四日目 タブカレの記事とパチモン臭いギルドタグ
む~ん……。タブカレが見出しからこちらのプラスになることを書いていると、なんか逆に不安になるな。カサリと新聞を持ち直し、コーヒーを一口飲んでから記事を読み始める。
「まずは我々のこれまでの記事において、憶測でしかなかった事を謝罪したい」との書き出しに、二口目に含んだコーヒーを吹き出しそうになる。いくらこちらに協力すると言ったとはいえ、ハンセルの奴、なんて変わり身の早さなんだ。
記事はクロエと同じく街にいた時に東に黒煙を見たところから始まっていた。
彼が来た時には葦原の炎も粗方消えていた筈なのに、載っている写真ではまだメラメラと燃えている。書かれている記事も流れ的にはクロエと同じなのだが、要所要所で大袈裟に書かれていた。
例えば「百頭のバーンクロコダイルに襲われた」だの「マビァ氏はたった一人で一度に二十を超える数のワニから仲間たちを守った」だのと頭が痛くなるような内容ばかりだ。他にもウェルやナン教授、土木ギルドの連中の活躍まで褒めちぎっていた。見てもいないのに……。
今頃この記事を読んでたら、みんな困惑してるだろーなー。あ、土木ギルドの四人は寝込んでる可能性もあるか。
「謂れのない悪口を書かれるのも腹が立ったけど、ここまで持ち上げられるとこれはこれでムカつくな」
「なー? オレの褒めようを見てみろよ。これまでの事を考えたら気味が悪いったらないぜ」
げぇ~、と舌を出しテーブルに突っ伏すウェル。
なになに? 「いつも奇抜な服装と荒い口調だが、どこか気品のあるウェルゾニア氏は、近い将来カレイセムの市民全員を豊かにしたいと語ってくれた。彼がこの街の為に尽くそうとしている心は本物で、手始めに今度の休日の正午に、ワニ肉料理をこの日だけ無料で街の人々に振る舞うことを企画している……」
「オレは出来るだけ多くの人に美味いものを食ってもらいたいだけだぜ。今回の件で雇用は増えるだろうし、結果人が豊かになるなら嬉しい事だと思うが、別にオレは尽くそうとはしてねーぞ。
そりゃ好感度はこれで上がるかもしれねーけどな、今までとは別の理由で誤解されそうだぜ」
ウェルの写真もすごく爽やかに写っていて、全く別人のように見える。
「ははは……。こりゃひどいな。まぁ今までの悪印象を消し去る為には、このくらい極端にしてもいいんじゃないの?」
「……お前、その先読んでも笑っていられるか?」
突っ伏したままのウェルがこちらを睨みながらページを捲れと言う。
そこには見開き全面を使った写真で、ギルドの試験場での俺の後ろ姿が写されていた。
怒濤の如く迫り来る六頭のワニ。後ろから降り注ぐ五つの火球。それにたった一人で立ち向かう俺……。まるで英雄物語の挿絵か絵画のようだ。すっげぇ大迫力で見る者の目を釘付けにしてしまう傑作の一枚に思える。写ってるのが俺で見てるのも俺でなければの話だが。
「んな……。なんじゃこりゃーーっ?!!」
俺が叫んで立ち上がると、紅月が横を向いて「ぷっ」と吹き出し、ウェルは突っ伏したまま「くくくくっ」と肩を揺らして笑っている。
悔しいが先にこっちが笑ってしまったし文句も言えない。座り直して次のページを捲る。
「先の項に載せた写真は、昨日マビァ氏が冒険者ギルドの試験場でワニとの死闘を再現してくれた時の一幕である。見てもらえたならお分かりだろうが、私はこの次の瞬間にはマビァ氏はワニに食い千切られ死ぬと確信した。
しかし彼は平然とその全ての攻撃をかわし、撥ね除け、逸らした。まるでワニ達をからかうように暫く受け身でいると、突如攻勢に移った。
そこからの反撃は神業としか言いようがない。全てのワニを一撃で仕留め始めたのだ。次々と幻のワニは光になって消えてゆき、最後の二頭の胴体を大技で同時に三つずつに断ち切った。全身淡く赤い光に包まれたマビァ氏が前方のワニの間に突進すると同時に横倒れのコマのように回り、三回転で地面とともにワニを一瞬で切り裂いたのだ。
