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三日目 ラクスト大尉の思惑とウェルの提案

 「ウェル、マビァ君。少しいいだろうか」

 みんなで肉も食ったし、話も取り敢えずはまとまったので帰りの準備を始めようとしていたところに、大尉が話しかけてきた。

 「さっき食べさせてもらったワニの残りを丸ごと我ら軍に譲って戴けないだろうか? もちろん金は出させてもらう」

 「……理由を聞いても良いかい? ラクスト大尉」

 ウェルは思案顔で大尉を見つめて問いかける。俺はまぁ、察しはついてるけど。ウェルも分かってるんじゃないかな。

 「欲しいのは肉なんだが、駐屯地の他の部下達にも食わせれば、今回の件の説得もしやすくなると思うんだ。ジェムや皮などの素材はそちらで引き取ってもらって構わない。どうか宜しく頼む」

 頭を下げる大尉。やっぱりそうだったか。

 「それなら、あそこにある食べかけじゃあなくて、必要量をちゃんと精肉にして駐屯地まで送り届けるぜ。もちろんタダでいい」

 太っ腹なウェルの申し出に、大尉は驚く。

 「いや、そういうわけにはいかん! これ以上君達に甘えるわけには……」

 「いやいや大尉。あそこのワニはここで食う分には良かったんだが、ここで素人が捌いた物をそちらの調理師さんに渡すのは衛生的にちょっとな。こちとらプロの商人なんだ。いい加減な商品をお客様に提供するわけにはいかねぇ。

 それに駐屯基地の兵士の総数は約三百人。他に事務や雑務、ギャロピスの世話に五十人ほどだったか? 兵士は百人毎に八時間勤務の三交代制だったよな? だったらあの食い掛けのワニでも全員が腹一杯食って余りある量は残ってんだけどなぁ。でも多分そいつらを満足させちゃあいけねぇってオレの感が囁いてんだ。

 オレとマビァの見立てじゃあ、一頭のワニから取れる肉の量は、さっきのような厚切りステーキや大きめの串焼きを作った場合、約千人が満足出来るって感じだな。五メートルを超える巨体の割りにゃモウモなんかと比べてもかなり少ねぇ。まぁ内臓や腱などがうまく使えりゃ可食部はかなり増えるだろうけどな。

 だが部位によっちゃあ煮込んだ方が良かったり、ローストして薄切りで食べたりする方が美味かったりするわけで、下拵えの手間や調理の手順がめんどくせぇほど増えるってぇ感じなんだ。……で、大尉。一つ提案なんだが」

 ウェルはニィッと悪そうに笑い、大尉は怪訝な顔をする。



 兵士は八時間勤務だが、起きて活動している時間は睡眠が七時間だったとして十七時間。その間の三食(勤務中の昼食(二食目)は弁当が用意されるらしい)は厨房が賄っている。

 それが三交代制で全ての兵士の一日三食に対応しなければならないから、厨房は二十四時間態勢なのだそうだ。

 まぁ、調理師は十数人の交代制で決まったレシピを決まった量を作っては来た兵士に提供するだけで良いので、調理師一人当たりの負担は大した事ではない。

 ただ兵士は勤務明けに駐屯基地で着替えて街の酒場に呑みに出かける場合でも、晩飯は駐屯基地の食堂で食う事を義務づけられている。

 国税から支給される食事を無駄にすることは許されないってわけだ。


 ウェルの案はこうだ。

 俺がさっきみんなに賄った厚切りステーキの背肉や大きめの串焼き肉の脇腹肉。それらを一人一切れ分ずつ兵士に試食させるとして、どちらも百人分用意する。

 更に硬めの肉と軟骨、腱、内臓を煮込んでこちらも百人分用意する。


 ウェルの屠畜場で背肉と脇腹肉を百人分ずつ精肉し、下拵えの済んだ状態で軍に提供。煮込み料理は大鍋で作ってから提供する。そうすればワニの死体を丸ごと厨房に放り込むより、調理師達の負担は最小限に抑えられるはずだ。


 軍の厨房では、まず背肉のステーキをいつものメニューにプラスして、試食と称して百人分兵士に賄う。

 次の百人には脇腹肉の串焼きを賄い、後の百人には煮込み料理を出す。兵士全員がワニを食ったが、時間帯毎に全く別の美味いものを食った状況にするわけだ。あとは勝手に兵士達の中で何を食ったかどう美味かったかと情報が飛び交う。他人が食った自分が知らない美味いものを絶賛されれば、自分も食ってみたくなるのが人の(さが)だ。

 自分が食った物ももう一度食べたい。他の物も食ってみたいと思わせる事が出来れば、後は大尉の説得次第で反対勢力もコロッとこちら側に転がるんじゃないか、というわけだ。


 他の事務員や作業員は朝から夕方までの常勤なので、三食でそれぞれの料理を食べてもらう。彼らは兵士と違って変なエリート意識を持っていないらしいし、毎日真面目に働いているのでそのご褒美ってわけだ。それに怠け者の兵士達への当て付けにもなって丁度いいだろとウェルは笑う。


 「てなわけで、ワニ肉を必要量ご馳走したくらいで兵士達が協力的になるんなら、オレには安い投資なんだよ」

 「……なるほど。そんな方法があるのか。だがやはりタダで戴くわけにはいかん」

 大尉は渋い顔をしながら、乗ってきたギャロピスへと向かいながら辺りの写真を撮っているハンセルを目で追う。

 「タダで貰ってしまうと、賄賂や癒着の疑いをかけられる可能性が出てくるからな。今変な疑いをかけられると部下にはもう信頼してもらえなくなるだろう」

 なるほどな。今ハンセルに何か書かれたら、たとえ真実でなくとも大尉の権威は失墜するに違いない。ハンセルとは先程協力を確約したと思うのだが、やはりどうも胡散臭くて信用ならない。

 ただでさえ今朝のタブカレで大尉が冒険者(俺)にひざまずいた姿が載っていたから、もう十分軽蔑されていそうなんだけど?

