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三日目 火事の事後処理と新聞対策

 「ウェル、今回獲れた大量のワニ肉、保存期間はどれくらいだ?」

 今一番に話すことはそれか? と言うような目でこちらを見返すウェル。話を聞くのはロージルさんとナン教授のふたりも一緒だが、シャルもぼんやりと聞いている。

 「あれだけの量、厚切りステーキだけでも何千人分あるんだよって感じだよな? 腐る前に全て売り物として捌けさせることは可能なのか?」

 「……モウモの屠畜場の冷蔵庫がワニで埋まることになるからな。全部冷蔵しても二週間が限界じゃねーか? 研究しなきゃ分からんが三日程熟成させれば今より美味くなる筈だから、その頃の良い肉を領主に献上しようとは思ってる。塩振って食うだけで美味そうだからな。最高のレシピの構築はまだ先になりそうだから、オレの経営している店だけでは全部を捌けさせるのは無理だと思うぜ」


 前にも聞いたが、冷凍での長期保存は莫大なコストがかかるそうなので、その設備すらこの街にはないらしい。あったとすればガラムさんの故郷の滅んだ帝国くらいだそうだ。

 「なあ、その無駄になっちまうワニ肉、街のあちこちで屋台を出して焼いて、街の連中にタダで食ってもらうってのはどうかな?」

 「なんだって?」

 突然の俺の提案にさすがのウェルも驚く。

 話を続ける前に一度辺りを見回す。クロエもハンセルもこちらが帰って来たことに気が付いて、こっちへやってくるところだ。


 「さっき兵士達から話を聞いたんだけど、思ったよりもハンセルの記事を鵜呑みにしてる奴等がこの街には多そうだと感じた。

 そいつらにとっては俺達は完全に悪役だ。何かする度に善行でも悪く書かれてさらに評価が下がるのがいつものパターンなんだよな? 今回の大火事はそれとは関係無しでヤバい。何も手を打たなけりゃ、このまま罪人扱いされても不思議じゃないんじゃないか?

 今は街も軍もいきなりの大事件で混乱気味だが、明日の朝この事が記事になって広まれば、この大火事の責任を俺達首謀者に取らせるべきだって意見も出る筈だ。だから今ここであの記者二人に、これまで伏せてきた計画を伝え、正しく街の人へ広がるような記事を書くように薦めてほしいんだ」


 俺の言葉に三人は考えを巡らせるように沈黙する。シャルも状況を把握したようだ。不安げに大人達を見ていた。


 「マビァくんのいたところじゃどうだか知らんが、葦原は年に一度冬に焼くのが通例の行事なんだ。

 だが、焼くのは冬に枯れて必要が無くなった葦であって、今回のような若い葦ではない。

 幸い季節はまだ春だ。一月ほど収穫が遅れるだろうが晩秋には必要な量は例年並みに採れると思うぞ。それにここ数年はワニのせいで葦原全面を刈り取る事は出来ていなかった筈だ。

 こちらの沼は今年は諦めて、西側の沼で二倍採れば例年通りの収穫量になる……というのはこちら側の理屈だな。葦で生活を立てている人々の心情を無視した意見だったな。すまん」

 「葦原自体は個人所有の土地ではなく領主様の管轄です。時期外れに焼いたからといって罪に問われることはないでしょう。問題なのはここを生活の糧にしている人達の方でしょうね。葦の収穫やその土地で採れる褐鉄鉱の利用、動物の狩猟は領主様の許可なく誰でも自由に行える代わりに、利用して稼いだ分の納税の義務は生じます。一年の予定が狂うと不満の声を上げる方も出てくるでしょうね」

 ナン教授もロージルさんも顔を曇らせる。ことによると成り行きでワニと戦う羽目になった土木ギルドの連中は首謀者の一味として、そして何もしていない木工ギルドの連中も関係者として罪を着せられ裁かれる可能性もある。黙って受け入れるわけにはいかないんだ。


 「……なるほど。火事の事はオレもどうするか考えてたが、記者と大尉にはこちらが有利になるような説明が必要になるな。それで屋台で振る舞って街の人達の意識を火事から肉へとすり替えるってわけか?」

 「そういうこと! 俺に反感持ってた兵士達も肉を食わせた後は刺々しい雰囲気はなくなった。肉食って満たされる幸福感は凄いんだぜ? 今ここであの記者二人に食わせりゃこちらの思惑通り有利に運べるかもしれない。二人には数日後に屋台で振る舞うことを宣伝させればいい。タダにするのは、少しでも金を取るとなると営利目的だと思われ反感を持つ者が現れるのと、先のことを考えると今安売りしない方が良いからだ。最初だけタダだって強調しといて、その脳裏にワニ肉の美味さを焼き付けておけば、後に相応の値段がついてもみんな納得して食べたがってくれると思うんだ。あの肉が安いわけがないってな」