ワニが光と消えて、着地姿勢からゆっくり立ち上がったマビァ氏は汗一つ掻くことなく、息一つ乱さずに悠然と佇む。その姿はまさに女神サスティリアが遣わした聖騎士のそれであった」
……何が聖騎士だあの野郎。
その記載の横にはまた大きな俺の写真が載っていた。逞しい後ろ姿、凛々しい横顔、剣を横に払い、余裕の佇まいを見せている。天からは光が射し、そこここに天使の羽が舞い降りる。教会のステンドグラスにでもすればいいような一枚だった。これが俺じゃなければだ。
「戦いを終えた彼は冒険者ギルドからSSランクを与えられた。当然であろう。いや、寧ろその地位では足りないくらいだ。あの戦いを見たものならば誰もがそう思う筈だ。
次にマビァ氏は我々記者に忠告する。
『今見せた戦いはたったの十一頭だ。現地の沼では小動物の血が僅かに流れただけで、百を超える数のワニに襲われた。間違っても素人が狩りに行かないように伝えろ。何百人で行こうが瞬殺されるぞ』
そう言う彼の覇気に私は気圧され、デイリーの記者も腰を抜かして踞る。
この記事を読んだ者に忠告する。先程の大量のワニに襲われる写真をもう一度見てほしい。普通はあれが沼に手を出した者の死ぬ寸前の姿だ。努々未来永劫に忘れることのないよう願う」
最後の写真はカメラに向かって話すキラキラした俺の姿と、左下隅に見切れるヘタレ込んだクロエのマヌケな顔だった。
嘘は確かに書いていない。いや聖騎士だのワニ百頭だのは嘘だが、嘘と言うよりは誇張に近い。だが写真は全部捏造だ。少なくとも試験場の時は二人とも恐怖に竦み、カメラなんて構える余裕はなかった筈だ。実際にあの時俺はハンセルが写真を撮ってるところを見ていない。
「くっそー! 悔しいな。第三者の視点で見れば記事としては優秀だし、こっちが頼んだ通り以上の仕上がりだ。文句言いたくてもこれじゃあ言えねぇ」
八つ当たりに新聞をテーブルの上にバンッと打ち付ける。
「街の連中をこちらの味方につけるには最高の仕上がりだよ。今回のはいつものデイリーを揶揄するような作りじゃない。むしろ同意した上にさらに持ち上げる内容だ。深読みする読者は何か裏がないかと疑う奴もいるだろうが、事実を知るオレらが見れば分かる通り、誇張し過ぎだがひでぇ嘘があるわけじゃないからな」
ウェルはふーっと溜め息を吐きながら顔を上げ、フェネリさんにコーヒーのお代わりを頼む。ついでに俺もお願いした。ミルクを入れて一口飲み気持ちを落ち着かせる。
「でもこれで奴のスキルの能力がどんなもんかは分かったな。奴の能力は多分『見た記憶をそのまま残しておける』『残した記憶を自由に作り変えられる』『自分の頭の中のイメージを写真に写せる』って感じかな? 別々のスキルを使いこなしてるのか、三つ纏めて一つのスキルなのかは分かんないけど」
「だな。さすがにオレでもここまで見せられると分かるぜ」
俺が投げたタブカレを広げ、あれこれ写真を眺めるウェル。
「あいつ芸術家として活躍した方があってるんじゃないか? お前のこのワニとの写真なんか大きくして部屋に飾りたくなる奴がいると思うぜ? オレだってお前がモデルじゃなきゃ欲しいくらいだ。このままじゃこの写真までの成り行きやお前のあれこれを思い出して、このカッコいい写真とのギャップでつい笑っちまうからな」
俺の聖騎士風の写真を見ながら「ぷっくくくっ」と笑うウェル。へーへー笑ってろよ。俺だってその写真は笑えるわ。
「まぁやりたい仕事と才能が一致しないなんてことはよくあるもんな。ハンセルの場合は才能を活かしてるとも言えるし」
「しょうがねぇな。ハンセルにはこの調子でやっててもらうか。それはそうとして、マビァ、お前のギルドタグ見せてくれねぇか? SSランクのなんて見たことないからさ」
「あぁ、別にいいけど?」