 「だから俺の持ち金から、厨房の連中や兵士達の見る中でちゃんと支払いたい。多少高くても構わん」

 「そういう事なら遠慮なくお支払い戴きましょうか。加工済みの商品になるし、今のところ希少な上に量が量だ。ちっとお高く付くぜ?」

 「ま、任せておけ」

 大尉は一瞬怯み顔をひきつらせるが、胸をドンと叩き承った。ウェルが夜七時頃に肉を駐屯地へ持っていく事を約束すると、兵士達を連れて街へ帰っていく。俺達もいい加減に帰らないとな。やることはいくらでもあるんだ。



 片付けをしながら、今後それぞれの段取りを決めていく。

 ウェルと紅月、ロージルさんはシャルを乗せてギャロピスで先に帰り、まず借りた荷馬車の返却と代金の支払いを済ませる。それから屠畜場へ向かいウェルは大尉に売る肉の加工と煮込み料理の手配を、ロージルさんはシャルを教会に送り依頼料を払った後、屠畜場でジェムを必要数確保する。そして記者二人に見せるデモンストレーションの準備をした後、大量に手に入るワニ素材の対応の手配を職員達に指示するらしい。


 俺はナン教授に乗せて帰らせてもらい、教授はノウトス馬車とコカトリスを片付けてから木工ギルドで罠の打ち合わせ。俺は東門で下ろしてもらったらガラムさんのところへ走って事情を説明し、ガラムさんには木工ギルドに向かってもらう。元々木剣の設計図を受け取りに行く予定だったから不都合はない筈だ。

 俺は剣と盾を受け取ってから冒険者ギルドで記者二人を相手にする。その後また木工ギルドへ行った方がいいのかな? ホントに今日は忙しい日だな。


 クロブは食べかけのワニが載る荷馬車に乗って先に帰った。店に戻ったら着替えてスペシャルディナータイムだ。エネルギーを補給しつつ体力の回復と待機をすることになる。



 ナン教授の荷馬車に樽や作業台を積み込んでいると、クロエがやって来た。

 「マビァさん、私まだマビァさんから何も聞いてませんよ?」

 「ウェル達から聞いたので十分なんじゃないのか? 俺はただワニがこれ以上進まないように阻んでただけだぞ?」

 一緒の場所にいたんだから他の三人の証言と大差はない筈だが……。あ、ロージルさんは少し離れたところに避難していたから戦ってるところは見ていないのかな?

 「ウェルゾニアさんとナンチャッツ教授から事件の流れは聞いたんですけど、マビァさんの戦い方の証言が信じられなくて。ほら、大袈裟に書いてしまうと、マビァさんまた怒るでしょ? だから情報の擦り合わせが必要かなって」

 ウェルの方をちらりと見ると、もうそろそろ出発する様子だった。なので教授に視線を向ける。

 「俺らも見たままの事を話したつもりだぜ? 俺は四頭ふん縛った後は鎖も尽きたしヘバッてたからな。マビァくんの事はじっくり見ていられたし、ウェルだってクロブが来るまでは見守るしか出来なかったんだ。お互いの証言に齟齬はなかったぞ」

 荷馬車の荷物の上でドカリと座り答えるナン教授。二人でクロエに視線を向けると、書いたページを読み始める。

 「その、マビァさんが一人で六~七頭を同時に抑えながら、その奥から絶え間なく降り注ぐ火球を盾で全て受け止め、時たま弾き返し、左腕を犠牲にして防ぎ切った……と」

 まぁ、その通りだな。特に大袈裟なわけじゃなさそうだ。左腕はシャルが治してくれたからすっかり元通りだが、服は肩まで焦げて酷い有り様だ。全身アチコチ破れて血塗れだしな。

 「そんなことが可能なんですか? 昨日試験場でマビァさんの凄さは見せてもらいましたけど」

 「何が凄いもんかよ。その程度しか出来なかったって結構凹んでんだ。バカみたいに傷だらけになって、左腕も一時使い物にならなくなるなんて情けないったらない。クロブが後少し遅れてたら、俺はともかく護衛対象の他の人達も犠牲になってたかもしれなかったんだ。俺はまだまだ強くならなきゃいけないんだよ」

 「そう卑下するもんじゃない。君は実際に凄い戦いをしていた」

 ナン教授までも褒めてくれる。元の世界との戦闘格差が激し過ぎるせいではあるが、俺程度が凄いなんて言われると恥ずかしくなる。

 「教授までやめて下さいよ。クロエ、後で試験場で再現してやるからそれ見て書いてくれ。でも今回は控えめに書いてくれよ? 前にも言ったけど俺は目立ちたくないんだよ。この程度で褒められるのはホントに恥ずかしいんだ」

 照れて頭を掻きながら頼むと、やれやれとナン教授が肩を竦める。

 「記事をどうするかは見せて貰ってからにしますけど、マビァさんの気持ちは配慮します」

  そう言ってクロエは帰っていった。ハンセルは先に帰ったらしい。

 次回は一月二十四日(日)の正午に更新予定です。


 よろしければまたお付き合い下さいませm(_ _)m

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