 「先行投資ってわけか。分かったよ。その話乗った。んー……。準備に二日、三日後の休日が丁度いいか。大変な仕事になるが、罪人堕ちはまっぴらだからな。全くよく思い付くもんだなお前は」

 「いや、俺はよそ者だから分からないことが多くて必死なだけだよ。それなりに修羅場を潜ってきてるから、平和慣れしたここの人達よりは落ち着いて考えられてるってのもあるかな?

 あと、この葦を使って生活している人達への説明や賠償が必要だよな」

 「そっちはオレの分野だから任せてくれや」

 ウェルはサムズアップしてウィンクしてくる。

 「俺は今から肉を焼いて、まだ食ってないみんなに食わせる。ウェルが主導で説明して、教授とロージルさんが補佐してほしい。あれ? 紅月は? また消えてんのか。お前のも焼いとくから後で出てこいよ」

 恐らく記者達を気にして姿を隠しているのであろう紅月にも声をかけておく。


 ナン教授が塩と食器と鉄串がいくつかあるから貸してやろうと申し出てくれたので、ありがたく借りることにした。教授の馬車のどの辺にあるのか聞いて、俺が走って取りに行く。その前に記者のふたりと大尉がこちらへ到着した。シャルをどこかに避難させたかったが、任せられる人材がいない。仕方ないので大尉寄りに立たせる。こちら側に立った写真が新聞に載ると変な誤解を受けて巻き込みかねないからな。


 「おやおや、皆さん揃って口裏合わせか悪巧みですか?」

 と、早速嫌味を言ってくるハンセル。

 「い~や? あんたと違って疚しいことなんてないから口裏合わせなんか必要ないさ。やることが一杯あって、この後の事を打ち合わせしてただけだ。

 俺はやることがあるから、先にこの三人から話聞いてくれ」

 そう言い俺はさっさとその場から離れる。

 「分かりました。ではまずこちらに来た目的からお聞かせ願えますか? 東門の時には木工ギルドのマスターと職員、土木ギルドのマスターと職員もいらっしゃったようですが……」

 クロエが質問を始めるのを背中で聞きながら、俺はナン教授の馬車まで走る。



 教授の馬車に着くと、教授のノウトスが俺を覚えていたのか立ち上がり顔をすり寄せてくる。俺は頬を擦ってやる。

 「よーしよしよし。ナン教授が皿を貸してくれるって言ってくれたから借りに来たんだ。荷馬車にちょっとお邪魔させてもらうよ」

 そう言うと理解したのか一度強めに俺にすり寄った後、その場にまた座る。

 荷馬車に乗り、教えてもらった場所から塩と木の皿数枚と鉄串を何本か取り出し、急いでウェルの荷馬車まで戻る。

 シートを半分剥がすと、中に冷気が溜まっていたようで荷台から冷気が下へ流れていく。凭れかかっていたクロブの巨体が、背中に冷気が流れた寒さで一度大きくぶるりと震えたせいで、荷台もガタッと大きく揺れた。目が覚める気配はなさそうだ。

 どうやら鮮度を保つために冷気を出す魔道具が使われているらしい。便利な荷馬車だな。


 ワニのスプラッタな姿が他のみんなに見えないようにしながら肉を切り出していく。これ見ると食べれなくなる人もいるからな。左側の脇腹と背中の肉がまだ手付かずだったので、解体用ナイフに『シャープシフト』をかけてスパパッと大きめのブロックで切り出す。

 ナン教授に借りた作業台で背中肉を厚切りステーキ四枚分切り分け盾の上で焼き始める。次に脇腹肉を一口大のブロックに切り分け串に刺し、焚き火の周りに刺して立てる。

 焚き火の炎がかなり弱まっていたので、兵士達に取りに行かせて余っている薪を追加し、少しだけ火力を上げた。


 辺りにまた肉の焼ける良い匂いが立ち込め出す。

 しゃがんだまま辺りを見回すと、記者と大尉と取材を受ける三人がそわそわチラチラとこちらが気になって仕方がないらしい。シャルもこちらをじっと見つめ、ヨダレが垂れそうになっていたので、脇腹肉を薄切りにしてサッと炙り、塩を軽く振って皿に盛り、先に食わせることにする。