俺は服の中からタグを引っ張り出して首から外しウェルに渡す。ウェルは光に翳しながら「へ~、ほ~」と眺める。紅月も気になるのか後ろからチラチラと見ていた。
「何か気になることでもあるのか?」
「あ、いや。なんてゆーか古今東西ある筈のなかった物だからな。冒険者ギルドのランキングにSSランクなんてもんは、この国のギルドに限らず周辺諸国にもその概念すらないものだったから、どんなタグになったのか気になってな」
ウェルの説明によると、本来の冒険者のランクはF~Aまでの六段階。タグのコーティングも下から青銅、鉄、銅、銀、金、ミスリルと色が違うそうだ。あくまで色だけで、その金属そのものがコーティングされているわけではないらしい。
そしてその上がS、SSランクになるわけだが、昨日のギルマスはすっかり呆けていたので、見てた感じだとコニスがほぼ独断で捏ち上げたランクのように思えたが、どっちみち正規のランクではないのだろう。
「だったらこのSSはなんの金属なんだ?」
「多分オリハルコンのつもりなんだろうな。Sランクはアダマンタイトにでもするんじゃねーか? 問題はこの嘘臭いタグがここの冒険者ギルド以外にも通用するかだな」
オリハルコンは元の世界でも伝説級の希少鉱石だ。存在はするらしいのだが、扱える鍛冶師ももはや伝説で、その技法が伝承されているのかすら知らない。
アダマンタイトもオリハルコンよりは多く採掘され、武器の製作材料としては最高峰の鉱石と言われている。Sランクハンターぐらいしか使い手はおらず、ナイフ一本の価値が城ひとつ分だと聞いたことがあった。
SSランカーだからオリハルコンねぇ。Cランクハンターの俺が伝説級の鉱石と並べられるとは、力不足も甚だしいな。それよりも……。
「嘘臭い?」
「だってそうだろ? 『俺はSSランカーだ』なんて言うのは、『俺はお前より百億兆倍強いんだぜ!』ってアホなガキが言ってるのと似たようなもんだ。本来そんなもん存在しないんだからな。この世にたった一人しかいないSSランカーのお前を知らない奴にこれ見せても、良くできたパチモンにしか見えねーよ」
……コニスの奴、なんて余計な事をしてくれたんだ。この後東門から出るのに、帰りにまた銀貨二枚払った方がいらない手間を省けていいかもしれない。
「面倒くせぇなあ。先にギルドに寄っていくか」
椅子にかけていた盾を左腕に嵌めて出かける準備をする。
「おう、今日も東の沼への護衛ありがとうな。さすがに今日はもう大丈夫だろうが、危なくなったら逃げろよ」
「あぁ。今日はクロブの手を借りずに済ませてみせるさ」
俺はグッと拳を上げてウェルに返事を返す。さて、ガラムさんのところに寄ってから東門へ行くだけだったのに、ギルドに寄る用事が出来ちまった。ちょっと急ぐか。
宿を出ると、今朝は記者達はいなかった。けれど、他の通行人達が俺を見る度にざわざわと囁くのが聞こえる。
「おい、あいつだ」
「まぁ。あれが聖騎士様?」
「なんか写真より間抜けに見えねぇか?」
「おれ、昨日アイツが血塗れで走ってるの見たぜ」
などなど。歩みを進める度に誰かの視線に捕らえられては囁かれる。目立ちたくなかったのになぁ。本格的に変装でも考えようか……。
冒険者ギルド入って受け付けに進む。横目でロビーや食堂を見るが、今日はえらく冒険者の数が少ない。
「おはよう。コニスいる?」
今日の受付嬢は初顔だった。あ、いや、俺にとってはで、二十歳くらいでコニスよりは少しベテラン風のなかなかの美人さんである。あぁ、歳上のスタイルの良いお姉さん! これだよこっちに来てから薄めな成分は! コニスやフェネリさん、紅月みたいな物理的にちみっちゃくて薄ぺったいのやら、シャルみたいに手出し不可能な巨乳幼女なんて埒外な存在がいるせいで、俺の喜ぶ視線は『無自覚痴女さん』ことロージルさんに一点集中気味だ。恋愛なんてするつもりは更々ないが、可愛い女の子とは仲良くなりたいって気持ちぐらい俺にもある。特に綺麗なお姉さんとは!
