葦の根をブルケラトプスが掘って取り除き、岩や大きめの石で埋め土を盛って踏み固める。

 根を残したまま上から土を盛るだけではまた葦が生えてくるし、何重にも折り重なった根がスプリングのようにふかふかと力を跳ね返すので上手く土を踏み固められないらしい。

 なので道の両端を沼の底までカゼノカマで根を断ち切り取り除いて、底から岩で地盤をしっかり造る必要がある。ではどこからその岩を用意するかというと、東の街道の沼の反対側、つまり北側は岩場でいくらでも手に入るとのことだ。土は近くにウェルの牧草地があり小高い丘があるのでそこを切り崩す。西側も同じような地形があるので同じ手が使えるんだとか。

 「でも結構な作業量ですよ? 今日中に道三本も造れるもんなんですか?」

 道はそれぞれ約五十メートル、合わせて百五十メートルだ。荒れ地に道を造るのでも一日で終わりそうにないんだけど、埋め立てまでするとなると余計に時間がかかりそうだ。

 「ふふふ。そこが魔獣のすごいところよ。今からだと二時過ぎには終わると思うぞ? 軽い昼飯は用意してあるが帰ったら俺の家でたらふく食わせてやるから辛抱してくれ」

 「それは楽しみです。今日は多分俺、立ってるだけでしょ? 沼側で見張ってればいいんですかね」

 「そうだな。今日はもうワニはいないと思うが安全第一だ。少しでも危険を感じたら作業は中止するから見張りをしっかりと頼む」

 「了解」と答え、もう少し到着まで時間があるので、こののんびりした時間を楽しむ事にする。青い空に流れる雲を見上げ、小鳥の囀りを聞きながら心地良い風を楽しんだ。

 次回は三月7日(日)の正午に更新予定です。


 よろしければまたお付き合い下さいませm(_ _)m

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