 「シャル、こっちおいで。先にこれ食べてな」

 「はい! ありがとうございます!」

 ヨダレをチュルルンと吸い込み駆けてくるシャル。俺の前の丸太に座り、きちんと食事前のお祈りを唱えた後、いただきますと言って木の串で食べ始めた。

 「ふわわっ。マビァさんが言ってたとおり、今まで食べたどのお肉よりも美味しいです!」

 肉を一切れずつ味わいながら食べていくシャル。でも薄切りにしたから、すっと溶けてなくなるんだよね。

 「どんどん食っていいぞ。薄いのも切ってやるし、分厚いのもそろそろ焼き上がるからな」

 ステーキを裏返し、串焼きを回し、薄切り肉も焼いていく。ちらりとウェル達の方を見ると、もう気になって話もしていない。限界だろうから手を振って呼ぶことにする。兵士と大尉達は散々食べたのに、匂いを嗅いだらまた欲しくなったみたいだが、少し待ってもらう。

 盾の上でステーキを切り分け、半分に塩を振って皿に取り分ける。串焼きもバラして半分に塩を振る。味の違いを楽しんでもらうためだ。

 「マビァー。勘弁してくれよ。この匂いを堪えるのは拷問に近いぜ」

 やって来たウェルとロージルさん、ナン教授とクロエ、ハンセルに皿と木の串を渡してやる。この時に肉を盛った皿が一枚消えた。紅月のヤツ、持ってったな……。

 「まぁ、じっくり味わいな」

 俺は次の肉の準備にかかる。今焼いた分はあっという間になくなりそうだ。


 一口食べたみんなが、やはり驚いて一瞬固まる。みんな同じリアクションになるのは面白いな。

 「これは想像以上だな……。塩の有り無し、部位の違い、全部違って全部美味い。これは逆に調理師泣かせだぜ」

 「領主様には、『焼きたてをお食べください』だけで問題なさそうですね。このジューシーな肉汁は衝撃的です!」

 ウェルは調理法に悩み、ロージルさんは美味さにエロくうち震え俺の目のやり場を困らせる。無自覚なんちゃって痴女さんめ……。若い兵士達の視線が集まってんじゃねーか。スキルで気付いてくれよ。


 「マビァくんは焼き方が上手いな。俺が食った時より数段美味い」

 ナン教授にお褒めのお言葉を戴く。多分『シャープシフト』のおかげだな。肉は鋭く素早く一度に断ち切った時と、ギコギコと何度も刃を往復させた時とでは旨味も食感も全然違ってくる。これは元の世界での夜営調理で経験し学んだ事だ。

 「マビァさんとウェルザニアさんが秘密でやろうとしてた気持ちが分かりますね。これは密猟してでも食べたくなる味です!」

 「おいおい、怖いこというなよクロエ。戦いの素人が密猟なんてしたら、クロブ以外じゃ間違いなく瞬殺だ。

 これまで話せなかったのは具体的にワニを安全に捕らえる案が固まってなかったからだし、ワニの利用価値をヘタに広めて、それで一儲けしようとしたバカが無駄死にする事を防ぐ為だ。今回だってクロブが来なけりゃ全員死んでたっておかしくなかったんだ。記者ならそれくらいの事は察しろ。

 後で二人とも冒険者ギルドに来てくれ。ワニのジェムが大量に手に入ったから、俺が体験したワニワニ大混乱を再現してやるよ。恐怖のドン底まで叩き落としてやる。ちゃんと記事にしてバカが密猟しないようにしてもらわないといけないからな」

 俺が脅すとクロエは「いや~ははは……」と目を逸らして肉を食べる。ウェルとロージルさんに目を向けると頷いてくれる。ジェムの手配をしてくれるようだ。


 「ハンセルさん、どうだ肉は? ウェルから大体の事は聞いたんだろ?」

 焼けた肉を追加で皿に盛ってやりながら聞いてみる。無心で食ってたところにおかわりをもらえるとは思っていなかったのか、肉と俺の顔を見比べて、焼きたてを一口食べた後に答える。

 「……これは……。カレイセムのあり方が大きく変わりますな。もう何もかもです。過去のどこにも、一種の魔獣の扱い方ひとつで、ここまで大きな変化が起きた街の話なんて聞いたことがありませんや。これは歴史に残る変革になりますよ」