そう思い殊更愛想良く話を続けようとしたところ、受付嬢さんはこちらが誰か分かった瞬間、青い顔をして顔を逸らした。
「コ、ココココニスなら本日は休暇を取っております。マビァ様がいらっしゃった時は二階の事務室のロージルまで送り出してほしいと言付かっておりますので、そちらの扉から入り階段をお上がり下さい」
こちらとは決して目を合わさず、貼り付いた笑顔で答える受付嬢。
……そうだった。俺、ここの連中に嫌われてんだった。しかも『送り出してほしい』って。普通は『ご案内致します』なんじゃないの? そんな短い距離も一緒に歩きたくないってか。あーもういいよ。昨日も通った廊下だし事務室も分かるから。
ここまで露骨に女性に避けられたことなんて初めてだったから、正直結構凹みつつ事務室へと向かう。途中窓から中庭を見たが冒険者の姿はなかった。
事務室へ入ると奥の席のロージルさんだけが立ち上がり笑顔で迎えてくれる。他のデスクに着く職員達は、まるで凶暴な魔獣にでも出会したかのようにデスクに突っ伏したり、顔を逸らして固まっていたりして俺と挨拶すら交わそうとしない。……なんて対応だよ。暴れてやろうか。
そんな俺の気配を察知したロージルさんが俺のもとへ駆け寄り「どうぞこちらへ」と手を引いて応接室へと導いてくれた。
「職員達の不躾な態度、許して下さいね。わたくしやコニス以外の者はマビァさんとどう接したらよいのか、まだ分かっていないんですよ」
困り顔で、まるで弟でも宥めるかのように俺に言うロージルさん。
「いいよもう。俺もお客様待遇されたいわけじゃないしさ。ロージルさんが困るみたいだから受け入れるよ」
ロージルさんはホッとして、俺をソファーに座らせお茶の用意を始めようとする。俺はさっきまでコーヒーをがぶ飲みしてきたことを告げて断った。
「それで、マビァさんの一番の用件はタグのことですよね?」
向かいに腰掛けながら聞いてくるロージルさん。流石察しが良い。俺はタグを取り出してロージルさんに見せる。
「うん、ウェルに見せたらパチモン臭いって笑われてさ。今日これから東門を出るんだけど、これ街に入る時に検問で見せても素直に通してもらえるのかなって……」
「……確かにこれはやり過ぎたせいで、余計に偽物っぽく見えますね。でも大丈夫ですよ。昨日のうちに全ての門の魔道具にこのタグの情報が送られていますので、今日は問題なく使えます。それに今朝、マスターが王都へマビァさんの情報も持って行きました。数日後には国内のギルド支部に届きますのでご安心を」
「王都へ俺の情報が?! 嫌だなぁ。面倒な事にならなきゃいいけど」
「そういえばその件から昨日は逃げたそうにしていましたよね?」
「だって王命で召喚されるなんて面倒極まりないじゃん。大体俺育ちが悪いんだから、どこかで何かを知らずに間違って無礼討ち……なんてこともあるかもしれないし、腹が立ったって力で捩じ伏せてもいけないんでしょ?」
「王族を捩じ伏せるって、どこからそんな発想が出るんですか。国王様は温厚な方だと伺っていますけど、マビァさんは近付けない方が良さそうですね。呼び出されない事を祈りましょう」
そう言いながら俺へタグを返してくれる。
「そういやさ、なんで俺がSSランクになった決定権がコニスにあったの? ほぼ独断で決まってたじゃん?」
「それは昨日試験場にマビァさんを連れてくる前に、コニスが全員に根回しをしていたからですよ」
俺が来るまでの話し合いで既に決まっていたことだそうだ。コニスが何をしたかというと……。
『マビァさんは他の冒険者達との戦力差がありすぎます。本人はなぜかCランクを希望してますが、それだと改革後初のCランカーがマビァさんになってしまい、あの人が基準になると金輪際誰もCランクには昇級出来なくなるでしょう。
マビァさんには最低でもここでAランクになってもらいます。わたしが彼をここへ連れてくる際にもAランクになるように説得してみますが、Aランクで納得していたらSランクを新たに作ります。いいですね?』と、皆を説得したそうだ。
俺が通路でAランクになることをゴネていたらSランクって話もなかったかも……。
「それはないですよ。マビァさんがコニスの思惑以上のことをやらかしたんですから。彼女の予想では葦原での戦いの再現という事だったので、数分間記者達を守りながら二~三頭ほどワニを倒し、マビァさんが圧されてきたところで中断する予定だったんです。それなのにマビァさんはまさに今朝のタブカレの記事のままでしたよ。十一頭のワニを弄んだようにしか見えませんでした。更にもう一度やればもっと早く倒せるって言うんですもの」
……それで予定になかったSSランクなんてもんが出てきたわけか。
「じゃあ、あの時コニスが仕切っていたのは……」
「コニス以外呆けて対応出来なかっただけです。マスターも要介護のおじいちゃんみたいに連れ出されていたでしょ?」
「でもロージルさんはニコニコ見てたじゃないですか」
「あれは『あ~あ、マビァさんやっちゃったー。しーらないっと』って現実逃避してただけです」
メガネをクイッと上げながらシレッと答えるロージルさん。
やっぱ俺がやり過ぎたのか? いやいやこっちは命張ってんだ。いつもその場に応じて全力なのは当たり前で……。
「あ、でもあの中じゃあのように対応するのはコニスが適役なんですよ。あの娘ここのサブマスターなんですから」
…………ん? なんか今変な言葉が聞こえたぞ?