 かなり興奮しているのが分かる。流石に記者のはしくれだけあって大きな変革に立ち会える事が嬉しいようだ。

 「ハンセルさん。あんたのタブカレスタイルってのをさっき大尉から聞いた。俺は新聞自体に慣れていなかったし、デタラメを書かれて腹も立ったが、あんたの『娯楽を提供している』というやり方は理解したつもりだ。でも、ここにいる兵士の中に数名、デイリーを一切読まずにタブカレの記事だけを真に受けて、俺を詐欺師呼ばわりしたヤツらがいたんだ。午前中に相手をした冒険者達の中にも何人かいた。この調子だと街の連中も二割か三割はあんたの記事を真に受けている連中がいそうなんだ。ここにいない他の兵士達も真に受けてる奴らがいるんだろ?」

 俺を特に敵視していた四人の兵士に話を振る。

 「あ、あぁ。カレイセムの兵士達は俺らを含めて三分の二以上は他所から配属された兵士達だ。恥ずかしい話だが、そんなかの半分以上は規則の緩いカレイセムで楽したくて配属希望を出したから、真面目に働こうなんて思っている奴は少ない。

 まぁ、俺らもそうだったんだが、そんな連中がお堅いデイリーなんて読んでたわけがない。タブカレがデイリーと読み比べて楽しむ物だなんて、さっき大尉に聞くまで気付きもしなかったんだ。

 だから、昨日大尉とケラル伍長が懸命に説得しようとした時も、あんたが書いたマビァくんとウェルゾニアさんを悪人扱いする記事を真に受けてたから、殆どの連中が耳を貸さなかった……。

 ちゃんとデイリーを読んでいなかった俺達も悪いけどさ、あの記事と写真はちょっとやり過ぎなんじゃないか? 何も知らない奴が読んだらこの二人を悪人だと思っても仕方がないと思うぜ」

 タブカレを真に受けて恥をかいた四人が、気まずそうに俺とウェルをチラチラ見ている。俺は言いたいことをコイツらにぶつけたから、もうスッキリしたし、一緒に肉をワイワイ食った仲だ。もう責める気はないが、ウェルはどうだろう?


 かなり前からウェルはタブカレでハンセルに悪く書かれてきたと前に言っていた。その時は逆にそれを利用して商売相手の選別に使っていたらしい。だが仕事相手ではない兵士達からの風当たりはどうだったんだろう? 大尉はウェルの店のお得意様だったからウェルの事を嫌ってはいないみたいだけど、したっぱのコイツらの態度を見てるとなんとなく分かるな。少なくとも俺にしたような事はしてたみたいだ。


 ウェル自身は自ら人に誤解されるような服装や髪型をしているから、兵士達の視線なんてどこ吹く風だ。そのウェルが次にハンセルに問う。

 「さっき説明した通り、バーンクロコダイルの安全な捕獲さえ確立出来れば領主様も公認の事業になる。その為には新しいギルドの設立が必要になるから、市議会やら他のギルドや商会やらとの折衝がしばらくの間必要になる。その間に今朝のあんたの記事のような悪ふざけをされると、不必要に展開が遅くなるんだ。

 今回のここの火事の事も、あんたはいつものように有ること無いこと書いて状況を引っ掻き回すつもりだったんじゃないか? 今それをされたら誰も得しないしさらに展開が遅くなっちまう。それはあんたにとっても不本意なんじゃないのか?

 何もそちらのスタイルを変えろってわけじゃあないんだ。あれだけ盛った話を作れるんなら、逆に良い方向に盛ることもあんたなら出来るんじゃないか? どうせなら後押ししてくれるとありがたいんだ。