「……え? ……ええ?! …………はあぁぁぁぁ?! あ、あいつが? どーなってんだよここは! あんな色ボケアイドル(笑)がナンバー2なのか? 二番手はロージルさんじゃなかったのかよ!」
「わたくしはただの事務室長に過ぎません。あの娘ああ見えて優秀なんですのよ?」
……いや、まぁ良く気が付くし仕事も完璧にこなしているのを見ているから優秀なのは分かる。だがそれを見損なうくらいに残念な面が目立ち過ぎてる。
「じゃあなんでいつもあいつは受付にいるんです? サブマスターなら他にしなきゃいけない事あるんじゃないの」
「サブマスターの仕事もちゃんとしてるんですよ。受付にいるのは……。マビァさんもお気付きでしょ? ……男漁りですわ」
がっくりと肩を落として溜め息を吐くロージルさん。あぁ俺も同じ気持ちだよ。
正確には『男漁り』とはちょっと違う気がするけど。どうしてあいつはあんなにあーなんだ。残念だ。残念すぎるぞコニス……。
「多分コニスのスキルなんでしょうね。ギルド男性職員や男性冒険者の三分の二以上は彼女によって統率が取れてます。その為に今回の改革では動き易くなってありがたいのですが、ごく稀にギルド内の恋愛事情を壊してしまうことがあるんです。なのに本人は誰ともお付き合いする気がないようで……」
そんな感じだよなぁ。あいつは男達の人気者になりたいってだけで、彼女付きの男を奪おうとか信者同士を争わせたいとかは考えてないと思うんだが……。
「マビァさん……。もし、もしもガラムさんがコニスの虜になってしまったら、わたくしはどうしたら……」
突然とんでもない事を言い出したぞこの人?! 色ボケはこっちの方だった!
しかし本気のようで、メガネの向こうで目を潤ませて、膝の上で両拳を強く握っているロージルさんはすっげー不安そうだ。でもちょっとエロい。
「い、いや。ガラムさんはあんな小娘興味ないと思うよ? 俺だってあいつが最初の頃、女見せてきてた時なんかイラッとしただけで惹かれたりしなかったしさ。ガラムさんもきっと大丈夫だって」
と、中途半端にしか励ますことが出来ない。なんせここでは結構歳上の職員や冒険者達が、コニス相手にデレデレしているのを俺もロージルさんも見ているのだから。
「こうなったらガラムさんがコニスと接触する前に、ロージルさんがガラムさんと距離を詰めるしかないんじゃない? ガラムさんの気持ちは分からないけどさ、ロージルさんがもっと押していかないと進展は難しいと思うよ」
「で、でも。何をどうしたらいいか」
俺だって小さい頃の片想いくらいしか恋愛感情なんて持ったことないんだ。歳上のお姉さんの恋愛相談なんて荷が重いぞ。
でもロージルさんが軽くパニクってるので思い付いたことだけでも話す。
「そうだ! ガラムさんはこれから木工ギルドと協同で罠の部品製作が忙しくなるんだ。身の回りの世話は……ちょっといきなり過ぎるか。夕食のお裾分けくらいから入って、『良かったらこれからも夕食を。いつもよりちょっと多目に作るだけだから』っていくのはどうでしょうか?」
ロージルさんは味覚も確かみたいだし、包丁捌きもガラムさんが褒めるくらいだから料理は上手そうだ。
男を落とすには胃袋を掴めって聞いたことがある。ウチのガジィーもよく行く女のところは料理が美味いって自慢してるからそう間違っていない筈だ。
「そ、それならわたくしにでも何とか出来るかもしれません。どうしたら良いか考えてみます!」
そう言ってロージルさんは両手で俺の手を握り「マビァさん、ありがとうございます!」と頬を赤く染めながらお礼を言ってくれた。
可愛いなぁ。でもこの人俺に全然興味ないんだよなぁ。まぁここにいる間は応援してあげよう。俺は綺麗なお姉さんの味方だからな。
次回は二月二十八日(日)の正午に更新予定です。
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