 それがダメなら、せめて俺らが悪く見られるような記事は、事がまとまるまでは止めてもらえないか?」

 兵士達の意見とウェルのお願いを、目を伏せじっと聞いていたハンセル。しばらく沈黙した後顔を上げる。

 「……私なりのやり方であればやらせていただきましょう。確かに折角良い方に事が進んでるのに足を引っ張るような真似をするのは、自分の首を絞めるようなもんですわ」

 肩を竦めておどけてみせる。『私なりの』ってのか引っ掛かる。やっぱり胡散臭いなコイツは。


 「よし! 決まりだな。じゃあ早速ハンセルさんとクロエには記事ででっかく宣伝して欲しいことがあるんだ。重大発表だぜ?」

 ハンセルの答えを聞いたウェルがパンッと手を打ち、記者二人に話しかける。重大発表と聞いて記者魂をくすぐられたようで、二人はサッと手帳とペンを構える。

 「今から三日後の休日の正午。街のあちこちでこのワニ肉の簡単な料理を無料で振る舞う事にした。出来るだけ多くの街の人に食べてもらう大試食会をする。

 まだここで話して決めただけだから、詳細は未定だ。明日、明後日と追加で情報を出すから、その都度朝刊で発表してほしい」

 ウェルの発表内容に、それを知ってる俺とロージルさん、ナン教授とシャル以外がざわめく。

 「な、なんでそんなことをするんですか? これだけ美味しいお肉なら高く売れそうですが」

 驚いたクロエがもっともな問いをかける。

 「簡単な事さ。予想外の事故で獲り過ぎちまったから、使いきれずに腐らすぐらいならみんなに食ってもらって喜んでほしいだけさ。知ってんだろ? オレが食いもん屋をやってるのは、美味いものを大勢の人に安く腹一杯食べてもらいたいからだって。

 確かに正規でワニ肉を流通させ始めたら、グラム単価は高くなるだろうな。だが、ワニ肉が美味いなんて事は今ここにいる連中くらいしか知らないんだ。試食も無しじゃ胡散臭くて買い手が付きにくいんだよ。だから初回限定でタダ! 食べなきゃ損する大盤振る舞いをしようってな。あ、これマビァの提案な」

 「おお!」とみんなが俺の方を向いて目を輝かせる。

 いや、ウェルの提案って事にしてくれた方がいいのに。ウェルを軽く睨んでやると、ウェルは腕を組んでニヤニヤとこちらを見ていた。



 その後、クロブが起きてきて、盛大にグキュルルルルルゥ~と腹を鳴らした。

「すみません、帰る前にもう少し食べさせてください」

 恥ずかしそうに巨体を縮めながらやってきた。さっき食べた分はスキルで消耗したエネルギーの回復に使われてしまったのだろう。強力な複数のスキルから得られる短時間の超人的な活躍の代償がこの大食いらしいので、バランスが良いのやら悪いのやら……。まあ今回は食後にもワニを荷馬車に載せるのによく働いていたみたいだから、食った分をガンガン消費したんだな。


 他のみんな(まだ食べたそうにしていた軍人は除く)が満足出来るくらい食べた後だったので、厚切りステーキと串焼きをクロブの為に焼いていく。

 肉を焼きながら、肉を食べていない人があと一人いることに気が付いた。今食っているワニを積んでいる馬車の御者だ。この美味そうな匂いが立ち込める中、食べたいと言い出せずに我慢してたので、急いで串焼きを二本持っていって食べてもらう。涙目で喜んで食べてもらえたので良かった。


 ここでワニを食ったのが、えーと……二十三人かな? クロブが人の十倍は食ってるから、約四十人前食われた一頭のワニはあちこち切り取られ試食をされていているが、十分の一も減っていない。

 肉だけで言えば一頭で大体千人分かな? ウェルが三日後に振る舞うのが獲れた半分だったとして十頭。一万人分くらいになりそうだ。街の人口は一万人は下らないだろうし、タダとなれば一人三人前は食べるだろうから全然足りない。ウェルにその事を話すと、さすがに真っ先に考えていたようだ。

 「内臓と腱や軟骨の煮込み料理。骨や骨髄からスープを作って麺類で提供すれば十分賄えそうだぜ。早く帰って調理法を研究しねぇとな!」

 クロブが嬉しそうに食べているのを見ながら、早く帰りたくてウズウズしている。人がモリモリ食べてるのを見るのが好きなウェルだが、今は新しい料理への興味の方が勝ってるらしい。

 「クロブ、今日はよく働いてくれたしオレらの命も救ってくれた。本当に感謝してる。帰ったら『キィマ』でスペシャルディナーコースを食べ放題させてやるぜ。だからそろそろ帰る準備を頼むな」

 そう言われ、焦るクロブは焼いている肉を全部一気に頬張って、熱々をハフハフしながらなんとか食べ終わった。

 「ありがとうございます! あの~、主? 辛さはかなり控えめでお願いしたいのですが……」

 「分かってるって。お前、姿に似合わず辛いのダメなんだよな。意外だろ?」

 確かに意外だ。まぁ顔が怖いからって辛いのに強そうに見えるってのも変な話だが。



 焚き火の後始末をロージルさんが引き受けてくれたので任せると、氷系の魔法で一気に鎮火してくれた。鉄板代わりに使っていた熱々に焼けた盾は急に冷やされたせいで粉々に砕けてしまったが……。

 「あ~ぁ、やっちゃった」とみんなで笑っていると、大尉がこちらにやってきた。

 次回は一月十七日(日)の正午に更新予定です。


 よろしければまたお付き合い下さいませm(_ _)m

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